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2020年5月1日金曜日

資本の移動性が高まったことによって、ローカルな政府は、資本を呼び込むために規制緩和し、資本の選好、慣例、期待に応える。低い税金、柔軟な労働市場、そして組織的抵抗を行わない従順な国民。(ジグムント・バウマン(1925-2017))

政府対資本の構造

【資本の移動性が高まったことによって、ローカルな政府は、資本を呼び込むために規制緩和し、資本の選好、慣例、期待に応える。低い税金、柔軟な労働市場、そして組織的抵抗を行わない従順な国民。(ジグムント・バウマン(1925-2017))】

(1)資本
 (a)資本の空間的移動性
  資本は、過去に例がないほど、領土を超え、軽やかで、解放され、埋め込みから脱している。
 (b)ローカルな政府を服従させ得る水準
  ローカルな政府の「はた迷惑な権力」も、依然として資本が有する移動の自由に対する悩ましい拘束を行うことがある。しかし、空間的移動の水準は、領土に結びついた政治的機関を脅かして自らの要求に服従させるには十分なものとなった。
(2)ローカルな政府
 (a)資本を呼び込むため
  どこか別の場所へ移動するという脅しは、それに応えてきちんとした政府なら行動を起こさざるを得ないがゆえに、きわめて真剣な対応を要求することになる。そしてそのためには、「自由な企業のためによりよい環境を整備する」か、そう試みる可能性があることを伝えるしかない。
 (b)資本の自由を制限しない
  また政府が、行使できるすべての規制力を用いて、こうした規制力が資本の自由を制限するために使用されることがないことをはっきりとさせる必要もある。
 (c)資本の選好、慣例、期待に応える
  さらに政府が政治的に管理している領域が、グローバルに思考しグローバルに行動する資本がもつ、選好、慣例、期待に対して手厚くもてなすことができない、あるいはすぐ隣国で管理されている土地よりも手薄なもてなししかできないという印象を与えてはならない。
 (d)低い税金、規制緩和、柔軟な労働市場、組織的抵抗を行わない従順な国民
  現実において、それは低い税金、規制がほとんどないか全くない状態、そしてなかんずく「柔軟の労働市場」を意味している。もっと一般的にいえば、それは従順な国民、資本が下すいかなる決断に対しても組織的抵抗をおこなうことをせず、その意志もない人々のことである。

「もちろん、この独立は完全なものではないし、資本は自らが望み、努力の末に達成すべき高い可動性をまだ手に入れているわけではない。領土的――つまりローカルな要因は、たいていの予測においていまだに考慮されなければならないし、ローカルな政府の「はた迷惑な権力」も、依然として資本が有する移動の自由に対する悩ましい拘束をおこなうことがある。しかし資本は、過去に例がないほど、領土を超え、軽やかで、解放され、埋め込みから脱しているのであり、すでに成し遂げられた空間的移動の水準は、領土に結びついた政治的機関を脅かして自らの要求に服従させるには十分なものとなったのである。ローカルな絆を断ち切り、どこか別の場所へ移動するという(単なる思いつきによる、はっきりとは口に出されないものであっても)脅しは、それに応えてきちんとした政府なら行動を起こさざるをえないがゆえに、きわめて真剣な対応を要求することになる。今日の政治は、資本が移動可能な速度とローカルな権力がそれを「減速する」能力との間の綱引きになっているのだが、勝ち目のない戦いをしていると感じているのはローカルな諸機関の方なのである。地域住民の幸福のために奉仕する政府としては、資本に参入してもらい、それが実現したおりにはホテルの部屋を貸し出すだけではなく、高層ビルのオフィス群を建ててもらいたいと強要ではなく懇願して言いくるめることぐらいしかできない。そしてそのためには、「自由な企業のためによりよい環境を整備する」か、そう試みる可能性があることを伝えるしかない。すなわち、政治ゲームを「自由な企業の規則」に合わせる必要があるのだ。また政府が、行使できるすべての規制力を用いて、こうした規制力が資本の自由を制限するために使用されることがないことをはっきりとさせる必要もある。さらに政府が政治的に管理している領域が、グローバルに思考しグローバルに行動する資本がもつ、選好、慣例、期待に対して手厚くもてなすことができない、あるいはすぐ隣国で管理されている土地よりも手薄なもてなししかできないという印象を与えてはならない。現実において、それは低い税金、規制がほとんどないか全くない状態、そしてなかんずく「柔軟の労働市場」を意味している。もっと一般的にいえば、それは従順な国民、資本が下すいかなる決断に対しても組織的抵抗をおこなうことをせず、その意志もない人々のことである。逆説的ではあるが、政府は資本が自分たちの場所から、いつでも予告なしに移動し去る自由をはっきりと確約することによってだけ、自らの地域に資本を確保できると望めるのである。」
(ジグムント・バウマン(1925-2017)『個人化社会』第1章 労働の隆盛と衰退、pp.40-41、青弓社 (2008)、菅野博史(訳))
(索引:資本の移動性,規制緩和,柔軟な労働市場,従順な国民)

個人化社会 (ソシオロジー選書)


(出典:wikipedia
ジグムント・バウマン(1925-2017)の命題集(Propositions of great philosophers) 「批判的思考の課題は「過去を保存することではなく、過去の希望を救済することである」というアドルノの教えは、その今日的な問題性をいささかなりとも失ってはいない。しかしまさしくその教えが今日的な問題性を持つのが急激に変化した状況においてであるがゆえに、批判的思考は、その課題を遂行するために、絶え間ない再考を必要とするものとなる。その再考の検討課題として、二つの主題が最高位に置かれなければならない。
 第一に、自由と安定性(セキュリティ)のあいだの許容しうるバランスをうまく作り出すことへの希望と可能性である。これら二つの、両立できるかどうか自明ではないとはいえ、等しくきわめて重要な人間社会の必須の(sine qua non)条件が、再考の努力の中心に置かれる必要がある。そして第二に、至急救い出される必要がある、過去に存在した数々の希望のなかでも、カント自身の「瓶に詰められたメッセージ」として保持されてきたもの、つまりカントの『世界市民的見地における一般史の構想』は、メタ希望としての地位を正当にも主張しうるものだということである。つまりそれは、希望するという果敢な振る舞いそのものを可能にすることができる――するであろう、すべきである――ような希望である。自由と安定性のあいだにいかなる新しいバランスを作ることが探究されるとしても、それは、地球規模のスケールで構想される必要がある。」
(ジグムント・バウマン(1925-2017)『液状不安』第6章 不安に抗する思考、pp.256-257、青弓社 (2012)、澤井敦(訳))

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