2018年6月15日金曜日

12.中核自己とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-)

中核自己

【中核自己とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-)】
(1)生命体が、ある対象に遭遇する。
(2)ある対象が、感覚的に処理される。
(3)対象からの関与が、原自己を変化させる。
(4)原初的感情が変化し、「その対象を知っているという感情」が発生する。
(5)知っているという感情が、対象に対する「重要性」を生み出し、原自己を変化させた対象へ関心/注意を向けるため、処理リソースを注ぎ込むようになる。
(6)「ある対象が、ある特定の視点から見られ、触られ、聞かれた。それは、身体に変化を引き起こし、その対象の存在が感じられた。その対象が重要とされた。」こうしたことが、起こり続けるとき、対象によって変化させられたもの、視点を持っているもの、対象を知っているもの、対象を重要だとし関心と注意を向けているもの、これらを担い所有する主人公が浮かび上がってくる。これが「中核自己」である。

 「私の見たところ、原自己の決定的な変化は知覚される各種の対象との瞬間ごとの関与から来るのだ。

その関与は、その対象の感覚的な処理と時間的にきわめて近い範囲で生じる。生命体が対象に遭遇すると、それがどんな対象であれ、原自己はその遭遇で変化を被る。

なぜなら物体をマッピングするためには、脳は身体を適切な形で調整しなくてはならないからで、さらにそうした調整の結果とマッピングされたイメージのコンテンツも原自己に信号として送られるからだ。


 原自己への変化は、瞬間的に中核自己の創出を開始させ、一連の出来事を引き起こす。

その一連の中で最初の出来事は、原初的感情の変化であり、それが「その対象を知っているという感情」をもたらす。これは、その対象をその瞬間の間は他の対象と区別する感情だ。

第二の出来事は、知っているという感情の結果となる。それは接触している対象に対する「重要性」を生み出す。この場合の関心/注意のためには、ある特定の対象に対して他の対象よりも処理リソースを注ぎ込まねばならない。

つまり中核自己は、変化した原自己を、その変化の原因となった対象と結びつけることで生み出される。その対象は、いまや感情によって重要なものとされ、関心/注意によって拡張されることになる。

 このサイクルの終わりで、心は単純でとてもありがちな出来事のシーケンスに関するイメージを含む。

その対象は、ある特定の視点から見られたり触られたり聞かれたりしたときに身体を関与させた。その関与は身体に変化を引き起こした。その対象の存在が感じられた。その対象が重要とされた。この一連のシーケンスだ。 

 こうしたいつまでも起こり続ける出来事の非言語的な物語は、心の中でそうした出来事が起こっている主人公がいるのだという事実を描き出す。

その主人公とは物質的な自分だ。

この非言語的な物語での描き方は、主人公を造って明らかにすると共に、その生命体により造り出された行動をその主人公に結びつけ、そしてその対象と関与することで生み出された感情とともに、所有の感覚を生み出すのだ。

 単純な心的プロセスに追加され、意識ある心を生み出しているのは、一連のイメージ、つまり生命体のイメージ(これは変更された原自己という代理物が提供している)、対象に関連した情動反応(つまりは感情)のイメージ、瞬間的に強調されたその原因たる対象のイメージだ。

《自己が心にやってくるのは、イメージという形を取ってのことだ。そのイメージは、絶え間なくこうした関与の物語を語り続けている》。

変化を受けた原自己と、知っているという感情は、ことさら強いものである必要さえない。どんな微妙な形であれ単に心の中にあって、ほのめかしより多少は強く、対象と生命体との間のつながりを提供すればいい。

結局のところ、プロセスが適応性を持つためには、最も重要なのはその対象なのだから。」

 「中核自己メカニズムの模式図。中核自己状態は複合体だ。主要コンポーネントは、知っているという感情と対象の重要度となる。他の重要なコンポーネントは、視点と所有の感覚と発動力(agency)だ。」

対象→原自己→変調された原初的感情
↑      変調されたマスター生命体
│       │    ↓
│       │   視点
│       ↓
│     知っているという感情
│       ↓     │
└─────対象の重要性  ↓
             所有の感覚
             発動力


(アントニオ・ダマシオ(1944-)『自己が心にやってくる』第3部 意識を持つ、第8章 意識ある心を作る、pp.242-243,251、早川書房 (2013)、山形浩生(訳))
(索引:中核自己)

自己が心にやってくる


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
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11.外的に向けられた感覚ポータルマップとは?(アントニオ・ダマシオ(1944-)

外的に向けられた感覚ポータルマップ

【外的に向けられた感覚ポータルマップとは?(アントニオ・ダマシオ(1944-)】
外的に向けられた感覚ポータルマップ
《知覚の種類》視覚、聴覚、嗅覚、味覚、平衡覚の〈特殊感覚〉と、マスター生命体マップの一部である目、耳、鼻、舌を収めている身体領域とその動きの知覚。
《例》視覚であれば、目を動かす眼筋、レンズや瞳孔の直径を調節する仕組み、目のまわりの筋肉、まばたきしたり、笑いを表現したりするための筋肉など。
《特徴》
(a)〈特殊感覚〉が、心の「質的」な側面を構築する。
(b)〈特殊感覚〉が、マスター生命体マップのどの身体領域から受け取っているのかを知り、身体領域を調節して視点を構築する。

 「感覚ポータルについては第4章で、感覚プローブ――ダイヤモンド――がはめこまれている補強枠の話をすることで間接的に触れた。ここではそれを自己に奉仕するものとして描こう。身体内の各種感覚ポータル――たとえば目、耳、舌、鼻を収めている身体領域――の表現は、マスター生命体マップの別個で特殊な事例だ。感覚ポータルマップがマスター生命体マップの枠組みにおさまるのは、マスター感情システムがそこにおさまるのと同じで、実際のマップの移転よりはむしろ時間的な調整によって起こるのだと思う。こうしたマップの一部がずばりどこにあるのか、というのが、いま検討したいことだ。
 感覚ポータルマップは二重の役目を果たす。まずは視点を構築すること(意識においては大きな側面となる)および心の質的な側面の構築だ。物体の認識について興味深い側面の一つは、その物体を記述する心的なコンテンツと、その知覚を行っている身体部分に対応する心的コンテンツとの間に構築される、見事な関係性だ。見るのは目で行うことは知っているが、《自分が自分の目で見ていることも感じられる》。」(中略)

「視覚の場合、感覚ポータルに含まれるのは目を動かす眼筋だけでなく、レンズの大きさを調整することでモノに焦点をあわせる仕組みのすべて、瞳孔の直径を増減することで、光量を変える装置(目のカメラシャッター)、そして目のまわりの筋肉、顔をしかめたりまばたきしたり、笑いを表現したりするための筋肉などもある。目の動きやまばたきは、自分の視覚イメージの操作に重要な役割を果たすし、驚異的なことだがフィルムイメージの有効で現実味ある編集にも一役買っている。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『自己が心にやってくる』第3部 意識を持つ、第8章 意識ある心を作る、pp.234-236、早川書房 (2013)、山形浩生(訳))
(索引:感覚ポータルマップ)

自己が心にやってくる


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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