2019年4月17日水曜日

偏った資金の影響を受けて、様々な方法で民主的な意思決定が歪められ、諸制度がさらなる資金の偏りと集中を生むという循環を生じているとき、いかにして圧倒的多数の市民の意思が政治過程に反映され得るかが問題である。(ジャコモ・コルネオ(1963-))

民主的な意思決定と資本の影響力

【偏った資金の影響を受けて、様々な方法で民主的な意思決定が歪められ、諸制度がさらなる資金の偏りと集中を生むという循環を生じているとき、いかにして圧倒的多数の市民の意思が政治過程に反映され得るかが問題である。(ジャコモ・コルネオ(1963-))】

(a)資本家
 (a.1)所得状況の特徴
  (a.1.1)平均的な所得は、国民全体の平均所得を大きく超える。
  (a.1.2)個人所得は、圧倒的な割合を占める資本所得によって特徴づけられる。
  (a.1.3)資本所得は、おおまかに見て国民所得のおよそ3分の1を占める。
 (a.2)選好する政策
  (a.2.1)企業の利潤と、資本所得を引き上げる。
  (a.2.2)相続や資本所得に課税されないようにする。
 (a.3)政策決定への影響力の行使方法
  (a.3.1)株式持ち合いなど財産権の連鎖と、実質的に企業を支配下に置くための諸制度の利用。
  (a.3.2)資金を使って、様々な方法で民主的な意思決定の結果に影響を与えることができる。
   (i)ロビー活動に資金を提供する。
   (ii)特定の候補者、政党の選挙戦に多額の資金をつぎ込む。
   (iii)かつて公職にあった者には儲けのあるポストを用意する。
   (iv)高額が支払われる講演会を彼らのために開く。
   (v)メディア、シンクタンク、研究所などに融資して、意見を特定の方向へと導く。
(b)圧倒的多数の他の市民
 (b.1)所得状況の特徴
  労働所得が極めて重要な部分を占めている。
 (b.2)選好する政策
  資本家の利害関心、主張が似通ったものであるのに対して、様々な利害関心、見解が分散する。
 (b.3)政策決定への影響力が弱められる原因
  (b.3.1)政治的、社会的参加には、コストがかかる。
  (b.3.2)コストに比較して、政治的決定への影響力は小さいと感じてしまう。
  (b.3.3)このため、政治的決定にかかわろうとするインセンティブが全くない。

 「資本主義に批判的な政治経済学者は以下のように述べる:
 “現代の経済学において資本所得は、おおまかに見て国民所得のおよそ3分の1を占める。国民所得の3分の1は、国民のごく一部の層に流れてしまうので、資本家は多くの他の市民とは全く別の所得状況にある。第一に、資本家の平均的な所得は、国民全体の平均所得の数倍にのぼる。第二に、資本家の個人所得は、圧倒的な割合を占める資本所得によって特徴づけられる一方で、資本家以外の国民の場合は労働所得が極めて重要な部分を占めている。この異なった所得状況ゆえに、資本家は国民の圧倒的多数の利益とは相反する政治的選択肢を選ぶ。資本家は、国民の大多数にとっての公共の利益を犠牲にして、産油国への軍事介入やタックスヘイブンの容認のような、企業の利潤と資本所得を引き上げる政策を優遇する。
 もし我々の民主主義と呼ばれる制度が、本当に国民の大多数の利益を達成するものであれば、その政府はこの政策を決して選択しないだろう。しかし実際はそうではない。民主的な装いをつくろう裏で、資本家の利益が多数の利益に反して追求される。
 これはいかにして可能なのか? 資本家は確かに少数だが、多数派に対しては2つのアドヴァンテージを持っている。
 第一に、資本家は少数なので、容易に互いの間で調整することができる。現代の資本主義社会には、出資者が政治的な影響を与えるという目的を達成するための特定の戦略に同意しうる制度的枠組みがすでに存在する。財産権の連鎖と株式持ち合い(クロス・シェアホールディング)を通じてより大きなネットワークが生まれる。このネットワークは、ドイツのような国々では、共通の見解と主導権を生み出す監査役会の占領のうちに現れる。これに対して大多数の国民は、フリーライダー問題に苦しむことになる。政治的および社会的に参加すれば個々人はコストを感じるが、集団的な関心事に対する貢献はわずかである。それゆえ個々人には、集団的な重要事項にかかわろうとする物質的なインセンティブが全くない。
 第二に資本家は、富を基盤として効果のある政治的なロビー活動に資金を提供することができる。財産のある個人、企業、協会、財団は、様々なやり方で民主的な意思決定の結果に影響を与えることができる。例えば資本家は、特定の候補者、あるいは政党の選挙戦に多額の資金をつぎ込むことができる。彼らは、かつて公職にあった者には儲けのあるポストを用意するか、高額が支払われる講演会を彼らのために開くことができる。さらに、メディア、シンクタンク、研究所など、またもや政治の決定権者や選挙人の意見を特定の方向へと導くものに融資することもできる。その結果、大多数の利害を無視して政治的に平等な権利を破壊する、民主的な過程に対する制度的な歪みが生じる。
 この問題は、資産の不公平な分配と、その資本所得に対する非課税権に根ざしている。原理的には、資本のさらなる再分配(例えば、相続や資本所得への高率課税)によって、この問題は解決できるだろう。しかし現実には解決されない。なぜなら、この措置の場合、民主的な過程から生み出されるはずの集合的意思決定が問題になるからである。だが、この過程が制度的に資本家の利害のために歪められているならば、これは不可能になるだろう。これに反して資本主義の廃止は、この問題を根本から解決するかもしれない”。
 民主主義が危険な金権政治的傾向をもたらすことは、幾人かの古代ギリシャ人たちも考えていた。プラトンも、彼の時代における商業資本主義と民主主義の組み合わせは、根本的に不安定であると考えた。しかし彼の解決策は、資本主義の廃止ではなく民主主義の廃止であった……。」
(ジャコモ・コルネオ(1963-),『よりよき世界へ』,第2章 哲人の国家の機能不全,pp.16-18,岩波書店(2018),水野忠尚,隠岐-須賀麻衣,隠岐理貴,須賀晃一(訳))
(索引:資本家,資本所得,労働所得,ロビー活動,民主的な意思決定)

よりよき世界へ――資本主義に代わりうる経済システムをめぐる旅


(出典:University of Nottingham
ジャコモ・コルネオ(1963-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「私はここで福祉国家の後退について別の解釈を提言したい。その解釈は、資本主義(市場システムと生産手段の私有)は、福祉国家を異物のように破損する傾向があるという仮説に基づいている。福祉国家の発端は、産業労働者の蜂起のような一度限りの歴史的な出来事であった。」(中略)「この解釈は、共同体がこのメカニズムに何も対抗しないならば、福祉国家の摩耗が進行することを暗示している。資本主義は最終的には友好的な仮面を取り去り、本当の顔を表すだろう。資本主義は通常のモードに戻る。つまり、大抵の人間は運命の襲撃と市場の変転に無防備にさらされており、経済的にも社会的にも、不平等は限界知らずに拡大する、というシステムに戻るのである。
 この立場に立つと、福祉国家は、資本主義における安定した成果ではなく、むしろ政治的な協議の舞台で繰り返し勝ち取られなければならないような、構造的なメカニズムである点に注意を向けることができる。そのメカニズムを発見するためには、福祉国家が、政治的意思決定の結果であることを具体的に認識しなければならない。」
(ジャコモ・コルネオ(1963-),『よりよき世界へ』,第11章 福祉国家を備えた市場経済,pp.292-293,岩波書店(2018),水野忠尚,隠岐-須賀麻衣,隠岐理貴,須賀晃一(訳))

ジャコモ・コルネオ(1963-)
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克服条件:全体利益の合計値最大化のための同じ行動を、相手も取るという信頼が存在し、その信頼は、自己利益の犠牲、非協力リスクの負担、相対的劣位性の受入、一時的な不平等の許容を、克服し得る程度のものであること。(フランチェスコ・グァラ(1970-))

囚人のジレンマ

【克服条件:全体利益の合計値最大化のための同じ行動を、相手も取るという信頼が存在し、その信頼は、自己利益の犠牲、非協力リスクの負担、相対的劣位性の受入、一時的な不平等の許容を、克服し得る程度のものであること。(フランチェスコ・グァラ(1970-))】
(e)囚人のジレンマ
 (e.1)以下の視点に従う限り、各プレーヤーは非協力に対して選好を持つ。
  (i)非協力の利益の期待値は、協力より大きい。(期待値)
  (ii)協力は、相手に依存するリスクにさらされている。(リスク)
  (iii)相手に対する相対的優位性も、非協力の方が圧倒的に大きい。(期待値の相対的優位性)
  (iv)協力と非協力の戦略が混在すると、不平等が生じる。(平等性)
 (e.2)それにもかかわらず、協力を選択する条件は何だろうか。
  (i)両プレーヤーが共に協力する選択は、均衡状態ではない。この状態を識別できるのは、両者の利益の合計値を最大化できるという観点である。
  (ii)両プレーヤーがお互いに、全体の利益の合計値最大化のための同じ行動を、相手も取るという信頼が存在すること。
  (iii)自己の利益を犠牲にし、相手の非協力のリスクを負担し、自己の相対的劣位性を受け入れ、非協力に伴う不平等を許容してもなお、全体の利益の合計値最大化のための行動を、相手も取るだろうという程度の信頼が必要である。
    プレーヤー1
プ   協力  裏切り
レ  ┌───┬───┐
|協力│2、2│0,3│
ヤ  ├───┼───┤
|裏切│3,0│1、1│
2 り└───┴───┘

 「囚人のジレンマはとりわけ特殊な種類のゲームであって、これまで分析してきたゲームと混同してはならない。走行ゲーム、ハイ&ロウ、鹿狩りゲームには複数均衡がある。これらはコーディネーション問題である。囚人のジレンマは異なる。なぜなら、左上の結果(CC)は均衡では《ない》からだ。それぞれのプレーヤーは、一方的にDをプレーすることで利得が大きくなる。これはいくつかの点で謎である。鹿狩りゲームにおいては、各プレーヤーが他のプレーヤーの手番を推測するという問題を抱えていたことを思い出そう。囚人のジレンマでは、その問題はそもそも存在しない。ある意味、裏切りの誘惑は非常に強力なものとなって、他のプレーヤーの行為について考える必要がないほどである。他のプレーヤーが何をしようと、自分はDをプレーする方がより良い。これが意味するのは、囚人のジレンマにおいては、ただ1つだけ均衡(DD)が存在していて、しかもしれが非効率的であるということだ。区別するために、コーディネーションに対して、この種類のゲームが協力の問題(もしくはジレンマ)を表現していると言うことにしよう。普段使う「協力」の意味が少しばかり拡大解釈されるのだが、それぞれのケースに対して、異なる用語を持つことは有用だ。
 上で説明した分析にもかかわらず、多くの人々は囚人のジレンマゲームにおいて協力が正しい選択であると考える。それはどうしてだろうか。これには、多くの人々にとっては戦略的に考えることが難しいのだということを含めて、おそらく二つ以上の理由が存在する。しかし、人々がこのような直感を持つのは、何よりもまず、人々が現実生活において、囚人のジレンマに似た状況で協力を支持するようなルールに従うことに慣れているからである。」
    プレーヤー1
プ   協力  裏切り
レ  ┌───┬───┐
|協力│2、2│0,3│
ヤ  ├───┼───┤
|裏切│3,0│1、1│
2 り└───┴───┘

(フランチェスコ・グァラ(1970-),『制度とは何か』,第1部 統一,第2章 ゲーム,pp.55-56,慶應義塾大学出版会(2018),瀧澤弘和,水野孝之(訳))
(索引:囚人のジレンマ)

制度とは何か──社会科学のための制度論


(出典:Google Scholar
フランチェスコ・グァラ(1970-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「第11章 依存性
 多くの哲学者たちは、社会的な種類は存在論的に私たちの表象に依存すると主張してきた。この存在論的依存性テーゼが真であるならば、このテーゼで社会科学と自然科学の区分が設けられるだろう。しかもそれは、社会的な種類についての反実在論と不可謬主義をも含意するだろう。つまり、社会的な種類は機能的推論を支えるものとはならず、この種類は、関連する共同体のメンバーたちによって、直接的かつ無謬的に知られることになるだろう。
 第12章 実在論
 しかし、存在論的依存性のテーゼは誤りである。どんな社会的な種類にしても、人々がその種類の正しい理論を持っていることと独立に存在するかもしれないのだ。」(中略)「制度の本性はその機能によって決まるのであって、人々が抱く考えによって決まるのではない。結果として、私たちは社会的な種類に関して実在論者であり可謬主義者であるはずだ。
 第13章 意味
 制度的用語の意味は、人々が従うルールによって決まる。しかし、そのルールが満足いくものでなかったらどうだろう。私たちは、制度の本性を変えずにルールを変えることができるだろうか。」(中略)「サリー・ハスランガーは、制度の同一化に関する規範的考察を導入することで、この立場に挑んでいる。
 第14章 改革
 残念ながら、ハスランガーのアプローチは実在論と不整合的である。私が主張するのは、タイプとトークンを区別することで、実在論と改革主義を救うことができるということだ。制度トークンはコーディネーション問題の特殊的な解である一方で、制度タイプは制度の機能によって、すなわちそれが解決する戦略的問題の種類によって同定される。」(後略)
(フランチェスコ・グァラ(1970-),『制度とは何か』,要旨付き目次,慶應義塾大学出版会(2018),瀧澤弘和,水野孝之(訳))

フランチェスコ・グァラ(1970-)
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