2018年7月29日日曜日

他者が対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その対象物をつかむ、持つといった運動特性に呼応した、観察者が知っている運動感覚の表象が自動的に現れる。この表象が行為の「意味」であり、他者の「意図」である。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))

他者の行為の意味の感知

【他者が対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その対象物をつかむ、持つといった運動特性に呼応した、観察者が知っている運動感覚の表象が自動的に現れる。この表象が行為の「意味」であり、他者の「意図」である。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))】
 (b3)その結果、他者が対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その対象物をつかむ、持つ、いじるといった運動特性に呼応した、運動感覚の表象が現れ、他者の行為の意味が感知できる。
  (b3.1)他者が、対象物へ働きかける運動行為を見る。(視覚情報)
  (b3.2)観察者の運動レパートリーに属している、その対象物をつかむ、持つ、いじるといった対象物を扱う様相によって特徴づけられる特定のタイプの行動の運動感覚の表象が現れる。これは、同一であるとか類似しているという内省や知識に基づくものではなく、自動的に現われる。
  (b3.3)運動感覚の表象は、観察者自身を統制する運動行為の表象と同じであり、この運動感覚の表象が、観察された運動行為の「意味」であり、その行動をする他者の「意図」である。
  (b3.4)従って、他者の運動行為が始まると、たとえその行為が完遂されなくても、その意味と意図は直ちに感知される。
  (b3.5)他者の、あるタイプの行為を別のタイプの行為と区別することが可能となり、最適な反応をすることができる。

(再掲)
(b)ミラーニューロン
 (b1)特定の運動行為に対応したニューロンが発火するのは、カノニカルニューロンと同じである。
 (b2)他者が、対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その特定のタイプの行為に呼応したニューロンの一部が発火する。例えば、つかむミラーニューロン、持つミラーニューロン、いじるミラーニューロン、置くミラーニューロン、両手で扱うミラーニューロン。運動行為の視覚情報には、次のような特徴がある。
 ・カノニカルニューロンとは違い、食べ物や立体的な対象物を見たときには発火しない。
 ・手や口や体の一部を使って、対象物へ働きかける行動を見たときに限られ、腕を上げるとか手を振るといったパントマイムのような行為、対象物のない自動詞的行為には反応しない。
 ・見えた行為の方向や、実験者の手(右か左か)に影響されるように思える場合もある。
 ・観察者と観察される行為との距離や相対的位置関係にはほとんど影響されずに発火する。
 ・視覚刺激の大きさに影響されることもない。
 ・2つ、あるいはめったにないが3つの運動行為のいずれかを観察すると発火するニューロンもあるようだ。  (b3)その結果、他者が対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その対象物をつかむ、持つ、いじるといった運動特性に呼応した、運動感覚の表象が現れ、他者の行為の意味が感知できる。

 「私たちが「理解」と言うとき何を意味するかというと、それは、観察された行動の感覚表象と、観察者の運動レパートリーに属するその行動の運動表象が同一である、あるいは類似しているという明白な知識はもとより内省的な知識さえも観察者(私たちの場合にはサル)が持つ、ということでは必ずしもない。私たちが「理解」という言葉で指し示すものは、もっと単純だ。それは、観察された「運動事象」を構成する特定のタイプの行為、つまり、対象物を扱う様相によって特徴づけられる特定のタイプの行為をただちに認識し、そのタイプの行為を別のタイプの行為と区別し、この情報を使って最適な反応を示す能力だ。したがって、F5野の標準ニューロンと前部頭頂間野(AIP)の視覚-運動ニューロンについてこれまで述べてきたことは、ミラーニューロンにも当てはまる。運動行為が始まると、たとえその行為が完遂されなくても、対応する視覚刺激はただちにコードされる。ただし、両者に大きな違いが一つある。ミラーニューロンの場合の視覚刺激は、対象物やその動きではなく、つかむ、持つ、あるいは、いじるために他者が対象物に働きかける動きだ。対象物の場合と同様、こうした他者の動きは、行為を実行する自己の能力を統制する運動行為の語彙によって、観察者にとって意味を獲得する。サルにとって、そうした語彙に含まれる行為は、食べ物をつかむ、持つ、口に運ぶなどだ。実験者が精密把持のために手の形を整え、食べ物をつかもうとその手を伸ばすのを見ると、サルがすぐにこれらの「運動事象」の意味を察知し、それを《意図的な行為》という観点から《解釈する》のはこのためだ。」
(ジャコモ・リゾラッティ(1938-),コラド・シニガリア(1966-),『ミラーニューロン』,第4章 行為の理解,紀伊國屋書店(2009),pp.115-116,柴田裕之(訳),茂木健一郎(監修))
(索引:他者の行為の意味の感知)

ミラーニューロン


(出典:wikipedia
ジャコモ・リゾラッティ(1938-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「みなさんは、行為の理解はまさにその性質のゆえに、潜在的に共有される行為空間を生み出すことを覚えているだろう。それは、模倣や意図的なコミュニケーションといった、しだいに複雑化していく相互作用のかたちの基礎となり、その相互作用はますます統合が進んで複雑化するミラーニューロン系を拠り所としている。これと同様に、他者の表情や動作を知覚したものをそっくり真似て、ただちにそれを内臓運動の言語でコードする脳の力は、方法やレベルは異なっていても、私たちの行為や対人関係を具体化し方向づける、情動共有のための神経基盤を提供してくれる。ここでも、ミラーニューロン系が、関係する情動行動の複雑さと洗練の度合いに応じて、より複雑な構成と構造を獲得すると考えてよさそうだ。
 いずれにしても、こうしたメカニズムには、行為の理解に介在するものに似た、共通の機能的基盤がある。どの皮質野が関与するのであれ、運動中枢と内臓運動中枢のどちらがかかわるのであれ、どのようなタイプの「ミラーリング」が誘発されるのであれ、ミラーニューロンのメカニズムは神経レベルで理解の様相を具現化しており、概念と言語のどんなかたちによる介在にも先んじて、私たちの他者経験に実体を与えてくれる。」
(ジャコモ・リゾラッティ(1938-),コラド・シニガリア(1966-),『ミラーニューロン』,第8章 情動の共有,紀伊國屋書店(2009),pp.208-209,柴田裕之(訳),茂木健一郎(監修))
(索引:)

ジャコモ・リゾラッティ(1938-)
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