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2018年6月2日土曜日

自分の力を頼りとして、いざというときには実力を行使できなければ、困難な仕事を成し遂げることはできない。(制度の改革に伴う困難の諸原因に関連して)(ニッコロ・マキャヴェッリ(1469-1527))

実力の行使

【自分の力を頼りとして、いざというときには実力を行使できなければ、困難な仕事を成し遂げることはできない。(制度の改革に伴う困難の諸原因に関連して)(ニッコロ・マキャヴェッリ(1469-1527))】
 全く新しい制度を導入すること以上に、実施に困難が伴い、成功が疑わしく、実行に危険が付きまとうものはない。このようなとき改革者は、自分の力を頼りとして自分の力で立っているのか、それとも他者の力に依存しているのか、すなわち、自分たちの事業の遂行に際していざというときには実力を行使できるのか、それとも単に「祈っているだけなのか」を、仔細に検討しておかなければならない。「軍備ある預言者はみな勝利したが、軍備なき預言者は滅びてきた。」
 改革に伴う困難の原因は、次のとおりである。
(1) 旧制度の恩恵に浴していたすべての人びとを、敵に回さなければならない。しかも彼らは、いついかなる時にも隙を窺って、徒党を組んで激しく襲ってくる。
(2) それに比べ、新制度によって恩恵を受けるはずのすべての人びとは生温い味方にすぎない。
(2.1) 旧来の法を握っている対立者たちへの恐怖心のため。
(2.2) 新しい事態が確かな形をとって姿を見せない限り、真実のものとは信じられない猜疑心のため。
(3) 人びとの意見は、本性において変わりやすい。すなわち、彼らに一つのことを説得するのは容易だが、彼らを説得した状態に留めておくのは困難である。
 「力量のみちを経て君主になった者たちには、君主政体の獲得に困難を伴うが、その維持は容易である。そして君主政体の獲得に伴った困難は、彼らの政権を確立し彼らの身の安全を確保するために新しい制度や施行方法を導入せざるを得なかったことから生じた。ここで考慮すべきは、みずから先頭に立って新しい制度を導入すること以上に、実施に困難が伴い、成功が疑わしく、実行に危険が付きまとうものはないということである。なぜならば、新制度の導入者は旧制度の恩恵に浴していたすべての人びとを敵にまわさなければならないから、そして新制度によって恩恵を受けるはずのすべての人びとは生温い味方にすぎないから。この生温さが出てくる原因は、ひとつには旧来の法を握っている対立者たちへの恐怖心のためであり、いまひとつには確かな形をとって経験が目のまえに姿を見せないかぎり、新しい事態を真実のものとは信じられない、人間の猜疑心のためである。ここから、いついかなる時にも隙を窺って敵対者たちが襲ってくるのに、そして徒党を組んで激しく立ち向かってくるのに、防御する味方の側の生温い態度が生じてくるのだ。その結果、彼らと共に、危機へ追い込まれてしまう。
 この部分をさらに論じようとするならば、したがって、これら改革の側に付く者たちが自分の力で立っているのか、それとも他者の力に依存しているのかを、すなわち自分たちの事業の遂行にさいして、彼らが祈っているだけなのか、それとも実力を行使できるのか、仔細に検討しておかなければならない。第一の場合には、必ず弊害が生じて何事も達成できない。だが、自分の力を頼りとして、いざというとき実力を行使できるならば、その場合には、危機に瀕することは滅多にない。ここから生まれてきた事実によれば、軍備ある預言者はみな勝利したが、軍備なき預言者は滅びてきた。なぜならば、いま述べたことのほかに、人民は本性において変わりやすいので、彼らに一つのことを説得するのは容易だが、彼らを説得した状態に留めておくのは困難であるから。それゆえ、彼らが信じなくなったときには、力づくで彼らを信じさせておく手段が整っていなければならない。」
(ニッコロ・マキャヴェッリ(1469-1527)『君主論』第6章 自己の軍備と力量で獲得した新しい君主政体について、pp.46-47、岩波文庫(1998)、河島英昭(訳))
(索引:実力の行使)

君主論 (岩波文庫)



(出典:wikipedia
ニッコロ・マキャヴェッリ(1469-1527)の命題集(Collection of propositions of great philosophers) 「私の意図は一貫して、耳を傾ける者には役立ちそうな事態を書き記すことであったから、事態をめぐる想像よりも、その実際の真実に則して書き進めてゆくほうが、より適切であろうと私には思われた。そして多数の人びとがいままでに見た例もなく真に存在すると知っていたわけでもない共和政体や君主政体のことを、想像して論じてきた。なぜならば、いかに人がいま生きているのかと、いかに人が生きるべきなのかとのあいだには、非常な隔たりがあるので、なすべきことを重んずるあまりに、いまなされていることを軽んずる者は、みずからの存続よりも、むしろ破滅を学んでいるのだから。なぜならば、すべての面において善い活動をしたいと願う人間は、たくさんの善からぬ者たちのあいだにあって破滅するしかないのだから。そこで必要なのは、君主がみずからの地位を保持したければ、善からぬ者にもなり得るわざを身につけ、必要に応じてそれを使ったり使わなかったりすることだ。」
(ニッコロ・マキャヴェッリ(1469-1527)『君主論』第15章 人間が、とりわけ君主が、褒められたり貶されたりすることについて、pp.115-116、岩波文庫(1998)、河島英昭(訳))

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