2020年7月23日木曜日

パーソナリティ特性の本質が、情動傾向であるという仮説は、情動の身体性を通じてパーソナリティの神経生理学的な基礎についての洞察を与え、また情動と認知構造、信念体系との関連から、社会心理学的な予見を導出することができる。

パーソナリティ特性の情動理論

【パーソナリティ特性の本質が、情動傾向であるという仮説は、情動の身体性を通じてパーソナリティの神経生理学的な基礎についての洞察を与え、また情動と認知構造、信念体系との関連から、社会心理学的な予見を導出することができる。】

《概要》
 パーソナリティ検査により測定される特性は、被験者の自己認知と性格の社会的認知という観点からは、相当程度に客観的に同定可能なものではあるが、その神経生理学的、心理学的な基盤については、必ずしも明確であるとは言えない。
 ここでは、パーソナリティ特性の本質が、情動傾向であるという仮説に基づいて、5因子性格検査(FFPQ)の諸特性を再定義することを試みる。情動は、その発動機制において身体・脳機能と関連し、パーソナリティ特性と神経生理学的との関連への示唆を与えてくれる。また同時に情動は、個人の認知構造、信念体系を通じて、集団の持つ文化特性とも相関するため、パーソナリティ特性とこれら心理的、社会的構造との関連への示唆も与えてくれる。ここでの再定義によって予見される神経生理学の関連命題、社会心理学の関連命題、発達心理学の関連命題、症候群への介入関連命題を、仮説として提示する。

《改訂履歴》
2020/7/23 初版

《目次》
(1)5因子性格検査(FFPQ)の超特性と特性
 (1.1)内向性/外向性
 (1.2)分離性/愛着性
 (1.3)自然性/統制性
 (1.4)非情動性/情動性
 (1.5)現実性/遊戯性
(2)パーソナリティ特性と情動、欲求との関連性
 (2.1)自己の身体が感知する快・不快(生理的欲求)
 (2.2)対象の新奇性(驚き、恐怖)と自己状態の快・不快(喜び、悲しみ)(安全と安定の欲求)
 (2.3)自己向け他者行為の快・不快(感謝、怒り)(愛と集団帰属の欲求)
 (2.4)自己行為の他者評価の快・不快(誇り、恥)(承認の欲求)
 (2.5)自己行為の自己評価の快・不快(内的自己満足、後悔)(自己尊重の欲求)
 (2.6)外的対象、他者状態、他者行為を含むすべての対象の快・不快(自己実現欲求)
(3)仮説:パーソナリティ特性の情動傾向による特徴づけ
 (3.1)内向性/外向性
 (3.2)分離性/愛着性
 (3.3)自然性/統制性
 (3.4)非情動性/情動性
 (3.5)現実性/遊戯性
(4)解明されたパーソナリティ特性が予言する諸命題
 (4.1)内向性/外向性
  (4.1.1)神経生理学の関連命題
  (4.1.2)社会心理学の関連命題
  (4.1.3)発達心理学の関連命題
  (4.1.4)症候群への介入関連命題
 (4.2)分離性/愛着性
  (4.2.1)神経生理学の関連命題
  (4.2.2)社会心理学の関連命題
  (4.2.3)発達心理学の関連命題
  (4.2.4)症候群への介入関連命題
 (4.3)自然性/統制性
  (4.3.1)神経生理学の関連命題
  (4.3.2)社会心理学の関連命題
  (4.3.3)発達心理学の関連命題
  (4.3.4)症候群への介入関連命題
 (4.4)非情動性/情動性
  (4.4.1)神経生理学の関連命題
  (4.4.2)社会心理学の関連命題
  (4.4.3)発達心理学の関連命題
  (4.4.4)症候群への介入関連命題
 (4.5)現実性/遊戯性
  (4.5.1)神経生理学の関連命題
  (4.5.2)社会心理学の関連命題
  (4.5.3)発達心理学の関連命題
  (4.5.4)症候群への介入関連命題

(1)5因子性格検査(FFPQ)の超特性と特性
※質問項目は、FFPQ-50
 (1.1)内向性/外向性
  本質:活動
  特徴と傾向:臆病・気おくれ⇔控え目⇔積極的⇔無謀
  (a.1)(内向性/外向性)非活動/活動
   もの静かである (Ex1)
   じっとしているのが嫌いである (Ex1)
  (a.2)(内向性/外向性)服従/支配
   人の上に立つことが多い (Ex2)
   人に指示を与えるような立場に立つことが多い (Ex2)
  (a.3)(内向性/外向性)独居/群居
   大勢でわいわい騒ぐのが好きである (Ex3)
   大勢の人の中にいるのが好きである (Ex3)
  (a.4)(内向性/外向性)興奮忌避/興奮追求
   にぎやかな所が好きである (Ex4)
   スポーツ観戦で我を忘れて応援することがある (Ex4)
  (a.5)(内向性/外向性)注意回避/注意獲得
   地味で目立つことはない (Ex5)
   人から注目されるとうれしい (Ex5)
 (1.2)分離性/愛着性
  本質:関係
  特徴と傾向:敵意・自閉⇔自主独立的⇔親和的⇔集団埋没
  (b.1)(分離性/愛着性)冷淡/温厚
   人には暖かく友好的に接している (A1)
   あまり親切な人間ではない (A1)
  (b.2)(分離性/愛着性)競争/協調
   人情深いほうだと思う (A2)
   気配りをするほうである (A2)
  (b.3)(分離性/愛着性)懐疑/信頼
   どうしても好きになれない人がたくさんいる (A3)
   出会った人はたいがい好きになる (A3)
  (b.4)(分離性/愛着性)非共感/共感
   人の気持ちを積極的に理解しようとは思わない (A4)
   人のよろこびを自分のことのように喜べる (A4)
  (b.5)(分離性/愛着性)自己尊重/他者尊重
   誰に対しても優しく親切にふるまうようにしている (A5)
   人を馬鹿にしているといわれることがある(A5)
 (1.3)自然性/統制性
  本質:意志
  特徴と傾向:無為怠惰⇔あるがまま⇔目的合理的⇔仕事中毒
  (c.1)(自然性/統制性)大まか/几帳面
   あまりきっちりした人間ではない (C1)
   几帳面である (C1)
  (c.2)(自然性/統制性)無執着/執着
   まじめな努力家である (C2)
   根気が続かないほうである (C2)
  (c.3)(自然性/統制性)無責任/責任
   仕事を投げやりにしてしまうことがある (C3)
   責任感が乏しいといわれることがある (C3)
  (c.4)(自然性/統制性)衝動/自己統制
   しんどいことはやりたくない (C4)
   欲望のままに行動してしまうようなことは,ほとんどない (C4)
  (c.5)(自然性/統制性)無計画/計画
   よく考えてから行動する (C5)
   仕事は計画的にするようにしている (C5)
 (1.4)非情動性/情動性
  本質:情動
  特徴と傾向:感情鈍麻⇔情緒安定⇔敏感な⇔神経症
  (d.1)(非情動性/情動性)のんき/心配性
   ものごとがうまく行かないのではないかと,よく心配する (Em1)
   小さなことにはくよくよしない (Em1)
  (d.2)(非情動性/情動性)弛緩/緊張
   よく緊張する(Em2)
   緊張してふるえるようなことはない (Em2)
  (d.3)(非情動性/情動性)非抑うつ/抑うつ
   憂鬱になりやすい (Em3)
   見捨てられた感じがする (Em3)
  (d.4)(非情動性/情動性)自己受容/自己批判
   自分がみじめな人間に思える (Em4)
   自分には全然価値がないように思えることがある (Em4)
  (d.5)(非情動性/情動性)気分安定/気分変動
   陽気になったり陰気になったり,気分が変りやすい (Em5)
   明るいときと暗いときの気分の差が大きい (Em5)
 (1.5)現実性/遊戯性
  本質:遊び
  特徴と傾向:権威主義⇔堅実な⇔遊び心がある⇔逸脱・空想
  (e.1)(現実性/遊戯性)保守/進取
   考えることは面白い (P1)
   好奇心が強い (P1)
  (e.2)(現実性/遊戯性)実際/空想
   イメージがあふれ出てくる (P2)
   空想の世界をさまようことはほとんどない (P2)
  (e.3)(現実性/遊戯性)芸術への無関心/関心
   芸術作品に接すると鳥肌がたち興奮をおぼえることがある (P3)
   美や芸術にはあまり関心がない (P3)
  (e.4)(現実性/遊戯性)内的経験への鈍感/敏感
   自分の感じたことを大切にする (P4)
   感情豊かな人間である (P4)
  (e.5)(現実性/遊戯性)堅実/奔放
   変わった人だとよくいわれる (P5)
   別世界に行ってみたい (P5)
(出典:パーソナリティの特性論と 5 因子モデル: 特性の概念, 構造, および測定(辻平治郎,藤島寛,辻斉,夏野良司,向山泰代,1997))
(出典:5 因子性格検査短縮版 (FFPQー50) の作成(藤島寛,山田尚子,辻平治郎,2005))

(2)パーソナリティ特性と情動、欲求との関連性
 整理のための次元は、情動と欲求の基礎概念に従う。心的現象の事実を総合的に考えると、パーソナリティの発動は、他の心的現象と同じく情動と欲求を介した思考、行動への影響と仮定することは、妥当性の高い仮説だからである。
 また、配列の順は、アブラハム・マズローの欲求階層の基礎的な段階から高次な段階への順とする。なぜなら、この順が、情動の進化的な発現順についての一つの仮説となり得るし、また個人の発達段階としての仮説ともなり得るからである。ただし、マズローの欲求階層理論は、情動と欲求の基礎概念による新解釈に従った。
 基礎的な欲求の対象(情動の対象)から順に列挙する。
 (a)自己の身体が感知する快・不快(生理的欲求)
 (b)対象の新奇性(驚き、恐怖)と自己状態の快・不快(喜び、悲しみ)(安全と安定の欲求)
 (c)自己向け他者行為の快・不快(感謝、怒り)(愛と集団帰属の欲求)
 (d)自己行為の他者評価の快・不快(誇り、恥)(承認の欲求)
 (e)自己行為の自己評価の快・不快(内的自己満足、後悔)(自己尊重の欲求)
 (f)外的対象、他者状態、他者行為を含むすべての対象の快・不快(自己実現欲求)
  参照:(a)成長欲求(a1)自己実現欲求(真,善,美,躍動,必然,秩序,個性,完成,単純,完全,正義,豊富,自己充実,無礙,楽しみ,意味)(b)基本的欲求(b1)自尊心,他者による尊厳の欲求(b2)愛と集団帰属の欲求(b3)安全と安定の欲求(b4)生理的欲求(アブラハム・マズロー(1908-1970))

※情動と欲望は、代表的なものの例示である。
※情動誘発刺激は、感覚、想起、想像対象だけでなく、認知対象、信念も含む。

(2.1)自己の身体が感知する快・不快(生理的欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 肢体状況    快
 内部感覚    嫌悪
 自然的     快   自然的欲求  (自然性/統制性)
                    衝動/自己統制
   欲求    嫌悪         しんどいことは
                    やりたくない
         飢え、渇き      欲望のままに行動して
                    しまうようなことは,
                    ほとんどない
                    (非情動性/情動性)
                    気分安定/気分変動
                    陽気になったり陰気に
                    なったり,気分が変り
                    やすい
                    明るいときと暗いとき
                    の気分の差が大きい

(2.2)対象の新奇性(驚き、恐怖)と自己状態の快・不快(喜び、悲しみ)(安全と安定の欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 全対象     驚き  好奇心    (現実性/遊戯性)
                     保守/進取
         恐怖         考えることは面白い
                    好奇心が強い
 自己状態
 (感覚)    快   安全・安心欲求(非情動性/情動性)
                     弛緩/緊張
         不快         よく緊張する
                    緊張してふるえるよう
                    なことはない
                    (現実性/遊戯性)
                    内的経験への鈍感/敏感
                    自分の感じたことを
                    大切にする
                    感情豊かな人間である
 (認知)    喜び         (非情動性/情動性)
                     非抑うつ/抑うつ
         悲しみ        憂鬱になりやすい
                    見捨てられた感じが
                    する
 (予測)    安心         (非情動性/情動性)
                     のんき/心配性
         希望         ものごとがうまく行か
                    ないのではないかと,
                    よく心配する
         不安         小さなことには
                    くよくよしない
         絶望


(2.3)自己向け他者行為の快・不快(感謝、怒り)(愛と集団帰属の欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 他者行為    好意  親和欲求   (分離性/愛着性)
                     冷淡/温厚

         憤慨         人には暖かく友好的に
                    接している
                    あまり親切な人間では
                    ない
                    (分離性/愛着性)
                     懐疑/信頼
                    どうしても好きになれ
                    ない人がたくさんいる
                    出会った人はたいがい
                    好きになる
                    (内向性/外向性)
                     独居/群居
                    大勢でわいわい騒ぐの
                    がが好きである
                    大勢の人の中にいるの
                    が好きである
 (自己向け)  感謝
         怒り


(2.4)自己行為の他者評価の快・不快(誇り、恥)(承認の欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 自己行為
 (他者評価)  誇り  承認欲求   (内向性/外向性)
                     服従/支配
         恥   服従欲求   人の上に立つことが多い
                    人に指示を与えるよう
                    な立場に立つことが多い
                    (内向性/外向性)
                    注意回避/注意獲得
                    地味で目立つことはない
                    人から注目されると
                    うれしい
                    (自然性/統制性)
                    無責任/責任
                    仕事を投げやりにして
                    しまうことがある
                    責任感が乏しいといわ
                    れることがある

(2.5)自己行為の自己評価の快・不快(内的自己満足、後悔)(自己尊重の欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 自己行為
 (自己評価)  自尊心 達成欲求   (非情動性/情動性)
                    自己受容/自己批判
         後悔         自分がみじめな人間に
                    思える
                    自分には全然価値が
                    ないように思えるこ
                    とがある

(2.6)外的対象、他者状態、他者行為を含むすべての対象の快・不快(自己実現欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 外的対象    快   感覚欲求   (内向性/外向性)
                    興奮忌避/興奮追求
         嫌悪         にぎやかな所が好きで
                    ある
                    スポーツ観戦で我を忘
                    れて応援することがある
                    (現実性/遊戯性)
                    芸術への無関心/関心
                    芸術作品に接すると
                    鳥肌がたち興奮を
                    おぼえることがある
                    美や芸術にはあまり
                    関心がない
 他者状態    喜び         (分離性/愛着性)
                    非共感/共感

         憐れみ        人の気持ちを積極的に
                    理解しようとは思わない
                    人のよろこびを自分の
                    ことのように喜べる
                    (分離性/愛着性)
                    競争/協調
                    人情深いほうだと思う
                    気配りをするほうである
                    (分離性/愛着性)
                    自己尊重/他者尊重
                    誰に対しても優しく
                    親切にふるまうように
                    している
                    人を馬鹿にしていると
                    いわれることがある
 想起対象    快
         嫌悪
 想像対象    快   想像遊び   (現実性/遊戯性)
                    実際/空想
         嫌悪         イメージがあふれ出て
                    くる
                    空想の世界をさまよう
                    ことはほとんどない
                    (現実性/遊戯性)
                    堅実/奔放
                    変わった人だとよく
                    いわれる
                    別世界に行ってみたい
 幻覚・     快
   夢想    嫌悪
 認知対象    快   有能性への
                欲望
             認知欲求
         嫌悪
 理解対象    快   知的遊び   (自然性/統制性)
                    大まか/几帳面
         嫌悪  有能性への  あまりきっちりした
                    人間ではない
                欲望  几帳面である
                    (自然性/統制性)
                    無執着/執着
                    まじめな努力家である
                    根気が続かないほう
                    である
                    (自然性/統制性)
                    無計画/計画
                    よく考えてから行動する
                    仕事は計画的にする
                    ようにしている
 運動・行動   快   活動欲求   (内向性/外向性)
                    非活動/活動
         嫌悪         もの静かである
                    じっとしているの
                    が嫌いである

(3)仮説:パーソナリティ特性の情動傾向による特徴づけ
 分析結果を、パーソナリティ特性の本質として再整理する。
(3.1)内向性/外向性
本質:活動
特徴と傾向:臆病・気おくれ⇔控え目⇔積極的⇔無謀
本質の再定義
(a)内向性
(a.1)服従、注意回避
 自己行為の他者評価に伴う恥の情動が優勢であり、服従欲求が強い。
(a.2)独居
 他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動が優勢である。
(a.3)非活動
 運動や行動に伴う嫌悪の情動が優勢である。
(a.4)興奮忌避
 外的対象の感覚に伴う嫌悪の情動が優勢である。
(b)外向性
(b.1)支配、注意獲得
 自己行為の他者評価に伴う誇りの情動が優勢であり、承認欲求が強い。
(b.2)群居
 他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動が優勢であり、親和欲求が強い。
(b.3)活動
 運動や行動に伴う快の情動が優勢であり、活動欲求が強い。
(b.4)興奮追求
 外的対象の感覚に伴う快の情動が優勢であり、感覚欲求が強い。

(3.2)分離性/愛着性
本質:関係
特徴と傾向:敵意・自閉⇔自主独立的⇔親和的⇔集団埋没
本質の再定義
(a)分離性
(a.1)冷淡、懐疑
 他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動が優勢である。
(a.2)競争、非共感、自己尊重
 他者状態の認知に伴う喜び、憐れみの情動が弱い。
(b)愛着性
(b.1)温厚、信頼
 他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動が優勢であり、親和欲求が強い。
(b.2)協調、共感、他者尊重
 他者状態の認知に伴う喜び、憐れみの情動が強い。

(3.3)自然性/統制性
本質:意志
特徴と傾向:無為怠惰⇔あるがまま⇔目的合理的⇔仕事中毒
本質の再定義
(a)自然性
(a.1)大まか、無執着、無計画
  認知や理解に伴う嫌悪の情動が優勢である。
(a.2)無責任
  自己行為の他者評価に伴う恥の情動が優勢であり、服従欲求が強い。
(a.3)衝動
  肢体状態、内部感覚、自然的欲求を強く感知しすぎ、意志で統制できない。
(b)統制性
(b.1)几帳面、執着、計画
 認知や理解に伴う快の情動が優勢であり、知的遊びへの欲求が強い。
(b.2)責任
 自己行為の他者評価に伴う誇りの情動が優勢であり、承認欲求が強い。
(b.3)自己統制
 肢体状態、内部感覚、自然的欲求が弱い。あるいは意志による統制が強い。

(3.4)非情動性/情動性
本質:情動
特徴と傾向:感情鈍麻⇔情緒安定⇔敏感な⇔神経症
本質の再定義
(a)非情動性
(a.1)気分安定
 肢体状態、内部感覚、自然的欲求が弱い。あるいは意志による統制が強い。
(a.2)弛緩
 自己状態に伴う快、不快を適切に感知し、楽しむことができる。
(a.3)非抑うつ
 自己状態の認知に伴う喜び、悲しみを適切に感知し、活用することができる。
(a.4)のんき
 自己状態の予測に伴う希望や不安を適切に感知し、活用することができる。
(a.5)自己受容
 自己行為の自己評価に伴う自尊心の情動が優勢であり、達成欲求が強い。
(b)情動性
(b.1)気分変動
 肢体状態、内部感覚、自然的欲求を強く感知しすぎ、意志で統制できない。
(b.2)緊張
 自己状態に伴う快、不快を過剰に感知してしまう。
(b.3)抑うつ
 自己状態の認知に伴う喜び、悲しみを過剰に感知してしまう。
(b.4)心配症
 自己状態の予測に伴う希望や不安を過剰に感知してしまう。
(b.5)自己批判
 自己行為の自己評価に伴う後悔の情動が優勢である。

(3.5)現実性/遊戯性
本質:遊び
特徴と傾向:権威主義⇔堅実な⇔遊び心がある⇔逸脱・空想
本質の再定義
(a)現実性
(a.1)保守
 驚きの情動、好奇心が弱い。
(a.2)内的経験への鈍感
 自己状態に伴う快、不快に対して鈍感である。
(a.3)芸術への無関心
 外的対象に伴う嫌悪の情動が優勢である。
(a.4)実際、堅実
 想像に伴う嫌悪の情動が優勢である。
(b)遊戯性
(b.1)進取
 驚きの情動が豊かで、好奇心が旺盛である。 (b.2)内的経験への敏感
 自己状態に伴う快、不快を適切に感知し、楽しむことができる。
(b.3)芸術への関心
 外的対象に伴う快の情動が優勢であり、感覚欲求が強い。
(b.4)空想、奔放
 想像に伴う快の情動が優勢であり、想像遊びの欲求が強い。

(4)解明されたパーソナリティ特性が予言する諸命題
パーソナリティ特性の正確な再定義から予言される諸命題は、以下の通りである。
 (4.1)内向性/外向性
  本質:活動
  特徴と傾向:臆病・気おくれ⇔控え目⇔積極的⇔無謀
  (4.1.1)神経生理学の関連命題
   (a)運動や行動に伴う嫌悪の情動が優勢となる神経生理学的基盤は、内向性を強める。
   (b)運動や行動に伴う快の情動が優勢となる神経生理学的基盤は、外向性を強める。
   (c)外的対象の感覚に伴う嫌悪の情動が優勢となる神経生理学的基盤は、内向性を強める。
   (d)外的対象の感覚に伴う快の情動が優勢となる神経生理学的基盤は、外向性を強める。
  (4.1.2)社会心理学の関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起しやすい文化を持つ社会の成員は、内向性が強い。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起しやすい文化を持つ社会の成員は、外向性が強い。
   (c)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい文化を持つ社会の成員は、内向性が強い。
   (d)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすい文化を持つ社会の成員は、外向性が強い。
  (4.1.3)発達心理学の関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起しやすい成育歴を持つ個人は、内向性が強い。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起しやすい成育歴を持つ個人は、外向性が強い。
   (c)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい成育歴を持つ個人は、内向性が強い。
   (d)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすい成育歴を持つ個人は、外向性が強い。
  (4.1.4)症候群への介入関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起しやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の内向性を緩和できる。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起しやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の外向性を緩和できる。
   (c)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の内向性を緩和できる。
   (d)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の外向性を緩和できる。

 (4.2)分離性/愛着性
  本質:関係
  特徴と傾向:敵意・自閉⇔自主独立的⇔親和的⇔集団埋没
  (4.2.1)神経生理学の関連命題
   (a)他者状態の認知に伴う喜び、憐れみの情動が弱い神経生理学的基盤は、分離性を強める。
   (b)他者状態の認知に伴う喜び、憐れみの情動が強い神経生理学的基盤は、愛着性を強める。
  (4.2.2)社会心理学の関連命題
   (a)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい文化を持つ社会の成員は、分離性が強い。
   (b)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすく親和欲求を強める文化を持つ社会の成員は、愛着性が強い。
  (4.2.3)発達心理学の関連命題
   (a)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい成育歴を持つ個人は、分離性が強い。
   (b)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすく親和欲求を強める成育歴を持つ個人は、愛着性が強い。
  (4.2.4)症候群への介入関連命題
   (a)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の分離性を緩和できる。
   (b)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすく親和欲求を強める認知構造、信念体系を是正することで、過度の愛着性を是正できる。

 (4.3)自然性/統制性
  本質:意志
  特徴と傾向:無為怠惰⇔あるがまま⇔目的合理的⇔仕事中毒
  (4.3.1)神経生理学の関連命題
   (a)肢体状態、内部感覚、自然的欲求を強く感知しすぎる神経生理学的基盤は、自然性を強める。
   (b)肢体状態、内部感覚、自然的欲求の感知が弱い神経生理学的基盤は、統制性を強める。
   (c)認知や理解に伴う嫌悪の情動が優勢である神経生理学的基盤は、自然性を強める。
   (d)認知や理解に伴う快の情動が優勢であり、知的遊びへの欲求が強い神経生理学的基盤は、統制性を強める。
  (4.3.2)社会心理学の関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起し、服従欲求を強めやすい文化を持つ社会の成員は、自然性が強い。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起し、承認欲求を強めやすい文化を持つ社会の成員は、統制性が強い。
  (4.3.3)発達心理学の関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起し、服従欲求を強めやすい成育歴を持つ個人は、自然性が強い。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起し、承認欲求を強めやすい成育歴を持つ個人は、統制性が強い。
  (4.3.4)症候群への介入関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起し、服従欲求を強めやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の自然性を緩和できる。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起し、承認欲求を強めやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の統制性を緩和できる。

 (4.4)非情動性/情動性
  本質:情動
  特徴と傾向:感情鈍麻⇔情緒安定⇔敏感な⇔神経症
  (4.4.1)神経生理学の関連命題
   (b)肢体状態、内部感覚、自然的欲求の感知が弱い神経生理学的基盤は、非情動性を強める。
   (a)肢体状態、内部感覚、自然的欲求を強く感知しすぎる神経生理学的基盤は、情動性を強める。
   (c)自己状態に伴う快、不快を適切に感知できる神経生理学的基盤は、非情動性を強める。
   (d)自己状態に伴う快、不快を強く感知しすぎる神経生理学的基盤は、情動性を強める。
  (4.4.2)社会心理学の関連命題
   (a)自己状態の認知に伴う喜び、悲しみの情動を適切に喚起する文化を持つ社会の成員は、非情動性が強い。
   (b)自己状態の認知に伴う喜び、悲しみの情動を過剰に喚起する文化を持つ社会の成員は、情動性が強い。
   (c)自己状態の予測に伴う希望や不安を適切に喚起する文化を持つ社会の成員は、非情動性が強い。
   (d)自己状態の予測に伴う希望や不安を過剰に喚起する文化を持つ社会の成員は、情動性が強い。
   (e)自己行為の自己評価に伴う自尊心の情動の喚起が優勢な文化を持つ社会の成員は、非情動性が強い。
   (f)自己行為の自己評価に伴う後悔の情動の喚起が優勢な文化を持つ社会の成員は、情動性が強い。
  (4.4.3)発達心理学の関連命題
   (a)自己状態の認知に伴う喜び、悲しみの情動を適切に喚起する成育歴を持つ個人は、非情動性が強い。
   (b)自己状態の認知に伴う喜び、悲しみの情動を過剰に喚起する成育歴を持つ個人は、情動性が強い。
   (c)自己状態の予測に伴う希望や不安を適切に喚起する成育歴を持つ個人は、非情動性が強い。
   (d)自己状態の予測に伴う希望や不安を過剰に喚起する成育歴を持つ個人は、情動性が強い。
   (e)自己行為の自己評価に伴う自尊心の情動の喚起が優勢な成育歴を持つ個人は、非情動性が強い。
   (f)自己行為の自己評価に伴う後悔の情動の喚起が優勢な成育歴を持つ個人は、情動性が強い。
  (4.4.4)症候群への介入関連命題
   (a)自己状態の認知に伴う喜び、悲しみの情動を過剰に喚起する認知構造、信念体系を是正することで、過度の情動性を緩和できる。
   (b)自己状態の予測に伴う希望や不安を過剰に喚起する認知構造、信念体系を是正することで、過度の情動性を緩和できる。
   (c)自己行為の自己評価に伴う後悔の情動の喚起が優勢にする認知構造、信念体系を是正することで、、過度の情動性を緩和できる。

 (4.5)現実性/遊戯性
  本質:遊び
  特徴と傾向:権威主義⇔堅実な⇔遊び心がある⇔逸脱・空想
  (4.5.1)神経生理学の関連命題
   (a)驚きの情動、好奇心が弱い神経生理学的基盤は、現実性強める。
   (b)驚きの情動、好奇心が強い神経生理学的基盤は、遊戯性強める。
   (c)自己状態に伴う快、不快に対して鈍感である神経生理学的基盤は、現実性強める。
   (d)自己状態に伴う快、不快に対して敏感である神経生理学的基盤は、遊戯性強める。
   (e)外的対象に伴う嫌悪の情動が優勢である神経生理学的基盤は、現実性強める。
   (f)外的対象に伴う快の情動が優勢である神経生理学的基盤は、遊戯性強める。
   (g)想像に伴う嫌悪の情動が優勢である神経生理学的基盤は、現実性強める。
   (h)想像に伴う快の情動が優勢である神経生理学的基盤は、遊戯性強める。
  (4.5.2)社会心理学の関連命題
   なし。
  (4.5.3)発達心理学の関連命題
   なし。
  (4.5.4)症候群への介入関連命題
   なし。
(索引:パーソナリティ,5因子性格検査(FFPQ),情動)

パーソナリティは、目的に貢献するような互いに強化し合う諸部分から構成され、変化に対する抵抗性と復元性を持つ。ときに、変化による矛盾回避のため影響が全体に及ぶ場合もあるが、逆に元の傾向を極端化させる場合もある。(アブラハム・マズロー(1908-1970))

パーソナリティ症候群の諸特徴

【パーソナリティは、目的に貢献するような互いに強化し合う諸部分から構成され、変化に対する抵抗性と復元性を持つ。ときに、変化による矛盾回避のため影響が全体に及ぶ場合もあるが、逆に元の傾向を極端化させる場合もある。(アブラハム・マズロー(1908-1970))】
パーソナリティ症候群の諸特徴
(1)互換性
 一つの症候群に属する諸部分(各症状)は同じ目的を有するゆえに,部分間の代替可能性があること。
(2)循環的決定
 ホーナイの悪循環概念にみられるように,一つの部分は他のすべての部分に影響を与えると同時に,他のすべての部分からも影響を受けるという循環的な動きが総体的に進行すること。
(3)変化への抵抗性
 例えば,健康であろうとなかろうと,大きな外界の変化があっても,従来の生活スタイルに固執することがよく見られること。
(4)変化に対する復元傾向
 ショックを受けたとしても,それが慢性的でない限り,その影響は通例一時的なもので終わり,元の状態に復元しようとする自発的な調整が見られること。
(5)変化が全体的に及ぶ傾向
 症候群の一部分が変化すると,付随して他の部分も同じ方向で変化するので,症候群の変化はホーリスティックに起きることが多いこと。
(6)内的無矛盾性への傾向
 症候群の中で他の部分と矛盾する部分がある場合には,しばしばその部分を他の諸部分と同じ方向に引き込む作用が働くこと。
(7)極端化傾向
 自己保存の傾向とは逆の変化が増大する場合のことで,(6)の傾向のもと,不安定な人は極端に不安定となり,安定的な人は極端に安定的となる場合がよく見られること。
(8)外的状況による変化
 症候群は外的状況からは孤立していないところから,それに対して反応し変化する場合が多いこと。
(9)症候群の変数の重要性
 最も重要で明白な研究上の変数は症候群のレベルにあること。例えば,自尊心の強い場合と弱い場合に分けたり,精神的に安定している場合と不安定の場合に分けたりして,症候群の質を考察すること。
(10)症候群の表出は文化によって決定されること
 人が生活上の主要な目標を達成する方法は,多くの場合,その人が所属する文化の型に依存し,例えば,自尊心や愛情の表現は所属する文化によって承認された方法を通じて行われるということ。ここには,文化人類学の影響がみられる。

《概念図》
(1)互換性
 部分1→目的
  │
  │
 部分2→目的
(2)循環的決定
    強化
 部分1─→部分2┐
  ↑      │
  └──────┘
    強化
(3)変化への抵抗性、(4)復元性、(8)外的状況による変化
   外的状況
    │
    ↓変化
 部分1→部分1’→目的達成不可
  ↑  ││
  └──┘└→部分1”→目的達成
   復元   変化
(5)変化が全体的に及ぶ傾向
 部分1─→部分2─→部分3─→部分4
    影響   影響   影響
(6)内的無矛盾性への傾向
   外的状況
    │
    ↓変化 矛盾
 部分1→部分1’⇔部分2
      │
      ↓矛盾回避
     部分1”─→部分2
      ↑ 整合 │
      └────┘
(7)極端化傾向
   外的状況
    │
    ↓変化 矛盾
 部分1→部分1’⇔部分2
  ↑   │矛盾回避
  └───┘
  極端化
(9)症候群の変数の重要性
 最も重要で明白な研究上の変数は症候群のレベルにあること。例えば,自尊心の強い場合と弱い場合に分けたり,精神的に安定している場合と不安定の場合に分けたりして,症候群の質を考察すること。
(10)症候群の表出は文化によって決定されること
《概念図》
┌───────────────┐
│┌────────────┐ │
││┌─────────┐ │ │
│││意識的な動機   ← │ │
│││ 究極目標(目的)→ │ │
│││  ↓      │ │ │
│││ 部分目標(手段)│ │ │
│││  └───┐  ←── │
│││環境(状況)│  ──→ │
│││ 過去・現在│  │ │ │
│││ 予測・規範│  │ │ │
│││  │┌──┘  │ │ │
│││  ││ 分離的←─── │
│││  ││ 特殊的 │ │ │
│││  ││ 反応  │ │ │
│││  ↓↓ ↓   │ │ │
│││ 反応・行動   │ │ │
││└─────────┘ │ │
││文化(特殊的、局所的) │ │
│└────────────┘ │
│生体の状態(身体)      │
│ 多数の欲求、複数の動機   │
│ 欲求の優先度の階層     │
│ 無意識的な動機(根本的)  │
│ 局所的に見られた「動因」  │
└───────────────┘

(出典:wikipedia
アブラハム・マズロー(1908-1970)の命題集(Propositions of great philosophers)
「第4節では,前節を受けて,パーソナリティの部分としての症候群は如何なる特質を有するのかが示される。すなわち,「パーソナリティ症候群の諸特徴(Characteristics of Personality Syndromes)〔1954年著書では副題:「症候群の力動性(Syndrome Dynamics)」が付加〕」として,次の10点が列挙されている)。
(1)「互換性(interchangeability)」;一つの症候群に属する諸部分(各症状)は同じ目的を有するゆえに,部分間の代替可能性があること。
(2)「循環的決定(circular determination)」;ホーナイの悪循環概念にみられるように,一つの部分は他のすべての部分に影響を与えると同時に,他のすべての部分からも影響を受けるという循環的な動きが総体的に進行すること。
(3)「十分に組織化された症候群は変化に抵抗し自己を保存する傾向のあること(tendency of the well organized syndrome to resist change or to maintain itself)」;例えば,健康であろうとなかろうと,大きな外界の変化があっても,従来の生活スタイルに固執することがよく見られること。
(4)「十分に組織化された症候群は変化を経た後,再確立させる傾向のあること(tendency of the well organized syndrome to reestablish itself after change)」;ショックを受けたとしても,それが慢性的でない限り,その影響は通例一時的なもので終わり,元の状態に復元しようとする自発的な調整が見られること。
(5)「症候群は全体的に変化する傾向のあること(tendency of the syndrome to change as a whole)」;症候群の一部分が変化すると,付随して他の部分も同じ方向で変化するので,症候群の変化はホーリスティックに起きることが多いこと。
(6)「内的無矛盾性への傾向(the tendency to internal consistency)」;症候群の中で他の部分と矛 盾する部分がある場合には,しばしばその部分を他の諸部分と同じ方向に引き込む作用が働くこと。
(7)「症候群レベルが極端化する傾向(the tendency to extremeness of the syndrome level)」;自己保存の傾向とは逆の変化が増大する場合のことで,(6)の傾向のもと,不安定な人は極端に不安定となり,安定的な人は極端に安定的となる場合がよく見られること。
(8)「症候群が外的圧力によって変化する傾向(tendency of the syndrome to change under external pressures)」;症候群は外的状況からは孤立していないところから,それに対して反応し変化する場合が多いこと。
(9)「症候群の変数(syndrome variables)」;最も重要で明白な研究上の変数は症候群のレベルにあること。例えば,自尊心の強い場合と弱い場合に分けたり,精神的に安定している場合と不安定の場合に分けたりして,症候群の質を考察すること。
(10)「症候群の表出は文化によって決定されること(cultural determination of syndrome expres-sion)」;人が生活上の主要な目標を達成する方法は,多くの場合,その人が所属する文化の型に依存し,例えば,自尊心や愛情の表現は所属する文化によって承認された方法を通じて行われるということ。ここには,文化人類学の影響がみられる。
(出典:パーソナリティ研究におけるマズローの基本視座(三島斉紀,河野昭三,2010))
(索引:パーソナリティ症候群の諸特徴.三島斉紀,河野昭三,1908-1970_アブラハム・マズロー)

動機は、人間の統合的全体性の観点から解明される。すなわち、階層づけられた多数の無意識的な欲求に基盤を持ち、文化的な環境と相互作用する意識的な目標と、力動的に解釈された環境との相互作用から人間の行動が理解できるだろう。(アブラハム・マズロー(1908-1970))

動機の理論

【動機は、人間の統合的全体性の観点から解明される。すなわち、階層づけられた多数の無意識的な欲求に基盤を持ち、文化的な環境と相互作用する意識的な目標と、力動的に解釈された環境との相互作用から人間の行動が理解できるだろう。(アブラハム・マズロー(1908-1970))】

(1)生体の統合的全体性が再び強調されなくてはならない。
(2)局所的,身体的,部分的な動因を動機理論のパラダイムとしてはならない。
(3)動機研究で強調すべきことは,部分目標よりは究極目標,また手段よりは目的にある。意識的な動機だけでなく無意識的な動機が,動機理論の出発点となるべきである。
(4)通例,一つの目標に到達するのに文化的に異なった経路がある。それゆえ,動機理論の構築にあたり,根本的で無意識的な目標の方が,意識的で特殊的・局所的な願望よりも有益である。
(5)動機づけられた行動は,事前的であれ完了的であれ,多数の欲求が表明または充足され得る一つの経路であると理解されなくてはならない。通常の行為は,複数の動機から生じている。
(6)生体の状態の殆どすべては,動機づけられていると理解されるべきである。
(7)人間は常に何かを欲している動物である。一つの欲求が現出するかどうかは,直前の状況すなわち他の優勢な諸欲求がどのような状況にあるかに依存する。欲求や願望は優勢度のヒエラルキーの下で配列されている。
(8)個別の動因をいくら列挙しても無意味である。動機の分類を行うのであれば,分類のレベルや特殊性についての問題を取り扱う必要がある。
(9)動機の分類は,駆動因よりも目標に基づいてなされなくてはならない。
(10)動機理論は,動物を中心にするのではなく,人間を中心として形成されるべきである。
(11)生体が反応する状況や場が考慮されなくてはならないが,その際,状況や場について力動的な解釈が伴われなくてはならない。
(12)生体の統合的な在り方だけでなく,分離的,特殊的,部分的な反応行動も考慮されなくてはならない。

《概念図》(1)(10)
┌───────────────┐
│┌────────────┐ │
││┌─────────┐ │ │
│││意識的な動機   ← │ │
│││ 究極目標(目的)→ │ │(3)(9)
│││  ↓      │ │ │
│││ 部分目標(手段)│ │ │
│││  └───┐  ←── │
│││環境(状況)│  ──→ │(11)
│││ 過去・現在│  │ │ │
│││ 予測・規範│  │ │ │
│││  │┌──┘  │ │ │
│││  ││ 分離的←─── │(12)
│││  ││ 特殊的 │ │ │
│││  ││ 反応  │ │ │
│││  ↓↓ ↓   │ │ │
│││ 反応・行動   │ │ │
││└─────────┘ │ │
││文化(特殊的、局所的) │ │(4)
│└────────────┘ │
│生体の状態(身体)      │(6)
│ 多数の欲求、複数の動機   │(5)
│ 欲求の優先度の階層     │(7)(8)
│ 無意識的な動機(根本的)  │(3)
│ 局所的に見られた「動因」  │(2)
└───────────────┘

(出典:wikipedia
アブラハム・マズロー(1908-1970)の命題集(Propositions of great philosophers)
「他方,1943年の第1番目の発表論文「動機理論序説」では,基本欲求の階層性と自己実現欲求について萌芽的な記述がみられる。この論文は,従来の心理学の研究方法論について疑問を提起し,今後自らが目指すべき心理学(健全な心理学sound motivation theory と称した)の要件として,次の12命題(1954年以降では16命題に増加)を指摘している)。
(1)生体の統合的全体性(the integrated wholeness of the organism)が再び強調されなくてはならない。
(2)局所的,身体的,部分的な動因(drive)を動機理論のパラダイムとしてはならない。
(3)動機研究で強調すべきことは,部分目標よりは究極目標(ultimate goals),また手段よりは目的(ends)にある。意識的な動機だけでなく無意識的な動機(unconscious motivations)が,動機理論の出発点となるべきである。
(4)通例,一つの目標に到達するのに文化的に異なった経路(different cultural paths)がある。それゆえ,動機理論の構築にあたり,根本的で無意識的な目標(fundamental, unconscious goals)の方が,意識的で特殊的・局所的な願望よりも有益である。
(5)動機づけられた行動は,事前的であれ完了的であれ,多数の欲求(many needs)が表明または充足され得る一つの経路(a channel)であると理解されなくてはならない。通常の行為は,複数の動機(more than one motivation)から生じている。
(6)生体の状態の殆どすべては,動機づけられていると理解されるべきである。
(7)人間は常に何かを欲している動物(a perpetually wanting animal)である。一つの欲求が現出するかどうかは,直前の状況すなわち他の優勢な諸欲求がどのような状況にあるかに依存する。欲求や願望は優勢度のヒエラルキー(hierarchies of prepotency)の下で配列されている。
(8)個別の動因をいくら列挙しても無意味である。動機の分類を行うのであれば,分類のレベルや特殊性についての問題を取り扱う必要がある。
(9)動機の分類は,駆動因よりも目標に基づいてなされなくてはならない。
(10)動機理論は,動物を中心にするのではなく,人間を中心として形成されるべきである。
(11)生体が反応する状況や場が考慮されなくてはならないが,その際,状況や場について力動的な解釈が伴われなくてはならない。
(12)生体の統合的な在り方だけでなく,分離的,特殊的,部分的な反応行動も考慮されなくてはならない。」
(出典:パーソナリティ研究におけるマズローの基本視座(三島斉紀,河野昭三,2010))
(索引:動機の理論.三島斉紀,河野昭三,1908-1970_アブラハム・マズロー)

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