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2020年6月18日木曜日

身体と身体状態の表象が,中核自己を生む.身体状態が記憶,想起され,自己の身体状態のシミュレーションが可能となる.やがて,他者の身体状態のシミュレーションによって,他者の意図や情動が理解可能となる.(アントニオ・ダマシオ(1944-))

身体状態のシミュレーション

【身体と身体状態の表象が,中核自己を生む.身体状態が記憶,想起され,自己の身体状態のシミュレーションが可能となる.やがて,他者の身体状態のシミュレーションによって,他者の意図や情動が理解可能となる.(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(1)中核自己の誕生
 (a)自分の身体と身体状態が、脳内に表象されるようになる。
 (b)中核自己の意識が生まれる。
 (c)自分の身体と身体状態が記憶され、想起できるようになることで、自分自身の身体状態シミュレーションへの準備が整ってゆく。
(2)あたかも身体ループシステムの獲得
 (a)過去の知識や認知によって、実際の状況に遭遇したときと同じ内部感覚の表象が出現する。
 (b)これは、自分自身の身体状態シミュレーションである。
(3)他人の身体状態のシミュレーション
 (3.1)他者の行動の意味の理解
  (a)他人の行動を目撃する。
  (b)同じ行動の体感的な表象が出現する。
  (c)このことで、他人の行動の意味が理解できる。
  (d)これは、他人の身体状態シミュレーションである。
  参考:対象物を見ると、それを操作する運動感覚の表象が伴う。これはカノニカルニューロンが実現している。また、他者の対象物への働きかけを見ると、その運動感覚の表象が伴う。これはミラーニューロンが実現している。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))
 (3.2)他者の情動の理解
  (a)他人の情動表出を目撃する。
  (b)同じ内部感覚の表象が出現する。
  (c)このことで、他人の情動が理解できる。
  (d)これは、他人の身体状態シミュレーションである。
  参考: 他者の情動の表出を見るとき、その情動の基盤となっている内臓運動の表象が現れ、他者の情動が直ちに感知される。これは潜在的な場合もあれば実行されることもあり、複雑な対人関係の基盤の必要条件となっている。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))

 「ミラーニューロンの存在理由についての説明は、そうしたニューロンがあると自分自身を相手と似た身体状態におけるので、相手の行動を理解しやすくなるのだという点を強調してきた。他人の行動を目撃すると、身体を感知する脳は、自分自身がその相手のように動いていた場合の身体状態を採用する。そしてそれをやるときには、ほぼまちがいなく、受動的な感覚パターンではなく、運動構造の事前起動を使う――行動の準備はできているがまだ行動しない――はずだし、ときには実際に運動を活性化させたりすることもあるだろう。
 こんな複雑な生理システムがどのように進化したのだろうか? おそらくは、このシステムはもっと初期の「あたかも身体ループシステム」から発達したものだと私はにらんでいる。その初期のシステムは、複雑な脳が昔から《自分自身の》身体状態シミュレーションのために使ってきたものだ。これは明らかに即座の利点を持っていただろう。関係した過去の知識や認知戦略と関連したある身体状態のマップを、すばやくエネルギーを使わずに起動できるのだから、やがて「あたかもシステム」は他のものにも適用されるようになり、他人の身体状態――これはその相手の心的状態の表現だ――を知ることで得られる明らかな社会的利点のおかげで広まった。要するに、それぞれの生命体における「あたかも身体ループ」というのは、ミラーニューロンの働きを先取りするものだと私は考えているのだ。
 第Ⅲ部で見るように、自己の創造には自分の身体が脳内で表象されることが不可欠だ。だが脳による身体の表象は、もう一つ大きな意味合いを持っている。自分の身体状態を描けるので、それに相当する他人の身体状態もシミュレーションしやすくなるということだ。結果として、自分自身の身体とそれが自分にとって獲得した重要性とのつながりは、他人の身体状態シミュレーションにも移転できる。そうなると、そのシミュレーションにも同じくらいの重要性を付与できるようになる。「共感」という言葉であらわされる幅広い現象が、この仕組みに多くを負っている。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『自己が心にやってくる』第2部 脳の中にあって心になれるのはどんなもの?、第4章 心の中の身体、pp.128-129、早川書房 (2013)、山形浩生(訳))
(索引:)

自己が心にやってくる


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
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