狭義の情動
【狭義の情動とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))】狭義の情動
《定義》感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に影響を与える。
《誘発原因》
狭義の情動が引き起こされるとき、その情動の原因となった対象や事象を、〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)という。進化の過程で獲得したものも、個人の生活の中で学習したものも存在する。
《身体過程》
(a)感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知し、評価する。
(場所:感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
(b)(a)によって、自動的に、神経的/化学的な反応の複雑な集まりが、引き起こされる。
(場所:例えば、「恐れ」であれば、扁桃体が誘発し、前脳基底、視床下部、脳幹が実行する。)
(c)(b)によって、身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。
(d)脳構造の状態も一時的に変化し、身体のマップ化や思考へも影響を与える。
(e)特定の行動が引き起こされる。
(f)引き起こされた(c)~(e)は、特有の身体的パターンであり、互いに区別できるこのような身体的パターンの種類がいくつか存在し、これが情動である。
(再掲)
ホメオスタシスの一般的なプロセス
(1) 一個の有機体の内部あるいは外部の環境で、何かが変化する。
(2) その変化が、その有機体の命の方向を変える。
(3) 有機体は、そうした変化を検出し、有機体の自己保存と効率的機能にとって、最も有益な状況を生み出すように反応する。
(3.1) 有機体の内部と外部の状況を評価する。有機体は、ただ単に生きている状態ではなく、より「優れた命の状態」を目指しているように見える。すなわち、人間であれば「健康でしかも幸福である」状態を目指しているように見える。
(3.2) 反応。
(3.3) 結果として、健全性への脅威を取り除き、また、改善への好機を手に入れる。
「さて、さまざまな種類の情動を考慮に入れながら、狭義の情動に対する作業仮説を定義という形で提示してみよう。
1 喜び、悲しみ、当惑、共感、のような狭義の情動は、ある特有の身体的パターンを形成する化学的ならびに神経的な反応の複雑な集まりである。
2 それらの反応は、正常な脳が〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)――本物であれ、心の中で想起されたものであれ、その存在が情動を誘発するような対象または事象――を感知すると、その脳により生み出される。反応は自動的である。
3 いくつかの特定のECSに対しては一連のきまった作用で脳が反応するよう、進化により手はずが整えられている。ただし、ECSのリストは進化が定めたものにだけ限定されているわけではない。そのリストには、われわれが生活の中で学習した他の多くのものも含まれている。
4 これらの反応の即刻の帰結は、「狭義の身体」の一時的な状態変化、そして、身体をマップ化したり思考を支えたりしている脳構造の一時的な状態変化である。
5 これらの反応の最終的帰結は、直接的あるいは間接的に、有機体を生存と幸福に通ずる環境に置くことである。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.82-83、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
例として「恐れ」を使いながら、情動の誘発と実行のための主な段階を示している。
(1) 「情動(恐れ)を誘発しうる刺激」の評価と定義
(感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
(2) 誘発
(扁桃体)
(3) 実行
(前脳基底、視床下部、脳幹)
(4) 情動状態
(内部環境、内蔵、筋骨格システムにおける一時的変化。特定の行動)
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、p.95、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:恐れ、狭義の情動)
![]() |

(出典:wikipedia)

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
アントニオ・ダマシオ(1944-)
検索(アントニオ・ダマシオ)
検索(Antonio R. Damasio)
アントニオ・ダマシオの関連書籍(amazon)



科学ランキング
ブログサークル