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2019年11月4日月曜日

PKO派遣には、平和維持の目的以外にも政治的・経済的な動機があり問題含みである。(a)大国の政治的介入の代替手段、(b)政争の具としてのPKO、(c)平和貢献のイメージ、(d)天然資源等、経済的動機、(e)軍事技術情報の獲得。(米川正子)

PKO派遣

【PKO派遣には、平和維持の目的以外にも政治的・経済的な動機があり問題含みである。(a)大国の政治的介入の代替手段、(b)政争の具としてのPKO、(c)平和貢献のイメージ、(d)天然資源等、経済的動機、(e)軍事技術情報の獲得。(米川正子)】

PKOが一部の派遣先にて、紛争や不安定な状況の長期化の原因になっている。
(1)紛争当事者間の停戦合意が脆いこと。
(2)PKOの中立性が疑問視されている。
(3)PKO派遣国がそもそも平和維持に関して政治的意思が弱く、政治的や経済的な動機を有している。
(4)PKO派遣の動機
 (a)大国が政治的な働きかけをしたい場合に、その代替としてPKOを使用する可能性が高い。
 (b)PKO派遣が「政争の具」として利用されている。
 (c)PKO派遣は、平和貢献のイメージや国の存在感を高めるには効果的である。
 (d)派遣先が天然資源の産出地域であれば、資源のアクセスの面でも大きな収穫となる。
 (e)多国籍PKOの派遣先は軍事的専門知識を交換しあえる場である。

「安全保障関連法案によって自衛隊の海外活動が拡大していくことになりますが、その中でも「国連平和維持活動(PKO)等に対する協力に関する法律(国際平和協力法)」に関わる活動について考えてみましょう。
 国会ではPKOが、「平和維持のための必需品」という前提で、自衛隊のリスクや駆けつけ警護の任務が中心に議論されています。ところが、PKOが一部の派遣先にて、紛争や不安定な状況の長期化の原因になっていることは触れられていません。
 PKOが紛争を長期化させている原因として、PKO参加5原則に含まれる紛争当事者間の停戦合意が脆いことや、PKOの中立性が疑問視されている点などが挙げられます。それ以外にも、PKO派遣国がそもそも平和維持に関して政治的意思が弱く、政治的や経済的な動機を有している点にも留意しなくてはなりません。こうした国々が自国兵士をPKOに派遣する動機としては、主に以下の5点が指摘できます。
 1つ目の動機は、多国籍PKOの派遣先は軍事的専門知識を交換しあえる場であることです。例えば、2013年以降、PKOが偵察を目的に国連史上初めて非武装のドローンを使用しましたが、そのような実務経験を、派遣国は将来自国でも役立てたいと考えている可能性があります。
 2つ目は、「途上国」と「先進国」どちらの軍隊にとっても、PKOへの参加は給料の面で、また派遣先が天然資源の産出地域であれば、資源のアクセスの面でも大きな収穫となるからです。インド、パキスタンや南アフリカなどが、資源が豊富なコンゴ東部における世界最大級のPKOに長年軍を派遣し続けている理由は、まさに利権が絡んでいるからだと指摘されてきました。
 3つ目は、PKO派遣は、平和貢献のイメージや国の存在感を高めるには効果的であるためです。たとえば、日本のルワンダ難民救援隊はその名の通り、難民の救援のために派遣されたのですが、当時の指揮官曰く「救援活動について達成すべき具体的な目標を示したい。でもそれが無理だと分かり、最小限滞在国ザイールの国旗とともに「日の丸」の掲揚することを具体的な目標にした」とのことです。また日本政府・自衛隊・企業・NGOが一体となる復興開発援助「オールジャパン・アプローチ」が、東ティモールやハイチ、そして現在南スーダンで実施されていますが、その目的は日本の顔をより見えるようにすること(visibilityを高める)だと言われています。
 4つ目は、PKO派遣が「政争の具」として利用されていることです。世界5番目の国連PKO派遣国であるルワンダの事例を見てみましょう。リークされた国連報告書によると、ルワンダ軍は1990年代に隣国コンゴ東部で虐殺と特徴づけられる行為を犯しました。また、同軍の幹部がスーダンにおけるPKOの幹部に任命された際に、彼が過去に重大な人権侵害を犯したことが指摘されていました。ところがルワンダ政府は、同報告書が公表されたり、同幹部が解雇されるならば、スーダンから自国のPKO部隊を撤退させると脅したのです。その結果、国連がルワンダ軍やこの幹部の犯罪を追及することはありませんでした。
 最後に、大国が政治的な働きかけをしたい場合に、その代替としてPKOを使用する可能性が高い点も問題です。例えば、南スーダンは米国にとって戦略的で重要な国ですが、なぜそこへ米国の同盟国の日本は優先的にPKOを派遣したのか疑問が残ります。
 また、この南スーダンでは2013年末に紛争が勃発し、PKO参加5原則の「紛争当事者間で停戦合意が成立」について検討する必要が発生しました。厳密に言うと、自衛隊が南スーダンに派遣されたのは南スーダンが独立した2011年であり、南北スーダン間で締結された和平合意(CPA)が前提となっていました。ところが2013年末からは、それまでの南北間の内戦とは別に、独立した南スーダン内部で別の内戦が発生しました。この南スーダン内の内戦に関する停戦合意は2014年1月に結ばれましたが、現在まで戦闘は続いています。言い換えれば、自衛隊が当初派遣された時の紛争当事者以外のアクターによる紛争が新たに勃発したために、本事態は「想定外」でしたが、その場合、「紛争当事者間で停戦合意が成立」を拡大解釈して撤収すべきか否か、議論が必要であるのに、国民に向けた政府による説明が十分ではありませんでした。
 このように、PKOは平和維持の名の下で、他の目的で利用されている場合があり、紛争解決に十分貢献できない点が問題となってきました。今後日本が平和の創出を目的とするPKOにどのように関わっていくのかを検討するためには、「国際平和協力法」を他の法案と一緒にして審議するのではなく、まずはPKOの本質から議論を深める必要があるのではないでしょうか。

(米川正子) 」
(出典:35. 国連PKOは平和の創出に役立っているのでしょうか。日本平和学会「安保法制 100の論点」(論点リスト)日本平和学会
(索引:PKO派遣)

(出典:日本平和学会
日本平和学会
日本平和学会(1973-)

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