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2020年7月2日木曜日

06.意識的な知覚表象の生理学的な標識:(a)頭頂葉および前頭前野の神経回路の突然の発火(意識のなだれ)(b)刺激から3分の1秒後に発生するP3波(c)高周波振動の突発(d)多数の皮質領域間の双方向メッセージ交換(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))

被験者が意識的な知覚表象を経験したか否かを示す生理学的な標識

【意識的な知覚表象の生理学的な標識:(a)頭頂葉および前頭前野の神経回路の突然の発火(意識のなだれ)(b)刺激から3分の1秒後に発生するP3波(c)高周波振動の突発(d)多数の皮質領域間の双方向メッセージ交換(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))】

(1)正確に同じ刺激が、無意識のままであったり、意識されたりする。
 (a)最初はほぼ同量の活動が、視覚皮質において発生する。
 (b)その後、頭頂葉、および前頭前野の神経回路の突然の発火が起こるかどうかで、意識されるかどうかが決まる。
(2)被験者が意識的な知覚表象を経験したか否かを示す生理学的な標識
 (2.1)頭頂葉、および前頭前野の神経回路の突然の発火(意識のなだれ)
  (a)意識される刺激は、頭頂葉、および前頭前野の神経回路の突然の発火に至る激しいニューロンの活動を引き起こす。
  (b)参考:無意識の機能
   (i)脳の後部に位置するシステム
    無意識的トライアルでは、活動の波は脳の後部に位置するシステムに限定され、それゆえ意識はそれに触れられず、そこで起こっている事象にまったく気づかない。
   (ii)左側頭葉での単語の意味の無意識の解釈
    無意識の活動の波はおよそ500ミリ秒間、左側頭葉内部の、単語の意味に関連する領域で反響し続ける。
 (2.2)刺激から3分の1秒後に発生するP3波
  (a)P3波の特徴
   (i)コンシャスアクセスは、刺激が与えられてから3分の1秒が経過してから生じる、P3波と呼ばれる遅い脳波を伴う。
   (ii)これは、270ミリ秒付近で始まり、350~500ミリ秒のどこかの時点でピークに達する。
   (iii)これは、刺激入力後3番目の大きな陽性ピークなので、P3波と呼ばれる。
  (b)P3波の検出方法
   これは、頭頂部に取りつけた電極によって容易に検出できる。
  (c)P3波に対応する意識
   コンシャスアクセスはプッシュ&プルシステムとして機能する。脳は、先行する文字列によって長時間占有されると(これは長いP3波によって示される)、次の表示されるターゲットワードに対して、同時に注意を向けられなくなる。
 (2.3)高周波振動の突発
  (a)意識の点火はさらに、高周波振動の遅れての突発を引き起こす。
 (2.4)多数の皮質領域間の双方向メッセージ交換
  (a)互いに遠く隔たった多数の皮質領域が、双方向の同期したメッセージ交換に参加し、広域的な脳のウェブを形成する。

視覚皮質
 │
 ├→無意識の過程(脳の後部に位置する)
 │
 ├→単語の意味の無意識の解釈(左側頭葉)継続:500ms
 │
 └→頭頂葉、前頭前野の突然の発火(意識のなだれ)
    ↓
   P3波(意識のプッシュ&プルシステム)
    ↓ 開始:270ms, ピーク:350~500ms
   高周波振動の突発
    ↓
   多数の皮質領域間の双方向メッセージ交換

 「われわれが与えた刺激は、意識的、無意識的いずれのトライアルでも、《正確に》同じものであった点に鑑みると、無意識から意識への移行の迅速さには目を見張るものがある。刺激が与えられたあと200~300ミリ秒という、100ミリ秒以内に、まったく相違無しから、全か無かに変わったのだ。いずれのケースでの、ターゲットワードは、最初はほぼ同量の活動を視覚皮質に引き起こしながらも、意識的トライアルでは、この活動の波は勢力を増し、前頭葉と頭頂葉のネットワークの堤防を突破して、はるかに広大な皮質領域へと突然流入するらしい。それに対し無意識的トライアルでは、活動の波は脳の後部に位置するシステムに限定され、それゆえ意識はそれに触れられず、そこで起こっている事象にまったく気づかない。
 とはいえ、無意識の活動はただちに鎮静するわけではない。無意識の活動の波はおよそ500ミリ秒間、左側頭葉内部の、単語の意味に関連する領域で反響し続ける。第2章では、注意の瞬きが生じているあいだ、被験者には見えていない単語の意味が活性化され続けることを見た。この無意識の解釈は、側頭葉の内部で生じる。したがって、前頭葉、および頭頂葉の広大な領域への、活動の波の流入のみが、意識的知覚の存在を示す。
 意識のなだれは、頭頂部に取りつけた電極によって容易に検出できる単純な標識を生む。意識的トライアルでのみ、十分な電圧を持つ脳波がこの領域に浸透する。それは270ミリ秒付近で始まり、350~500ミリ秒のどこかの時点でピークに達する。この大規模で緩慢な事象は、(刺激入力後3番目の大きな陽性ピークなので)P3波と呼ばれる。もちろんその大きさは数マイクロボルトにすぎず、単三電池より百万倍小さい。とはいえ、そのような電気的活動の高まりは、現在では増幅器を用いれば簡単に測定できる。P3波は、二つ目の意識のしるしであり、意識的知覚表象へのアクセスが突然得られるときにはつねに簡単に記録できることが、さまざまな方法によって示されている。
 脳波記録を詳細に調査すると、P3波の発達は、被験者がターゲットワードを見落とした《理由》を説明することがわかった。われわれの実験では、実際には《二つの》P3波が検出された。最初のP3波は、被験者の注意をそらせるために表示された先行する文字列によって引き起こされたもので、この文字列はつねに意識的に知覚されていた。二番目のP3波は、ターゲットワードが見えたときに引き起こされた。おもしろいことに、これら二つの事象のあいだには一定の交換条件が存在する。最初のP3波が長く大きいと、二番目のP3波は、欠けることが多かった。そしてこのケースは、まさにターゲットワードが見落とされたトライアルに見られた。このように、コンシャスアクセスはプッシュ&プルシステムとして機能する。脳は、先行する文字列によって長時間占有されると(これは長いP3波によって示される)、次の表示されるターゲットワードに対して、同時に注意を向けられなくなるのだ。どうやら一方の単語の意識は、他方の単語の意識を除外するらしい。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『意識と脳』,第4章 意識的思考のしるし,紀伊國屋書店(2015),pp.176-177,高橋洋(訳))
 「本章では、信頼できる意識のしるし、つまり被験者が意識的な知覚表象を経験したか否かを示す生理学的な標識を少なくも4つ見出した。それらは「意識される刺激は、頭頂葉、および前頭前野の神経回路の突然の発火に至る激しいニューロンの活動を引き起こす」「コンシャスアクセスは、刺激が与えられてから3分の1秒が経過してから生じる、P3波と呼ばれる遅い脳波をともなう」「意識の点火はさらに、高周波振動の遅れての突発を引き起こす」「互いに遠く隔たった多数の皮質領域が、双方向の同期したメッセージ交換に参加し、広域的な脳のウェブを形成する」である。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『意識と脳』,第4章 意識的思考のしるし,紀伊國屋書店(2015),p.224,高橋洋(訳))
(索引:意識,意識の標識,意識のなだれ,P3波)

意識と脳――思考はいかにコード化されるか


(出典:wikipedia
スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「160億年の進化を経て発達した皮質ニューロンのネットワークが提供する情報処理の豊かさは、現在の私たちの想像の範囲を超える。ニューロンの状態は、部分的に自律的な様態で絶えず変動しており、その人独自の内的世界を作り上げている。ニューロンは、同一の感覚入力が与えられても、その時の気分、目標、記憶などによって異なったあり方で反応する。また、意識の神経コードも脳ごとに異なる。私たちは皆、色、形状、動きなどに関して、神経コードの包括的な一覧を共有するが、それを実現する組織の詳細は、人によって異なる様態で脳を彫琢する、長い発達の過程を通じて築かれる。そしてその過程では、個々シナプスが選択されたり除去されたりしながら、その人独自のパーソナリティーが形成されていく。
 遺伝的な規則、過去の記憶、偶然のできごとが交錯することで形作られる神経コードは、人によって、さらにはそれぞれの瞬間ごとに独自の様相を呈する。その状態の無限とも言える多様性は、環境に結びついていながら、それに支配はされていない内的表象の豊かな世界を生む。痛み、美、欲望、後悔などの主観的な感情は、この動的な光景のもとで、神経活動を通して得られた、一連の安定した状態のパターン(アトラクター)なのである。それは本質的に主観的だ。というのも、脳の動力学は、現在の入力を過去の記憶、未来の目標から成る布地へと織り込み、それを通して生の感覚入力に個人の経験の層を付与するからである。
 それによって出現するのは、「想起された現在」、すなわち残存する記憶と未来の予測によって厚みを増し、常時一人称的な観点を外界に投影する、今ここについてのその人独自の暗号体系(サイファー)だ。これこそが、意識的な心の世界なのである。
 この絶妙な生物機械は、あなたの脳の内部でたった今も作動している。本書を閉じて自己の存在を改めて見つめ直そうとしているこの瞬間にも、点火したニューロンの集合の活動が、文字通りあなたの心を作り上げるのだ。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『意識と脳』,第7章 意識の未来,紀伊國屋書店(2015),pp.367-368,高橋洋(訳))
(索引:)

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