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2018年11月10日土曜日

協力戦略を支える情動的傾向:(1)共感、他者の情動、苦痛、意図の感知、(2)好意、感謝、憤慨、怒り、誇り、恥、(3)自他の社会的位置の感知、表示、所属集団のひいき、外部集団の敵視。(ジョシュア・グリーン(19xx-))

協力戦略を支える情動的傾向

【協力戦略を支える情動的傾向:(1)共感、他者の情動、苦痛、意図の感知、(2)好意、感謝、憤慨、怒り、誇り、恥、(3)自他の社会的位置の感知、表示、所属集団のひいき、外部集団の敵視。(ジョシュア・グリーン(19xx-))】
 協力戦略に対して、私たちの道徳脳には、戦略を実行するための情動的傾向が備わっている。
(a)共感、他者の情動、苦痛、意図の感知
《機能》他者への思いやり、気づかい。他者の情動、意図、感情を理解する。直接的・意図的な加害の躊躇し、他者への加害を黙視することを躊躇する。
 参照: 他者が対象物へ働きかける運動行為を見るとき、その対象物をつかむ、持つといった運動特性に呼応した、観察者が知っている運動感覚の表象が自動的に現れる。この表象が行為の「意味」であり、他者の「意図」である。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))
 参照: 2人以上の行為者が、相手の行為の意図を互いに、自己の潜在的運動行為として自動的に了解し合っているとき、この相互関係の状況を「行為の共有空間」と呼ぶ。これは、ミラーニューロンが実現している。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))
 参照: 他者の情動の表出を見るとき、その情動の基盤となっている内臓運動の表象が現れ、他者の情動が直ちに感知される。これは潜在的な場合もあれば実行されることもあり、複雑な対人関係の基盤の必要条件となっている。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))
 参照: 2人以上の情動表出者が、相手の情動を互いに、自己の内臓運動の表象として自動的に了解し合っているとき、この相互関係の状況を「情動の共有空間」と呼ぶ。これは、ミラーニューロンが実現している。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))
 参照: 他人が物理的な痛みを受けているところを見ると、その視覚情報が、痛みを与える対象(例えば針)から退避しようとする筋肉運動または潜在的な運動を引き起こし、これが他人の痛みを身体的に了解させる。(マルコ・イアコボーニ(1960-))

(b)怒り、嫌悪、許し、感謝
《機能》非協力的な個人を罰し、避けようとし、協力すれば許す。協力の動機を強める。(直接互恵性)
 参照: 「囚人のジレンマ」ゲームの多様な戦略を実装したコンピュータプログラムの総当たり戦で、最も成績が良かったのは、協力する相手に対しては協力し、裏切られたら裏切るという「しっぺ返し」戦略であった。(ロバート・アクセルロッド(1943-))

(c)復讐心、羞恥心、罪悪感、忠誠心、謙遜、畏怖
《機能》たとえ代価が利益を上回っても非協力的な行為を罰しようとする。非協力的な行動をする自分自身を罰しようとする。(確実な脅しや約束)

(d)好意、感謝、憤慨、怒り、誇り、恥
《機能》他者の行為の善悪の感知する。評判を仲間と共有する。他者の監視の目によって自己評価する。(評判)
 参照: 生後半年と生後10か月の赤ちゃんであっても、「親切な」おもちゃと「意地悪な」おもちゃの識別を行い、親切な徴候を示すおもちゃに手を伸ばして取ろうとすることを示す実験の事例がある。(ポール・ブルーム(1963-))
 参照: 抽象的な目のデザイン、または目の写真があるだけで、社会的規制の効果があることを示す実験の事例がある。監視の目と、善悪の関する噂話や評判が、社会的規制に大きな影響力を持っている。(ジョシュア・グリーン(19xx-))
 (d.1)他の人たちによってなされた行為による〈善〉と〈悪〉の感受:〈好意〉〈感謝〉〈憤慨〉〈怒り〉
  参照: 〈好意〉、〈感謝〉(ルネ・デカルト(1596-1650))
  参照: 〈憤慨〉、〈怒り〉(ルネ・デカルト(1596-1650))
 (d.2)私たち自身によって過去なされた行為や、現在の私たちに関する、他の人たちの意見による〈善〉と〈悪〉の感受:〈誇り〉〈恥〉
  参照: 〈誇り〉、〈恥〉(ルネ・デカルト(1596-1650))
  参照: 誇りは希望によって徳へ促し、恥は不安によって徳へ促す。また仮に、真の善・悪でなくとも、世間の人たちの非難、賞賛は十分に考慮すること。(ルネ・デカルト(1596-1650))

(e)自他の社会的位置の感知、表示、所属集団のひいき、外部集団の敵視(部族主義的情動)
《機能》協力的な集団に所属して、集団内の協力を強化する。(分類)
 参照: 人間には、偏狭な利他主義、部族主義の傾向がある。それは、自他の社会的位置を識別し、表示し、行動を調整する人間の能力を基礎とし、所属集団の利益を守るため、集団内部の協力を促し、外部に対抗する傾向である。(ポール・ブルーム(1963-))
 参照: 人間には、集団の成員であることを示す恣意的な目印を基に、簡単に人を社会的に分類し、社会的選好を形成する傾向が存在する。仮に、何の根拠もない無作為のグループにも、内集団の成員をひいきにする傾向がある。(ヘンリー・タジフェル(1919-1982))

(f)怒り、義憤
《機能》自分には何の得にならなくても、非協力的な者を罰する(向社会的処罰者)。(間接互恵性)
 参照: 「互いの協力によって成立している集団における「ただ乗り者」に対して、人は怒りの感情を持ち、代価を支払っても処罰しようとする。このような、人間が持つ向社会的処罰の傾向は、集団内の互いの協力を高める。(エルンスト・フェール(1956-))

 「それぞれの協力戦略に対して、私たちの道徳脳には、戦略を実行するための情動的傾向が備わっている。それらをひとつずつ見ていこう。
 他者への思いやり……自分の取り分だけでなく、他者の取り分も同じように大切にするのなら、二人の囚人はマジックコーナーを見つけられる。この戦略に対応して、人間には《共感》が備わっている。さらに一般化すると、私たちには、他者、とくに家族、友人、恋人の身に起きることを《気づかう》情動が備わっている。私たちの情動はまた、他者に直接、かつ意図的に危害を加えることを躊躇させる。そして(それほどではないものの)他者が危害を加えられるのを見過ごすことも躊躇させる。私はこれを《最低限の良識》と呼ぶ。
 直接互恵性……いま協力しなければ、将来協力して得られる利益が消えてしまうとわかっていれば、二人の囚人はマジックコーナーを見つけられる。この戦略に対応して、人間には《怒り》や《嫌悪》などのネガティブな情動が備わっている。これらの存在は実際よく知られていて、私たちに、非協力的な個人を罰しようとか、避けようとする動機を与える。同時に、こうしたネガティブな情動への傾向は、間違いがつきものである世界への適応戦略である《許し》の性向によって和らげられる。私たちは《感謝》を通じて協力へのポジティブな動機を互いに与えあう。
 確実な脅しや約束……互いの非協力的行動を罰すると固く誓っているなら、二人の囚人はマジックコーナーを見つけられる。この戦略に対応して、人はしばしば《復讐心》を抱く。多くの人に備わっている(これもよく知られている)のが、たとえ代価が利益を上回っても非協力的な行為を罰しようとする情動的傾向だ。同様に、非協力的行動をとった《自分自身を》罰することを確約しているのならば、二人の囚人はマジックコーナーを見つけられる。この戦略に対応して、人にときに《高潔》になるし、《羞恥心》や《罪悪感》といった自罰的情動の傾向も知られている。人は、これに関係した《忠誠心》という美徳も示す。愛とセットの忠誠心もそれに含まれる。より高位の権威への忠誠心には、《謙遜》という美徳や《畏怖》を感じる能力も備わっている。
 評判……ここで非協力的なふるまいをすれば、事情をよく知る《他人》にこれから協力してもらえなくなるとわかっていれば、二人の囚人はマジックコーナーを見つけられる。この戦略に対応して、私たち人間は、乳児でさえ、《手厳しい》。私たちは、人が他人にどう接するかに注目し、それに応じて相手へのふるまいを調節する。さらに、《ゴシップ》を発信し消費するという抑えがたい性向によって、自分たちの判断の影響を増幅させる。そのため、私たちは、他者の監視の目に非常に敏感になる。他者の目があるために私たちは《自分を意識する》。自意識がうまく働かずに一線を超えたところを見つかると、見た目にはっきりと《恥入り》、もうしませんという信号を発する。
 分類……協力的な集団に所属することによって、二人の囚人はマジックコーナーを見つけられる。ただしこの集団の成員が互いを確実に特定できればの話だ。この戦略に対応して、人間は《部族主義的》である。集団の成員が発する信号を敏感にキャッチし、外集団より内集団の成員(見ず知らずの人であっても)を直感的に好む傾向がある。
 間接互恵性……協力的でない者を罰する(あるいは、協力した者には報酬を与える)他者の存在があるのなら、二人の囚人はマジックコーナーを見つけられる。この戦略に対応して、人間は《向社会的処罰者》である。《義憤》に駆られ、自分には何の得にならなくても、非協力的な者を罰する。他者にも、裏切り者に対して正当な憤りを感じることを期待する。」
(ジョシュア・グリーン(19xx-),『モラル・トライブズ』,第1部 道徳の問題,第2章 道徳マシン,岩波書店(2015),(上),pp.79-82,竹田円(訳))
(索引:他者への思いやり,直接互恵性,確実な脅しや約束,評判,分類,間接互恵性)

モラル・トライブズ――共存の道徳哲学へ(上)


(出典:Joshua Greene
ジョシュア・グリーン(19xx-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「あなたが宇宙を任されていて、知性と感覚を備えたあらたな種を創造しようと決意したとする。この種はこれから、地球のように資源が乏しい世界で暮らす。そこは、資源を「持てる者」に分配するのではなく「持たざる者」へ分配することによって、より多くの苦しみが取り除かれ、より多くの幸福が生み出される世界だ。あなたはあらたな生物の心の設計にとりかかる。そして、その生物が互いをどう扱うかを選択する。あなたはあらたな種の選択肢を次の三つに絞った。
 種1 ホモ・セルフィッシュス
 この生物は互いをまったく思いやらない。自分ができるだけ幸福になるためには何でもするが、他者の幸福には関心がない。ホモ・セルフィッシュスの世界はかなり悲惨で、誰も他者を信用しないし、みんなが乏しい資源をめぐってつねに争っている。
 種2 ホモ・ジャストライクアス
 この種の成員はかなり利己的ではあるが、比較的少数の特定の個体を深く気づかい、そこまでではないものの、特定の集団に属する個体も思いやる。他の条件がすべて等しければ、他者が不幸であるよりは幸福であることを好む。しかし、彼らはほとんどの場合、見ず知らずの他者のために、とくに他集団に属する他者のためには、ほとんど何もしようとはしない。愛情深い種ではあるが、彼らの愛情はとても限定的だ。多くの成員は非常に幸福だが、種全体としては、本来可能であるよりはるかに幸福ではない。それというのも、ホモ・ジャストライクアスは、資源を、自分自身と、身近な仲間のためにできるだけ溜め込む傾向があるからだ。そのためい、ホモ・ジャストライクアスの多くの成員(半数を少し下回るくらい)が、幸福になるために必要な資源を手に入れられないでいる。
 種3 ホモ・ユーティリトゥス
 この種の成員は、すべての成員の幸福を等しく尊重する。この種はこれ以上ありえないほど幸福だ。それは互いを最大限に思いやっているからだ。この種は、普遍的な愛の精神に満たされている。すなわち、ホモ・ユーティリトゥスの成員たちは、ホモ・ジャストライクアスの成員たちが自分たちの家族や親しい友人を大切にするときと同じ愛情をもって、互いを大切にしている。その結果、彼らはこの上なく幸福である。
 私が宇宙を任されたならば、普遍的な愛に満たされている幸福度の高い種、ホモ・ユーティリトゥスを選ぶだろう。」(中略)「私が言いたいのはこういうことだ。生身の人間に対して、より大きな善のために、その人が大切にしているものをほぼすべて脇に置くことを期待するのは合理的ではない。私自身、遠くでお腹をすかせている子供たちのために使った方がよいお金を、自分の子供たちのために使っている。そして、改めるつもりもない。だって、私はただの人間なのだから! しかし、私は、自分が偽善者だと自覚している人間でありたい、そして偽善者の度合いを減らそうとする人間でありたい。自分の種に固有の道徳的限界を理想的な価値観だと勘違いしている人であるよりも。」
(ジョシュア・グリーン(19xx-),『モラル・トライブズ』,第4部 道徳の断罪,第10章 正義と公正,岩波書店(2015),(下),pp.357-358,竹田円(訳))
(索引:)

ジョシュア・グリーン(19xx-)
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