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2021年12月18日土曜日

生物の好みまたは目的構造、技能構造、解剖学的構造の相互的強化の階層的システムは、ほとんどの場合、好みまたは目的構造における制御がより低次の諸制御をば全階層をつうじて大幅に左右するように働くのではないか。(カール・ポパー(1902-1994))

好みまたは目的構造

生物の好みまたは目的構造、技能構造、解剖学的構造の相互的強化の階層的システムは、ほとんどの場合、好みまたは目的構造における制御がより低次の諸制御をば全階層をつうじて大幅に左右するように働くのではないか。(カール・ポパー(1902-1994))



「これらのことは相互的強化の一般的原理に導いていく。一方には、好みまたは目的構造の 技能構造に及ぼす、さらには解剖学的構造に及ぼす、第一次的な階層的制御がある。しかし他 方ではまた、これら諸構造のあいだに第二次的な相互作用またはフィードバックがある。この 相互強化の階層的システムは、ほとんどの場合、好みまたは目的構造における制御がより低次 の諸制御をば全階層をつうじて大幅に左右するように働く、と私はいいたい。  諸実例はこれらの考えのいずれをも例証するである。「好み構造」または「目的構造」と私 が呼ぶものに生じる遺伝的諸変化(突然変異)を、「技能構造」における諸変化および「解剖 学的構造」における諸変化と区別するならば、目的構造と解剖学的構造とのあいだの相互作用 に関しては次のような可能性があるであろう。  (a)目的構造の突然変異が解剖学的構造に及ぼす作用。キツツキの場合のように、好みに変 化が生じても、食物獲得に関連した解剖学的構造は変化しないままのことがありうる。このよ うな場合には、種は(変則的な特別の技能を用いないかぎり)自然淘汰によって排除される公 算が大きい。さもなければ、種は眼のような器官に類似した新しい解剖学的特殊化を発展させて適応するかもしれない。つまり、種における見ることへの強い関心(目的構造)が、眼の解 剖学的構造の改善に好都合な突然変異の選択に導きうるであろう。  (b)解剖学的構造の突然変異が目的構造に及ぼす作用。食物獲得に重要な関連のある身体組 織が変化するとき、食物に関する目的構造は自然淘汰によって固定化または硬化されていくお それがあり、これが立ち代わりさらなる解剖学的特殊化に導きうる。それは眼の場合に似てお り、身体組織の改善に好都合な突然変異は見ることへの関心の鋭敏さを増大させるであろう (これは逆効果に似ている)。」
(カール・ポパー(1902-1994),『果てしなき探求』,37 形而上学としてのダーウィン主義, (下),pp.143-144,岩波書店(1995),森博(訳))

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カール・ポパー(1902-1994)





生体構造だけでなく、好みや技能などの行動も、何らかの遺伝子によって制御されていると仮定すると、外的環境の変化に応じて、まず非遺伝的に新しい行動が獲得され、好みや技能を通じて特定の遺伝子を助長するという仕組みで、進化の一定の傾向が説明できるかもしれない。(カール・ポパー(1902-1994))

進化に傾向はあるのか

生体構造だけでなく、好みや技能などの行動も、何らかの遺伝子によって制御されていると仮定すると、外的環境の変化に応じて、まず非遺伝的に新しい行動が獲得され、好みや技能を通じて特定の遺伝子を助長するという仕組みで、進化の一定の傾向が説明できるかもしれない。(カール・ポパー(1902-1994))


「ここに重要な問いが生じる。ランダム歩行が進化の系譜において際立っているようにはみ えないのはどうしてなのか。この問いは、もしダーウィン主義が「定向進化的趨勢」(としば しば呼ばれるもの)、つまり同じ「方向」への進化的諸変化が相継いで生じること(非ランダ ム的歩行)を説明できれば、答えられるであろう。シュレーディンガーやウォディントン、特 にアリスター・ハーディ卿などのさまざまな思想家が定向進化的趨勢のダーウィン主義的説明 をしようと試みた。私もスペンサー公演でそのような試みをした。  定向進化を説明するかもしれぬダーウィン主義豊富化のための私の提言は、簡単にいうと次 のようなものである。  (A)私は外的または環境的淘汰圧を内的淘汰圧から区別する。内的淘汰圧は生物体そのもの からくるものであり、また――私の推測によれば――究極的には生物体の《好み》(または「目 的」)から生じる。もちろん、これらの好みや目的は外的諸変化に応じて変化しうるものであ るけれども。  (B)さまざまな部類の遺伝子があると私は想定する。主として《生体構造》制御するもの、 これを私はa遺伝子と呼ぶ。主として《行動》を制御するもの、これを私はb遺伝子と呼ぶ。 (混合的機能をもったものをも含めて)中間的な諸遺伝子は(存在すると思われるけれど も)、ここでは考慮外におく。b遺伝子は同様に(好みまたは「目的」を制御する)p遺伝子と (技能を制御する)s遺伝子とに細分できよう。  さらに、ある生物体は、外的淘汰圧を受けて、当の生物体にある程度の変異性を許す諸遺伝 子、特にb遺伝子を発達させた、と私は想定する。行動面での変異の《範囲》は、遺伝子bの構 造によってある程度まで制御されるであろう。しかし、外的事態はさまざまに変わるので、b 構造による行動の決定づけがあまり厳格でない方が、遺伝(つまり遺伝子変異性の範囲)の遺 伝子的決定づけがあまりにも厳格でない場合と同じように、うまくいくことがある。(先の (2)(d)を参照。)こうしてわれわれは、遺伝的に決定づけられた範囲またはレパートリー内 での非遺伝的な変化を意味する、行動の「純粋に行動的な」変化、または行動の変異について 語ることができ、これらのものを遺伝的に固定もしくは決定された行動的変化と対置できよ う。  こうして今やわれわれは、ある環境的な変化はさまざまな新しい問題とそれに続く(たとえ ばある種類の食物がなくなってしまったので)新しい好みまたは目的の採用とに導きうる、と いえる。新しい好みまたは目的は、最初は(b遺伝子によって可能にされた、しかし固定され ていない)新しい暫定的な行動というかたちをとってあらわれるかもしれない。このようにし て動物は遺伝的変化がなくても新しい状況に暫定的に適応しうる。しかし、この《純粋に行動 的》で暫定的な変化は、うまくいった場合には、新しい生態的地位の採用または発見に等しい であろう。したがってその変化は、好みの新しい行動パターンを多かれ少なかれ予知したり定 着させる《遺伝的》p構造(つまり本能的な好みまたは「目的」)をもった個体を助長するであろう。この前進は決定的であることがわかろう。それというのも、今では新しい好みに合致す るような技能構造(s構造)の変化――たとえば、好まれるようになった食物を獲得する技能―― が助長されるだろうからである。  こうして、《s構造が変化したあとではじめて構造におけるある種の変化――つまり新しい技 能に好都合な解剖学的構造における変化――が助長されるようになる》、と私は提言する。これ らの場合における内的淘汰圧は「方向づけ」られており、それゆえ一種の定向進化に導くであ ろう。  この内的淘汰機構についての私の提言は、次のように図式的に書きあらわすことができる。  p─→s─→a つまり、好みの構造とその変異が技能構造とその変異の選択を制御する。そして後者が立ち代 わり純粋に解剖学的な構造とその変異の選択を制御する。  しかしながら、この連続的系列は循環的でありうる。新しい身体構造が立ち代わり好みの変 化を促進させる、といったぐあいに進むことがありうる。」
(カール・ポパー(1902-1994),『果てしなき探求』,37 形而上学としてのダーウィン主義, (下),pp.138-141,岩波書店(1995),森博(訳))

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カール・ポパー(1902-1994)