2020年3月19日木曜日

科学を含む人類の文化の動向を、自然淘汰だけによって理解するのは、当たっていないかもしれない。なぜなら、人間には未来を構想して、現在した方がよいことを検討し選ぶ能力があるからである。(谷村省吾(1967-))

思考と表現の進化論

【科学を含む人類の文化の動向を、自然淘汰だけによって理解するのは、当たっていないかもしれない。なぜなら、人間には未来を構想して、現在した方がよいことを検討し選ぶ能力があるからである。(谷村省吾(1967-))】

参考: 数学による自然界の記述可能性は、奇跡なのだろうか。失敗した数多くの理論の歴史を顧みれば、人の脳に宿ったアイデアのうち、この世界に適応できたものが自然淘汰によって生き残ったというのが、真実のように思われる。(谷村省吾(1967-))
 「また,自然淘汰には善悪の価値判断や,目的論的な計画性がないので,うっかりすると,進化の方向が生物個体の生存にとって不利なだけでなく,遺伝子の増殖にとってすら有利とは思えない方向に進むこともある.そのような例としては,クジャクのオスの羽がよく挙げられる.クジャクのオスの羽は大きくてきらびやかだが,大きすぎて動くのに不便だし,敵にも見つかりやすいし,大きくて美しい羽を形成して維持するにも栄養などのコストがかかる.解釈としては,そのような無駄に大きくて美しい羽を持っていられるオスは美しい羽という代償を払えるくらいに有利な別の特性を備えていると見てよく,メスはそのような優秀な生体を形作る遺伝子を持つオスと交配して,優秀な遺伝子を子に引き継ぎたいのだろうと考えられる.いったんオスが「大きくて美しい羽を作る」遺伝子を獲得し,メスが「大きくて美しい羽を持つオスとの交配を好む」遺伝子を獲得してしまうと,これら2 種の遺伝子がともに手を取り合って淘汰を勝ち進んでしまい,クジャクがいまのような姿になった,と利己的遺伝子説は説明する.しかし本当に子孫繁栄を目的とするなら,こんな無駄の多いデザインをすることはなかったであろう.
 この他にも,自然淘汰・進化は必ずしも個体にとっての改善をもたらさないという例はあるだろう.とくに,遺伝子の突然変異と自然淘汰のプロセスは非常に緩慢なので,環境が急変すると,以前は生存・増殖に有利だった特性が,環境変化後には不利な特性になってしまうことはあり得る.もちろん,その逆に,以前は生存・増殖にさして有利ではなかった特性が,環境変化後には俄然有利に働くこともあり得る.
 遺伝子には,先を見通す能力がないし,将来の計画を立てて準備する能力もない.我々人間は,未来を構想して,現在した方がよいことを検討し選ぶ能力がある,と考えられている.ゆえに,人類の動向を生物進化になぞらえて考えることは当たっていないかもしれない.
 しかし,学問分野のマクロな動向は,個々人の検討・選択によって動いていると言うよりは,抗いがたい潮流のように見えることもある.だからこそ,物理理論の失敗や放棄も起きるのだろう.すべての研究が計画通りによい方向に進むものなら,そのような無駄なことは起きなかったはずである.
 研究分野の将来がいかなるものか予測することは,個人の先見能力よりも高次の能力を要するのかもしれない.我々は自分たちの遠い将来を見通せるほどには賢明ではないことを知る謙虚さを持つべきだと思う.」
『量子論と代数―思考と表現の進化論』谷村省吾 名古屋大学
(索引:思考と表現の進化論)
(出典:名古屋大学
谷村省吾(1967-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「最近(2020年)、時間の哲学と心の哲学の問題に関わることが多くなり、「意識とは何か、物理系に意識を実装できるか」という問題を本格的に考えたいと思うようになった。裏プロジェクトとして意識の科学化を考えている。
 「科学で扱えるものと扱えないとされるもののギャップ」は、心得ておくべきではあるが、ギャップにこそ重要な問題が隠されており、ギャップを埋める・ギャップを乗り越えることによって科学は進歩してきたとも言える。」(中略)
 「物理学におけるギャップの難問として次のようなものがある。マクロ系によるミクロ系の観測に伴う波束の収縮、量子系から古典系の創発、相対論的系から非相対論的系の出現、可逆力学系から不可逆系の出現、意識なきものから意識あるものの出現「いまある感」の起源、などがそのような例であるが、これらは地続きの問題であり、いずれも機が熟すれば科学的に究明されるべき課題だと私は考えている。」(後略)
(研究の裏で私が意識していること 谷村省吾 名古屋大学谷村省吾(1967-)

谷村省吾(1967-)
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