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2022年1月13日木曜日

将来利益が発生するが、現に利益を有さない対象を亡き者にする行為が、いま問題である。懐妊、胎児の成長から始まる自然と人間の創造的な努力の投資が、死やその他の方法で挫折させられるのが、悪の本質であるとの仮説は、この問題解明のヒントを与える。(ロナルド・ドゥオーキン(1931-2013))

生命の挫折による悪

将来利益が発生するが、現に利益を有さない対象を亡き者にする行為が、いま問題である。懐妊、胎児の成長から始まる自然と人間の創造的な努力の投資が、死やその他の方法で挫折させられるのが、悪の本質であるとの仮説は、この問題解明のヒントを与える。(ロナルド・ドゥオーキン(1931-2013))



(a)誕生から死までの過程
 人々は既に述べたように、成功する人生にはある種の自然の道筋があると考えてい る。それは単なる生物学的成長――懐妊、胎児の成長、そして幼児――に始まるが、その後、生物学的形成だけでなく、社会的・個人的訓練と選択により決定される過程を通って、少年時代、 青年時代、更に成年時代の人生へと成長発達を遂げ、さまざまな種類の人間関係と才能を満足 させることで頂点に達し、通常の生存期間を経過した後、自然死によって終了するというもの なのである。 

(b)挫折が悪であるという仮説
 この通常の人生の過程が、早死やその他の方法により挫折させられる時、通常の人生の物語を 作りあげている自然と人間の創造的な努力の投資が破壊されるのである。

(c)人間が多く生まれなくても挫折には影響がない
 人間が多く生まれず 少なく生まれたからといって、そのことは生命の挫折には何らの影響も与えないのである。何故ならば、未だ存在しない生命に対する創造的な投資努力というものは存在しないからである。

「◇生命の「挫折」――より複雑な考え  生命の破壊に対するこのより複雑な判断基準の特徴を述べるために、私は「挫折 (frustration)」(その言葉には他の意味もあるが)という言葉を使うことにしよう。何 故ならば私は、悲劇的な死に対する人々の判断基準を検討する際に考慮されるべき過去と未来 の事柄の結びつきを想起させる、これ以上の言葉を他に思いうかべることができないからであ る。大多数の人々は死と悲劇に関して、直感的には次に述べるようなものを前提として考える のである。人々は既に述べたように、成功する人生にはある種の自然の道筋があると考えてい る。それは単なる生物学的成長――懐妊、胎児の成長、そして幼児――に始まるが、その後、生物 学的形成だけでなく、社会的・個人的訓練と選択により決定される過程を通って、少年時代、 青年時代、更に成年時代の人生へと成長発達を遂げ、さまざまな種類の人間関係と才能を満足 させることで頂点に達し、通常の生存期間を経過した後、自然死によって終了するというもの なのである。  この通常の人生の過程が早死やその他の方法により挫折させられる時、通常の人生の物語を 作りあげている自然と人間の創造的な努力の投資が破壊されるのである。しかし、このことが どれほど悪なのか――挫折がどれほど深刻なことなのか――ということは、それが人生のどの時期 (stage of life)に起こるかということによるのである。何故ならば、人が自分自身の人 生に対して重要な個人的な投資努力をした後に起こる挫折の方が、その前に起こる挫折よりも 深刻なものであり、他方、その投入した投資努力が実質的に満足された後や、あるいはほぼ満 足された後に起こる挫折の方がより深刻さが少ないものだからである。  このより複雑な構成の方が、単純な生命喪失の尺度よりも、悲劇に関する人々の確信により よく合致するものなのである。この複雑な構成によると、大部分の場合、人々にとって何故青 春期の死が幼児の死よりもいっそう悪いことと思われるか、ということが説明されるのであ る。同時にそれによると、我々が新しい人間の生命を生み出すことはしばしば望ましくないこ とであると矛盾なく主張できるのか、ということが説明されるのである。人間が多く生まれず 少なく生まれたからといって、そのことは生命の挫折には何らの影響も与えないのである。何 故ならば、未だ存在しない生命に対する創造的な投資努力というものは存在しないからであ る。しかし、人間の生命が一旦開始されると成長過程が始まるのであり、その過程を妨害する ことは既に進行中の冒険を挫折させることなのである。」
(ロナルド・ドゥオーキン(1931-2013),『ライフズ・ドミニオン』,第3章 神聖さとは何か, 「悲劇」の判断基準,信山社(1998),pp.143-144,水谷英夫,小島妙子(訳))

ライフズ・ドミニオン 中絶と尊厳死そして個人の自由 [ ロナルド・ドゥウォーキン ]


ロナルド・ドゥオーキン
(1931-2013)

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