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2018年9月23日日曜日

30.延長意識がもたらす諸能力:(a)自己、他者、集団の生存に関係する能力、(b)(a)を超越して、善・悪、美を感じとる能力、(c)不調和を嗅ぎつける能力、(d)(b)と(c)により事実、真理の探究、行動規範の構築をする能力。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

延長意識がもたらす諸能力

【延長意識がもたらす諸能力:(a)自己、他者、集団の生存に関係する能力、(b)(a)を超越して、善・悪、美を感じとる能力、(c)不調和を嗅ぎつける能力、(d)(b)と(c)により事実、真理の探究、行動規範の構築をする能力。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

延長意識がもたらす諸能力
(a)生存と関係する傾性によって下される利益と不利益の指令
 ・生を重んじる能力
 ・有用な人工物を創造する能力
 ・他人の心について考える能力
 ・自分と他人に死の可能性を感じ取る能力
 ・他人や集団の利益を斟酌する能力
 ・集団の心を感じ取る能力
(b)(a)を超越する能力
 ・痛みを辛抱する能力
 ・快と苦とは異なる、善と悪の感覚を構築する能力
 ・ただ快を感じるのではなく、美を感じとる能力
(c)不調和を嗅ぎつける能力
 ・感情の不調和を感じとる能力
 ・抽象的な概念の不調和を感じとる能力
(d)(b)と(c)は、以下のような真に人間的な作用をもたらすゆえに「良心」という一語で表現したい。
 ・事実分析のための概念の構築、真実の探究
 ・行動のための規範を構築

 「延長意識があるから、人間の有機体はその心的能力の極みに達することができる。以下のようなことを考えてみよう。

有用な人工物を創造する能力。他人の心について考える能力。集団の心を感じ取る能力。ただ痛みを感じてそれに反応するのとは反対に痛みを辛抱する能力。自分と他人に死の可能性を感じ取る能力。生を重んじる能力。

快と苦とは異なる、善と悪の感覚を構築する能力。他人や集団の利益を斟酌する能力。ただ快を感じるのとは反対に美を感じとる能力。はじめに感情の不調和を、そのあと抽象的な概念の不調和を感じとる能力(これは真実の感覚の源)。

 延長意識ゆえに可能なこうした一連の著しい能力には、強調に値する二つのことがある。

第一は、生存と関係する傾性によって下される利益と不利益の指令を超越する能力、第二は、不調和を嗅ぎつける重要な能力で、これが真実の探究をもたらし、また行動のための、事実分析のための、規範と概念を構築したいという願望をもたらす。

 私はこれら二つの能力を、単に人間の特質の極みとしてだけでなく、「良心」という一語で完全に表現される真に人間的な作用をもたらすものとして、位置づけられるのではないかと思っている。

中核のレベルにおいてであれ延長のレベルにおいてであれ、私は意識を人間の特質の頂点には置かない。現在の頂点に達するには意識は必要だが、十分ではない。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『起こっていることの感覚』(日本語名『無意識の脳 自己意識の脳』)第3部 意識の神経学、第7章 延長意識とアイデンティティ、pp.282-283、講談社(2003)、田中三彦(訳))

(索引:延長意識がもたらす諸能力)

無意識の脳 自己意識の脳


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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