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2018年4月19日木曜日

国家にとって、腕利きの交渉家の交渉技術ほど重要なものはない。それは、無数の権利主張や紛争を、自国の利益にかなう協定で解決する。また、安全保障においても、自国の安全と利益にかなう状況工作により、しばしば軍隊を維持するにも劣らぬ効果を上げる。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))

国家と交渉技術

【国家にとって、腕利きの交渉家の交渉技術ほど重要なものはない。それは、無数の権利主張や紛争を、自国の利益にかなう協定で解決する。また、安全保障においても、自国の安全と利益にかなう状況工作により、しばしば軍隊を維持するにも劣らぬ効果を上げる。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))】
 交渉技術は、人間が考え出したすべての法律よりも、一層大きな影響力を人間の行動に及ぼす。なぜなら法律は、紛争やきまりのつかない権利主張を無数にもらたし、これは協定を結ぶことによってのみ解決しうるからである。そしてその成果は、かかる任務を与えられる交渉家の行状と資質の如何によって左右される。
 利害の相対立する政府の間での条約の締結、条約の解消は言うに及ばず、交渉家は、しばしば軍隊を維持するにも劣らぬ効果を、わずかな費用であげる。慎重で腕利きの交渉家を、世界の諸国に常時駐在させ、諸国において選り抜きの友人と情報源を大切にしている君主は、彼自身の利益に従って、隣接諸国の運命を左右し、平和を維持し、あるいは戦争を続けさせることが可能である。
 例えば、任国の軍隊を、自国の利益になるように行動させる。憎悪をかき立たせ、嫉妬心を燃え上がらせることで、反乱をけしかけ、突如として政変を起こさせる。あるいは、己の利益に反するにもかかわらず、君主たちや諸国民をして武器を取らせる。
 もちろん、他の主権者たちの間に起こる紛争に対して、交渉家を使って調停を申し入れ、こちらの仲立ちによって平和を回復させることもまた、大国の君主にとって利益となる。けだし、これほどに、彼の勢力の評判を広め、彼の勢力をすべての国の国民に重んじさせるものはないからである。
「交渉によって何が可能であるかを知るためには、なにも過去の例を引き合いに出すまでもない。交渉がもたらす眼に見える効果を、われわれは毎日のように見ている。交渉は、大国に突如として政変を起こさせる。交渉は、君主たちや諸国民をして、おのれの利益に反するにもかかわらず、国全体をこぞって武器をとらせる。交渉は反乱をけしかける。憎悪をかき立たせる。また、嫉妬心を燃え上がらせる。交渉は、利害の相対立する君主や政府の間に同盟条約またはその他の種類の条約を結ばせる。交渉は、そうした条約を破壊し、最も緊密な結合をも解消させる。交渉技術の上手下手によって、政治全般のあり方も、無数の個々の問題の様子も、その善し悪しが左右されるといえる。また、交渉技術は、人間が考え出したすべての法律よりも、一層大きな影響力を人間の行動に及ぼすといえる。何故ならば、人間が現在以上に法律を守ることに細心であったとしても、法律は紛争やきまりのつかない権利主張を無数にもらたし、これは協定を結ぶことによってのみ解決しうるからである。そして、このような協定は、一般的な性質のものも、特殊的なものも、その締結にあたる交渉家の手腕のほどに応じて、各当事者にとって、有利なものとも、不利なものとも、なるのである。
 従って、次のような結論をたやすく引き出すことができる。ヨーロッパ諸国に配置されたえりぬきの少数の交渉家は、彼らを派遣する君主ないしは政府に対して大いに役立つことができる。彼らは、しばしば軍隊を維持するにも劣らぬ効果を、わずかな費用であげる。何故ならば、彼らは任国の軍隊を主君の利益になるように行動させるすべを心得ているからであって、近くや遠くの同盟国がちょうどうまい時機に牽制作戦をしてくれるほど有益なことはないのである。
 他の主権者たちの間に起こる紛争に対して、交渉家を使って調停を申し入れ、こちらの仲立ちによって平和を回復させることもまた、大国の君主にとって利益となる。けだし、これほどに、彼の勢力の評判を広め、彼の勢力をすべての国の国民に重んじさせるものはない。
 慎重で腕利きの交渉家をヨーロッパの諸国に常時駐在させ、諸国においてえりぬきの友人と情報源を大切にしている強大な君主は、彼自身の利益に従って、隣接諸国の運命を左右し、平和を維持し、あるいは戦争をつづけさせることが可能である。ところで、このような偉大な効果があるか否かは、とりわけ、かかる任務を与えられる交渉家の行状と資質の如何によって左右されるから、この種の仕事につかせるにあたっては、その人材に必要な資質を詳細に検討することが適当である。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第2章 交渉の効用について、pp.18-19、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))
(索引:交渉技術、交渉家、法律、安全保障)

外交談判法 (岩波文庫 白 19-1)




(出典:wikipedia
「こうしたいろいろな交渉の仕方のいずれの場合にも、彼は、とりわけ、公明正大で礼儀にかなったやり方で成功を収めるようにするべきである。もし、細かい駆け引きを用い、相手よりもすぐれているつもりのおのれの才智にたよって、成功しようなどと思うならば、それはまず思い違いというものである。みずからの本当の利益を知る能力をそなえた顧問会議をもたないような君主や国家はない。いちばん粗野なようにみえる国民こそが、実は、自分の利益を最もよく理解して、ひとよりも一層粘り強くこれを追求する国民であることがしばしばある。であるから、どんなに有能な交渉家でも、そうした国民を、この点で欺こうなどと思ってはいけない。むしろ、彼が役目柄提案している事柄の中には、彼らにとって本当に有利な点がいろいろあることを分かってもらえるように、おのが知識と知力の限りを尽くして努力すべきである。人と人の間の友情とは、各人が自分の利益を追求する取引にほかならない、と昔のある哲人が言ったが、主権者相互の間に結ばれる関係や条約については、なおさら同じことが言える。相互的な利益を基礎においていない関係や条約は、存在しない。各主権者が相互に利益を見出さない場合には、条約は効力をほとんど持ち続けないで、自壊する。従って、交渉のいちばんの秘訣はかかる共通の諸利益を共存させ、できれば変わらぬ足どりで、前進させるための方法を見つけることである。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第8章 交渉家の職務について、pp.58-59、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))

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