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2020年7月2日木曜日

07.(仮説)意識されない無数の心的表象のうち、目的に合致したものが選択され、グローバル・ワークスペースと呼ばれる特殊な神経領域に保管される。このとき、情報は意識化され、様々な脳領域で利用可能な状態となる。(バーナード・バース(1946-))

グローバル・ワークスペース理論

【(仮説)意識されない無数の心的表象のうち、目的に合致したものが選択され、グローバル・ワークスペースと呼ばれる特殊な神経領域に保管される。このとき、情報は意識化され、様々な脳領域で利用可能な状態となる。(バーナード・バース(1946-))】

グローバル・ワークスペース理論(バーナード・バース(1946-))
 (a)グローバル・ワークスペース
  グローバル・ワークスペースと呼ばれる特殊な神経領域が存在する。
 (b)意識されている情報
  その情報が、グローバル・ワークスペースに保管されている。
 (c)意識されない情報
  その情報が、グローバル・ワークスペースに保管されていない。
 (d)グローバル・ワークスペースが持っている機能
  (i)ここに保管されている情報は、様々な脳領域において利用可能な状態となっている。
  (ii)すなわち、意識とは、脳全体の情報共有にほかならない。
 (e)グローバル・ワークスペースと相互作用する様々な特化した心のプロセッサの例
  (i)対応する外部刺激が途絶えたあとでも、それを長く心に留めておく機能
  (ii)外部刺激を名前と対応づける機能

(出典:bernardbaars.com
バーナード・バース(1946-)の命題集(Propositions of great philosophers)
バーナード・バース(1946-)
検索(Bernard Baars)

 「意識の基盤には、いかなる情報処理の仕組みが存在するのだろうか? その存在理由は何だろうか? そして情報処理に基づく脳の経済において、意識はいかなる存在理由を持ち、どのような機能を果たしているのか? これらの問いに対する私の回答は簡潔なものだ。特定の情報の断片に気づいていると私たちが報告するとき、それはその情報が特殊な保管領域に蓄積され、それを通じて他の脳領域にも利用可能になったことを意味する。気づかぬところで脳内を恒常的によぎる無数の心的表象のうち、現在の目標に合致したものが選択され、意識はそれを高次の意思決定システムが利用できるように広域化する。私たちは、適切な情報を抽出し転送する、いわば心のルーターを備えているのだ。心理学者のバーナード・バースは、これを「グローバル・ワークスペース」と呼んだ。それは、私的な心のイメージを自由に喚起し、無数の特化した心のプロセッサーに伝達することを可能にする、外界から切り離された内的システムを言う。
 この理論に従えば、意識は脳全体の情報共有にほかならない。私たちは、何かを意識するときはつねに、対応する外部刺激が途絶えたあとでも、それを長く心に留めておける。なぜなら、脳は情報をワークスペースに持ち込み、最初に知覚した時間と空間とは無関係に保持できるからだ。その結果、私たちはその情報を好きな方法で利用できる。たとえば、言語プロセッサーに送って、それに名前をつけられる。だから、誰かに何らかの情報を報告する能力は、意識の主要な特徴の一つをなす。また長期記憶に蓄えたり、未来の計画に用いたりすることもできる。情報の柔軟な伝播は、意識の主要な特質の一つなのだ。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『意識と脳』,第5章 意識を理論化する,紀伊國屋書店(2015),pp.229-230,高橋洋(訳))
(索引:グローバル・ワークスペース理論)

意識と脳――思考はいかにコード化されるか


(出典:wikipedia
スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「160億年の進化を経て発達した皮質ニューロンのネットワークが提供する情報処理の豊かさは、現在の私たちの想像の範囲を超える。ニューロンの状態は、部分的に自律的な様態で絶えず変動しており、その人独自の内的世界を作り上げている。ニューロンは、同一の感覚入力が与えられても、その時の気分、目標、記憶などによって異なったあり方で反応する。また、意識の神経コードも脳ごとに異なる。私たちは皆、色、形状、動きなどに関して、神経コードの包括的な一覧を共有するが、それを実現する組織の詳細は、人によって異なる様態で脳を彫琢する、長い発達の過程を通じて築かれる。そしてその過程では、個々シナプスが選択されたり除去されたりしながら、その人独自のパーソナリティーが形成されていく。
 遺伝的な規則、過去の記憶、偶然のできごとが交錯することで形作られる神経コードは、人によって、さらにはそれぞれの瞬間ごとに独自の様相を呈する。その状態の無限とも言える多様性は、環境に結びついていながら、それに支配はされていない内的表象の豊かな世界を生む。痛み、美、欲望、後悔などの主観的な感情は、この動的な光景のもとで、神経活動を通して得られた、一連の安定した状態のパターン(アトラクター)なのである。それは本質的に主観的だ。というのも、脳の動力学は、現在の入力を過去の記憶、未来の目標から成る布地へと織り込み、それを通して生の感覚入力に個人の経験の層を付与するからである。
 それによって出現するのは、「想起された現在」、すなわち残存する記憶と未来の予測によって厚みを増し、常時一人称的な観点を外界に投影する、今ここについてのその人独自の暗号体系(サイファー)だ。これこそが、意識的な心の世界なのである。
 この絶妙な生物機械は、あなたの脳の内部でたった今も作動している。本書を閉じて自己の存在を改めて見つめ直そうとしているこの瞬間にも、点火したニューロンの集合の活動が、文字通りあなたの心を作り上げるのだ。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『意識と脳』,第7章 意識の未来,紀伊國屋書店(2015),pp.367-368,高橋洋(訳))
(索引:)

スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-)
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