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2020年5月7日木曜日

基礎的な思想、枠組み思考は、社会的構築物であり、諸個人の世界観と、政策決定の過程とを通じて深刻で現実的な影響を及ぼす。新たな状況や事実により変化し得るが、社会的背景が基盤にあるため、たいてい遅い。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

基礎的な思想、枠組み思考

【基礎的な思想、枠組み思考は、社会的構築物であり、諸個人の世界観と、政策決定の過程とを通じて深刻で現実的な影響を及ぼす。新たな状況や事実による変化し得るが、社会的背景が基盤にあるため、たいてい遅い。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(2)基礎的な思想、枠組み思考とは何か
 (2.1)思想は、社会的構築物である
  (a)社会的構築物
   思想や認識は、社会的構築物である。わたしがある信念を持ちたいと思うのは、ほかの人々が同じような信念を持っていることと関係している。
  (b)個人の思想が変わりにくい理由
   ほとんどの個人は、その証拠を自分で検証したりはしない。また、時間があったとしても、証拠を評価する能力をそなえている人はほとんどいない。
  (c)思想の社会的背景
   信念の社会的背景は決定的な意味を持つ。異なるグループのあいだに交流がほとんどなかったら、現実についての認識も異なってしまう。
 (2.2)思想は、現実的な影響を及ぼす
  (a)世界の見方への影響
   社会で築き上げられた思想と認識の一部は、私たちが世界を見るときにかける眼鏡のレンズとなる。
  (b)政策決定への影響
   これらの“思想”は、政策決定の過程を通じて、現実的な影響を及ぼし、その帰結が尾を引くこともある。
   参考: 公共政策では、市場や国家や市民社会の役割のような、重要で基礎的な思想をめぐって論争される。なぜなら、この大きな枠組みが個別の認識と、特別な利害関係を考慮した現実的政策に影響を与えるからである。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))
 (2.3)思想の変化は、たいていゆっくり生じる
  (a)思想が、社会的構築物であることから、ほとんどの場合、社会的変化と信念の変化はゆっくりと生じる。
  (b)変化は理想の速度よりも遅く進むことが多い。そして、思想の変化が遅いことが、ときに社会の変化を遅くする要因のひとつになる。
 (2.4)思想の変化が生じるとき
  (a)ただし、知の分野や現実から別の流れが押し寄せて知的均衡を乱すと、状況が変わる。
  (b)なんらかの理由で、じゅうぶんな数の人が特定の考えかたに魅力を感じると、転換点が訪れるのかもしれない。

 「変化を起こす力を持つ思想もあるが、ほとんどの場合、社会的変化と信念の変化はゆっくりと生じる。ときには、思想と社会の変化の速さがずれてくる。信念と現実の相違がびっくりするほど大きいので、思想を――あるいは社会の変化を――再考せざるをえないときもある。
 変化は理想の速度よりも遅く進むことが多い。そして、思想の変化が遅いことが、ときに社会の変化を遅くする要因のひとつになる。1776年の独立宣言で、すべての人間は平等に作られているという原則が明確に述べられたかもしれないが、アメリカがこの原則を取り入れた市民権法を制定するのは2世紀ほどあとのことであり、完全な平等はいまだに実現されていない。
 思想の変化が遅い理由のひとつは、思想や認識が社会的構築物だという点にある。わたしがある信念を持ちたいと思うのは、ほかの人々が同じような信念を持っていることと関係している。国内や世界を旅すると、特定の思想――政府は必然的に非効率的だとか、政府が不況を引き起こしたとか、地球温暖化は捏造だとか――が一般通念になっているところもあれば、それとは正反対の思想が“真実”であると受け入れられているところもある。ほとんどの個人はその証拠を自分で検証したりはしない。時間があったとしても、地球温暖化にかんする証拠を評価する能力をそなえている人はほとんどいないからだ。しかし、自分たちが会話を交わし、信頼している他人が同じ信念を持っていれば、自分たちは正しいという確信が強まるだろう。
 このように社会で築き上げられた思想と認識の一部は、わたしたちが世界を見るときにかける眼鏡のレンズとなる。人種や身分などのカテゴリーが問題となる社会もあれば、ならない社会もある。しかし、すでに触れたように、これらの“思想”には現実の帰結が伴い、その帰結が尾を引くこともある。
 ある科学者たちが特定の信念に“はまってしまう”ことがあり、そういう場合、各個人は、ほかのじゅうぶんな数の科学者が信念を変えた場合にだけ信念を変える。しかし、大体は、自分以外の全員が信念を変えないかぎり、その特定の信念にはまったままだろう。
 信念と認識は社会的構築物であるという考えは、社会的信念がときにはかなりすばやく変化することを理解するのにも役立つ。なんらかの理由で、じゅうぶんな数の人が特定の考えかたに魅力を感じると、転換点が訪れるのかもしれない。その思想は新しい一般通念となる。その場合、たとえば人種によるちがいという考えが、証明すべき概念から論駁すべき概念に移行する。あるいは、信念そのものになんらかのスイッチがあって、たとえば不平等は市場経済が機能するために必要だという考えが、現代アメリカの不平等のレベルはアメリカ経済と社会の機能をそこなっているという信念へと変化するかもしれない。新しい思想は一般通念の一部となるが、ただし、知の分野や現実から別の流れが押し寄せて知的均衡を乱すと、状況が変わる。
 信念の社会的背景は決定的な意味を持つ。異なるグループのあいだに交流がほとんどなかったら、現実についての認識も異なってしまう。同じことは、合法性や不平等の大きさについての議論にも言える。一部のグループ(豊かなグループも貧しいグループもふくまれる)では、豊かな人々は主にみずからの勤勉さによって富を獲得してきたのであって、他人の貢献や幸運はささいな役割を果たしているにすぎないと信じられている。別のグループは、まったく正反対の信念を持っている。もっともなことながら、これらのグループは税制政策についても異なる見解を持っている。もしある個人がいま持っているものは自分の努力のみによって得た成果だと信じていたら、その人はあまり努力しないことをみずから選んだと思われる他人と、自分の富を分かち合おうとは思わないだろう。逆に、もしある個人が、自分の成功は主に幸運のおかげだとみなしていたら、その幸運がもたらしてくれた財産を進んで分ち合おうとするだろう。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第6章 大衆の認識はどのように操作されるか,pp.238-240,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:基礎的な思想,枠組み思考,社会的構築物,世界観,政策決定,社会的背景)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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