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2021年12月11日土曜日

合理主義的態度の放棄、理性や論証や他人の観点に対する敬意の放棄は、感情と情熱の重視を通じて人々を分断し、政治的平等主義を実践的に不可能としてしまう。友と敵、我々の部族とよそ者、信仰者と非信仰者、同国人と外国人、階級的同志と階級的敵、指導者と非指導者。(カール・ポパー(1902-1994))

合理主義と平等主義との関係

合理主義的態度の放棄、理性や論証や他人の観点に対する敬意の放棄は、感情と情熱の重視を通じて人々を分断し、政治的平等主義を実践的に不可能としてしまう。友と敵、我々の部族とよそ者、信仰者と非信仰者、同国人と外国人、階級的同志と階級的敵、指導者と非指導者。(カール・ポパー(1902-1994))


(a)思想は非合理的な深層の反映なのか
 合理主義的態度の放棄、理性や論証や他人の観点に対する敬意の放棄、人間本性の「より深い」層の強調、こうした類のことは、思想はこれら非合理的な深層に内在するものの幾分表層的な現われに過ぎない、という見解を導く。
(b)思想か人格か
 思想家の思想ではなく、人格を重視する態度は、誤りである。なぜなら、思想を思想自身のメリットから判断してはいないからである。
(c)感情と情熱の強調は分断を生む
 我々は、抽象的に愛することはできず
知っている者を愛し得るのみである。従って、感情と情熱の強調は、人々を分断する。友と敵、我々の部族とよそ者、信仰者と非信仰者、同国人と外国人、階級的同志と階級的敵、指導者と非指導者。



「私は、不合理主義的態度は反平等主義的態度との関り合いをほとんど避けえないという事 実を強調しておきたい。この事実は、非合理主義が感情と情熱を強調することと関連してい る。なぜなら、われわれは万人に対して同じ感情を持つことはできないからである。感情的 に、われわれのすべては、人間を、自分たちにとって親密である者と、自分たちから離れてい る者とに分ける。友と敵とへの人類の分割は紛う方なく感情的分割である。そして、この分割 は、「汝の敵を愛せ」というキリスト教の命令で承認されもしている。実際にこの命令に従っ て生きている最良のキリスト教徒(「唯物論者」や「無神論者」に対する善良な平均的キリス ト教徒の態度に示されているように、その数は多くはないのだが)でさえ、万人に対する平等 な愛を感じることはできないのである。実際われわれは、「抽象的」に愛することはできな い。われわれは、われわれが知っている者を愛しうるのみである。それゆえ、われわれの最良 の感情である愛と憐憫への訴求でさえ、人類を様々なカテゴリーに分割するようになりうるの みである。そしてこのことは、劣等な感情や情熱に訴えが向けられるならば、一段とあてはま ることであろう。われわれの「自然」な反応とは、人類を友と敵とに、われわれの部族つまり われわれの感情的共同体に属する者とその外部に立つ者とに、信仰者と非信仰者とに、同国人と外国人とに、階級的同志と階級的敵とに、指導者と非指導者とに分割するということであろ う。  私は、われわれの思想や考想はわれわれの階級状況あるいは国家的利害に依存している、と いう理論が非合理主義を導かざるを得ないという点をすでに指摘した。今や私は、その反対が 真理であるという事実を力説したい。合理主義的態度の放棄、理性や論証や他人の観点に対す る敬意の放棄、人間本性の「より深い」層の強調、こうした類のことは、思想はこれら非合理 な深層に内在するものの幾分表層的な現われにしぎない、という見解を導かざるをえない。そ れは、私見によれば、ほとんどいつでも、思想家の思想ではなく、人格を重視する態度を産み 出さざるをえない。それは、「われわれはわれわれの血とともに」とか「われわれの民族的遺 産とともに」とか「われわれの階級とともに考える」といった信念を産み出さずにはおかない のである。このような見解は、唯物論的形態あるいは高度に精神的な様式で表現されることも ある。すなわち、われわれは「われわれの人種とともに考える」という思想は、おそらく、 「神の恩寵によって考える」という選ばれた或いは啓示された魂という思想によって、置き換 えられるかもしれないのである。私は、道徳上の理由からこうした相違に気をとめることを拒 否する。というのは、こうした知的に不遜極まる見解一切の間にある決定的な類似性は、それ らが思想を思想自身のメリットから判断してはいないということだからである。このように理 性を放棄することにより、それらは、人類を友と敵とに分裂させる、つまり、(プラトンが 言っているように)神と等しく理性を所有している少数者とそうでない多数者とに、さらには 近くにいる少数者と遠くにいる多数者とに、さらにはわれわれ自身の感情と情熱との他国語に は訳せない言葉を語る人々と国語を異にする人々とに分裂させるのである。ひとたびこうした 分裂が生じてしまうと、政治的平等主義は実践的に不可能となる。」
(カール・ポパー(1902-1994),『開かれた社会とその敵』,第2部 予言の大潮――ヘーゲル、 マルクスとその余波,第24章 神託的哲学と理性への叛逆,第3節,pp.216-217,未来社 (1980),内田詔夫(訳),小河原誠(訳))
カール・ポパー
(1902-1994)









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