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2020年5月16日土曜日

ミエリン形成グリアが知性や学習に関係があることを示唆する事実:オリゴデンドロサイトの数と脳梁の軸索の数への環境刺激の影響(若いラット,視覚野),脳梁領域への幼少期のネグレクトの影響などがある。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))

ミエリン形成グリア

【ミエリン形成グリアが知性や学習に関係があることを示唆する事実:オリゴデンドロサイトの数と脳梁の軸索の数への環境刺激の影響(若いラット,視覚野),脳梁領域への幼少期のネグレクトの影響などがある。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】

ミエリン形成グリアが知性や学習に何らかの関係を持ちうる事実
 (a)病気や毒素、感染によるミエリンの損傷は、多くの神経学的な障害を引き起こす。傷害や疾患のあとには、電気的コミュニケーションと機能の回復のために、ミエリンが必ず修復されなくてはならない。
 (b)オリゴデンドロサイト
  刺激の豊かな環境で成育された若いラットの視覚野では、オリゴデンドロサイトの数が27~33パーセントも増加する。その働きは、軸索の周囲を被覆して密閉し、電流の漏出を防ぐことである。
 (c)脳梁の軸索の数
  刺激の豊かな環境で育ったラットでは、脳梁のミエリンで被覆された軸索の数も増加していた。脳梁は、脳の左右両側を連結する軸索の太い束である。
 (d)幼少期のネグレクトの影響など
  幼少期にネグレクトに苦しんだ子供では、脳梁領域が17パーセント減少することが、MRIスキャンによって示されている。なかでも最も意外だったのが、統合失調症やうつ病を含むある種の精神障害を患う人たちの脳スキャンでも、白質の発達が低下していることを明かした最近の発見である。灰白質ではなく、白質である。

 「アストロサイトがニューロンを保護し、そのあらゆる要求に応えるために存在していることは認識されていたものの、それが情報処理や学習に一役買っているかもしれないとまでは、考えが及ばなかった。実験動物におけるアストロサイト数のどんな変化も、血管系の増加が示すのと同じ意味合いしか持たないと受け止められた。すなわち、豊かな環境が提供する精神的刺激の増加によって、ニューロンの要求が増大し、その要求を満たすために支持細胞が応答したにすぎないというのだ。
 とりわけ、ミエリン形成グリアが知性や学習に何らかの関係を持ちうるという発想は、通説からあまりにかけ離れていたので、真剣な考察の対象とはならなかった。神経科学者は、ミエリンの働きを理解していた。つまり、軸索の絶縁だ。電気工学を専攻する学生の大多数が、銅線を包むプラスチック製の絶縁体を研究するエレクトロニクス分野に魅力を感じないように、神経生物学の学生でミエリンに興味を持つ者はほとんどいない。彼らの情熱は、認知や学習、記憶などの秘密を解き明かすことに向けられている。ミエリン研究を行っているのはおもに、脱髄疾患を研究する医学者や生化学者だ。ヒト脳の半分は白質であるため、生化学者が破砕して均質化した脳組織から試験管内へ抽出したものの大半は、ミエリンである。また医師にとっては、ミエリンは間違いなく、常に研究の中心にある。なぜなら、傷害や疾患のあとには、電気的コミュニケーションと機能の回復のために、ミエリンが必ず修復されなくてはならないからだ。病気や毒素、感染によるミエリンの損傷は、多くの神経学的な障害を引き起こすが、情報処理や学習といった脳の中核的な仕組みには、ミエリンは無関係だと考えられていた。これは今なお支配的な見解だが、それも変わりつつある。
 では次に、見捨てられていた手がかりを順にたどってみよう。40年も前から、刺激の豊かな環境で成育された若いラットの視覚野では、オリゴデンドロサイトの数が27~33パーセントも増加することが知られていた。この奇妙な発見は、どうも辻褄が合わない。なにしろ、オリゴデンドロサイトはニューロンの情報処理に何の関係もないのだ。その働きは、軸索の周囲を被覆して密閉し、電流の漏出を防ぐことだけである。オリゴデンドロサイトは、シナプスとも、樹状突起とも、ニューロンの細胞体とも関連がない。
 この手がかりは、突拍子もなく感じられるかもしれないが、証拠はこれだけではない。裏付けはほかにもあるのだ。この奇妙な現象は、視覚野のグリアに限定されたものではなく、刺激の豊かな環境で育ったラットでは、脳梁のミエリンで被覆された軸索の数も増加していた。脳梁は、第11章で論じたとおり、脳の左右両側を連結する軸索の太い束だ。この脳梁を介する大脳半球間の連絡は、私たちの脳のデュアルプロセッサーを、単一の連動システムに統合するために欠かせない。ではなぜ、豊かな環境で成育された動物では、私たちの左右の脳を連結するこのケーブルを包んでいる絶縁体が増加し、この絶縁体を形成するオリゴデンドロサイトの集団が3分の1近くも数を増すのだろうか?
 この奇妙な現象は、下位のラット以外でも観察されている。刺激の豊かな環境で養育されたアカゲザルでも、脳梁に通常より多くのミエリンが発現する。この差異はさらに、学習および記憶の試験で、それらのサルの認知能力が向上していることとも相関していた。
 情報処理へのグリアの関与を示唆する同様の手がかりは、次々と現われており、それはヒトを対象とした研究でも同じだ。幼少期にネグレクトに苦しんだ子供では、脳梁領域が17パーセント減少することが、MRIスキャンによって示されている。なかでも最も意外だったのが、統合失調症やうつ病を含むある種の精神障害を患う人たちの脳スキャンでも、白質の発達が低下していることを明かした最近の発見である。精神を病んだ人たち、あるいはネグレクトに遭い、心を育むために必要とされる正常な刺激を奪われた子供たちで、萎縮することが予想される灰白質ではなく、白質が萎縮しているというのだ。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第15章 シナプスを超えた思考,講談社(2018),pp.480-482,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:思考,記憶,グリア,シナプスを超えた思考,ミエリン形成グリア)

もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)


(出典:R. Douglas Fields Home Page
R・ダグラス・フィールズ(19xx-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「アストロサイトは、脳の広大な領域を受け持っている。一個のオリゴデンドロサイトは、多数の軸索を被覆している。ミクログリアは、脳内の広い範囲を自由に動き回る。アストロサイトは一個で、10万個ものシナプスを包み込むことができる。」(中略)「グリアが利用する細胞間コミュニケーションの化学的シグナルは、広く拡散し、配線で接続されたニューロン結合を超えて働いている。こうした特徴は、点と点をつなぐニューロンのシナプス結合とは根本的に異なる、もっと大きなスケールで脳内の情報処理を制御する能力を、グリアに授けている。このような高いレベルの監督能力はおそらく、情報処理や認知にとって大きな意義を持っているのだろう。」(中略)「アストロサイトは、ニューロンのすべての活動を傍受する能力を備えている。そこには、イオン流動から、ニューロンの使用するあらゆる神経伝達物質、さらには神経修飾物質(モジュレーター)、ペプチド、ホルモンまで、神経系の機能を調節するさまざまな物質が網羅されている。グリア間の交信には、神経伝達物質だけでなく、ギャップ結合やグリア伝達物質、そして特筆すべきATPなど、いくつもの通信回線が使われている。」(中略)「アストロサイトは神経活動を感知して、ほかのアストロサイトと交信する。その一方で、オリゴデンドロサイトやミクログリア、さらには血管細胞や免疫細胞とも交信している。グリアは包括的なコミュニケーション・ネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類(グリア、ホルモン、免疫、欠陥、そしてニューロン)の情報を、文字どおり連係させている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:)

R・ダグラス・フィールズ(19xx-)
R・ダグラス・フィールズの関連書籍(amazon)
検索(R・ダグラス・フィールズ)

ミエリン形成の大部分は、生後5年間のうちに起こるが、その後、成人期に達するまでの間に、大脳皮質の後方から前方に向って緩やかに進行し、最後に、判断や複雑な論理的思考に欠かせない大脳皮質領域に至る。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))

ミエリン形成グリア

【ミエリン形成の大部分は、生後5年間のうちに起こるが、その後、成人期に達するまでの間に、大脳皮質の後方から前方に向って緩やかに進行し、最後に、判断や複雑な論理的思考に欠かせない大脳皮質領域に至る。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】

ミエリン形成グリア
 (a)ミエリン形成の大部分は、生後5年間のうちに起こる。
 (b)その後、成人期に達するまでの間に、大脳皮質の後方から前方に向って、緩やかな波を描くようにミエリン形成が進行する。
 (c)青年期までは、前脳のミエリン形成はまだ完全ではない。ミエリン形成が最後に完了するこの脳部位は、判断や複雑な論理的思考に欠かせない大脳皮質領域である。

 「ミエリン形成の大部分は、生後5年間のうちに起こるものの、その過程が成人早期まで続くことは、何十年も前から知られていた。これはなぜだろう? ミエリンがたんなる電気的絶縁体にすぎないのならば、なぜ出生前にその仕事が完了していたいのだろうか?
 出生後のヒト脳におけるミエリン形成の進み方には、興味深いパターンがある。完全なミエリン形成が最後に完了する脳領域は、より高次の認知機能にかかわる部分なのである。ヒト脳では、成人期に達するまでの間に、大脳皮質の後方(シャツ襟の位置)から前方(額の位置)に向って、緩やかな波を描くようにミエリン形成が進行する。この波状に進むミエリン形成は、よく知られたティーンエイジャーに特有の衝動的行動の一因かもしれない。青年期までは、前脳のミエリン形成はまだ完全ではない。ミエリン形成が最後に完了するこの脳部位は、判断や複雑な論理的思考に欠かせない大脳皮質領域なのだ。またここは、前頭葉切截術(ロボトミー)で外科医によって断ち切られた部位でもある。ロボトミーを受けた患者は、複雑な決断、計画の立案、あるいは見通しを立てることなどができなくなる。この前脳領域へつながる伝達路の形成が完成していないとすれば、青年たちは、成人脳が複雑な状況下で理性的な意思決定を行うことを可能にしている完全な神経回路を持ち合せていないことになる。
 興味深いことに、多くの社会で個人に完全な法的責任が認められる年齢は、思春期ではなくもう少しあとで、それは偶然にも、前脳のミエリンが完成する時期(20歳前後)とほぼ一致している。つまり、ミエリン形成グリアは、法的責任を認める年齢に生物学的根拠を提供していると言える。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第15章 シナプスを超えた思考,講談社(2018),pp.476-477,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:思考,記憶,グリア,シナプスを超えた思考,ミエリン形成グリア)

もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)


(出典:R. Douglas Fields Home Page
R・ダグラス・フィールズ(19xx-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「アストロサイトは、脳の広大な領域を受け持っている。一個のオリゴデンドロサイトは、多数の軸索を被覆している。ミクログリアは、脳内の広い範囲を自由に動き回る。アストロサイトは一個で、10万個ものシナプスを包み込むことができる。」(中略)「グリアが利用する細胞間コミュニケーションの化学的シグナルは、広く拡散し、配線で接続されたニューロン結合を超えて働いている。こうした特徴は、点と点をつなぐニューロンのシナプス結合とは根本的に異なる、もっと大きなスケールで脳内の情報処理を制御する能力を、グリアに授けている。このような高いレベルの監督能力はおそらく、情報処理や認知にとって大きな意義を持っているのだろう。」(中略)「アストロサイトは、ニューロンのすべての活動を傍受する能力を備えている。そこには、イオン流動から、ニューロンの使用するあらゆる神経伝達物質、さらには神経修飾物質(モジュレーター)、ペプチド、ホルモンまで、神経系の機能を調節するさまざまな物質が網羅されている。グリア間の交信には、神経伝達物質だけでなく、ギャップ結合やグリア伝達物質、そして特筆すべきATPなど、いくつもの通信回線が使われている。」(中略)「アストロサイトは神経活動を感知して、ほかのアストロサイトと交信する。その一方で、オリゴデンドロサイトやミクログリア、さらには血管細胞や免疫細胞とも交信している。グリアは包括的なコミュニケーション・ネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類(グリア、ホルモン、免疫、欠陥、そしてニューロン)の情報を、文字どおり連係させている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:)

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2020年5月3日日曜日

シナプスの情報をアストロサイトが拾い上げ、「もうひとつの脳」の中のグリア回路網を通して流れ、別のアストロサイトからの神経伝達物質放出を促すことによって、別の場所でシナプスの制御に活用している。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))

アストロサイト

【シナプスの情報をアストロサイトが拾い上げ、「もうひとつの脳」の中のグリア回路網を通して流れ、別のアストロサイトからの神経伝達物質放出を促すことによって、別の場所でシナプスの制御に活用している。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】

 「アストロサイトは、ニューロンのような様式で、遠くまで迅速に情報を送信する必要がないので、電気的インパルスを発火しないのだと、私たちは今では理解している。そのためアストロサイトは、電気的なコミュニケーションには手を出さないが、ニューロンの持つより興味深い第二の交信方法、すなわち神経伝達物質によるコミュニケーションを存分に活用し、そこに関与している。
 アストロサイトの活動は、脳の比較的大きな領域に及ぶので、シナプスへの影響も広範囲にわたるはずである。とはいえ、あるシナプスの情報が一個のアストロサイトによって拾い上げられて、「もうひとつの脳」のなかのグリア回路網を通して流れ、別のアストロサイトからの神経伝達物質放出を促すことによって、神経回路で直接結合していない遠くのシナプスにおけるニューロンのコミュニケーションを調節している可能性については、21世紀初頭に至るまで検証されていなかった。この仮説は、2005年にフィリップ・ヘイドンのグループによって証明された。彼らの研究により、アストロサイトは海馬のシナプス活動にカルシウム上昇によって応答するが、それが次に、発火した近傍のシナプスだけでなく、同じニューロンの遠く離れた別のシナプスでも伝達強度を調節していることが確認された。脳内の遠い場所を結んで、ニューロン回路の外側からシナプス伝達を調節しているアストロサイトはまさしく、制御装置にほかならなかった。「ニューロンの脳」の情報は、「もうひとつの脳」によって傍受され、「ニューロンの脳」の別の場所でシナプスの制御に活用されていたのだ。私たちの中にある二つの心がこうして出会うことで、「ニューロンの脳」だけでは実現できないどんな働きが可能になるのだろうか?
 離れたシナプスの強度を調節するこの現象(異シナプス性抑制として知られる)は、騒々しいレストランの中で会話を続けるときに、私たちの誰もが経験することによく似ている。食事相手の話をいつも以上に注意深く聴き取ると同時に、厨房からの雑音や周りで食事をしている人たちの間で交わされる会話は耳に入れないようにする。このような精神集中は、私たちを取り巻く環境の中で、すべての騒音から重要なシグナルを選別するためには不可欠である。これと同じことが、私たちの海馬でも起こっている。あなたが学習したいと望んでいる新しい情報を運んでくる入力のなされるシナプスは、長期増強によって強化される一方、注意をそらす邪魔な情報を別のシナプスから同じニューロンに伝えている入力は抑制されているのだ。おなたはおそらく、この抑制された背景情報を記憶していないだろう。」(中略)「アストロサイトが、周囲にあるシナプスを抑制して、私たちの記憶中枢に対する特定の入力を際立たせている細胞であることを知って、多くの人が衝撃を受けた。もしアストロサイトが、シナプスの集中調節という重要な働きができなくなったら、どうなるだろうか? それは学習や注意、さらには精神状態にどう影響するのか? アストロサイトが、独自のグリアネットワークを介した交信方法を用いて、シナプス強度を調節していると判明したことも、同じように驚きだった。このネットワークは、ニューロン間を配線でつないだ接続回線に拘束されることなく、神経ネットワークの外側で作動している。この携帯電話のようなアストロサイト網については、私たちは何も知らないも同然だ。このネットワークの境界は何なのか? それらは修正可能なのか――言い換えれば、アストロサイトは精神的経験に従って変化し、学習するのか? アストロサイトが実際に、学習においてネットワークの結合強度を変更していることを示す証拠が、新たな研究で得られ始めている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第14章 ニューロンを超えた記憶と脳の力,講談社(2018),pp.469-472,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:アストロサイト,グリア回路網,神経伝達物質)

もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)



(出典:R. Douglas Fields Home Page
R・ダグラス・フィールズ(19xx-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「アストロサイトは、脳の広大な領域を受け持っている。一個のオリゴデンドロサイトは、多数の軸索を被覆している。ミクログリアは、脳内の広い範囲を自由に動き回る。アストロサイトは一個で、10万個ものシナプスを包み込むことができる。」(中略)「グリアが利用する細胞間コミュニケーションの化学的シグナルは、広く拡散し、配線で接続されたニューロン結合を超えて働いている。こうした特徴は、点と点をつなぐニューロンのシナプス結合とは根本的に異なる、もっと大きなスケールで脳内の情報処理を制御する能力を、グリアに授けている。このような高いレベルの監督能力はおそらく、情報処理や認知にとって大きな意義を持っているのだろう。」(中略)「アストロサイトは、ニューロンのすべての活動を傍受する能力を備えている。そこには、イオン流動から、ニューロンの使用するあらゆる神経伝達物質、さらには神経修飾物質(モジュレーター)、ペプチド、ホルモンまで、神経系の機能を調節するさまざまな物質が網羅されている。グリア間の交信には、神経伝達物質だけでなく、ギャップ結合やグリア伝達物質、そして特筆すべきATPなど、いくつもの通信回線が使われている。」(中略)「アストロサイトは神経活動を感知して、ほかのアストロサイトと交信する。その一方で、オリゴデンドロサイトやミクログリア、さらには血管細胞や免疫細胞とも交信している。グリアは包括的なコミュニケーション・ネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類(グリア、ホルモン、免疫、欠陥、そしてニューロン)の情報を、文字どおり連係させている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:)

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2018年8月9日木曜日

人生の約3分の1を占める睡眠は、きわめて能動的な状態である:(a)意識的、無意識的な出来事が、見直され、関連づけられ、保管され、破棄される。(b)グリアに関連する数百の遺伝子が合成されている。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))

睡眠

【人生の約3分の1を占める睡眠は、きわめて能動的な状態である:(a)意識的、無意識的な出来事が、見直され、関連づけられ、保管され、破棄される。(b)グリアに関連する数百の遺伝子が合成されている。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】

 人生の約3分の1を占める睡眠は、単なる休止状態ではなく、きわめて能動的な精神作用である。
(1)睡眠中は、身体を動かなくさせて、自由奔放な脳内の活動によって、身体が危険な運動を起こさないようにしている。
(2)意識的、無意識的な出来事が、情報の種類や、別の出来事との関連性、内面的な心情によって判断した重要さの度合いなどの要因に従って、見直され、仕分けされ、関連づけられ、再考され、脳内の一つの部位から大脳皮質のさまざまな場所に移されて保管され、さらには破棄される。
(3)睡眠中の脳内では、数百の遺伝子が合成されている。これら遺伝子の多くが、グリアにしか見つからない。例として、レム睡眠中の脳内で最も活発に合成される遺伝子のいくつかは、ミエリンを形成するオリゴデンドロサイトに存在する遺伝子だ。

 「私たちの無意識と意識の中間には、睡眠という変容した精神状態がある。もしあなたが75歳まで生きるとしたら、そのうちの25年ぐらいは、おそらく眠って過ごすことになるだろう。人生の大きな割合を占めるその期間に、脳内で何が起こっているのかは、知ることも理解することもほとんどできない。睡眠は私たち自身の不可解な、それでいて神秘的な部分だ。睡眠がたんなる夜間の休止状態、つまり、暗闇のなかで体内システムの活動を停止しているにすぎないのだとしたら、日中に元気よく身体活動ができるように、エネルギーを節約するための合理的な戦略として納得できる。睡眠は、長い時間操作がないと、節電のためにラップトップコンピューターが一時的な休止状態になるようなものかもしれない。ところが、睡眠中にヒトの(さらに言えば、動物の)脳内で起こっていることは、休止状態とはかけ離れている。睡眠中、脳は忙しく働いているのだ。それは変容した精神状態だが、けっして不活発ではない。睡眠は能動的な精神作用であり、その過程で一部の脳回路が身体を動かなくさせて、私たちの精神が夜間の自由奔放な空想のなかで躍動できるようにしている。このように体が動かせないおかげで、私たちはベッドから飛び出して、夢の中の追手から走って逃げたり、夢見心地で体験しているどんな空想も追いかけていったりせずにすむのだ。
 膨大な量の活動がさまざまな脳回路を往来するために、夜間の無意識な生活における脳内活動には、周期とパターンが作り出されている。そのなかで、その日にあった出来事(意識的および無意識的の両方)が見直され、仕分けされ、関連づけられ、再考され、保管され、さらには破棄される。それらの記憶は、そこに含まれる情報の種類や、別の出来事との関連性、内面的な心情によって判断した重要さの度合いなどの要因に従って、脳内の一つの部位(訳注;海馬)から大脳皮質のさまざまな場所に移されて保管される。この変容した意識状態は、おそらくあなたの存在の三分の一ほどを占めるだろうが、科学にとって今なお謎であり、研究するのは難しい。私たちが眠っているとき、グリアには何が起こっているのだろうか? さらに興味深いのは、私たちが睡眠と呼んでいるこの精神状態の制御に、グリアは関与しているのかという疑問だ。
 遺伝子チップ(何千もの遺伝子の活動を同時にモニターすることを可能にした新しい研究手法)を用いて、睡眠の異なる位相でオンオフする脳組織内の遺伝子の変化を検出した研究から、ある洞察が浮び上がってきた。この研究によれば、レム睡眠とノンレム睡眠の各位相で、脳内では数百の遺伝子が合成されているという(レム睡眠とは、「急速眼球運動睡眠」とも称され、夢を見ている睡眠の位相である)。最近判明した驚くべき事実は、睡眠中に合成される遺伝子の多くが、グリアにしか見つからないことだった。実際に、レム睡眠中の脳内で最も活発に合成される遺伝子のいくつかは、ミエリンを形成するオリゴデンドロサイトに存在する遺伝子だ。その理由は、誰にもわからない。しかしこれは、私たちが眠っている間も、グリアはけっして眠っていないことを示す有力な証拠である。グリアは、私たちがまだ理解していない何らかの仕事に精を出しているのだ。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第13章 「もうひとつの脳」の心――グリアは意識と無意識を制御する,講談社(2018),pp.442-445,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:睡眠,グリア,ミエリン,オリゴデンドロサイト)

もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)


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R・ダグラス・フィールズ(19xx-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「アストロサイトは、脳の広大な領域を受け持っている。一個のオリゴデンドロサイトは、多数の軸索を被覆している。ミクログリアは、脳内の広い範囲を自由に動き回る。アストロサイトは一個で、10万個ものシナプスを包み込むことができる。」(中略)「グリアが利用する細胞間コミュニケーションの化学的シグナルは、広く拡散し、配線で接続されたニューロン結合を超えて働いている。こうした特徴は、点と点をつなぐニューロンのシナプス結合とは根本的に異なる、もっと大きなスケールで脳内の情報処理を制御する能力を、グリアに授けている。このような高いレベルの監督能力はおそらく、情報処理や認知にとって大きな意義を持っているのだろう。」(中略)「アストロサイトは、ニューロンのすべての活動を傍受する能力を備えている。そこには、イオン流動から、ニューロンの使用するあらゆる神経伝達物質、さらには神経修飾物質(モジュレーター)、ペプチド、ホルモンまで、神経系の機能を調節するさまざまな物質が網羅されている。グリア間の交信には、神経伝達物質だけでなく、ギャップ結合やグリア伝達物質、そして特筆すべきATPなど、いくつもの通信回線が使われている。」(中略)「アストロサイトは神経活動を感知して、ほかのアストロサイトと交信する。その一方で、オリゴデンドロサイトやミクログリア、さらには血管細胞や免疫細胞とも交信している。グリアは包括的なコミュニケーション・ネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類(グリア、ホルモン、免疫、欠陥、そしてニューロン)の情報を、文字どおり連係させている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
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2018年7月26日木曜日

グリアの数はニューロンの6倍にも達する。その大まかな種類は、シュワン細胞、稀突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)、アストロサイト、小膠細胞(ミクログリア)。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))

グリア

【グリアの数はニューロンの6倍にも達する。その大まかな種類は、シュワン細胞、稀突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)、アストロサイト、小膠細胞(ミクログリア)。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】

 「現在のところ、神経組織にはニューロンに加えて、大きく4種類に分類されるグリアが存在することがわかっている。そのうちの2種類、すなわち末梢神経にあるシュワン細胞と、脳や脊髄に見られる稀突起膠細胞(オリゴデンドロサイト)は、軸索の周囲にミエリンという絶縁体を形成する。また脳と脊髄の全域に、アストロサイトと小膠細胞(ミクログリア)というグリアも存在する。ミクログリアは、脳を損傷や病気から保護しており、脳や脊髄が損傷から回復するうえで中心的な役割を担う。あらゆる種類のグリアがニューロン内の電気信号を感知して、それに応答している可能性を示す興味深い手がかりも見つかっている。
 その意味するところを考えてみよう。脳内の電気活動は、知覚や経験、思考、そして気分を伝える。グリア細胞は神経系で多様な機能を実行しているので、もしグリアが神経インパルスの活動を感知できるならば、広範囲にわたる脳機能がグリアの影響を受けている可能性がある。感染に対する免疫系の反応から、軸索の絶縁、脳の配線の敷設・組換えや、病気や損傷からの脳の回復に至るあらゆる機能が、グリアを介して作用するインパルス活動の影響を受けているかもしれない。
 グリアの数はニューロンの6倍にも達するが、その正確な比率は神経系の部位ごとに異なる。それはちょうど、男女の比率は平均すると1対1であるものの、その正確な割合は場所によって大きく異なるのと同じだ。たとえば、理髪店では男性10人に対して女性1人だが、手芸店ではちょうどその逆になる。末梢の神経線維沿いや脳内の白質神経路では、グリアとニューロンの比率は100対1にもなりうる。なぜなら、軸索は全長にわたって、およそ1ミリメートル感覚でミエリン形成グリアに被覆されているからだ。人の前頭皮質におけるアストロサイトとニューロンの比率は4対1だが、クジラやイルカの巨大な前脳では、ニューロン1個あたり7個のアストロサイトが存在する。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第1部 もうひとつの脳の発見,第2章 脳の中を覗く――脳を構成する細胞群,講談社(2018),pp.52-54,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:シュワン細胞,稀突起膠細胞,オリゴデンドロサイト,アストロサイト,小膠細胞,ミクログリア)

もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)


(出典:R. Douglas Fields Home Page
R・ダグラス・フィールズ(19xx-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「アストロサイトは、脳の広大な領域を受け持っている。一個のオリゴデンドロサイトは、多数の軸索を被覆している。ミクログリアは、脳内の広い範囲を自由に動き回る。アストロサイトは一個で、10万個ものシナプスを包み込むことができる。」(中略)「グリアが利用する細胞間コミュニケーションの化学的シグナルは、広く拡散し、配線で接続されたニューロン結合を超えて働いている。こうした特徴は、点と点をつなぐニューロンのシナプス結合とは根本的に異なる、もっと大きなスケールで脳内の情報処理を制御する能力を、グリアに授けている。このような高いレベルの監督能力はおそらく、情報処理や認知にとって大きな意義を持っているのだろう。」(中略)「アストロサイトは、ニューロンのすべての活動を傍受する能力を備えている。そこには、イオン流動から、ニューロンの使用するあらゆる神経伝達物質、さらには神経修飾物質(モジュレーター)、ペプチド、ホルモンまで、神経系の機能を調節するさまざまな物質が網羅されている。グリア間の交信には、神経伝達物質だけでなく、ギャップ結合やグリア伝達物質、そして特筆すべきATPなど、いくつもの通信回線が使われている。」(中略)「アストロサイトは神経活動を感知して、ほかのアストロサイトと交信する。その一方で、オリゴデンドロサイトやミクログリア、さらには血管細胞や免疫細胞とも交信している。グリアは包括的なコミュニケーション・ネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類(グリア、ホルモン、免疫、欠陥、そしてニューロン)の情報を、文字どおり連係させている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:)

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