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2020年4月27日月曜日

11.公共政策をめぐる戦いの例。(a)国家による介入は悪なのか、是正や公共財への投資は正義なのか、(b)貧困は自己責任なのか、再分配は正義なのか、(c)依存や福祉は悪なのか、人間の本質なのか、など。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

公共政策をめぐる戦い

【公共政策をめぐる戦いの例。(a)国家による介入は悪なのか、是正や公共財への投資は正義なのか、(b)貧困は自己責任なのか、再分配は正義なのか、(c)依存や福祉は悪なのか、人間の本質なのか、など。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

参考: 公共政策では、市場や国家や市民社会の役割のような、重要で基礎的な思想をめぐって論争される。なぜなら、この大きな枠組みが個別の認識と、特別な利害関係を考慮した現実的政策に影響を与えるからである。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))


(1)市場と国家の役割
 (a1)国家による介入は悪である
  国家が、市場の働きを妨げる。国家は、市場に介入すべきではない。あらゆる価値の源泉は諸個人であり、個人が私的にお金を使うことは、政府が託されたお金を使う場合よりも絶対に良い。
 (a2)自由に儲けさせろ
  実のところ、自らの収益源であるレントシーキングが、国家によって禁止されるのは困る。国家が、自らのためにお金を使ってくれるのは、大歓迎である。
 (b)国家による是正、公共財への投資が必要
  自由な市場は、失敗する。経済機会と流動性を拡大するためには、国家による介入が必要である。国家は、インフラや技術や教育などの公共財へ投資することで、諸個人が開花するための環境を準備する。
(2)貧困の原因
 (a)貧困の自己責任論
  貧困は、自ら招いた結果であり、本人の責任である。
 (b)再分配は正義である
  貧困は、生まれ落ちた境遇、教育、偶然的な運・不運に左右されるものであり、国家による介入、再分配の実施が公平な社会をつくり出すのに必要である。
(3)福祉の性質
 (a)依存や福祉は悪である
  福祉は、他人に依存する人間を作り出す。“福祉に頼る怠け者”“福祉の女王”キャンペーン。
 (b)依存や福祉は人間の本質である
  そもそも依存性は、人間の本質の一つである。幼少期、老年期、傷病や障害を負ったとき、社会に依存して生き、開花することは人間の本質の一つである。
(4)法外な報酬の是非
 (a)法外な報酬は貢献による
  最上層の人々が法外な報酬を受けとるのは、社会に対して非常に大きな貢献をしたからである。
 (b.1)法外な報酬は単なる運
  法外な報酬は、社会的貢献や勤勉の結果ではなく、単なる幸運によるものである。
 (b.2)法外な報酬は悪行の結果
  むしろ、市場を独占して消費者を搾取したり、本来は違法とすべき活動によって貧しい無学の借り手を搾取したりする能力から生じたものである。
(5)格差の是非
 (a)トリクルダウン経済
  全ての人々が平等に貧しいよりも、大きな不平等が存在したとしても社会全体が豊かになれば、結果として全員が豊かになれる。大きな不平等は悪いものではない。
 (b)不平等が生産性を低下させ、民主主義を蝕む
  大きな不平等は、社会を不安定なものにし、生産性を低下させ、民主主義を蝕む。

 「もし底辺の人々の問題がみずから招いた結果であるのなら、そして、(1980年代や1990年代の“福祉に頼る怠け者”キャンペーンや“福祉の女王”キャンペーンが示唆していたように)生活保護を受けている人々がほんとうに他人に寄りかかって贅沢な生活をしてきたのなら、そういう人々を援助しなくても良心の呵責はほとんど感じない。

もし最上層の人々が社会に非常に大きな貢献をしたという理由で高給を受け取るのなら、そういう人々の報酬は、特にその貢献がたんなる幸運によるものではなく勤勉の成果であったとすれば、正当化されるように思われる。

ほかにも、不平等を減らすと大きなツケがまわってくるだろうとほのめかす考えかたもある。

さらに、大きな不平等はそれほど悪いものではない、なぜならそういう大きな不平等のない世界で生きるよりも全員が豊かに暮らせるのだから、とほのめかす考えかたもある(トリクルダウン経済)。

 しかし、この戦いの反対陣営は、対照的な信念を持つ。

平等の価値を心から信じ、これまでの章で示してきたように、現在のアメリカにおける大きな不平等が社会をさらに不安定なものにし、生産性を低下させ、民主主義をむしばんでいると分析する。

さらに、その不平等の大半は社会的貢献とは無関係に生じており、むしろ市場の力を使いこなす能力――市場を独占することで消費者を搾取したり、本来は違法とすべき活動によって貧しい無学の借り手を搾取したりする能力――から生じていると分析する。

 知的な戦いは、キャピタルゲインに対する税金を引き上げるべきかどうかなどの、特定の政策をめぐって繰り広げられることが多い。

しかし、そういう論争の背後で、認識をめぐって、そして市場や国家や市民社会の役割のような重要な思想をめぐって、前述のような重要な戦いが繰り広げられているのだ。

これはたんなる哲学的議論ではなく、そういうさまざまな機構の有用性についての認識を形成しようとする戦いなのだ。

 すばらしい収益源であるレントシーキングを国家に禁止されることを望まない人々や、国家が再分配を実施したり、経済機会と流動性を拡大しようとすることを望まない人々は、国家の失敗を全面に打ち出す(意外にも、自分たちが政権を担当していて、問題に気づいていたら正すことができたし、また正すべきであるような場合でも、同じことをする)。

国家が市場の働きを妨げていると力説するのだ。政府の失敗を誇張すると同時に、市場の長所を誇張する。

わたしたちから見て最も重要なのは、そういう人々がやっきになって、以下のような認識を社会全体のものの見かたに組み込もうとする点だろう。それは、個人が私的にお金を使うことは(おそらくギャンブルに使う場合でも)、政府が託されたお金を使う場合よりも絶対にいいという認識だ。

そして、市場の失敗――たとえば企業が環境をひどく汚染してしまう傾向――を政府が正そうとすることは、益よりも害をもたらすという認識だ。

 この重要な戦いは、アメリカにおける不平等の進展を理解するのに欠かせない。過去30年にわたって保守派がこの戦いで勝利を収めてきたことが、政府のありようを決めてしまった。

わたしたちは自由論者が提唱するミニマリスト国家(小さな政府)を築き上げたわけではない。わたしたちが築き上げたのは、活気あふれる経済を生み出すであろう公共財――インフラや技術や教育への投資――を提供できないほど抑制され、公平な社会をつくり出すのに必要な再分配を実施できないほど弱い国家なのだ。

しかし、それでも今の国家は、富裕層にさまざまな恩恵をたっぷり与えることができるほどには大きくて、ゆがんでいる。小さな国家を信奉する金融業界の人々は、2008年に政府が自分たちを救い出すだけの資金を持っていたことを喜んだ。そして、実は、救済措置は何世紀も前から資本主義に組み込まれていたのだ。」

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第6章 大衆の認識はどのように操作されるか,pp.232-235,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
スティグリッツの関連書籍(amazon)
検索(スティグリッツ)

2019年8月31日土曜日

10.公共政策では、市場や国家や市民社会の役割のような、重要で基礎的な思想をめぐって論争される。なぜなら、この大きな枠組みが個別の認識と、特別な利害関係を考慮した現実的政策に影響を与えるからである。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

公共政策をめぐる戦い

【公共政策では、市場や国家や市民社会の役割のような、重要で基礎的な思想をめぐって論争される。なぜなら、この大きな枠組みが個別の認識と、特別な利害関係を考慮した現実的政策に影響を与えるからである。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

公共政策をめぐる戦い
(1)利害関係
 実際には、特別な利害関係を考慮した現実的政策が争われている。
(2)表向きの主張
 表向きの主張では、効率性や公平さに焦点があてられる。すなわち、あくまでも自分たちの利益ではなく、他の人々の利益にもなるという主張がなされる。
(3)枠組み思考の重要性
 市場や国家や市民社会の役割のような、重要で基礎的な思想が、大きな“枠組み作り”を行い、個別の認識は、この枠組みの影響を受ける。

 「不平等の政治学
 ここまで、どのようにしてわたしたちの認識が“枠組み作り”の影響を受けるか説明した。

だから、今日の戦いの多くが不平等の枠組み作りの戦いであることは驚くにあたらない。

美と同じく公平さも、少なくとも多少は見る人の見かたに左右されるし、最上層の人々は、いまのアメリカにおける不平等が公平なものに見えるような、少なくとも許容範囲内のものに見えるような枠組みになっていることを確信したいと思っている。

不公平だと認識されると、職場の生産性に響くおそれがあるだけでなく、不平等を緩和しようとする法律が制定されることにもなりかねないからだ。

 公共政策をめぐる戦いにおいては、特別な利害関係を考慮した現実的政策がどのようなものであろうとも、一般大衆の会話では、効率性や公平さに焦点があてられる。

わたしが政府の役職に就いていたころ、産業への助成金を求める嘆願者が、財源が豊かになるからという理由だけで助成金を求めるのを耳にしたことは一度もない。むしろ、嘆願者は公平という言葉を使って――そして、そうすることがほかの人々の利益にもなるという表現を使って――自分たちの要望を伝えてきた。

 同じことは、アメリカ
で不平等を拡大させた政策についても言える。

“枠組み作り”についての戦いは、まず、わたしたちが不平等をどう見るのか――不平等はどのくらい大きいのか、その原因は何か、どのように正当化できるのか――が焦点となる。

 それゆえ企業のCEO、特に金融部門のCEOは、自分たちの高給は社会に大きな貢献をした成果だから正当化できると主張してきた。このような貢献を続ける意欲を持つには高給が必要だということを、他人に(そして自分自身に)納得させようとしてきた。だからこそCEOの高給は報奨金と呼ばれているのだ。

しかし、金融危機が、そういうCEOの主張はごまかしだということを白日のもとにさらした。4章で触れたように、報奨金という名称の報酬は、とても報奨金と呼べる代物ではなかった。業績がよければ報酬は高くなったが、業績が悪くても報酬は高いままだった。変わったのは名称だけだ。業績が悪いと、報酬の名称は“慰留金”に変えられた。」

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第6章 大衆の認識はどのように操作されるか,pp.231-232,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:公共政策をめぐる戦い)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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