説得の難しさ
【およそ説くことの難しさは、説得しようとする相手の心を読みとって、こちらの説をそれに合わせることができるかというところにある。さて、内心では大きな利益を求めつつ表向きは高い名誉を求める相手には、どのように説得すれば良いか。(韓非(B.C.280頃-B.C.233))】およそ説くことの難しさは、説得しようとする相手の心を読みとって、こちらの説をそれに合わせることができるかというところにある。
(1) 説得しようとする相手が高い名誉を求める心でいたとしよう。
その相手に大きな利益を得る話をしたなら、相手はこちらのことを下品なやつで自分を俗物扱いにしていると考え、きっと見すてて遠ざけることであろう。
(2) 説得しようとする相手が大きな利益を求める心でいたとしよう。
その相手に高い名誉を得る話をしたなら、相手はこちらのことを考えが足りなくて現実に疎いと見なし、きっと採用しないであろう。
(3) 説得しようとする相手が、内心では大きな利益を求めながら、表向きは高い名誉を求めるふりをしているとしよう。
(3.1) その相手に高い名誉を得る話をしたなら、相手はうわべではこちらを受け容れながら、実際は遠ざけるだろう。
(3.2) もし相手に大きな利益を得る話をしたなら、相手は陰ではこっそりこちらの話を採用しながら、表向きはこちらの身を見すてるだろう。
「およそ説くことの難しさは、説得しようとする相手の心を読みとって、こちらの説をそれに合わせることができるかというところにある。説得しようとする相手が高い名誉を求める心でいたとしよう。それなのに、その相手に大きな利益を得る話をしたなら、〔相手はこちらのことを〕下品なやつで自分を俗物扱いにしていると考え、きっと見すてて遠ざけることであろう。〔反対に〕説得しようとする相手が大きな利益を求める心でいたとしよう。それなのに、その相手に高い名誉を得る話をしたなら、〔相手はこちらのことを〕考えが足りなくて現実に疎いと見なし、きっと採用しないであろう。説得しようとする相手が、内心では大きな利益を求めながら、表向きは高い名誉を求めるふりをしているとしよう。それなのに、その相手に高い名誉を得る話をしたなら、〔相手は〕うわべではこちらを受け容れながら、実際は遠ざけるだろう。もし相手に大きな利益を得る話をしたなら、〔相手は〕陰ではこっそりこちらの話を採用しながら、表向きはこちらの身を見すてるだろう。これはよくよく考えなければならないことである。」
(韓非(B.C.280頃-B.C.233)『韓非子』説難 第十二、(第1冊)pp.230-231、岩波文庫(1994)、金谷治(訳))
(索引:説得の難しさ)
(原文:12.説難 <韓非子 <法家 <先秦兩漢 <中國哲學書電子化計劃 )
(出典:twwiki)
「国を安泰にする方策として七つのことがあり、国を危険にするやり方として六つのことがある。
安泰にする方策。第一は、賞罰は必ず事の是非に従って行うこと、第二は、禍福は必ず事の善悪に従ってくだすこと、第三は、殺すも生かすも法のきまりどおりに行うこと、第四は、優秀か否かの判別はするが、愛憎による差別はしないこと、第五は、愚か者と知恵者との判別はするが、謗ったり誉めたりはしないこと、第六は、客観的な規準で事を考え、かってな推量はしないこと、第七は、信義が行われて、だましあいのないこと、以上である。
危険にするやり方。第一は、規則があるのにそのなかでかってな裁量をすること、第二は、法規をはみ出してその外でかってな裁断をくだすこと、第三は、人が受けた損害を自分の利益とすること、第四は、人が受けた禍いを自分の楽しみとすること、第五は、人が安楽にしているのを怯かして危うくすること、第六は、愛すべき者に親しまず、憎むべき者を遠ざけないこと、以上である。こんなことをしていると、人々には人生の楽しさがわからなくなり、死ぬことがなぜいやなのかもわからなくなってしまう。人々が人生を楽しいと思わなくなれば、君主は尊重されないし、死ぬことをいやがらなくなれば、お上の命令は行われない。」
(韓非(B.C.280頃-B.C.233)『韓非子』安危 第二十五、(第2冊)pp.184-185、岩波文庫(1994)、金谷治(訳))
(原文:25.安危 <韓非子 <法家 <先秦兩漢 <中國哲學書電子化計劃 )
韓非(B.C.280頃-B.C.233)
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