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2018年7月27日金曜日

対象物を見ると、それを操作する運動感覚の表象が伴う。これはカノニカルニューロンが実現している。また、他者の対象物への働きかけを見ると、その運動感覚の表象が伴う。これはミラーニューロンが実現している。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))

カノニカルニューロンとミラーニューロン

【対象物を見ると、それを操作する運動感覚の表象が伴う。これはカノニカルニューロンが実現している。また、他者の対象物への働きかけを見ると、その運動感覚の表象が伴う。これはミラーニューロンが実現している。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))】
(a)標準(カノニカル)ニューロン
 (a1)つかむ、持つ、いじるといった運動行為に対応したニューロンの大多数が発火する。
 (a2)対象物の視覚刺激(対象物の形、大きさ、向き)に対応して運動特性(すなわち、つかみ方のタイプ)に呼応したニューロンの一部が発火する。
 (a3)その結果、対象物の形、大きさ、向きに応じて決まる、その対象物をつかむ、持つ、いじるといった運動特性に呼応した、運動感覚の表象が現れ、視覚情報を適切な運動行為に変換するプロセスが準備される。

(b)ミラーニューロン
 (b1)特定の運動行為に対応したニューロンが発火するのは、カノニカルニューロンと同じである。
 (b2)他者が、対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その特定のタイプの行為に呼応したニューロンの一部が発火する。例えば、つかむミラーニューロン、持つミラーニューロン、いじるミラーニューロン、置くミラーニューロン、両手で扱うミラーニューロン。運動行為の視覚情報には、次のような特徴がある。
 ・カノニカルニューロンとは違い、食べ物や立体的な対象物を見たときには発火しない。
 ・手や口や体の一部を使って、対象物へ働きかける行動を見たときに限られ、腕を上げるとか手を振るといったパントマイムのような行為、対象物のない自動詞的行為には反応しない。
 ・見えた行為の方向や、実験者の手(右か左か)に影響されるように思える場合もある。
 ・観察者と観察される行為との距離や相対的位置関係にはほとんど影響されずに発火する。
 ・視覚刺激の大きさに影響されることもない。
 ・2つ、あるいはめったにないが3つの運動行為のいずれかを観察すると発火するニューロンもあるようだ。  (b3)その結果、他者が対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その対象物をつかむ、持つ、いじるといった運動特性に呼応した、運動感覚の表象が現れ、他者の行為の意味が感知できる。

 「F5野の機能特性の分析で見てきたとおり、つかむ、持つ、いじるといった運動行為の間に、この皮質野のニューロンはその大多数が発火し、視覚刺激《にも》反応するものがある。視覚刺激に反応するニューロンの運動特性(たとえば、ニューロンがコードするつかみ方のタイプ)と視覚的選択性(対象物の形、大きさ、向き)は明らかに呼応しており、そのおかげで、対象物に関する視覚情報を適切な運動行為に変換するプロセスでこれらのニューロンが果たす役割が決定的なものとなる。このようなニューロンは「標準(カノニカル)ニューロン」と呼ばれている(訳注 感覚情報を運動情報に変換するのが感覚-運動ニューロンの標準的な機能)。前運動皮質が視覚-運動変換にかかわっているかもしれないと長い間考えられていたからだ。
 ところが、1990年代の初めに行われた実験(サルを使った実験で、サルは特定のタスクを実行するように訓練されてはおらず、自由に行動できるようになっていた)で、カノニカルニューロン以外にも視覚-運動特性を持ったニューロンのタイプがあることがわかった。驚いたことに、サル自身が運動行為(たとえば食べ物をつかむ)を行ったときと、実験者が運動行為を行っているのをサルが見たときの《両方で》、活性化するニューロンが見つかったのだ。これらのニューロンはF5野の皮質凸状部で記録され、「ミラーニューロン」と名づけられた。
 ミラーニューロンの運動特性は、特定の運動行為の間、選択的に発火するという点では、F5野のほかのニューロンとまったく同じだが、両者の視覚特性は著しく異なる。ミラーニューロンは、カノニカルニューロンとは違い、食べ物やほかの立体的な対象物を見たときには発火しないし、発火が視覚刺激の大きさに影響されることもないようだ。じつは、ミラーニューロンが活性化するのは、手や口といった体の一部がかかわる特定の運動行為、つまり対象物への働きかけを観察したときに限られる。興味深いのは、腕を上げるとか手を振るといったパントマイムのような行為、すなわち対象物のない「自動詞的」行為(訳注 自動詞は目的語をとらないので、対象物のない行為を「自動詞的」行為と呼ぶ)には反応しないという点だ。ミラーニューロンは、観察者と観察される行為との距離や相対的位置関係にはほとんど影響されずに発火するという点も注目に値する。ただし、見えた行為の方向や、実験者の手(右か左か)に影響されるように思える場合もある。
 視覚的にコードされた実際の運動行為を識別基準として考えると、ミラーニューロンは、第2章でF5ニューロンの運動特性に当てはめたのと同じような種類に細分できる。「つかむミラーニューロン」「持つミラーニューロン」「いじるミラーニューロン」などだ。また「置くミラーニューロン」(実験者が台の上に物を置くのをサルが見たときに発火するニューロン)や「両手で扱うミラーニューロン」(片手で物を持ち、もう一方の手がその方向へ動くのを観察したときに発火するニューロン)などもある。この分類によって、F5野のほとんどのミラーニューロンが、《特定のタイプの行為》(たとえば、つかむ行為)を観察したときに発火することがわかる。ただし、これほど選択性を持たず、二つ、あるいは(めったにないが)三つの運動行為のいずれかを観察すると発火するニューロンもあるようだ。」
(ジャコモ・リゾラッティ(1938-),コラド・シニガリア(1966-),『ミラーニューロン』,第4章 行為の理解,紀伊國屋書店(2009),pp.96-97,柴田裕之(訳),茂木健一郎(監修))
(索引:カノニカルニューロン,ミラーニューロン)

ミラーニューロン


(出典:wikipedia
ジャコモ・リゾラッティ(1938-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「みなさんは、行為の理解はまさにその性質のゆえに、潜在的に共有される行為空間を生み出すことを覚えているだろう。それは、模倣や意図的なコミュニケーションといった、しだいに複雑化していく相互作用のかたちの基礎となり、その相互作用はますます統合が進んで複雑化するミラーニューロン系を拠り所としている。これと同様に、他者の表情や動作を知覚したものをそっくり真似て、ただちにそれを内臓運動の言語でコードする脳の力は、方法やレベルは異なっていても、私たちの行為や対人関係を具体化し方向づける、情動共有のための神経基盤を提供してくれる。ここでも、ミラーニューロン系が、関係する情動行動の複雑さと洗練の度合いに応じて、より複雑な構成と構造を獲得すると考えてよさそうだ。
 いずれにしても、こうしたメカニズムには、行為の理解に介在するものに似た、共通の機能的基盤がある。どの皮質野が関与するのであれ、運動中枢と内臓運動中枢のどちらがかかわるのであれ、どのようなタイプの「ミラーリング」が誘発されるのであれ、ミラーニューロンのメカニズムは神経レベルで理解の様相を具現化しており、概念と言語のどんなかたちによる介在にも先んじて、私たちの他者経験に実体を与えてくれる。」
(ジャコモ・リゾラッティ(1938-),コラド・シニガリア(1966-),『ミラーニューロン』,第8章 情動の共有,紀伊國屋書店(2009),pp.208-209,柴田裕之(訳),茂木健一郎(監修))
(索引:)

ジャコモ・リゾラッティ(1938-)
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