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2018年8月9日木曜日

人生の約3分の1を占める睡眠は、きわめて能動的な状態である:(a)意識的、無意識的な出来事が、見直され、関連づけられ、保管され、破棄される。(b)グリアに関連する数百の遺伝子が合成されている。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))

睡眠

【人生の約3分の1を占める睡眠は、きわめて能動的な状態である:(a)意識的、無意識的な出来事が、見直され、関連づけられ、保管され、破棄される。(b)グリアに関連する数百の遺伝子が合成されている。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】

 人生の約3分の1を占める睡眠は、単なる休止状態ではなく、きわめて能動的な精神作用である。
(1)睡眠中は、身体を動かなくさせて、自由奔放な脳内の活動によって、身体が危険な運動を起こさないようにしている。
(2)意識的、無意識的な出来事が、情報の種類や、別の出来事との関連性、内面的な心情によって判断した重要さの度合いなどの要因に従って、見直され、仕分けされ、関連づけられ、再考され、脳内の一つの部位から大脳皮質のさまざまな場所に移されて保管され、さらには破棄される。
(3)睡眠中の脳内では、数百の遺伝子が合成されている。これら遺伝子の多くが、グリアにしか見つからない。例として、レム睡眠中の脳内で最も活発に合成される遺伝子のいくつかは、ミエリンを形成するオリゴデンドロサイトに存在する遺伝子だ。

 「私たちの無意識と意識の中間には、睡眠という変容した精神状態がある。もしあなたが75歳まで生きるとしたら、そのうちの25年ぐらいは、おそらく眠って過ごすことになるだろう。人生の大きな割合を占めるその期間に、脳内で何が起こっているのかは、知ることも理解することもほとんどできない。睡眠は私たち自身の不可解な、それでいて神秘的な部分だ。睡眠がたんなる夜間の休止状態、つまり、暗闇のなかで体内システムの活動を停止しているにすぎないのだとしたら、日中に元気よく身体活動ができるように、エネルギーを節約するための合理的な戦略として納得できる。睡眠は、長い時間操作がないと、節電のためにラップトップコンピューターが一時的な休止状態になるようなものかもしれない。ところが、睡眠中にヒトの(さらに言えば、動物の)脳内で起こっていることは、休止状態とはかけ離れている。睡眠中、脳は忙しく働いているのだ。それは変容した精神状態だが、けっして不活発ではない。睡眠は能動的な精神作用であり、その過程で一部の脳回路が身体を動かなくさせて、私たちの精神が夜間の自由奔放な空想のなかで躍動できるようにしている。このように体が動かせないおかげで、私たちはベッドから飛び出して、夢の中の追手から走って逃げたり、夢見心地で体験しているどんな空想も追いかけていったりせずにすむのだ。
 膨大な量の活動がさまざまな脳回路を往来するために、夜間の無意識な生活における脳内活動には、周期とパターンが作り出されている。そのなかで、その日にあった出来事(意識的および無意識的の両方)が見直され、仕分けされ、関連づけられ、再考され、保管され、さらには破棄される。それらの記憶は、そこに含まれる情報の種類や、別の出来事との関連性、内面的な心情によって判断した重要さの度合いなどの要因に従って、脳内の一つの部位(訳注;海馬)から大脳皮質のさまざまな場所に移されて保管される。この変容した意識状態は、おそらくあなたの存在の三分の一ほどを占めるだろうが、科学にとって今なお謎であり、研究するのは難しい。私たちが眠っているとき、グリアには何が起こっているのだろうか? さらに興味深いのは、私たちが睡眠と呼んでいるこの精神状態の制御に、グリアは関与しているのかという疑問だ。
 遺伝子チップ(何千もの遺伝子の活動を同時にモニターすることを可能にした新しい研究手法)を用いて、睡眠の異なる位相でオンオフする脳組織内の遺伝子の変化を検出した研究から、ある洞察が浮び上がってきた。この研究によれば、レム睡眠とノンレム睡眠の各位相で、脳内では数百の遺伝子が合成されているという(レム睡眠とは、「急速眼球運動睡眠」とも称され、夢を見ている睡眠の位相である)。最近判明した驚くべき事実は、睡眠中に合成される遺伝子の多くが、グリアにしか見つからないことだった。実際に、レム睡眠中の脳内で最も活発に合成される遺伝子のいくつかは、ミエリンを形成するオリゴデンドロサイトに存在する遺伝子だ。その理由は、誰にもわからない。しかしこれは、私たちが眠っている間も、グリアはけっして眠っていないことを示す有力な証拠である。グリアは、私たちがまだ理解していない何らかの仕事に精を出しているのだ。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第13章 「もうひとつの脳」の心――グリアは意識と無意識を制御する,講談社(2018),pp.442-445,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:睡眠,グリア,ミエリン,オリゴデンドロサイト)

もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)


(出典:R. Douglas Fields Home Page
R・ダグラス・フィールズ(19xx-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「アストロサイトは、脳の広大な領域を受け持っている。一個のオリゴデンドロサイトは、多数の軸索を被覆している。ミクログリアは、脳内の広い範囲を自由に動き回る。アストロサイトは一個で、10万個ものシナプスを包み込むことができる。」(中略)「グリアが利用する細胞間コミュニケーションの化学的シグナルは、広く拡散し、配線で接続されたニューロン結合を超えて働いている。こうした特徴は、点と点をつなぐニューロンのシナプス結合とは根本的に異なる、もっと大きなスケールで脳内の情報処理を制御する能力を、グリアに授けている。このような高いレベルの監督能力はおそらく、情報処理や認知にとって大きな意義を持っているのだろう。」(中略)「アストロサイトは、ニューロンのすべての活動を傍受する能力を備えている。そこには、イオン流動から、ニューロンの使用するあらゆる神経伝達物質、さらには神経修飾物質(モジュレーター)、ペプチド、ホルモンまで、神経系の機能を調節するさまざまな物質が網羅されている。グリア間の交信には、神経伝達物質だけでなく、ギャップ結合やグリア伝達物質、そして特筆すべきATPなど、いくつもの通信回線が使われている。」(中略)「アストロサイトは神経活動を感知して、ほかのアストロサイトと交信する。その一方で、オリゴデンドロサイトやミクログリア、さらには血管細胞や免疫細胞とも交信している。グリアは包括的なコミュニケーション・ネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類(グリア、ホルモン、免疫、欠陥、そしてニューロン)の情報を、文字どおり連係させている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:)

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