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2020年7月29日水曜日

「今日は授業中に話したいとき手を挙げなくてもよい」「今日は、友達の顔をぶちたいなら、ぶってもよい」。幼児(3歳児)に様々な状況設定で膨大な実験をした結果、慣習的規則と、破ることが拒否される道徳的規則が区別されるという事実がある。(エリオット・テュリエル(1938-))

慣習的規則と道徳的規則の区別

【「今日は授業中に話したいとき手を挙げなくてもよい」「今日は、友達の顔をぶちたいなら、ぶってもよい」。幼児(3歳児)に様々な状況設定で膨大な実験をした結果、慣習的規則と、破ることが拒否される道徳的規則が区別されるという事実がある。(エリオット・テュリエル(1938-))】
(出典:gse.berkeley.edu
Turiel_Elliott の命題集(Propositions of great philosophers)
 「我々がそれらに従うのを正当化しようとするとき、我々は正義や、その人の福利や、権利といったものに訴える傾向がある。さて、ここからが驚くべきことである。子どもたちに規則が示される際には区別がなされていないにもかかわらず、彼らは慣習的規則と道徳的規則の区別を把握するのだ。このことは次のようにしてわかる。
 1980年代中頃、心理学者のエリオット・テュリエル(1983)と彼の同僚が、三歳児に対して規則の変更を含む仮想的な状況について考えるように求める実験を行った(これは様々な状況設定で膨大な回数にわたって再現されてきた)。たとえば、子どもたちは彼らの先生がこう言うのを想像するように言われる。「今日は、授業中に話したいとき手を挙げなくてもかまいません」。そして子どもたちは次のように尋ねられる。「もし今日授業中に手を挙げずに発言したら、それはしてもよいことですか?」ためらいなく、子どもたちは《そうだ》と言う。同様に、もし彼らの親が食べ物を投げてもよいと言えば食べ物を投げてもよいだろうと子どもたちは言う。
 しかし、次に子どもたちは彼らの先生がこう言うのを想像するように求められる。「今日は、友達の顔をぶちたいなら、そうしてもかまいません」。この場合、子どもたちは、先生の許しがあるとしてもなお、友達をぶってもかまわないとは《ほぼ間違いなく言わない》。ほとんどの子どもたちは、親が「今日は兄弟に嘘をついてもかまいません」と言うのを想像するように求められたとしても、それでも兄弟に嘘をついてもかまわないということを《否定する》。」
(スコット・M・ジェイムズ(19xx-)『進化倫理学入門』第1部「利己的な遺伝子」から道徳的な存在へ、第5章 美徳と悪徳の科学、pp.139-140、名古屋大学出版会(2018)、児玉聡(訳))
(索引:慣習的規則,道徳的規則)

進化倫理学入門


(出典:UNC Wilmington
スコット・M・ジェイムズの命題集(Propositions of great philosophers)  「道徳的生物を道徳的たらしめるものには、いくつかのことが関係していると考えられる。以下のものが道徳判断の形成についての概念的真理を表すと思われる。
(1)道徳的生物は禁止というものを理解する。
(2)道徳的禁止は我々の欲求に依存しないように思われ、
(3)法律のような人間の取り決めに依存するようにも思われない。むしろ、それらは主観的ではなく客観的なもののように思われる。
(4)道徳判断は動機と密接に結びついている。ある行為は間違っていると心から判断することは、少なくともその行為をするのを《差し控えたい》という欲求を含意しているようである。
(5)道徳判断は功罪の観念を含意する。道徳的に禁止されていると知っていることをすることは、処罰が正当化されうるということを含意する。
(6)我々のような道徳的生物は、自身の悪事に対して、ある特有の《感情的》反応を示し、そしてこの反応はしばしば我々を、その悪事の償いをするよう駆り立てる。」
(スコット・M・ジェイムズ(19xx-)『進化倫理学入門』第1部「利己的な遺伝子」から道徳的な存在へ、第3章 穴居人の良心、p.81、名古屋大学出版会(2018)、児玉聡(訳))
(索引:)

スコット・M・ジェイムズ(19xx-)
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信念を行為者に帰属させるとき活動する脳部位が、道徳判断時にも活性化する。道徳判断の基盤となる表象は(a)危害が生じる結果についての表象と、(b)その危害を生じさせた行為者の信念と意図についての表象とから構成されるようである。(リアン・ヤング)

道徳的判断の神経基盤

【信念を行為者に帰属させるとき活動する脳部位が、道徳判断時にも活性化する。道徳判断の基盤となる表象は(a)危害が生じる結果についての表象と、(b)その危害を生じさせた行為者の信念と意図についての表象とから構成されるようである。(リアン・ヤング)】

(出典:moralitylab.bc.edu
Liane-Young の命題集(Propositions of great philosophers)
 「最近のあるハーバード大学の心理学者のチームによると、「ここで発達しているのは『心の理論』つまり他人の心理状態を表象する能力だけではなく、この情報を道徳判断の文脈での帰結に関する情報と統合する能力である」(Young et al.2007:8235)。発達中の子どもにとって、正と不正は単に起こったこと以上のものになり始める。それは、人々がそれを起こそうと《意図している》ことと結びつき始めるのだ。
 この同じ心理学者のチームは、これらの結果に裏づけを与えるために、脳の中を観察することにした。信念帰属において作用している脳のシステムは、道徳判断《においても》作用しているのだろうか、と彼らは問うた。脳についてのそれぞれ独立した諸研究が、右側頭頭頂連結部(PTPJ)が他人の心の状態についての評価を下すことに重要な仕方で関与している、ということを明らかにしている。人がある行為を正しいとか不正だとか判断したときにもまた、PTPJは活性化していたのだろうか。明らかにそうであった。誰かが(スミスがそうしたように)いかなる危害も生じさせなかったが危害を生じさせることを《意図していた》という場合には、被験者の判断は「厳しいものであり、[行為者の]信念のみに基づいて下され、そして信念帰属に関わる回路促進に結びついていた」。危害が意図されたものでなかった場合は、被験者は同じパターンの脳活動を示さなかった。著者はこう結論づけている。「それゆえ、道徳判断は二つの別個の、時に競合するプロセスの産物を示しているのかもしれない。一つは危害が生じる結果についての表象を引き起こすプロセスであり、もう一つは信念と意図についての表象を引き起こすプロセスである」(Young et al.2007:8239)。
 これは、ここまで展開されてきた大まかな見取り図に沿うものである。非常に幼い年齢から、子どもたちは他人の感情(特に苦悩に関連した感情)に同調する。実際、脳はこの能力に不可欠なシステムを内包しているように思われる。なぜなら、それらのシステムがうまく機能しないとき、我々は(いわば)《水準以下》の道徳的行動を観察するからである。しかし成熟した道徳判断は、単に他者の苦悩を認識するだけに留まらないものである。道徳的問題の肝心な要素は、視点の獲得だと思われる。実際、哲学者のジョナソン・デイによれば、正と不正の十分な把握には《成熟した共感》が必要であり、その際この成熟した共感には「この他人の立場に立ち、不満や怒りの感情を想像すること」(1996:175)が伴う。子どもが道徳判断において意図が果たす役割を把握するようになるまで(それには、意図そのものについて理解することが必要である)は、子どもは、「いじわるである」ためには危害を引き起こすということで十分である、と言う傾向にある。しかし他人の心に対する子どもの理解が発達していくにつれて、行為者の《意図》を考慮する傾向はいっそう増していく。これは、大人が下す道徳判断に近似するような道徳判断を下す際に、意図に関する情報と危害に関する情報を統合する傾向が増すということを反映している。」
(スコット・M・ジェイムズ(19xx-)『進化倫理学入門』第1部「利己的な遺伝子」から道徳的な存在へ、第5章 美徳と悪徳の科学、pp.136-137、名古屋大学出版会(2018)、児玉聡(訳))
(索引:道徳的判断の神経基盤)

進化倫理学入門


(出典:UNC Wilmington
スコット・M・ジェイムズの命題集(Propositions of great philosophers)  「道徳的生物を道徳的たらしめるものには、いくつかのことが関係していると考えられる。以下のものが道徳判断の形成についての概念的真理を表すと思われる。
(1)道徳的生物は禁止というものを理解する。
(2)道徳的禁止は我々の欲求に依存しないように思われ、
(3)法律のような人間の取り決めに依存するようにも思われない。むしろ、それらは主観的ではなく客観的なもののように思われる。
(4)道徳判断は動機と密接に結びついている。ある行為は間違っていると心から判断することは、少なくともその行為をするのを《差し控えたい》という欲求を含意しているようである。
(5)道徳判断は功罪の観念を含意する。道徳的に禁止されていると知っていることをすることは、処罰が正当化されうるということを含意する。
(6)我々のような道徳的生物は、自身の悪事に対して、ある特有の《感情的》反応を示し、そしてこの反応はしばしば我々を、その悪事の償いをするよう駆り立てる。」
(スコット・M・ジェイムズ(19xx-)『進化倫理学入門』第1部「利己的な遺伝子」から道徳的な存在へ、第3章 穴居人の良心、p.81、名古屋大学出版会(2018)、児玉聡(訳))
(索引:)

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次のような実験事実が存在する。幼児(生後14ヵ月)は、実験者がうっかり落とした洗濯バサミを、自然に拾いに行く。投げ落とした場合には、回収しようとしない。また、実験者が取れない対象物を取ろうと手を伸ばすと、拾いに行く。(フェリックス・ヴァーネケン)

他者の意図の理解と手助け

【次のような実験事実が存在する。幼児(生後14ヵ月)は、実験者がうっかり落とした洗濯バサミを、自然に拾いに行く。投げ落とした場合には、回収しようとしない。また、実験者が取れない対象物を取ろうと手を伸ばすと、拾いに行く。(フェリックス・ヴァーネケン)】

参考: 他者が対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その対象物をつかむ、持つといった運動特性に呼応した、観察者が知っている運動感覚の表象が自動的に現れる。この表象が行為の「意味」であり、他者の「意図」である。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))

(出典:scholar.google.com
Felix-Warneken の命題集(Propositions of great philosophers)
 「実際のところ、子どもたちが敏感なのは苦悩に対してだけではないように思われる。彼らは生まれながらの援助者であるようだ。たとえば、たった生後一四か月の子どもの付近に洗濯バサミを落っことしてみれば、あなたはその子の対応に驚くかもしれない。ハーバード大学の心理学者フェリックス・ワーケネンによれば、たとえ「まったく勧められたり褒められたりしなくとも」、その子は「そこまでハイハイして、洗濯バサミを拾い、あなたに返してくれるだろう」(Warneken and Tomasello 2009:397)。実験者が洗濯バサミを落っことすのではなく、投げ落とす場合には、幼児は通常回収しようとしない。別の実験では、ワーケネンと同僚たち(Warneken and Tomasello 2007)は、対象物が実験者には届かないが子どもには手の届くところに置かれた場合、幼児がどう対応するかテストした。実験者が対象物を取ろうと試みた(が取れなかった)とき、幼児はきまって実験者が対象物を回収する手助けをした。興味深いことに、幼児が行った手助けは報酬に影響されなかった。むしろ、幼児が手助けをしようとする傾向は実験者が対象物を取ろうと試みたか否かにのみ依存していた。実験者が対象物に手を伸ばさなければ、幼児は手助けをしなかったのだ。このことが少なくとも示唆しているのは、幼児は他者が目的をもつということだけでなく、他者が目的を達成するために手助けを必要としているということも認識することができた、ということである。」
(スコット・M・ジェイムズ(19xx-)『進化倫理学入門』第1部「利己的な遺伝子」から道徳的な存在へ、第5章 美徳と悪徳の科学、p.127、名古屋大学出版会(2018)、児玉聡(訳))
(索引:幼児の利他傾向)

進化倫理学入門


(出典:UNC Wilmington
スコット・M・ジェイムズの命題集(Propositions of great philosophers)  「道徳的生物を道徳的たらしめるものには、いくつかのことが関係していると考えられる。以下のものが道徳判断の形成についての概念的真理を表すと思われる。
(1)道徳的生物は禁止というものを理解する。
(2)道徳的禁止は我々の欲求に依存しないように思われ、
(3)法律のような人間の取り決めに依存するようにも思われない。むしろ、それらは主観的ではなく客観的なもののように思われる。
(4)道徳判断は動機と密接に結びついている。ある行為は間違っていると心から判断することは、少なくともその行為をするのを《差し控えたい》という欲求を含意しているようである。
(5)道徳判断は功罪の観念を含意する。道徳的に禁止されていると知っていることをすることは、処罰が正当化されうるということを含意する。
(6)我々のような道徳的生物は、自身の悪事に対して、ある特有の《感情的》反応を示し、そしてこの反応はしばしば我々を、その悪事の償いをするよう駆り立てる。」
(スコット・M・ジェイムズ(19xx-)『進化倫理学入門』第1部「利己的な遺伝子」から道徳的な存在へ、第3章 穴居人の良心、p.81、名古屋大学出版会(2018)、児玉聡(訳))
(索引:)

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