アストロサイト
【睡眠中の脳波を発生させている神経活動の周期を、アストロサイトが協調させている。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】(1)外部からいっさい刺激を与えていないのに、視床内部のアストロサイト網を、カルシウムウェーブが周期的に駆け抜ける。
(2)隣接するアストロサイトをカルシウムウェーブが通過するのに合わせて、ニューロンの電位が変化する。
(2.1)アストロサイトが、神経伝達物質グルタミン酸を放出する。
(2.2)グルタミン酸が、ニューロンのグルタミン酸受容体を活性化する。
(2.3)この作用が、電位応答を誘発する。
「シナプス相互作用に立脚したニューロン説の枠外で活動しながら、ニューロンの集団を集合体へと統合している存在がほかにもある――それはアストロサイトだ。クルネリらは、視床から得た切片を、アストロサイトによって選択的に取り込まれるカルシウム感受性蛍光色素の溶液に浸した。彼らが観察していると、外部からいっさい刺激を与えていないのに、視床内部のアストロサイト網をカルシウムウェーブが周期的に駆け抜けた。視床ニューロンに電極を刺入して、細胞内電位の変化を記録すると、隣接するアストロサイトをカルシウムウェーブが通過するのに合わせて、ニューロンの電位が変化していることがわかった。睡眠中の脳波を発生させている神経活動の周期を、アストロサイトが協調させていたのだ。
ニューロンが示したこの電気的応答は、カルシウムウェーブが通過するときにアストロサイトが放出する神経伝達物質グルタミン酸によって引き起こされていた。このグルタミン酸が、ニューロンのグルタミン酸受容体を活性化し、この作用が電位応答を誘発して、ニューロンにインパルス発火を刺激していたのだった。
この研究から導かれる驚くべき結論は以下のとおりだ。睡眠中の脳活動においてこのような広範囲の周期を制御しているのは、大脳皮質ではなく、さらにはニューロンさえも、主導権を握ってはいない。アストロサイトを通して流れる活動波が、視床ニューロンの大集団を結びつけて、その神経活動を競技場の観客の動きのように協調させている。てんかん発作や病気の際に、脳波の広範な変化が認められるのと同じように、アストロサイト内のカルシウム活動の波は、ニューロン内の電気的な活動と同期して振動している。アストロサイトは電気信号で連絡するのではなく、化学的メッセージを拡散することによって相互に信号を送り合っており、さらにはニューロンどうしがシナプスを介した連絡に用いているのと同じ神経伝達物質を放出することによって、ニューロンの発火を調節している。「もうひとつの脳」は、毎晩私たちが枕に頭を乗せて休んでいるときにも、睡眠の制御に精を出しているのだ。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第13章 「もうひとつの脳」の心――グリアは意識と無意識を制御する,講談社(2018),pp.445-447,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:アストロサイト,カルシウムウェーブ,グルタミン酸)
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(出典:R. Douglas Fields Home Page)
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:)
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