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2020年5月11日月曜日

3怒りの表出を伴う否定的裁可は、相手に恐怖を喚起する。これは、危険からの逃走、敵への攻撃という基盤を持つ感情のため効果的であるが、対抗的な怒りを生み、連帯を促進しない悪循環を生み出す可能性もある。(ジョナサン・H・ターナー(1942-))

否定的裁可

【怒りの表出を伴う否定的裁可は、相手に恐怖を喚起する。これは、危険からの逃走、敵への攻撃という基盤を持つ感情のため効果的であるが、対抗的な怒りを生み、連帯を促進しない悪循環を生み出す可能性もある。(ジョナサン・H・ターナー(1942-))】


否定的裁可
 (1)怒りの表出
  相手側が期待に適うことができなかったことに対する、当事者の怒りあるいはこの感情の変種を含んでいる。
 (2)恐怖の喚起
  間違いをした側に、恐怖心あるいはこの感情の変種を喚起する。
 (3)否定的裁可の効果
  否定的裁可は、ほとんどの哺乳類において原基的な感情である、怒りと恐れの感情を利用しているため、非常に効果的である。
  (a)恐怖
   恐怖心をもたない動物は、まもなく選択から除外される。
  (b)怒り
   防衛的攻撃を動員する能力をもたない動物は、逃げのびて退避できない場合に、捕食者の歯牙にかかって死ぬ運命にあるからである。
 (4)否定的裁可の問題点
  否定的裁可は、恐れを喚起するだけでなく、しばしば対抗的な怒りを生む。そのため、否定的裁可は連帯を促進しない怒り-恐れ-怒りという複雑な循環を生みだす可能性がある。

 「否定的裁可は非常に効果的である。

というのも、否定的裁可はほとんどの哺乳類において原基的な感情――反感-恐れと不平-攻撃――の活性化に頼っているからである。これらの感情がもっとも原基的である。

なぜなら、恐怖心をもたない動物はまもなく選択から除外され、そして防衛的攻撃を動員する能力をもたない動物は逃げのびて退避できない場合に、捕食者の歯牙にかかって死ぬ運命にあるからである(Le Doux 1991,1993a,1993b,1996)。

ゆえに否定的裁可は、相手側が期待に適うことができなかったことに対する当事者の怒り(あるいはこの感情の変種)を含んでいる。

そして行動の変更を行わせる裁可の力は、間違いをした側に恐怖心(あるいはこの感情の変種)を喚起する能力である。

しかし否定的裁可につきまとう問題は、それが最小限の感情結合(恐れと怒り)にしか基づいていないということである。さらに、他の個体を裁可するためにある個体の怒りを利用することは恐れを喚起するだけでなく、しばしば対抗的な怒りを生む。そのため、否定的裁可は連帯を促進しない怒り-恐れ-怒りという複雑な循環を生みだす可能性がある(Turner 1995,1996a)。」

(ジョナサン・H・ターナー(1942-)『感情の起源』第2章 選択力と感情の進化、pp.69-70、明石書店 (2007)、正岡寛司(訳))
(索引:感情の進化,選択圧,否定的裁可,怒り,恐れ)

感情の起源 ジョナサン・ターナー 感情の社会学


(出典:Evolution Institute
ジョナサン・H・ターナー(1942-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「実のところ、正面切っていう社会学者はいないが、しかしすべての社会学の理論が、人間は生来的に(すなわち生物学的という意味で)《社会的》であるとする暗黙の前提に基づいている。事実、草創期の社会学者を大いに悩ませた難問――疎外、利己主義、共同体の喪失のような病理状態をめぐる問題――は、人間が集団構造への組み込みを強く求める欲求によって動かされている、高度に社会的な被造物であるとする仮定に準拠してきた。パーソンズ後の時代における社会学者たちの、不平等、権力、強制などへの関心にもかかわらず、現代の理論も強い社会性の前提を頑なに保持している。もちろんこの社会性については、さまざまに概念化される。たとえば存在論的安全と信頼(Giddens,1984)、出会いにおける肯定的な感情エネルギー(Collins,1984,1988)、アイデンティティを維持すること(Stryker,1980)、役割への自己係留(R. Turner,1978)、コミュニケーション的行為(Habermas,1984)、たとえ幻想であれ、存在感を保持すること(Garfinkel,1967)、モノでないものの交換に付随しているもの(Homans,1961;Blau,1964)、社会結合を維持すること(Scheff,1990)、等々に対する欲求だとされている。」(中略)「しかしわれわれの分析から帰結する一つの結論は、巨大化した脳をもつヒト上科の一員であるわれわれは、われわれの遠いイトコである猿と比べた場合にとくに、生まれつき少々個体主義的であり、自由に空間移動をし、また階統制と厳格な集団構造に抵抗しがちであるということだ。集団の組織化に向けた選択圧は、ヒト科――アウストラロピテクス、ホモ・ハビリス、ホモ・エレクトゥス、そしてホモ・サビエンス――が広く開けた生態系に適応したとき明らかに強まったが、しかしこのとき、これらのヒト科は類人猿の生物学的特徴を携えていた。」
(ジョナサン・H・ターナー(1942-)『社会という檻』第8章 人間は社会的である、と考えすぎることの誤謬、pp.276-277、明石書店 (2009)、正岡寛司(訳))

ジョナサン・H・ターナー(1942-)
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2018年7月3日火曜日

14狭義の情動とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))

狭義の情動

【狭義の情動とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
狭義の情動
《定義》感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に影響を与える。
《誘発原因》
 狭義の情動が引き起こされるとき、その情動の原因となった対象や事象を、〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)という。進化の過程で獲得したものも、個人の生活の中で学習したものも存在する。
《身体過程》
 (a)感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知し、評価する。
  (場所:感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
 (b)(a)によって、自動的に、神経的/化学的な反応の複雑な集まりが、引き起こされる。
  (場所:例えば、「恐れ」であれば、扁桃体が誘発し、前脳基底、視床下部、脳幹が実行する。)
 (c)(b)によって、身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。
 (d)脳構造の状態も一時的に変化し、身体のマップ化や思考へも影響を与える。
 (e)特定の行動が引き起こされる。
 (f)引き起こされた(c)~(e)は、特有の身体的パターンであり、互いに区別できるこのような身体的パターンの種類がいくつか存在し、これが情動である。

(再掲)
ホメオスタシスの一般的なプロセス
(1) 一個の有機体の内部あるいは外部の環境で、何かが変化する。
(2) その変化が、その有機体の命の方向を変える。
(3) 有機体は、そうした変化を検出し、有機体の自己保存と効率的機能にとって、最も有益な状況を生み出すように反応する。
(3.1) 有機体の内部と外部の状況を評価する。有機体は、ただ単に生きている状態ではなく、より「優れた命の状態」を目指しているように見える。すなわち、人間であれば「健康でしかも幸福である」状態を目指しているように見える。
(3.2) 反応。
(3.3) 結果として、健全性への脅威を取り除き、また、改善への好機を手に入れる。

 「さて、さまざまな種類の情動を考慮に入れながら、狭義の情動に対する作業仮説を定義という形で提示してみよう。

1 喜び、悲しみ、当惑、共感、のような狭義の情動は、ある特有の身体的パターンを形成する化学的ならびに神経的な反応の複雑な集まりである。

2 それらの反応は、正常な脳が〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)――本物であれ、心の中で想起されたものであれ、その存在が情動を誘発するような対象または事象――を感知すると、その脳により生み出される。反応は自動的である。

3 いくつかの特定のECSに対しては一連のきまった作用で脳が反応するよう、進化により手はずが整えられている。ただし、ECSのリストは進化が定めたものにだけ限定されているわけではない。そのリストには、われわれが生活の中で学習した他の多くのものも含まれている。

4 これらの反応の即刻の帰結は、「狭義の身体」の一時的な状態変化、そして、身体をマップ化したり思考を支えたりしている脳構造の一時的な状態変化である。

5 これらの反応の最終的帰結は、直接的あるいは間接的に、有機体を生存と幸福に通ずる環境に置くことである。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.82-83、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

 例として「恐れ」を使いながら、情動の誘発と実行のための主な段階を示している。
(1) 「情動(恐れ)を誘発しうる刺激」の評価と定義
 (感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
(2) 誘発
 (扁桃体)
(3) 実行
 (前脳基底、視床下部、脳幹)
(4) 情動状態
 (内部環境、内蔵、筋骨格システムにおける一時的変化。特定の行動)

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、p.95、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:恐れ、狭義の情動)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年4月3日火曜日

他の人たちによってなされた行為による〈悪〉の感受:憤慨、怒り(ルネ・デカルト(1596-1650))

憤慨と怒り

【他の人たちによってなされた行為による〈悪〉の感受:憤慨、怒り(ルネ・デカルト(1596-1650))】
 意志に依存する想像、思考や理性がとらえた、他の人たちによってなされた行為が、「憤慨」を感じさせるとき、またその行為がわたしたちに対してなされ「怒り」を感じさせるとき、そこには私たちの本性を害するであろう何かが存在する。それが本性を害するものであるとき、それは〈悪〉である。
 「まったく同様に、他の人たちによってなされた悪は、わたしたちに関係ない場合は、その人たちへの憤慨の気持ちを抱かせるだけだが、それがわたしたちに関わると、怒りをも触発する。」
(ルネ・デカルト(1596-1650)『情念論』第二部 六五、pp.58-59、[谷川多佳子・2008])
 「憤慨が好意の正反対であるのと同様に、怒りは感謝の正反対である。けれども、怒りは、これら三つの他の情念とは比較にならないほど激しい。なぜなら、有害なものを押し返し、その復讐をしようとする欲望は、あらゆる欲望のうちで最も切実だからだ。」
(ルネ・デカルト(1596-1650)『情念論』第三部 一九九、p.169、[谷川多佳子・2008])
(索引:憤慨、怒り)

情念論 (岩波文庫)



哲学の再構築 ルネ・デカルト(1596-1650)まとめ&更新情報 (1)存在論
(目次)
 1.なぜ、哲学をここから始める必要があるのか
 2.私は存在する
 3.私でないものが、存在する
 4.精神と身体
 5.私(精神)のなかに見出されるもの

ルネ・デカルト(1596-1650)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)
(出典:wikipedia
 「その第一の部門は形而上学で、認識の諸原理を含み、これには神の主なる属性、我々の心の非物質性、および我々のうちにある一切の明白にして単純な概念の解明が属します。第二の部門は自然学で、そこでは物質的事物の真の諸原理を見出したのち、全般的には全宇宙がいかに構成されているかを、次いで個々にわたっては、この地球および最もふつうにその廻りに見出されるあらゆる物体、空気・水・火・磁体その他の鉱物の本性が、いかなるものであるかを調べます。これに続いて同じく個々について、植物・動物の本性、とくに人間の本性を調べることも必要で、これによって人間にとって有用な他の学問を、後になって見出すことが可能になります。かようにして、哲学全体は一つの樹木のごときもので、その根は形而上学、幹は自然学、そしてこの幹から出ている枝は、他のあらゆる諸学なのですが、後者は結局三つの主要な学に帰着します。即ち医学、機械学および道徳、ただし私が言うのは、他の諸学の完全な認識を前提とする窮極の知恵であるところの、最高かつ最完全な道徳のことです。ところで我々が果実を収穫するのは、木の根からでも幹からでもなく、枝の先からであるように、哲学の主なる効用も、我々が最後に至って始めて学び得るような部分の効用に依存します。」
(ルネ・デカルト(1596-1650)『哲学原理』仏訳者への著者の書簡、pp.23-24、[桂寿一・1964])

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2018年3月5日月曜日

原基感情(ジョナサン・H・ターナー(1942-))

原基感情

【原基感情(ジョナサン・H・ターナー(1942-))】
マラテスタ/ハヴィランド(Malatesta/Haviland 1982) 喜び 恐れ 怒り 悲しみ おもしろい 痛み 気持ち悪い
心配
ケンパー(Kemper 1987) 満足 恐れ 怒り 抑圧
グレイ(Gray 1982) 希望 不安 怒り 悲しみ
フェアー/ラッセル(Fehr/Russell 1984) 幸せ
愛情
恐れ 怒り 悲しみ
スコット(Scott 1980) 快感
愛情
恐れ
不安
怒り 失意 好奇心
プルチック(Pluchik 1980) 喜び 恐れ 怒り 悲しみ 驚き むかつき 予感 受容
フロム/オブライエン(Fromme/O'Brien 1982) 喜び
意気揚々
満足
恐れ 怒り 悲嘆
諦観
動揺
アリエッティ(Arieti 1970) 満足 恐れ
緊張
憤怒 不快 欲望
エプシュタイン(Epstein 1984) 喜び
愛情
恐れ 怒り 悲しみ
エクマン(Ekman 1984) 幸せ 恐れ 怒り 悲しみ 驚き むかつき
イザード(Izard 1977,1992b) 楽しい 恐れ 怒り
侮蔑
驚き むかつき
はにかみ
苦悩 おもしろい
ダーウィン(Darwin 1872) 快感
喜び
愛情
恐怖 怒り 驚き 痛み
オズグッド(Osgood 1966) 喜び
静穏
快感
恐れ
不安
怒り 悲哀 驚嘆 むかつき おもしろい
期待
退屈
アーノルド(Arnold 1960) 戦い 自衛
攻撃
トレヴァーセン(Trevarthen 1984) 幸せ 恐れ 怒り 悲しみ 言い寄り 抵抗
ターナー(Turner 1996a) 幸せ 恐れ 怒り 悲しみ
スローフ(Sroufe 1979) 快感 恐れ 怒り
パンクセップ(Panksepp 1982) 恐れ
恐慌
激怒 悲哀
失意
悲嘆
期待
エムデ(Emde 1980) 喜び 恐れ 怒り 悲しみ 驚き むかつき
はにかみ
苦悩 おもしろい
ジョンソン-レィアード/オートレイ(Johnson-Laird/Oatley 1992) 幸せ 恐れ 怒り 悲しみ むかつき
(ジョナサン・H・ターナー(1942-)『感情の起源』第3章 人間の感情レパートリー、pp.96-97、明石書店 (2007)、正岡寛司(訳))
(索引:恐れ、怒り、悲しみ、喜び、快、快感、愛、愛情、驚き、むかつき、恥、苦悩、好奇心、欲望、心配)

感情の起源 ジョナサン・ターナー 感情の社会学


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