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2020年6月9日火曜日

福祉国家創造への原動力である崇高な倫理的理念にせよ,公正や平等への闘争にせよ,前提条件的な経済状況の変化によって機能不全に陥る. 大量の労働力が不要となり,労働は分極化,分断され,連帯や組織的抵抗が弱体化する.(ジグムント・バウマン(1925-2017))

福祉国家創造の原動力の前提条件の変化

【福祉国家創造への原動力である崇高な倫理的理念にせよ,公正や平等への闘争にせよ,前提条件的な経済状況の変化によって機能不全に陥る. 大量の労働力が不要となり,労働は分極化,分断され,連帯や組織的抵抗が弱体化する.(ジグムント・バウマン(1925-2017))】

(1)福祉国家の創造への原動力
 (a)崇高な倫理的理念
  近代の文明社会を構成する諸原則のうちで、倫理的意図が結実した。
 (b)不平等に対する闘争
  また資本主義の発展がたどる不平等で不安定な過程によって脅かされる人々の暮らしに対して、国家に裏づけられた集団的な保障を要求した労働組合や労働者政党による長い闘争の結果として、そうした福祉国家の導入がなされた。
 (c)労働の反抗の回避
  資本と労働における意見の不一致を和らげ、労働者の反抗する可能性を避けたいという動機から、制度が導入された。
(2)かつて前提となっていた経済的状況とその変化
 (2.1)資本
  (a)かつて、成長率と利益率は生産過程に投入された労働の量に比例していた。
  (b)企業利益の主要な源泉が,大量の消費者を獲得できるアイディアに変化し,労働力への依存度が減少,比較的単純な仕事の担い手は,交換可能な部品,消耗品とみなされ,仕事の意義を見失い,同僚との結びつきも希薄化する。(ジグムント・バウマン(1925-2017))
 (2.2)労働
  労働力は、必要な時に供給されるように、準備されている必要があった。
 (2.3)ローカルな国家
  (a)国家は、必要な施策を実施する責任を担っていた。
  (b)資本の移動性が高まったことによって,ローカルな政府は,資本を呼び込むために規制緩和し,資本の選好,慣例,期待に応える。低い税金,柔軟な労働市場,そして組織的抵抗を行わない従順な国民。(ジグムント・バウマン(1925-2017))

「もしカインの質問がヨーロッパ中で、種々の新たな形をとりながら尋ねられるとともに、福祉国家があらゆるところで攻撃にさらされているのだとすれば、すでに確立し、近代社会の自然な状態と見なされたり感じられたりしてきた複数の要素からなる独特の結びつきが、いまでは解体しはじめていることがその理由である。その期限において、福祉国家は「重層的に決定されていた」といえるかもしれない。しかしいまでは、福祉国家の制度に対する怒りとそうした制度が少しずつ解体しているということが、同じように「重層的に決定されている」。
 福祉国家の登場は倫理的意図の勝利であり、近代の文明社会を構成する諸原則のうちでそうした倫理的意図を改変した結果であるという人々がいる。また資本主義の発展がたどる不平等で不安定な過程によって脅かされる人々の暮らしに対して、国家に裏づけられた集団的な保障を要求した労働組合や労働者政党による長い闘争の結果として、そうした福祉国家の導入がなされたのだという人々もいる。さらにまた、資本と労働における意見の不一致を和らげ、その脅威に対して反抗する可能性を避けたいという既成の政治組織が抱いていた望みを強調する人たちもいる。こうした説明のすべては確かな響きが感じられるけれども、その一つひとつは真理の一面を把握しているだけにすぎない。いま述べた要因のどれをとってみても、そのどれか一つだけでは福祉国家を支えることができない可能性が高い。むしろそれらが同時に生じたということこそが、福祉国家の創造への道を開き、給付制度に対するほとんどすべての人々からの支持を取りつけ、同じようにすべての人々からその費用を負担してもいいという態度を引き出したのである。
 しかしこうした要因を組み合わせてみたとしても、それらを束ねる留め金がなかったとすれば、不十分であったということになる。その留め金とは、資本と労働の両者を「市場に対して準備が整った」状態に保つ必要性と、国家によって担われたこうした行為をおこなう責任のことである。資本主義経済が機能するためには、資本が労働を買い入れる必要があるばかりでなく、労働の側も自らを購買するかもしれない人々に対して、自分を必要な商品だと思わせるように十分に魅力的な状態を自ら保たなければならなかった。このような状況で国家に担う主要な任務となり、国家が果たすべき他の諸機能を適切に遂行するための鍵ともなっていたのは、「資本ー労働関係の商品化」すなわち労働を売買する取り引きが妨害されずに続けられるように責任をもつことだった。
 資本主義の発達でのこうした段階(いまでは一般的に言って過ぎ去ってしまった)では、成長率と利益率は生産過程の投入された労働の量に比例していた。そして資本主義市場の活動は、好況の後には長引く不況が到来するといった変動によって悪名が高かった。それゆえ、潜在的には使用可能なすべての労働資源が、あらゆる時期において雇用されるなどということはありえなかったのである。しかし現在仕事のない者も、将来には意欲的な労働力となった。つまりそのとき、一時的に彼らは失業していただけなのであり、通常とは異なってはいるが、過渡的であって矯正可能でもある状態にとどまっている人々として扱われたわけである。要するに彼らは「労働予備軍」だったのであり、その時点での彼らの状況ではなく、必要なときに彼らが対応できるかどうかということによって、その地位も定義されていたのである。」
(ジグムント・バウマン(1925-2017)『個人化社会』第5章 私は弟の世話役ですか?、pp.105-106、青弓社 (2008)、菅野博史(訳))
(索引:福祉国家)

個人化社会 (ソシオロジー選書)


(出典:wikipedia
ジグムント・バウマン(1925-2017)の命題集(Propositions of great philosophers) 「批判的思考の課題は「過去を保存することではなく、過去の希望を救済することである」というアドルノの教えは、その今日的な問題性をいささかなりとも失ってはいない。しかしまさしくその教えが今日的な問題性を持つのが急激に変化した状況においてであるがゆえに、批判的思考は、その課題を遂行するために、絶え間ない再考を必要とするものとなる。その再考の検討課題として、二つの主題が最高位に置かれなければならない。
 第一に、自由と安定性(セキュリティ)のあいだの許容しうるバランスをうまく作り出すことへの希望と可能性である。これら二つの、両立できるかどうか自明ではないとはいえ、等しくきわめて重要な人間社会の必須の(sine qua non)条件が、再考の努力の中心に置かれる必要がある。そして第二に、至急救い出される必要がある、過去に存在した数々の希望のなかでも、カント自身の「瓶に詰められたメッセージ」として保持されてきたもの、つまりカントの『世界市民的見地における一般史の構想』は、メタ希望としての地位を正当にも主張しうるものだということである。つまりそれは、希望するという果敢な振る舞いそのものを可能にすることができる――するであろう、すべきである――ような希望である。自由と安定性のあいだにいかなる新しいバランスを作ることが探究されるとしても、それは、地球規模のスケールで構想される必要がある。」
(ジグムント・バウマン(1925-2017)『液状不安』第6章 不安に抗する思考、pp.256-257、青弓社 (2012)、澤井敦(訳))

ジグムント・バウマン(1925-2017)
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