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2018年8月8日水曜日

サルとヒトのミラーニューロンの違い:広範囲の皮質を含む、自動詞的な運動行為にも反応する、個々の動きと行為の目的の両方を捉える、行為の真似に対しても反応する。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))

サルとヒトのミラーニューロンの違い

【サルとヒトのミラーニューロンの違い:広範囲の皮質を含む、自動詞的な運動行為にも反応する、個々の動きと行為の目的の両方を捉える、行為の真似に対しても反応する。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))】
サルとヒトのミラーニューロンの違い。
 ・ヒトでは、サルの場合よりも広範囲の皮質を含むように見える。
 ・ヒトのミラーニューロン系は「他動詞的」な運動行為と「自動詞的」な運動行為の両方をコードする。
 ・運動行為の目的と、行為を構成する個々の動きの両方をコードすることができる。
 ・「他動詞的」な運動行為の場合、対象物への実際の働きかけは絶対条件ではない。行為を真似ただけのときも、活性化できる。

(再掲)
(b)ミラーニューロン
 (b1)特定の運動行為に対応したニューロンが発火するのは、カノニカルニューロンと同じである。
 (b2)他者が、対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その特定のタイプの行為に呼応したニューロンの一部が発火する。例えば、つかむミラーニューロン、持つミラーニューロン、いじるミラーニューロン、置くミラーニューロン、両手で扱うミラーニューロン。運動行為の視覚情報には、次のような特徴がある。
 ・カノニカルニューロンとは違い、食べ物や立体的な対象物を見たときには発火しない。
 ・手や口や体の一部を使って、対象物へ働きかける行動を見たときに限られ、腕を上げるとか手を振るといったパントマイムのような行為、対象物のない自動詞的行為には反応しない。
 ・見えた行為の方向や、実験者の手(右か左か)に影響されるように思える場合もある。
 ・観察者と観察される行為との距離や相対的位置関係にはほとんど影響されずに発火する。
 ・視覚刺激の大きさに影響されることもない。
 ・2つ、あるいはめったにないが3つの運動行為のいずれかを観察すると発火するニューロンもあるようだ。  (b3)その結果、他者が対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その対象物をつかむ、持つ、いじるといった運動特性に呼応した、運動感覚の表象が現れ、他者の行為の意味が感知できる。

 「これまで見てきたように、電気生理学と脳画像研究はともに、サルで発見されたものとよく似たミラーニューロンがヒトにも存在していることを示している。しかし、両者には重要な違いがいくつかある。一つには、ミラーニューロン系はヒトでは、サルの場合よりも広範囲の皮質を含むように見える。もっともこの結論は、種によって使われる実験技術が違う点を考えると、ある程度用心して扱わねばならない。個々のニューロンの活動を記録するのと、血流の変化に基づいてさまざまな皮質野の活動を分析するのとは、まったく別物だからだ。しかし、なんと言っても最も重要な違いは、ヒトのミラーニューロン系には、サルで発見されていない特性があることだ。たとえば、ヒトのミラーニューロン系は「他動詞的」な運動行為と「自動詞的」な運動行為の両方をコードするし、運動行為の目的と、行為を構成する個々の動きの両方をコードすることもできる。最後に、「他動詞的」な運動行為の場合、対象物への実際の働きかけは絶対条件ではない。行為を真似ただけのときも、活性化できるからだ。
 すでに述べたように、こうした特性には重要な機能的意味合いがあるのかもしれない。しかし、ヒトのミラーニューロン系がサルで観察されたものよりも幅広いタスクを遂行できるからといって、ミラーニューロン系の《第一》の役割、すなわち「他者の行為の意味の理解」に関連した役割をうやむやにしてはならない。現に、他者の手による行為の観察によって、同じ行為をするために観察者が使う手の筋肉の運動誘発電位(MEP)が増加するという結果が、経頭蓋磁気刺激法(TMS)を使った実験から得られている。また脳画像研究からは、手や口や足を使った行為の観察から生じる前頭葉の活性化が、こうした体の部位の体性感覚局在的な運動表象に基本的に一致することが明らかになっている。
 サルと同じでヒトの場合も、他者の行為を目にすると、その行為の構成と実行を担う運動野がただちに活性化し、この活性化を通して、観察された「運動事象」の意味が解読できる。すなわち、《目的志向動作の観点》から《理解》できるのだ。この理解は、私たちが行為をするための能力が依存している「行為の語彙」と「運動知識」にもっぱら基づいているため、内省、概念、言語のいずれか、あるいはそのすべてが介在することはまったくない。最後に、やはりサルの場合と同じように、この理解は個々の運動行為に限定されずに、行為の連鎖全体に及んでいる。」
(ジャコモ・リゾラッティ(1938-),コラド・シニガリア(1966-),『ミラーニューロン』,第5章 ヒトのミラーニューロン,紀伊國屋書店(2009),pp.142-143,柴田裕之(訳),茂木健一郎(監修))
(索引:)

ミラーニューロン


(出典:wikipedia
ジャコモ・リゾラッティ(1938-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「みなさんは、行為の理解はまさにその性質のゆえに、潜在的に共有される行為空間を生み出すことを覚えているだろう。それは、模倣や意図的なコミュニケーションといった、しだいに複雑化していく相互作用のかたちの基礎となり、その相互作用はますます統合が進んで複雑化するミラーニューロン系を拠り所としている。これと同様に、他者の表情や動作を知覚したものをそっくり真似て、ただちにそれを内臓運動の言語でコードする脳の力は、方法やレベルは異なっていても、私たちの行為や対人関係を具体化し方向づける、情動共有のための神経基盤を提供してくれる。ここでも、ミラーニューロン系が、関係する情動行動の複雑さと洗練の度合いに応じて、より複雑な構成と構造を獲得すると考えてよさそうだ。
 いずれにしても、こうしたメカニズムには、行為の理解に介在するものに似た、共通の機能的基盤がある。どの皮質野が関与するのであれ、運動中枢と内臓運動中枢のどちらがかかわるのであれ、どのようなタイプの「ミラーリング」が誘発されるのであれ、ミラーニューロンのメカニズムは神経レベルで理解の様相を具現化しており、概念と言語のどんなかたちによる介在にも先んじて、私たちの他者経験に実体を与えてくれる。」
(ジャコモ・リゾラッティ(1938-),コラド・シニガリア(1966-),『ミラーニューロン』,第8章 情動の共有,紀伊國屋書店(2009),pp.208-209,柴田裕之(訳),茂木健一郎(監修))
(索引:)

ジャコモ・リゾラッティ(1938-)
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3.感覚皮質への刺激が意識経験を生じさせるのに、約0.5sの持続時間が必要だとすれば、通常の皮膚への刺激などによって意識感覚が生じるためには、刺激から約0.5sの遅れがあるはずである。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

意識感覚の遅れ

【感覚皮質への刺激が意識経験を生じさせるのに、約0.5sの持続時間が必要だとすれば、通常の皮膚への刺激などによって意識感覚が生じるためには、刺激から約0.5sの遅れがあるはずである。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】
(再掲)
(a)感覚皮質への刺激
 感覚皮質に、約0.1~0.5msのパルス電流を20~60p/sの周波数で与え、閾値レベルの微弱な意識感覚を生じさせるには、約0.5sの持続時間が必要である。高周波数では閾値の強度は低くなるが、約0.5sの持続時間は不変である。
(b)皮膚への刺激
 皮膚への刺激は、単発で微弱な電気パルスからでさえ、意識感覚が生じる。
 すると(a)から、皮膚感覚を意識するためには、0.5秒間の遅れがあるはずである。

意識的な皮膚感覚 0.5秒間の遅れがあるはず。
 ↑
十分な長さ(0.5秒間)の脳の活性化
 ↑
単発の有効な皮膚への刺激パルス

 「感覚経路の脳レベルでの直接的な活性化のためには時間的な必要条件がある、というこの新しい発見は、しかし、皮膚への刺激や、皮膚から脊髄への神経線維の刺激の必要条件とは合致しないようです。

皮膚へ(または、皮膚から神経線維へ)の単発で微弱な電気パルスからでさえ、意識感覚が生じることは長い間知られていました。

では、いったい何が起こっているのでしょうか? アウェアネスが生じるまでの相当の遅延に対する私たちの提案は、皮膚からの通常の場合には通用しないのでしょうか?

 この疑問を検討するには、末梢的な(皮膚)入力での必要条件と、皮膚からの入力によって生じる脳プロセスでの必要条件の違いを区別する必要があります。すなわち、意識的な皮膚感覚が現れるには、単発の有効な皮膚への刺激パルスによって十分な長さ(0.5秒間)の脳の活性化が生じていなければならないでしょう。

そのため、以下の記述内容が真実であるかを検証する方法を私たちは検討しました。「皮膚への単発パルス入力によって生じた、意識を伴う感覚的なアウェアネスにおいても、0.5秒間の遅れがあるか?
  ――正常な感覚入力に伴う、アウェアネスの実際の遅延――
 皮膚、または感覚神経への単発で微弱なパルスでも、意識感覚を十分に引き出すことができます。

このことは、前節で述べた証拠に一見反論しているように見えます。その研究では、意識感覚が生じるには最大約0.5秒間の脳の活性化が必要であることがわかりました。これが皮膚への刺激にも当てはまるのならば、意識を伴った皮膚感覚が現れるには、単発な刺激パルスによって十分な長さ(0.5秒間)の脳の活性化が生じていなければならないことになります。

 すると、質問は以下のようなものになります。「そのパルスが意識感覚を引き出した場合、皮膚への単発パルスは、約0.5秒間は続かなければならない脳の活性化を生みだしていただろうか?」これはすなわち、神経メッセージが皮膚の正常なソースへの単発で微弱なパルスによって始まった場合、やはり感覚的なアウェアネスに実際の遅延があるだろうか、ということです。」

(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.52-54,下條信輔(訳))
(索引:意識感覚の遅れ)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

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