ページ

2020年3月28日土曜日

16.(仮説)ループ量子重力理論は、時空にも収縮の限界があり「点」まで縮むことはないと考える。その結果、ブラックホールは安定でなくなり反発することになる。その現象が高速電波バーストかもしれない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))

高速電波バースト?

【(仮説)ループ量子重力理論は、時空にも収縮の限界があり「点」まで縮むことはないと考える。その結果、ブラックホールは安定でなくなり反発することになる。その現象が高速電波バーストかもしれない。(カルロ・ロヴェッリ(1956-))】


【高速電波バースト】  「ループ量子重力理論の、ブラックホールへの適用の第二の例は、より劇的な内容を含んでいる。

ブラックホールのそばで崩壊した天体は、ブラックホールの内部に吸いこまれるため、外側からはその破片さえ見えなくなる。だが、ブラックホールの内部ではいったい何が起きているのか? もし、わたしたちがブラックホールのなかに落ちていったら、わたしたちには何が見えるのか?

 はじめのうちは、特別なことは何も起こらない。大した傷を負うこともなく、わたしたちはブラックホールの表面を通過する。ところがその後、ぐんぐん速度を増しながら、わたしたちはブラックホールの中心へ転落していく。それから先はどうなるのか? 

一般相対性理論の予見によれば、ブラックホールの中心ではすべてのものが限りなく圧縮され、限りなく小さな一点に押しつぶされる。だが繰り返すなら、これは量子重力理論を無視した場合の話しである。

 量子重力理論を考慮するなら、この予見は正しくない。

一般相対性理論の予見は、量子の反発を無視している。量子の反発とは、前章で解説した、ビッグバンのときに宇宙を跳ね返した力である。

量子重力理論を援用した場合、ブラックホールの中心に近づくにつれ、落下する事物は量子の反発力を受けて速度を落としていく。その際、落下する事物の密度は極限まで高まるものの、その数値はあくまで有限である。

ブラックホールの重力に押しつぶされた事物が、無限に小さな一点と化すことはない。なぜなら、事物の寸法には下限が存在するからである。

量子重力理論によれば、ブラックホールの中心では、事物を反発させる巨大な圧力が発生する。それは、崩壊する宇宙が反発して、膨張する宇宙へ移行するのとまったく同じ状況である。

 ブラックホールの内側から観測するなら、崩壊する天体の「反発」はすさまじい速度で展開するだろう。

しかし忘れてはならないのは、ブラックホールに近づけば近づくほど、外側の世界と比較して時間の流れが遅くなるという点である。外側から眺めれば、反発の過程が数十億年にわたり続く可能性もある。それだけの時間が経過してはじめて、わたしたちはブラックホールが爆発する現場を目撃できるだろう。要するに、ブラックホールとは、遠い未来への近道である。

 一般相対性理論によれば、ブラックホールは永続的な安定性を備えているはずだった。しかし量子重力理論は、ブラックホールが究極的には不安定な存在であることを示唆している。

 ブラックホールの爆発が観測されれば、理論の正しさが劇的に裏づけられるだろう。初期の宇宙で形成されたきわめて古いブラックホールなら、すでに爆発していてもおかしくない。

ごく最近の計算によると、ブラックホールが爆発した場合、電波望遠鏡の観測範囲に、爆発の事実を示す信号が送られてくるようである。

かねてよりささやかれているのは、電波天文学者によって観測された「高速電波バースト」と呼ばれる奇妙な電波こそ、原初のブラックホールが爆発した再に発せられた信号なのではないかという説である。

この仮説が証明されれば、それは間違いなくたいへんなニュースになる。なぜならわたしたちは、量子重力理論を裏づける事象から発せられた、直接的な信号を獲得したことになるのだから。今はただ、観測を待ち続けるしかない……」

(カルロ・ロヴェッリ(1956)『現実は私たちに現われているようなものではない』(日本語名『すごい物理学講義』)第4部 空間と時間を超えて、第9章 実験による裏づけとは?、pp.224-226、河出書房新社(2017)、竹内薫(監訳)、栗原俊秀(訳))
(索引:高速電波バースト)

すごい物理学講義 (河出文庫)



カルロ・ロヴェッリ(1956-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)
(出典:wikipedia
カルロ・ロヴェッリ(1956-)
カルロ・ロヴェッリの関連書籍(amazon)
検索(carlo rovelli)
検索(カルロ・ロヴェッリ)
検索(ループ量子重力理論)