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2018年7月29日日曜日

21.情動の内観的特徴、物質的、身体的、生物学的特徴のまとめ(アントニオ・ダマシオ(1944-))

情動

【情動の内観的特徴、物質的、身体的、生物学的特徴のまとめ(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
(1)情動の内観的特徴
 (1.1)意識的熟考なしに自動的に作動する。
 (1.2)情動は有機体の身体(内部環境、内臓システム、前庭システム、筋骨格システム)に起因する。
 (1.3)情動反応は、多数の脳回路の作動様式にも影響を与え、身体風景と脳の風景の双方に変化をもたらす。
 (1.4)これら一連の変化が、感情と思考の基層を構成することになる。
 (1.5)情動誘発因の形成においては、文化や学習の役割が大きく、これにより情動の表出が変わり、情動に新しい意味が付与される。
 (1.6)その結果、個的な差もかなりある。
(2)情動の物質的、身体的、生物学的特徴
 (2.1)情動は、一つのパターンを形成する一連の複雑な化学的、神経的反応である。
 (2.2)情動は生物学的に決定されるプロセスであり、生得的に設定された脳の諸装置に依存している。
 (2.3)情動を生み出すこれらの装置は、脳幹のレベルからはじまって上位の脳へと昇っていく、かなり範囲の限定されたさまざまな皮質下部位にある。これらの装置は、身体状態の調節と表象を担う一連の構造の一部でもある。
 (2.4)すべての情動はなにがしか果たすべき調節的役割を有し、有機体の命の維持を助けている。
 (2.5)長い進化によって定着したものであり、有機体に有利な状況をもたらしている。

「こういったすべての現象の根底には生物学的に共通する中核があり、それはおよそつぎのようなものである。

(1) 情動は、一つのパターンを形成する一連の複雑な化学的、神経的反応である。すべての情動はなにがしかはたすべき調節的役割を有し、なにがしかの形で、情動現象を示す有機体に有利な状況をもたらしている。情動は有機体の命――正確に言えばその身体――に「関する」ものであり、その役割は有機体の命の維持を手助けすることである。

(2) 学習や文化により情動の表出が変わり、その結果、情動に新しい意味が付与されるのは事実だが、情動は生物学的に決定されるプロセスであり、長い進化によって定着した、生得的にセットされた脳の諸装置に依存している。

(3) 情動を生み出すこれらの装置は、脳幹のレベルからはじまって上位の脳へと昇っていく、かなり範囲の限定されたさまざまな皮質下部位にある。これらの装置は、身体状態の調節と表象を担う一連の構造の一部でもある。これについては第5章で議論する。

(4) そのすべての装置が、意識的熟考なしに自動的に作動する。個的な差もかなりあるし、誘発因の形成において文化が一役はたすという事実もあるが、それによって情動の基本的な定型性、自動性、調節的目的が変わることはない。

(5) すべての情動は身体(内部環境、内臓システム、前庭システム、筋骨格システム)を劇場として使っているが、情動はまた多数の脳回路の作動様式にも影響を与える。すなわち、さまざまな情動反応が身体風景と脳の風景の双方に変化をもたらす。これら一連の変化が、最終的に感情になるニューラル・パターンの基層を構成している。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『起こっていることの感覚』(日本語名『無意識の脳 自己意識の脳』)第2部 すべては情動と感情から、第2章 外向きの情動と内向きの感情、pp.76-77、講談社(2003)、田中三彦(訳))
(索引:情動)

無意識の脳 自己意識の脳


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
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2018年7月28日土曜日

20.意志決定の過程:(a)状況に関する事実(b)選択肢(c)予想される結果(d)推論戦略により(e)意志決定されるが、状況が自動的に誘発する情動および関連して想起される諸素材が(c)に影響し(d)に干渉する。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

意志決定

【意志決定の過程:(a)状況に関する事実(b)選択肢(c)予想される結果(d)推論戦略により(e)意志決定されるが、状況が自動的に誘発する情動および関連して想起される諸素材が(c)に影響し(d)に干渉する。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
(1) 反応が求められる状況が発生する。
(2) (3)と(4)の経路は並行する。しかし、(3)を経由しないで、(4)が直に決定をもたらすこともある。各経路が単独に、あるいは組になって使われる程度は、個人の成長の程度、状況の性質、環境などに依存する。
(3) 意志決定の経路A
 (3.1) 状況に関する事実、表象が誘発される。
 (3.2) 決定のための選択肢が誘発される。
 (3.3) 予想される将来の結果の表象が誘発される。
(4) 意志決定の経路Bは、経路Aと並行する。
 (4.1) 類似状況における以前の情動経験が活性化する。
 (4.2) 情動と関係する素材が想起され、(3.3)「将来の結果の表象」への影響する。
 (4.3) 同様に、想起された素材は、(5)「推論戦略」へ干渉する。
(5) (3)の認識に基づき、推論戦略が展開される。
(6) (3)と(5)から、意志決定する。

情動誘発刺激の学習 (再掲)
 社会的状況と、それに対する個人的経験に関する、以下のような知識が蓄積されていくことで、特定の情動誘発刺激が学習されていく。
(a)ある問題が提示されたという事実
(b)その問題を解決するために、特定の選択肢を選んだということ
(c)その解決策に対する実際の結果
(d)その解決策の結果もたらされた情動と感情
 (d.1)行動の直接的結果は、何をもたらしたか。罰がもたらされたか、報酬がもたらされたか。利益か、災いか。苦か快か、悲しみか喜びか、羞恥かプライドか。
 (d.2)直接的行動がどれほどポジティブであれ、あるいはどれほどネガティブであれ、行動の将来的帰結は、何をもたらしたのか。結局事態はどうなったのか。罰がもたらされたか、報酬がもたらされたか。利益か、災いか。苦か快か、悲しみか喜びか、羞恥かプライドか。


 「正常な意志決定には、相補的な二つの経路が使われる。

なんらかの反応が求められる状況と相対すると、経路Aが、その状況、行動の選択肢、予想される将来の結末と関係するイメージを誘発する。

その認識の上で、推論戦略が展開され、決定が生み出される。

経路Bは並行的に作用し、類似の状況における以前の情動経験の活性化を誘発する。

ついで、その情動と関係する素材の想起が(明白な想起であれ、ひそかな想起であれ)、注意を「将来の結果の表象」に仕向けることで、あるいは「推論戦略」に干渉することで、「決定」に影響を及ぼす。

ときおり、経路Bがじかに決定をもたらすことがある。本能的感情が即刻の反応を駆り立てるときがそうだ。

各経路が単独に、あるいは組になって使われる程度は、個人の成長の程度、状況の性質、環境などに依存する。1970年代にダニエル・カーネマンとエイモス・トヴァースキーが説明した興味深い意志決定パターンは、たぶん経路Bによる。」

(1) 状況
(2) 意志決定の経路A
 (2.1) 事実
 (2.2) 決定のための選択肢
 (2.3) 予想される将来の結果の表象
(3) 意志決定の経路B
 (3.1) 類似状況における以前の情動経験と関係する心的傾向のひそかな活性化
 (3.2) 想起された素材の「将来の結果の表象」への影響
 (3.3) 「推論戦略」への干渉
(4) 推論戦略
(5) 決定


(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、p.196、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:意志決定)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年7月27日金曜日

19.特定の社会的状況と個人的経験が、情動誘発刺激となるために蓄積される知識:(a)特定の問題、(b)問題解決のための選択肢、(c)選択した結果、(d)結果に伴う情動と感情(直接的結果、および将来的帰結)(アントニオ・ダマシオ(1944-))

情動誘発刺激の学習

【特定の社会的状況と個人的経験が、情動誘発刺激となるために蓄積される知識:(a)特定の問題、(b)問題解決のための選択肢、(c)選択した結果、(d)結果に伴う情動と感情(直接的結果、および将来的帰結)(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

 社会的状況と、それに対する個人的経験に関する、以下のような知識が蓄積されていくことで、特定の情動誘発刺激が学習されていく。
(a)ある問題が提示されたという事実
(b)その問題を解決するために、特定の選択肢を選んだということ
(c)その解決策に対する実際の結果
(d)その解決策の結果もたらされた情動と感情
 (d.1)行動の直接的結果は、何をもたらしたか。罰がもたらされたか、報酬がもたらされたか。利益か、災いか。苦か快か、悲しみか喜びか、羞恥かプライドか。
 (d.2)直接的行動がどれほどポジティブであれ、あるいはどれほどネガティブであれ、行動の将来的帰結は、何をもたらしたのか。結局事態はどうなったのか。罰がもたらされたか、報酬がもたらされたか。利益か、災いか。苦か快か、悲しみか喜びか、羞恥かプライドか。

(再掲)
《情動の誘発原因》
 狭義の情動が引き起こされるとき、その情動の原因となった対象や事象を、〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)という。進化の過程で獲得したものも、個人の生活の中で学習したものも存在する。
情動の根拠には(a)生得的なもの、(b)学習されたものがある。また、情動の誘発は、(a)無意識的なもの、(b)意識的評価を経由するものがあるが、いずれも反応は自動的なものであり、誘発対象の評価が織り込まれている。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

 「では、情動と感情は意志決定においてどのような役割を演じているのか。

わかりにくかったりそれほどではなかったり、効果的だったりそれほどではなかったり、といろいろな場合があるというのがその答えだが、いずれの場合も情動と感情は推論のプロセスにおける役者であるだけでなく、不可欠な役者でもある。

たとえば個人的経験が蓄積されていくと、社会的状況についてのさまざまな分類が形成される。そのような生活経験に関してわれわれが蓄える知識には以下のようなものがある。
1 その問題が提示されたという事実
2 その問題を解決するために特定の選択肢を選んだということ
3 その解決策に対する実際の結果
そして重要なのは、
4 情動と感情に関するその解決策の結果

 たとえば、選択した行動の直接的結果は罰をもたらしたのか、それとも報酬をもたらしたのか。言い換えると、その行動は、苦の、あるいは快の、悲しみの、あるいは喜びの、羞恥心の、あるいはプライドの情動と感情を伴ったのか。

同じように重要なのは、直接的行動がどれほどポジティブであれ、あるいはどれほどネガティブであれ、行動の〈将来的帰結〉は報酬をもたらすものだったのか、それとも罰をもたらすものだったのか。

結局事態はどうなったのか。特定の行動に由来するネガティブな、あるいはポジティブな将来的帰結があったのか。典型的な例は、特定の関係を壊したことで、あるいは開始したことで、利益が、それとも災いがもたらされたのか。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.192-193、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:情動誘発刺激の学習)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年7月26日木曜日

18.感情の特徴:(a)情動が、感情と思考を誘発する。(b)誘発される感情と思考は、学習される。(c)特定の脳部位への電気刺激も、情動、感情、思考を誘発する。(d)感情、思考は、新たな情動誘発刺激となる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

感情

【感情の特徴:(a)情動が、感情と思考を誘発する。(b)誘発される感情と思考は、学習される。(c)特定の脳部位への電気刺激も、情動、感情、思考を誘発する。(d)感情、思考は、新たな情動誘発刺激となる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(a) 情動が、感情と思考を誘発する(感情の情動依存性)。
 感覚/想起された ⇒ 情動 ⇒ 感情 ⇒ 思考
 対象/事象
(情動を誘発する
 対象/事象)
(b)情動によって誘発される感情と思考は、学習されたものである。

(c) 特定の脳部位への電気刺激により誘発された情動でも、学習された感情と思考を誘発する(情動誘発の神経機構の相対的自律性)
 (特定の脳部位  ⇒ 情動 ⇒ 感情 ⇒ 思考
  への電気刺激)
 ※ 学習によって情動と結びつけられた思考が、呼び起こされる。

(d) 呼び起こされた思考が、さらに情動の誘発因となる
  呼び起こされた ⇒ 情動 ⇒ 感情 ⇒ 思考
  思考
 ※ 呼び起こされた思考は、現在進行中の感情状態を高めるか、静めるかする。思考の連鎖は、気が散るか、理性によって終止符が打たれるまで継続する。

 「この患者における事象の順序は、「まず悲しみの情動があった」ことを暴いている。そしてそのあとに、普通悲しみの情動を誘発するような種類の思考が、つまり、われわれが日常的に「悲しく感じる」と表現している心の状態に特徴的な思考が生じたのだ。

ひとたび電気刺激が止むと、こうした現象は徐々に弱まり、やがて消えた。情動は失せ、感情も消えた。また不安な思考も消えた。

 この神経学的にまれな出来事の重要性は明白だ。情動が生じたあと感情ならびにその感情と関係する思考が生じるのだが、普通は、その速さゆえ、現象に固有の順序を正しく分析することが難しくなっている。

まず、情動の原因となるような思考が心に生じると、それが情動を引き起こす。ついでその情動が感情を生み、今度はその感情が、主題的に関係しているその情動状態を増幅しそうな別の思考を呼び起こす。

呼び起こされた思考は、新しい付加的な情動に対する独立した誘発因として機能し、それにより現在進行中の感情状態を高めるかもしれない。かくして、さらなる情動がさらなる感情を生む。

気が散って、あるいは理性によってそれに終止符が打たれるまで、そのサイクルはつづく。

そして、こうした一連の現象が全面展開されるころには――情動を引き起こした思考、情動の諸行動、われわれが感情と呼ぶ心的現象、そしてその感情に起因する思考――いったい何が最初だったかを自己観察により判断するのは難しくなっている。

この女性の事例は、われわれがそのごたごたを見分ける一助になる。彼女は、悲しみと呼ばれる情動が生じる前、悲しみの原因となるような思考も、悲しみの感情も、もってはいなかった。

この事実は、情動誘発の神経機構の相対的自律性、そして感情の情動依存性、その双方に対する証拠である。

 ここで当然、こう問う人がいるだろう。その情動と感情が適切な刺激によって動機づけられていなかったことを考えると、なぜこの患者の脳は通常悲しみを引き起こすような思考を呼び起こしたのか、と。

 その答えは感情の情動依存性、ならびに、人の興味深い記憶方法と関係がある。悲しみの情動が展開されると、そのあとただちに悲しみの感情がつづく。そしてすぐに脳はまた、悲しみの情動〈と〉悲しみの感情を引き起こすような種類の思考を提示する。

なぜなら、連合学習が、濃密な二方向ネットワークの中で、情動と思考を結びつけているからだ。かくして、特定の思考は特定の情動を、逆に、特定の情動は特定の思考を呼び起こす。認知レベルのプロセスと情動レベルのプロセスは、このような形で連続的に結ばれている。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.102-104、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:感情,情動,思考,感情の情動依存性)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
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2018年7月11日水曜日

17.最初の「情動を誘発しうる刺激」の存在が、しばしば、その刺激と関連する別の「情動を誘発しうる刺激」をいくつか想起させ、当初の情動を拡大、変化、減少させ、複雑な感情の土台を作る。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

狭義の情動、感情

【最初の「情動を誘発しうる刺激」の存在が、しばしば、その刺激と関連する別の「情動を誘発しうる刺激」をいくつか想起させ、当初の情動を拡大、変化、減少させ、複雑な感情の土台を作る。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
狭義の情動の身体過程 (再掲)
《身体過程》
 (a)感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知し、評価する。
  (場所:感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
 (b)(a)によって、自動的に、神経的/化学的な反応の複雑な集まりが、引き起こされる。
  (場所:例えば、「恐れ」であれば、扁桃体が誘発し、前脳基底、視床下部、脳幹が実行する。)
 (c)(b)によって、身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。
 (d)脳構造の状態も一時的に変化し、身体のマップ化や思考へも影響を与える。
 (e)特定の行動が引き起こされる。
 (f)引き起こされた(c)~(e)は、特有の身体的パターンであり、互いに区別できるこのような身体的パターンの種類がいくつか存在し、これが情動である。

「情動を誘発しうる刺激」A
   │
   ├─→Aと関連して想起された対象や事象B
   ↓  (新たな情動誘発刺激となる)
  情動a    │
         ├─→想起された対象や事象C
         ↓    ↓
        情動b  情動c
 情動aは持続、拡大したり、変化したり、減少したりする。
 これら、身体的状態のパターンである情動a、b、cと、心の内容である対象や事象の全体が、特定の「感情」の土台を構成する。

 「情動と感情のプロセスについてほどほどの説明をするというのが目的なので、これまで私はプロセスを単純化し、一つの刺激からはじまりその刺激と関係する感情の土台を確立して終わるような一本の事象の連鎖にそれをはめ込んできた。

しかし予想されるように、実際にはそのプロセスは側性的に広がって並行的な事象の連鎖となり、プロセスそのものが拡大する。

理由は、最初の「情動を誘発しうる刺激」の存在が、しばしば、その刺激と関連する別の「情動を誘発しうる刺激」をいくつか想起させるからだ。

時間が進むにつれて、そうした付加的な刺激が、同じ情動の誘発を持続させたり、その情動の変化を誘発したり、相容れない情動を引き起こしたりする

最初の刺激に関して言えば、情動状態の継続性と強さは、ひとえに、現在進行している認知的プロセスにかかっている。つまり、心の内容は情動反応に対するさらなる誘発因を授けるか、それともそういった誘発因を除去するかのいずれかであり、帰結は、情動の維持ないしはさらなる拡大、でなければその減少である。

 情動のプロセスにはつぎの二つの道筋が関係している。

一つは、情動反応に対する誘発因をもたらす心の内容の流れ。

もう一つは、実行された反応そのもの、すなわち、情動を構成し最終的には感情を生み出すもの。

情動の誘発からはじまり情動の実行を継続する連鎖は、適切な身体感知脳領域に感情のための土台をつくっていく。

 興味深いことに、プロセスが感情を組み立てる段階に達するころまでには、われわれは心の領域に――つまり、思考の流れに――戻っている。

通常そこは情動の全面的な迂回がはじまったところだ。

感情は、情動を誘発する対象や事象と同じぐらい心的である。感情を心的現象として際立たせているものは、その特別な起源と内容――本物の、あるいは身体感知脳領域にマップ化されている、有機体の身体状態――である。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.95-96、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:狭義の情動)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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16.情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在に、われわれが気づいていようといなかろうと、情動は自動的に引き起こされる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

意識されない情動誘発刺激の効果

【情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在に、われわれが気づいていようといなかろうと、情動は自動的に引き起こされる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
狭義の情動  (再掲)
《定義》感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に影響を与える。

(補足説明)
 (a)「想起された対象や事象」:その対象と他の対象との関係や、その対象と過去との結びつきなど、意識的な思考が行う評価であることもある。むしろ、原因的対象と自動的な情動反応との間に、特定の文化の要求と調和するような意識的な評価段階をさしはさむことは、教育的な成長の重要な目標の一つである。
 (b)「自動的に引き起こされる」:(a)にもかかわらず、そのような意識的な評価は、情動が生じるためには必要ではない。
 (c)「対象や事象の評価を含む」:意識的な評価なしに自動的に引き起こされた情動にも、その対象や事象に対する評価結果が織り込まれている。ただし、それは意識的評価をはさんだ場合とは、異なるかもしれない。
 (b')「自動的に引き起こされる」:意識的な評価どころか、情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在に、われわれが気づいていようといなかろうと、情動は自動的に引き起こされる。

 「興味深いことに、情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在にわれわれが気づいていようといなかろうと、正常な扁桃体はその誘発的機能を行使する。

情動を誘発しうる刺激を非意識的に感知する扁桃体の能力。

その証拠は、まずポール・ウェイレンの研究から得られた。彼は健常者たちにそのような刺激を素早く提示したので、健常者たちは自分たちがいま何を見ているのかまったく自覚していなかったが、脳スキャンにより、扁桃体が活性化していることが明らかになった。

またアーニー・オーマンとレイモンド・ドランの最近の研究で、特定の刺激(たとえば、単なる怒りの顔ではなく、ある特別な怒りの顔)がある不快な事象と関係していることを、健常者たちがいつの間にか学習することが明らかとなっている。

悪い事象と結びついている顔をこっそり提示すると、〈右の〉扁桃体が活性化される。しかし、それ以外の顔をひそかに提示してもそうはならない。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.91-92、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

(索引:意識されない情動誘発刺激の効果)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年7月4日水曜日

15.情動の根拠には(a)生得的なもの、(b)学習されたものがある。また、情動の誘発は、(a)無意識的なもの、(b)意識的評価を経由するものがあるが、いずれも反応は自動的なものであり、誘発対象の評価が織り込まれている。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

狭義の情動

【情動の根拠には(a)生得的なもの、(b)学習されたものがある。また、情動の誘発は、(a)無意識的なもの、(b)意識的評価を経由するものがあるが、いずれも反応は自動的なものであり、誘発対象の評価が織り込まれている。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(再掲)
狭義の情動
《定義》感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に影響を与える。

(補足説明)
 (a)「想起された対象や事象」:その対象と他の対象との関係や、その対象と過去との結びつきなど、意識的な思考が行う評価であることもある。むしろ、原因的対象と自動的な情動反応との間に、特定の文化の要求と調和するような意識的な評価段階をさしはさむことは、教育的な成長の重要な目標の一つである。
 (b)「自動的に引き起こされる」:(a)にもかかわらず、そのような意識的な評価は、情動が生じるためには必要ではない。
 (c)「対象や事象の評価を含む」:意識的な評価なしに自動的に引き起こされた情動にも、その対象や事象に対する評価結果が織り込まれている。ただし、それは意識的評価をはさんだ場合とは、異なるかもしれない。

《誘発原因》
 狭義の情動が引き起こされるとき、その情動の原因となった対象や事象を、〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)という。進化の過程で獲得したものも、個人の生活の中で学習したものも存在する。

(補足説明)
 ある情動の根拠は進化の過程で獲得され、他の情動の根拠は個人の生活の中で学習される。あるときは無意識的に情動が誘発され、またあるときは意識的な評価段階を経て情動が誘発される。このような情動が、人間の発達の歴史において重要な役割を演じている。

《身体過程》
 (a)感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知し、評価する。
  (場所:感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
 (b)(a)によって、自動的に、神経的/化学的な反応の複雑な集まりが、引き起こされる。
  (場所:例えば、「恐れ」であれば、扁桃体が誘発し、前脳基底、視床下部、脳幹が実行する。)
 (c)(b)によって、身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。
 (d)脳構造の状態も一時的に変化し、身体のマップ化や思考へも影響を与える。
 (e)特定の行動が引き起こされる。
 (f)引き起こされた(c)~(e)は、特有の身体的パターンであり、互いに区別できるこのような身体的パターンの種類がいくつか存在し、これが情動である。

 「情動は、脳と心が有機体の内部環境と周辺の環境を評価し、それにしたがい適応的に反応する手段を提供する。

事実、多くの場合、われわれは情動を引き起こす対象を、まさに「評価」という本来の言葉の意味で、意識的に評価している。

つまり、われわれはある対象の存在を処理するだけでなく、その対象と他の対象との関係や、その対象と過去との結びつきも処理しているのだ。

そういう場合には、情動の装置がありのままに評価する一方で、意識を有する心の装置が思考しながら同時に評価している。

 いや、われわれは情動反応を調節することもできる。基本的に、われわれの教育的な成長の重要な目標の一つは、原因的対象と情動反応の間に非自動的な評価段階をさしはさむことだ。われわれはそうすることで、われわれの自然な情動反応が特定の文化の要求と調和するようにしている。

 以上はまぎれもない真実だが、私がここで指摘したい点は、情動が生じるために原因的対象を、いわんやその対象があらわれる状況を意識的に評価する〈必要〉はないということ。

情動はさまざまな状況で起こりうるということである。

 たとえ情動反応が、情動を誘発しうる刺激の意識的認識なしに生じても、その情動には、そのときの状況に対する有機体の評価結果があらわれている。

その評価が自身に明確に認識されていないことはどうでもいい。

 人間の発達の歴史の重要な側面の一つは、われわれの脳を取り巻いているほとんどの対象が強い情動だったり弱い情動だったり、よい情動だったり悪い情動だったりと、何らかの種類の情動を誘発する力をもつようになり、意識的あるいは無意識的にそうした情動が誘発されうる、ということと関係している。

このような情動誘発の中には進化によってセットされているものもあるが、そうではなく個人的経験をとおして、われわれの脳により、情動を誘発しうる対象と結びつけられるようになっているものもある。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.84-85、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:狭義の情動)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年7月3日火曜日

14狭義の情動とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))

狭義の情動

【狭義の情動とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
狭義の情動
《定義》感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に影響を与える。
《誘発原因》
 狭義の情動が引き起こされるとき、その情動の原因となった対象や事象を、〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)という。進化の過程で獲得したものも、個人の生活の中で学習したものも存在する。
《身体過程》
 (a)感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知し、評価する。
  (場所:感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
 (b)(a)によって、自動的に、神経的/化学的な反応の複雑な集まりが、引き起こされる。
  (場所:例えば、「恐れ」であれば、扁桃体が誘発し、前脳基底、視床下部、脳幹が実行する。)
 (c)(b)によって、身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。
 (d)脳構造の状態も一時的に変化し、身体のマップ化や思考へも影響を与える。
 (e)特定の行動が引き起こされる。
 (f)引き起こされた(c)~(e)は、特有の身体的パターンであり、互いに区別できるこのような身体的パターンの種類がいくつか存在し、これが情動である。

(再掲)
ホメオスタシスの一般的なプロセス
(1) 一個の有機体の内部あるいは外部の環境で、何かが変化する。
(2) その変化が、その有機体の命の方向を変える。
(3) 有機体は、そうした変化を検出し、有機体の自己保存と効率的機能にとって、最も有益な状況を生み出すように反応する。
(3.1) 有機体の内部と外部の状況を評価する。有機体は、ただ単に生きている状態ではなく、より「優れた命の状態」を目指しているように見える。すなわち、人間であれば「健康でしかも幸福である」状態を目指しているように見える。
(3.2) 反応。
(3.3) 結果として、健全性への脅威を取り除き、また、改善への好機を手に入れる。

 「さて、さまざまな種類の情動を考慮に入れながら、狭義の情動に対する作業仮説を定義という形で提示してみよう。

1 喜び、悲しみ、当惑、共感、のような狭義の情動は、ある特有の身体的パターンを形成する化学的ならびに神経的な反応の複雑な集まりである。

2 それらの反応は、正常な脳が〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)――本物であれ、心の中で想起されたものであれ、その存在が情動を誘発するような対象または事象――を感知すると、その脳により生み出される。反応は自動的である。

3 いくつかの特定のECSに対しては一連のきまった作用で脳が反応するよう、進化により手はずが整えられている。ただし、ECSのリストは進化が定めたものにだけ限定されているわけではない。そのリストには、われわれが生活の中で学習した他の多くのものも含まれている。

4 これらの反応の即刻の帰結は、「狭義の身体」の一時的な状態変化、そして、身体をマップ化したり思考を支えたりしている脳構造の一時的な状態変化である。

5 これらの反応の最終的帰結は、直接的あるいは間接的に、有機体を生存と幸福に通ずる環境に置くことである。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.82-83、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

 例として「恐れ」を使いながら、情動の誘発と実行のための主な段階を示している。
(1) 「情動(恐れ)を誘発しうる刺激」の評価と定義
 (感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
(2) 誘発
 (扁桃体)
(3) 実行
 (前脳基底、視床下部、脳幹)
(4) 情動状態
 (内部環境、内蔵、筋骨格システムにおける一時的変化。特定の行動)

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、p.95、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:恐れ、狭義の情動)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年6月24日日曜日

13.2次のニューラルマップとは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))

2次のニューラルマップ

【2次のニューラルマップとは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(a) 1次のマップ
 (a1) 対象のマップ:原因的対象の変化を表象する神経構造
 (a2) 原自己のマップ:原自己の変化を表象する神経構造
(b) 2次のマップ:(a1)と(a2)の双方の時間的関係を再表象する神経構造(仮説)
 (b1) はじめの瞬間の原自己の状態(a1)が反映される。
 (b2) 感覚されている対象の状態(a2)が反映される。
 (b3) 対象によって修正された原自己の状態(a1)が反映される。
 (b4) (b1)~(b3)を時間順に記述してゆくような、神経パターンが作られる。
 (b5) (b4)から直接的、または間接的に、流れる意識のイメージが作られる。
 (b6) 対象のイメージを強調するような信号が、直接的、または間接的に(a1)に戻される。
(b)のような2次のマップが複数あり、相互に信号をやり取りしている(仮説)。

   原自己のマップ
     │
対象X の │
マップ  │
  │  ├→はじめの瞬間の
  │  │   原自己のマップ
  ├───→対象X のマップ
  │  ├→修正された
  │  │   原自己のマップ
  │  │   ↓
  │  │(2次マップの組み立て)
  │  │   ↓
  │  │(イメージ化された
  │  │   │  2次マップ)
強調された←───┘
対象X の │
マップ  │
  │  │
  ↓  ↓

(再掲)
上記の神経構造における過程から、「中核自己」が発現する様子。

(1)生命体が、ある対象に遭遇する。
(2)ある対象が、感覚的に処理される。
(3)対象からの関与が、原自己を変化させる。
(4)原初的感情が変化し、「その対象を知っているという感情」が発生する。
(5)知っているという感情が、対象に対する「重要性」を生み出し、原自己を変化させた対象へ関心/注意を向けるため、処理リソースを注ぎ込むようになる。
(6)「ある対象が、ある特定の視点から見られ、触られ、聞かれた。それは、身体に変化を引き起こし、その対象の存在が感じられた。その対象が重要とされた。」こうしたことが、起こり続けるとき、対象によって変化させられたもの、視点を持っているもの、対象を知っているもの、対象を重要だとし関心と注意を向けているもの、これらを担い所有する主人公が浮かび上がってくる。これが「中核自己」である。

対象→原自己→変調された原初的感情
↑      変調されたマスター生命体
│       │    ↓
│       │   視点
│       ↓
│     知っているという感情
│       ↓     │
└─────対象の重要性  ↓
             所有の感覚
             発動力

 「有機体が対象と相互作用することで生じる原自己の変化。

その変化のストーリーを語るには、そのためのプロセス、そのための神経基盤が必要だ。

ごく単純に言えば、原因的対象と原自己の変化を別々に表象する多くの神経構造のほかに、原自己と対象の双方を時間的関係で「再表象」し、そうすることでいまその有機体に実際に起きていること――「はじまりの瞬間における原自己」、「感覚的表象になる対象」、「はじまりの原自己から対象によって修正された原自己への変化」――を表象できるような別の構造が、少なくとも一つは必要だ。


 私は、人間の脳には、一次の事象を二次のニューラル・パターンとして再表象できる構造がいくつかあると思う。

有機体と対象との関係についての非言語的、イメージ的説明に対する二次のニューラル・パターンは、たぶん、いくつかの「二次の」構造の間の複雑な信号のやりとりをもとにしている。どこか一つの脳部位に絶対的な二次のニューラル・パターンがある可能性は低い。

 相互作用によって二次のマップを生むそうした二次の構造の主たる特徴は、以下のごとくである。どの二次の構造も、

(1) 原自己の表象に関わっている部位からの信号、そして対象を表象しうる部位からの信号、その「双方を」軸索を介して受け取ることができなければならない。

(2) 一次のマップで生じている事象を、時間順に「記述」していくニューラル・パターンを生み出すことができなければならない。

(3) そのニューラル・パターンから生じるイメージを、直接的ないしは間接的に、われわれが思考と呼ぶイメージの流れの中にもち込むことができなければならない。

(4) 対象のイメージが強調されるよう対象を処理している構造に、直接的ないしは間接的に、信号を戻すことができなければならない。」

   原自己のマップ
     │
対象X の │
マップ  │
  │  ├→はじめの瞬間の
  │  │   原自己のマップ
  ├───→対象X のマップ
  │  ├→修正された
  │  │   原自己のマップ
  │  │   ↓
  │  │(2次マップの組み立て)
  │  │   ↓
  │  │(イメージ化された
  │  │   │  2次マップ)
強調された←───┘
対象X の │
マップ  │
  │  │
  ↓  ↓

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『起こっていることの感覚』(日本語名『無意識の脳 自己意識の脳』)第3部 意識の神経学、第6章 中核意識の発見――無意識と意識の間、pp.223-225、講談社(2003)、田中三彦(訳))
(索引:2次のニューラルマップ)

無意識の脳 自己意識の脳


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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