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2019年3月30日土曜日

2.社会に対する貢献以上の報酬を得る方法:(a)参入障壁の構築と独占の維持、(b)競争障壁の構築、(c)市場の透明性を低下させること、(d)これら反競争的行為が規制されないための政治的対策。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

社会に対する貢献以上の報酬を獲得する方法

【社会に対する貢献以上の報酬を得る方法:(a)参入障壁の構築と独占の維持、(b)競争障壁の構築、(c)市場の透明性を低下させること、(d)これら反競争的行為が規制されないための政治的対策。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(4.1.1)、(4.1.2)、(4.2.1)、(4.2.2)追記。

(4)2つの考え方
 (4.1)全体の社会的利益を最大化させようとするには、政府の適切な矯正作業が必要である。
  (4.1.1)市場における公正な競争を維持する。
   (i)市場に競争性があるとき、正常な資本収益率を上回る利潤は持続できなくなる。なぜなら、企業が商品の利幅を大きくすれば、ライバル会社が価格引き下げを武器に、顧客を奪い取ろうとしてくるからだ。
   (ii)複数の企業が活発な競争を繰り広げると、商品価格は利潤がゼロになるレベルまで下落していく。
  (4.1.2)市場における透明性が高まれば高まるほど、競争は激しくなりやすい。
 (4.2)社会に対する貢献以上の個人的報酬を獲得しようとするには、政府の規制は少ないほうが都合がいい。
  (4.2.1)儲けを大きくするために、市場の競争性を低下させ、独占力を確保すること。
   (i)参入障壁や、競争の障壁を構築する。
   (ii)反競争的行為が法律で禁止されないように対策する。
   (iii)仮に法律が存在する場合は、実効的な取り締まりが行なわれないよう対策する。
  (4.2.2)市場の透明性を低下させる。
   (i)例として、公開市場ではなく店頭市場を利用し、買い手には必要な情報を与えず、取引を有利に進める。

 「ここからは、市場を“うまく機能させない”ために、民間の金融機関が講じる手段をいくつか紹介していこう。

アダム・スミスが述べたように、企業には市場の競争性を低下させようとするインセンティブが働く。

さらに企業は、反競争的行為がきびしい法律で禁止されないように手を打ち、すでに法律が存在する場合は、実効的な取り締まりが行なわれないようにあらゆる手段を尽くす。

事業家たちが重視するのは、社会の繁栄とは何かを広く知らしめることでもなければ、市場の競争性を高めることでもない。彼らの目的は、“自分に都合よく”市場を機能させ、より大きな利潤を手にすることだけだ。

しかし、これらの行為はたいていの場合、経済の効率性を低下させ、不平等を拡大させる結果に終わる。

 ここではひとつの実例を挙げれば充分だろう。市場に競争性があるとき、正常な資本収益率を上回る利潤は持続できない。なぜなら、企業が商品の利幅を大きくすれば、ライバル会社が価格引き下げを武器に、顧客を奪い取ろうとしてくるからだ。複数の企業が活発な競争を繰り広げると、商品価格は利潤がゼロになるレベルまで下落し、大儲けをもくろむ者たちには不幸な結果が訪れる。

ビジネススクールで生徒たちが教わるのも、利潤が浸食されるのを防ぐために、どうやって競争の障壁――参入障壁をふくむ――を理解し、どうやって実際に障壁を構築するかという点だ。

過去30年の重大なビジネス・イノベーションの一部は、経済効率の向上に主眼を置いていなかった。重視されたのは、独占力を確保することと、個人的報酬と社会的利益を合致させるための政府規制をすりぬけることだった。

 好んで使われるのは、市場の透明性を低下させる手法だ。透明性が高まれば高まるほど、市場における競争は激しくなりやすい。

銀行家たちはこの事実を知っている。だからこそ銀行業界は、〈AIG〉の没落の中心的役割を果たした危険な金融商品、デリバティブの引き受け事業を展開するにあたって、不透明な“店頭市場”での取引を必死に守りつづけたのだ。

店頭市場では、良い取引と悪い取引を消費者が見極めるのは難しい。透明性の高い現代の公開市場とは対照的に、店頭市場ではすべてが交渉で決まる。売り手が絶え間なく取引を行なう一方、買い手はたまにしか市場を訪れないため、売り手は買い手よりも多くの情報を持ち、その情報を使って取引を有利に進める。要するに、おしなべて見ると、売り手〈デリバティブを引き受ける銀行〉は店頭市場でなら、顧客から多くの金を引き出せるわけだ。

 このような透明性の欠如は、銀行家たちの利益をふくらませる一方、経済全体を落ち込ませるという結果を招く。良い情報が入手できなければ、資本市場は本来の機能を発揮できない。最も収益率の高い事業に、もしくは、最も運用成績の高い銀行に、必ずしも資金が流れ込むとはかぎらないからだ。

現在、各金融機関が業界内でどんな位置を占めているかという実情を知る者はひとりとしていない。原因のひとつは、不透明なデリバティブ取引だ。

最近の世界金融危機を受けて、状況の変化を期待する向きもあるだろうが、銀行家たちはデリバティブ取引の透明化にも、反競争的行為を取り締まる規制にも抵抗した。このようなレントシーキング活動は、彼らにとって数百億ドル分の価値があった。

金融界がすべての抵抗活動に勝利を収めたわけではないが、彼らの通算成績は、問題を今日まで長らえさせるだけの効果を持っていた。たとえば、2011年10月末にアメリカの大手金融機関が破綻したが(負債総額は史上第8位)、原因のひとつは複雑なデリバティブ取引だった。あきらかに市場は、少なくとも問題が表面化するまで、デリバティブ取引の本質を見透かせなかったのである。」

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.80-82,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:参入障壁,競争障壁,市場の透明性,反競争的行為)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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