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2018年7月29日日曜日

アストロサイトは探査し、構造的に脳を再構築し、ニューロン間の結合を変化させる。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))

アストロサイト

【アストロサイトは探査し、構造的に脳を再構築し、ニューロン間の結合を変化させる。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】
 アストロサイトはあちこち探査しながら、構造的に脳を再構築し、ニューロン間の結合を変化させている。「もうひとつの脳」は、意識的な心のまったく外側で活動しながら、「ニューロンの脳」の回路を形作っている。例えば、
 (a)細胞触手でニューロンの間を探っている。その触手を滑らかに伸び縮みさせて、ニューロン間を出入りしながら、脳の神経回路を変化させている。
 (b)シナプス周囲からそのグリア触手を引き抜くと、ニューロンの露出部分が増加する。
 (c)触手を退縮させると、シナプス間隙を間近で取り囲んでいたときほど、神経伝達物質をすばやく取り込むことができなくなる。その結果、細胞外間隙に神経伝達物質を蓄積させて、シナプス伝達に変化をもたらす。
 (d)数種類の神経活性物質(現在では、グリア伝達物質と呼ばれている)を放出し、ニューロンのシナプス上にある神経伝達物質受容体を刺激する。
 (e)シナプス伝達を直接調節できる。そこには、アミノ酸のタウリンやATP、D-セリンなど、ニューロンがシナプス伝達で使用しているのと同じ物質が含まれる。

 「私たちが水分を摂取する量と頻度は、その時々で大きく異なるにもかかわらず、脳は体内の水分量を厳密な範囲内に調節している。水は生命維持のために食糧よりも重要で、いかなる生物の体内でも、常に適切なレベルに維持されていなければならない。水分が欠乏すると、数時間のうちに身体機能にも精神機能にも支障が出る。脱水が続けば、数日のうちに命を落とすことになり、ほとんどの病気より急速に死に直結する。
 私たちの体が脱水に対処するひとつの方策に、抗利尿ホルモン(ADH)の血流中への放出がある。このポリペプチドホルモンは、視床下部ニューロンから分泌され、腎臓に作用して尿の排出量を減らし、体内に蓄えた貴重な水分の減少を食い止める。喉が渇いた動物では、視床下部のシナプスに存在するグリアが驚くべき方法で応答することを、解剖学者らが観察した。
 この無意識の脳で働くグリアに関する最近の研究から、別の新事実、つまりグリアが動けることが明らかになっている。今この瞬間にも、脳内のアストロサイトは活動していて、その細胞触手でニューロンの間を探っている。その触手を滑らかに伸び縮みさせて、ニューロン間を出入りしながら、アストロサイトは脳の神経回路を変化させているのだ。グリアにこうした働きがあることに気づく前でさえ、脳細胞に関する私たちの概念には、重要な何かが欠けているといつも感じていた。そこには、あまりにも動きがなさすぎた。一枚の基板上に無数のはんだ接合で固定された超小型回路によく似て、ニューロンは脳内でシナプス結合の網み目の中につなぎ留められている。このように固定されて動きの取れない状態にあるニューロンは、人工的で不自然に見える。これとは対照的に、束縛されていないグリアの細胞触手は、脳内で絡まるように結びついている神経線維網の間を、自在に動き回って探りながら、脳組織を細胞運動で活性化している。アストロサイトはあちこち探査しながら、構造的に脳を再構築し、ニューロン間の結合を変化させている。「もうひとつの脳」は、意識的な心のまったく外側で活動しながら、「ニューロンの脳」の回路を形作っているのだ。
 アストロサイトは、視床下部のシナプスにおいてこのような細胞リモデリングを行うことによって、渇きに応じてシナプス特性を変化させられる。シナプス周囲からそのグリア触手を引き抜くと、ニューロンの露出部分が増加する。また、触手を退縮させたアストロサイトは、シナプス間隙を間近で取り囲んでいたときほど、神経伝達物質をすばやく取り込むことができなくなる。このような神経伝達物質の排出の遅れは、細胞外間隙に神経伝達物質を蓄積させて、シナプス伝達に変化をもたらす。神経科学者ステファン・ウエレらはフランスのボルドーで、微小電極を用いて視床下部のシナプス機能を研究し、動物の給水を断つと、シナプス周辺のアストロサイトが形を変えて、シナプス電位が変化することを見出した。グリア触手の先端による同じようなシナプス電位の調節は、筋肉のほかの部位でも起こっているだろうと、彼らは示唆している。
 シナプスを出入りして探り続けるグリア触手は、別の方法でもシナプス伝達を調節できる。それは、シナプスに作用する物質の放出である。視床下部では、アストロサイトは数種類の神経活性物質(現在では、グリア伝達物質と呼ばれている)を放出し、ニューロンのシナプス上にある神経伝達物質受容体を刺激している。グリアはこうして、多様な神経伝達物質を放出するだけで、シナプス伝達を直接調節できる。そこには、アミノ酸のタウリンやATP、D-セリンなど、ニューロンがシナプス伝達で使用しているのと同じ物質が含まれる。アストロサイトから放出されるこれらの物質はそれぞれ、シナプス伝達に異なる効果を及ぼす。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第13章 「もうひとつの脳」の心――グリアは意識と無意識を制御する,講談社(2018),pp.435-437,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:アストロサイト)

もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)


(出典:R. Douglas Fields Home Page
R・ダグラス・フィールズ(19xx-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「アストロサイトは、脳の広大な領域を受け持っている。一個のオリゴデンドロサイトは、多数の軸索を被覆している。ミクログリアは、脳内の広い範囲を自由に動き回る。アストロサイトは一個で、10万個ものシナプスを包み込むことができる。」(中略)「グリアが利用する細胞間コミュニケーションの化学的シグナルは、広く拡散し、配線で接続されたニューロン結合を超えて働いている。こうした特徴は、点と点をつなぐニューロンのシナプス結合とは根本的に異なる、もっと大きなスケールで脳内の情報処理を制御する能力を、グリアに授けている。このような高いレベルの監督能力はおそらく、情報処理や認知にとって大きな意義を持っているのだろう。」(中略)「アストロサイトは、ニューロンのすべての活動を傍受する能力を備えている。そこには、イオン流動から、ニューロンの使用するあらゆる神経伝達物質、さらには神経修飾物質(モジュレーター)、ペプチド、ホルモンまで、神経系の機能を調節するさまざまな物質が網羅されている。グリア間の交信には、神経伝達物質だけでなく、ギャップ結合やグリア伝達物質、そして特筆すべきATPなど、いくつもの通信回線が使われている。」(中略)「アストロサイトは神経活動を感知して、ほかのアストロサイトと交信する。その一方で、オリゴデンドロサイトやミクログリア、さらには血管細胞や免疫細胞とも交信している。グリアは包括的なコミュニケーション・ネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類(グリア、ホルモン、免疫、欠陥、そしてニューロン)の情報を、文字どおり連係させている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:)

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