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2020年5月11日月曜日

支援者と資金が力の源泉である議員と,議員とのコネと影響力が欲しい大企業の幹部とは,潜在的に親しくなりやすい。誰しも,日常的に交際する人々の世界観から影響を受ける。かくして"不正なし"の政治腐敗が出現する。(ロバート・ライシュ(1946-))

不正なしの政治腐敗

【支援者と資金が力の源泉である議員と,議員とのコネと影響力が欲しい大企業の幹部とは,潜在的に親しくなりやすい。誰しも,日常的に交際する人々の世界観から影響を受ける。かくして"不正なし"の政治腐敗が出現する。(ロバート・ライシュ(1946-))】

(1)政治家
 (1.1)人脈は力なり
  例えば、金融業界や企業の役員あてに、コーヒーでも飲みましょうと声をかける。やがて、彼はこの重役を通じて、その友人や仕事仲間、同僚、所属する社交クラブや理事会といった裕福な人々のネットワークへのアクセスを獲得する。
 (1.2)資金は力なり
  選挙資金を寄付してもらえるかもしれないし、もらいないかもしれない。しかし、やがて寄付してもらえるだろう。そして、新しく知人になった人々も献金してくれるようになり、さらに新たな友人知人につないでくれるようになる。
 (1.3)日常的に交際する人々の世界観、提案、課題の影響
  この議員が富裕層ネットワークの中ではてしなく繰り広げられる社交に加わることで、必然的に、彼の世界観は影響を受ける。このようにして彼は、似たような提案、似たような懸念や優先的課題を聞くことになる。
 (1.4)普通の人々の考えは、届きにくい
  議員は、普通の人々のことは、世論調査の専門家や地元選挙区で時折行う演説会などを通して知る。しかし、彼もすでに居心地の良い世界に慣れてしまっているため、そのような社会問題に真剣に取り組もうとはしない。
(2)大企業の役員
 (2.1)人脈が力なり
  その役員にとってこのお茶飲みイベントの最大の価値は、彼がワシントンの大物議員に一目置かれているということを他の人に示すことができる点である。議員とのティータイム懇談を収めたサイン付きの写真は、役員の部屋の壁に飾られることになる。
 (2.2)影響力があるように見えること
  世間から、政界にコネを持つ人物、影響力を持つ人物と見なされたのだ。このような評判は、役員である彼にとって社会的に重要で、何より経済的に重要だ。彼と取引する人たちに、思ったことは何でも実現してしまう人物だという印象を与えることができるからだ。得意先や顧客、サプライヤー、債権者、投資家などとの今後の取引を、とてもやりやすくするのである。
(3)普通の人々
 普通の人々は議員とお茶を飲んだり食事をすることはないし、自分たちが社会をどう見ているかを、気さくな会話を通して、あるいは個人的な話を織り交ぜたりして、議員に直接繰り返し話すこともない。普通の人々は「彼らなりの」不安や懸念を、政治家の耳に継続的に届けることはできないのだ。

 「今日の政策における政治腐敗の実態は、あからさまな賄賂や特定の票につながる献金のように、はっきりとした形をとることはほとんどない。例えば、議会の重要な委員会の長から、金融業界や企業の役員あてに、コーヒーでも飲みましょうと声がかかる。この招待は、企業役員にとっては何でもないことだし、あるいはその役員のほうから議員に頼んでそうするかもしれない。いずれにしても、その役員にとってこのお茶飲みイベントの最大の価値は、彼がワシントンの大物議員に一目置かれているということを他の人に示すことができる点である。議員とのティータイム懇談を収めたサイン付きの写真は、役員の部屋の壁に飾られることになる。その議員から個人的な礼状が届いた日には、これみよがしに自慢もできる。
 このことは、この役員にとって計り知れない意味を持つ。彼は、今や政権の「側近」に近づくことができる有力者だ。世間から、政界にコネを持つ人物、影響力を持つ人物と見なされたのだ。このような評判は、役員である彼にとって社会的に重要で、何より経済的に重要だ。彼と取引する人たちに、思ったことは何でも実現してしまう人物だという印象を与えることができるからだ。そういう印象が本当かどうかは、この際関係ない。影響力があるように見えることが、得意先や顧客、サプライヤー、債権者、投資家などとの今後の取引を、とてもやりやすくするのである。
 議員のほうは、その見返りに、リッチな重役から選挙資金を寄付してもらえるかもしれないし、もらいないかもしれない。しかし政治家としてこの取引のポイントは、献金ではない。彼はこの重役を通じて、その友人や仕事仲間、同僚、所属する社交クラブや理事会といった裕福な人々のネットワークへのアクセスを獲得できるのだ。今後、この重役は機会が訪れれば、自分の友人や知人を議員に紹介するだろう。そのうち、彼から直接、朝食やお茶、晩さん会、ゴルフの誘いが届くようになる。そうこうするうちに、新しく知人になった人々が献金してくれるようになり、さらに新たな友人知人につないでくれるようになる。
 このことで、政策や法律や投票行動がすぐさま金持ちたちの意のままに変わるわけではない。しかし、この議員が富裕層ネットワークの中ではてしなく繰り広げられる社交に加わることで、必然的に、彼の世界観は影響を受ける。このようにして彼は、似たような提案、似たような懸念や優先的課題を聞くことになる。裕福な人々は、当然ながら自分たちの声を一つにまとめて主張することはしないが、互いに幅広い範囲で考え方を共有している。社会的に恵まれない人々からの声は、政治家のところには間接的・抽象的にしか届いていない。彼らは議員とお茶を飲んだり食事をすることはないし、自分たちが社会をどう見ているかを、気さくな会話を通して、あるいは個人的な話を織り交ぜたりして、議員に直接繰り返し話すこともない。普通の人々は「彼らなりの」不安や懸念を、政治家の耳に継続的に届けることはできないのだ。議員は、そういうことは世論調査の専門家や地元選挙区で時折行う演説会などを通して知る。しかし、彼もすでに居心地の良い世界に慣れてしまっているため、そのような社会問題に真剣に取り組もうとはしない。このように富裕層ネットワークは、必ずしも政治家の法案への投票行動を買うわけではないが、政治家の心を手なずけてしまうのである。」
(ロバート・ライシュ(1946-)『余震』(日本語名『余震(アフターショック) そして中間層がいなくなる』)第2部 反動、第17章 富が集中するように仕組まれたゲーム、pp.131-133、東洋経済新報社 (2011)、雨宮寛・今井章子(訳))
(索引:不正なしの政治腐敗)

余震(アフターショック) そして中間層がいなくなる

(出典:wikipedia
ロバート・ライシュ(1946)の命題集(Propositions of great philosophers) 「国家や政府は人間が作ったものであり、法律も企業もそして野球だって人間が作ったものだ。同じように市場も人間の産物である。他のシステムと同じく市場の構築の仕方にもさまざまな方法があるが、それがどう作られようと、人々のやる気や市場のルールによって生まれてくる。理想的には、ルールによって人々が働いたり協力しあう気になり、生産的で創造的でありたいと動機づけされるのが望ましい。つまり、ルールが人々が望む暮らしの実現を手助けするのである。ルールはまた、人々の倫理観や、何が良くて立派で、何が公平かについての判断基準をも映し出す。そしてルールは不変ではなく、時間の経過とともに変わっていく。願わくば、ルールにかかわる人のほとんどが、より良くより公平だと思う方向へ――。だが、常にそうなるとは限らない。ある特定の人々が自分たちを利するようにルールを変える力を得たことによっても、ルールは変わりうるからだ。これがこの数十年の間に、米国や他の多くの国々で起こったことである。
 私的所有独占への制限契約不履行に対処するための破産などの手段ルールの執行といった事柄は、いかなる市場にも必須の構成要素だ。資本主義と自由企業体制にはこれらが必要なのだ。だがこの要素の一つひとつを、多くの人ではなく、ひと握りの人々を利するように捻じ曲げることも可能である。」(中略)「経済的支配力が、政治的権力を増大させ、政治的権力がさらに経済的支配力を拡大させる。大企業と富裕層が市場を構築する政治の仕組みに影響を与え、彼らがその政治的決定によって最も恩恵を受けるという状況は加速するばかりだ。こうして彼らの富は増強され、その富によってますます、将来発生する決断事項への影響力を得ていくのである。」(中略)「拡大する不平等は「自由市場」の構成要素そのものにしっかりと焼き込まれている。グローバル化と技術革新がなくても減税や補助金がなくても、国民総所得のうち、企業と、企業収益に自分の所得が連動する重役たちや投資家に振り分けられる割合は、労働者層に向う割合よりも、相対的に増加している。こうして悪循環が勝手に成立していくのである。」
(ロバート・ライシュ(1946-)『資本主義を救う』(日本語名『最後の資本主義』)第1部 自由市場、第9章 まとめ――市場メカニズム全般、pp.108-111、東洋経済新報社 (2016)、雨宮寛・今井章子(訳))

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