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2018年5月26日土曜日

情報の信憑性の確認:(a)提供者の利害関係、(b)入手経路、(c)別の筋の情報、(d)裏づけ事実。入手先候補者:(a)当事者、(b)不平家、感情家、(c)大臣の談話、身振り表情、(d)見栄で話す人、(e)口の軽い人。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))

情報の信憑性、情報の入手先

【情報の信憑性の確認:(a)提供者の利害関係、(b)入手経路、(c)別の筋の情報、(d)裏づけ事実。入手先候補者:(a)当事者、(b)不平家、感情家、(c)大臣の談話、身振り表情、(d)見栄で話す人、(e)口の軽い人。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))】
   情報の信憑性の確認方法は、
(a)情報を提供した人たちの利害関係と情熱
(b)情報の対象になっている企みごとを、彼らがどうやって発見できたのか
(c)別の筋から知っていることと一致するか
(d)その情報を本当らしく思わせるような動きや準備が何かされているか
その他、問題の情報をめぐるすべての事情

 情報収集の相手方の候補者は、
(a)交渉家の誘惑にのるような直接の当事者
(b)憤懣を晴らすために時折は重大な事柄を洩らす不平家や感情家
(c)最も有能で忠実な大臣たちの不用意にした談話や身振り表情
(d)自分の洞察力を人に誉められたいために、喜んでとかく人に話してしまう連中
(e)しばしば言うべきでないことまでしゃべる口の軽い人間
 「有能な交渉家は、彼が受け取る情報を、すべてそのまま軽々に信じはしない。その前に、問題の情報をめぐるすべての事情や、情報を提供した人たちの利害関係と情熱や、情報の対象になっている企みごとを、彼らがどうやって発見できたのか、その情報は彼が同じ事柄の様子について別の筋から知っていることと一致するか、その情報を本当らしく思わせるような動きや準備が何かされているか、を検討する。」(中略)
 「交渉家は、任国の秘密を、国事にたずさわっている人々、または、その連中の打ち明け話しをきいている人々から探り出すことができる。交渉家の誘惑にのるような直接の当事者、しばしばいうべきでないことまでしゃべる口の軽い人間、憤懣を晴らすために時折は重大な事柄を洩らす不平家や感情家が、ほとんど必ずといってよいほどに、何人かは存在するものである。
 最も有能で忠実な大臣たちでさえも、常に身構えて用心しているとは限らない。君主と国家に対して一所懸命な大臣でも、不用意にした談話や身振り表情から、いちばん秘密にしていた利害の結びつきや色恋の関係までも、人に見破られた例がいくつかある。
 顧問会議のメンバーでない廷臣でも、その宮廷の政務を長年見聞してきた経験にものをいわせて、顧問会議で決定したことをかぎつけ、自分の洞察力を人に誉められたいために、喜んでとかく人に話してしまう連中がいる。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第8章 交渉家の職務について、pp.62-64、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))
(索引:情報の信憑性、情報の入手先)

外交談判法 (岩波文庫 白 19-1)



(出典:wikipedia
フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)の命題集(Collection of propositions of great philosophers) 「こうしたいろいろな交渉の仕方のいずれの場合にも、彼は、とりわけ、公明正大で礼儀にかなったやり方で成功を収めるようにするべきである。もし、細かい駆け引きを用い、相手よりもすぐれているつもりのおのれの才智にたよって、成功しようなどと思うならば、それはまず思い違いというものである。みずからの本当の利益を知る能力をそなえた顧問会議をもたないような君主や国家はない。いちばん粗野なようにみえる国民こそが、実は、自分の利益を最もよく理解して、ひとよりも一層粘り強くこれを追求する国民であることがしばしばある。であるから、どんなに有能な交渉家でも、そうした国民を、この点で欺こうなどと思ってはいけない。むしろ、彼が役目柄提案している事柄の中には、彼らにとって本当に有利な点がいろいろあることを分かってもらえるように、おのが知識と知力の限りを尽くして努力すべきである。人と人の間の友情とは、各人が自分の利益を追求する取引にほかならない、と昔のある哲人が言ったが、主権者相互の間に結ばれる関係や条約については、なおさら同じことが言える。相互的な利益を基礎においていない関係や条約は、存在しない。各主権者が相互に利益を見出さない場合には、条約は効力をほとんど持ち続けないで、自壊する。従って、交渉のいちばんの秘訣はかかる共通の諸利益を共存させ、できれば変わらぬ足どりで、前進させるための方法を見つけることである。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第8章 交渉家の職務について、pp.58-59、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))


フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)
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2018年5月9日水曜日

権力者に取り入るには、彼の信任の厚い人物を味方にすること。対象:才気がある取り巻き、そば仕えの役人、大臣、お気に入りの音楽家や歌姫、方法:贈り物、包み金、秘密の年金、注意事項:相手が気持よく、安心して、受け取れるようにすること。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))

買収

【権力者に取り入るには、彼の信任の厚い人物を味方にすること。対象:才気がある取り巻き、そば仕えの役人、大臣、お気に入りの音楽家や歌姫、方法:贈り物、包み金、秘密の年金、注意事項:相手が気持よく、安心して、受け取れるようにすること。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))】
 任国の君主に好かれる最も確かな方法は、その信任の厚い人物を味方にすることである。そのためには、包み金や秘密の年金、うまい時機をねらった贈り物など、その目的を達成するために役立つような出費が必要となる。その際、注意すべきは、贈り物をしようと思う相手が気持よく、安心して、受け取れるようにしなければならないということだ。また、国によっては、きまった慣習があって、ちょっとした贈り物をする機会が、しばしばある。
(a) とくに君主の信任の厚い人物。
  これ以外にも、次のような人たちが対象となる。
(b) 財産はないが才気があり、お偉方に取り入るすべを心得ているという人間。
(c) 機密事項をしばしば扱わせるために用いている地位の低い役人。
(d) 大臣でさえも、気持ちよくさらりとした態度で贈り物をもってゆけば、愛想よく受けとってくれる。
(e) 君主や大臣の許に出入りを許されている音楽家や歌姫。
 「任国の君主に好かれる最も確かな方法は、その信任の厚い人物を味方にすることであるから、すぐれた交渉家は丁重で礼儀正しく、かつ、愛想よく振舞うばかりでなく、道を通じさせるために大いに役立つような出費を何がしかする必要がある。しかし、それは、上手にやる必要がある。そして、贈り物をしようと思う相手が気持よく、安心して、受け取れるようにしなければならない。贈り物を受けとらせるのにむずかしい技巧がいらないような国も、ないではないが、やはり、贈る仕方によってその効果を増大させることは、贈り物をする人、もしくは、贈り物が手に入るように他人のためにはからう人にとって、賢明なことであり、礼儀にもかなったことである。
 国によっては、きまった慣習があって、ちょっとした贈り物をする機会が、しばしばある。この種の出費は、大使が任地の宮廷で尊敬され好かれるようになるのに大いに助けになるし、彼の任務を成功させるためにも、しばしば、すこぶる役立つことになる。
 どこの宮廷にも、財産はないが才気があり、お偉方に取り入るすべを心得ているという人間がいる。敏腕な交渉家ならば、この連中を、包み金や秘密の年金を与えて、味方にすることも怠ってはならない。上手にその人をえらぶことができれば、こうした連中を大いに役立たせることが可能である。君主や大臣の許に出入りを許されている音楽家や歌姫が、きわめて重要な謀を見破ったことも何度かある。こうした主権者たちは、機密事項をしばしば扱わせるために、地位の低い役人を、身辺に用いざるをえない。こうした役人どもや、うまい時機をねらって贈り物をすると、秘密を洩らさないとは限らない。大臣でさえも、気持ちよくさらりとした態度で贈り物をもってゆけば、愛想よく受けとってくれる。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第3章 交渉家の資質と行状について、pp.24-25、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))
(索引:買収、贈賄)

外交談判法 (岩波文庫 白 19-1)



(出典:wikipedia
「こうしたいろいろな交渉の仕方のいずれの場合にも、彼は、とりわけ、公明正大で礼儀にかなったやり方で成功を収めるようにするべきである。もし、細かい駆け引きを用い、相手よりもすぐれているつもりのおのれの才智にたよって、成功しようなどと思うならば、それはまず思い違いというものである。みずからの本当の利益を知る能力をそなえた顧問会議をもたないような君主や国家はない。いちばん粗野なようにみえる国民こそが、実は、自分の利益を最もよく理解して、ひとよりも一層粘り強くこれを追求する国民であることがしばしばある。であるから、どんなに有能な交渉家でも、そうした国民を、この点で欺こうなどと思ってはいけない。むしろ、彼が役目柄提案している事柄の中には、彼らにとって本当に有利な点がいろいろあることを分かってもらえるように、おのが知識と知力の限りを尽くして努力すべきである。人と人の間の友情とは、各人が自分の利益を追求する取引にほかならない、と昔のある哲人が言ったが、主権者相互の間に結ばれる関係や条約については、なおさら同じことが言える。相互的な利益を基礎においていない関係や条約は、存在しない。各主権者が相互に利益を見出さない場合には、条約は効力をほとんど持ち続けないで、自壊する。従って、交渉のいちばんの秘訣はかかる共通の諸利益を共存させ、できれば変わらぬ足どりで、前進させるための方法を見つけることである。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第8章 交渉家の職務について、pp.58-59、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))


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2018年4月21日土曜日

機会から大きな利益を得る取引を引き出す情報の重要性:秘匿情報はその存在さえも悟られてはならない、目論見に反しない情報提供で相手の信頼を獲得する、話したい欲望や見栄による発言を自制する、腹を立て自説を根拠づけようと発言するなど危険きわまりない。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))

交渉における情報の重要性

【機会から大きな利益を得る取引を引き出す情報の重要性:秘匿情報はその存在さえも悟られてはならない、目論見に反しない情報提供で相手の信頼を獲得する、話したい欲望や見栄による発言を自制する、腹を立て自説を根拠づけようと発言するなど危険きわまりない。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))】
 交渉において、訪れる機会を一層上手に利用し、取引からいちばん大きな利益を得るのに最も重要なのは、相手よりも限界が広い情報である。交渉家相互の間では、情報の交換が行われ、情報を貰いたければ、与えざるをえない。このような状況で大切なことは、以下のことである。
 (1) 洩らして然るべき時機までは、秘密を見抜かれるようなことをしない。そればかりではなく、何かを隠しているということを、交渉相手に悟られてはならない。
 (2) 秘密を守ってくれる相手だという信頼をおいていることを示し、その確かな証拠として、こちらの目論見に反しない程度の事柄を、交渉相手に打ち明けるべきである。そうすると、向こうもこちらを信頼している証拠として、いろいろなことを、しばしば、こちらが洩らしたことよりもっと重要な事柄を、お返しに教えようという気持ちになるものである。
 (3) しゃべりたくてむずむずしても、その欲望に抵抗できるような自制心を持つ。相手の提案に対して、即座に、よく考えもしないで、返答をしようと見栄を張らないことである。
 (4) ましてや、相手の反駁に対して腹を立て、自説を根拠づけようとして、大切な秘密を話してしまうなどの失敗は、もってのほかである。
「立派な交渉家にとって、就中、必要なことは、何をいうべきかをよく自分で検討してみない中は、しゃべりたくてむずむずしても、その欲望に抵抗できるような自制心を持つことである。相手の提案に対して、即座に、よく考えもしないで、返答をしようと見栄を張らないことである。現代のあるよその国の有名な大使は、議論の最中に腹を立てやすい人で、相手が反駁して彼を怒らせると、自説を根拠づけようとして、しばしば大切な秘密をしゃべってしまったが、この大使のような過ちを犯さないように気をつけることである。」(中略)
「腕利きの交渉家は、洩らして然るべき時機までは、秘密を見抜かれるようなことをしない。そればかりではない。何か隠しているということを、交渉相手に悟られてはならない。秘密を守ってくれる相手だという信頼をおいていることを示し、その確かな証拠として、こちらのもくろみに反しない程度の事柄を、打ち明けるべきである。そうすると、向こうもこちらを信頼している証拠として、いろいろなことを、しばしば、こちらが洩らしたことよりもっと重要な事柄を、お返しに教えようという気持ちになるものである。交渉家相互の間では、情報の交換が行われる。情報を貰いたければ、与えざるをえない。この取引からいちばん大きな利益を得るのは、相手よりも限界が広いので、訪れる機会を一層上手に利用できる人である。この人こそ、最も敏腕な交渉家である。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第3章 交渉家の資質と行状について、pp.21-22、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))
(索引:交渉における情報の重要性)

外交談判法 (岩波文庫 白 19-1)




(出典:wikipedia
「こうしたいろいろな交渉の仕方のいずれの場合にも、彼は、とりわけ、公明正大で礼儀にかなったやり方で成功を収めるようにするべきである。もし、細かい駆け引きを用い、相手よりもすぐれているつもりのおのれの才智にたよって、成功しようなどと思うならば、それはまず思い違いというものである。みずからの本当の利益を知る能力をそなえた顧問会議をもたないような君主や国家はない。いちばん粗野なようにみえる国民こそが、実は、自分の利益を最もよく理解して、ひとよりも一層粘り強くこれを追求する国民であることがしばしばある。であるから、どんなに有能な交渉家でも、そうした国民を、この点で欺こうなどと思ってはいけない。むしろ、彼が役目柄提案している事柄の中には、彼らにとって本当に有利な点がいろいろあることを分かってもらえるように、おのが知識と知力の限りを尽くして努力すべきである。人と人の間の友情とは、各人が自分の利益を追求する取引にほかならない、と昔のある哲人が言ったが、主権者相互の間に結ばれる関係や条約については、なおさら同じことが言える。相互的な利益を基礎においていない関係や条約は、存在しない。各主権者が相互に利益を見出さない場合には、条約は効力をほとんど持ち続けないで、自壊する。従って、交渉のいちばんの秘訣はかかる共通の諸利益を共存させ、できれば変わらぬ足どりで、前進させるための方法を見つけることである。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第8章 交渉家の職務について、pp.58-59、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))

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2018年4月20日金曜日

交渉家の資質:注意深さと勤勉さ、物事の本質を把握し的確に目的達成する判断力、物静かで忍耐強い傾聴の力、相手から好かれるような性格、相手の心理への洞察力、障害を除去する機略縦横な能力、不意打ち状況でも的確に応答できる沈着さ。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))

交渉家の資質

【交渉家の資質:注意深さと勤勉さ、物事の本質を把握し的確に目的達成する判断力、物静かで忍耐強い傾聴の力、相手から好かれるような性格、相手の心理への洞察力、障害を除去する機略縦横な能力、不意打ち状況でも的確に応答できる沈着さ。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))】
(1) 浮薄な快楽や慰みごとに気を散らすことの決してなく、注意深く勤勉であること。
(2) 物事をあるがままにずばりと把握し、いちばん近道で無理のない方法で目標を達成する判断力をもつこと。洗練の度がすぎたり、意味のない細かな手立てにおぼれないこと。
(3) 気分にむらがなく、物静かで忍耐強く、相手の言うことに、何時でも気を散らさずに耳を傾けられること。
(4) 人との応対がいつも開けっぱなしで、おだやかで、ていねいで、気持ちがよく、また、物腰が気どらないでさりげなく、そのためにうまく相手から好かれること。
(5) 人の心の中で起こっていることを見破り、相手の感情をうまく利用できるような洞察力をもつこと。
(6) 利害の調整に当たって出くわす障害を、たやすくとり除いてしまうような機略縦横な才をもつこと。
(7) 思いがけぬ問題に不意打ちされても、うまく受け答えができ、分別のある答弁でその場を切りぬけられるような沈着さをもつこと。
「そのような資質とは、浮薄な快楽や慰みごとに気を散らすことの決してない注意深く勤勉な精神である。物事をあるがままにずばりと把握し、いちばん近道で無理のない方法で目標に進み、洗練の度がすぎたり、意味のない細かな手立てにおぼれて、よくありがちなことながら、交渉相手を尻込みさせるというような間違いを犯さない正しい判断力である。ひとの心の中で起こっていることを見破ることができ、どんなにおとぼけの上手な人でも感情を抑えきれないで、それが顔の表情などにちょっとでも出るのをすぐうまく利用できるような洞察力である。任務である利害の調整に当たって出くわす障害を、たやすくとり除いてしまうような機略縦横の才である。思いがけぬ問題に不意打ちされても、うまく受け答えができ、足をすべらしそうになっても、分別のある答弁でその場を切りぬけられるような沈着さである。気分にむらがなく、物静かで忍耐強く、相手のいうことに、何時でも気を散らさずに耳を傾けられるということである。人との応対がいつも開けっぱなしで、おだやかで、ていねいで、気持ちがよく、また、物腰が気どらないでさりげなく、そのためにうまく相手から好かれるということである(その反対は、重々しく冷たいそぶりや、陰鬱でむっとしたような顔つきで、これでは相手を尻込みさせるし、反発を招くのが普通である)。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第3章 交渉家の資質と行状について、pp.20-21、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))
(索引:交渉家の資質)

外交談判法 (岩波文庫 白 19-1)




(出典:wikipedia
「こうしたいろいろな交渉の仕方のいずれの場合にも、彼は、とりわけ、公明正大で礼儀にかなったやり方で成功を収めるようにするべきである。もし、細かい駆け引きを用い、相手よりもすぐれているつもりのおのれの才智にたよって、成功しようなどと思うならば、それはまず思い違いというものである。みずからの本当の利益を知る能力をそなえた顧問会議をもたないような君主や国家はない。いちばん粗野なようにみえる国民こそが、実は、自分の利益を最もよく理解して、ひとよりも一層粘り強くこれを追求する国民であることがしばしばある。であるから、どんなに有能な交渉家でも、そうした国民を、この点で欺こうなどと思ってはいけない。むしろ、彼が役目柄提案している事柄の中には、彼らにとって本当に有利な点がいろいろあることを分かってもらえるように、おのが知識と知力の限りを尽くして努力すべきである。人と人の間の友情とは、各人が自分の利益を追求する取引にほかならない、と昔のある哲人が言ったが、主権者相互の間に結ばれる関係や条約については、なおさら同じことが言える。相互的な利益を基礎においていない関係や条約は、存在しない。各主権者が相互に利益を見出さない場合には、条約は効力をほとんど持ち続けないで、自壊する。従って、交渉のいちばんの秘訣はかかる共通の諸利益を共存させ、できれば変わらぬ足どりで、前進させるための方法を見つけることである。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第8章 交渉家の職務について、pp.58-59、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))

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2018年4月19日木曜日

国家にとって、腕利きの交渉家の交渉技術ほど重要なものはない。それは、無数の権利主張や紛争を、自国の利益にかなう協定で解決する。また、安全保障においても、自国の安全と利益にかなう状況工作により、しばしば軍隊を維持するにも劣らぬ効果を上げる。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))

国家と交渉技術

【国家にとって、腕利きの交渉家の交渉技術ほど重要なものはない。それは、無数の権利主張や紛争を、自国の利益にかなう協定で解決する。また、安全保障においても、自国の安全と利益にかなう状況工作により、しばしば軍隊を維持するにも劣らぬ効果を上げる。(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717))】
 交渉技術は、人間が考え出したすべての法律よりも、一層大きな影響力を人間の行動に及ぼす。なぜなら法律は、紛争やきまりのつかない権利主張を無数にもらたし、これは協定を結ぶことによってのみ解決しうるからである。そしてその成果は、かかる任務を与えられる交渉家の行状と資質の如何によって左右される。
 利害の相対立する政府の間での条約の締結、条約の解消は言うに及ばず、交渉家は、しばしば軍隊を維持するにも劣らぬ効果を、わずかな費用であげる。慎重で腕利きの交渉家を、世界の諸国に常時駐在させ、諸国において選り抜きの友人と情報源を大切にしている君主は、彼自身の利益に従って、隣接諸国の運命を左右し、平和を維持し、あるいは戦争を続けさせることが可能である。
 例えば、任国の軍隊を、自国の利益になるように行動させる。憎悪をかき立たせ、嫉妬心を燃え上がらせることで、反乱をけしかけ、突如として政変を起こさせる。あるいは、己の利益に反するにもかかわらず、君主たちや諸国民をして武器を取らせる。
 もちろん、他の主権者たちの間に起こる紛争に対して、交渉家を使って調停を申し入れ、こちらの仲立ちによって平和を回復させることもまた、大国の君主にとって利益となる。けだし、これほどに、彼の勢力の評判を広め、彼の勢力をすべての国の国民に重んじさせるものはないからである。
「交渉によって何が可能であるかを知るためには、なにも過去の例を引き合いに出すまでもない。交渉がもたらす眼に見える効果を、われわれは毎日のように見ている。交渉は、大国に突如として政変を起こさせる。交渉は、君主たちや諸国民をして、おのれの利益に反するにもかかわらず、国全体をこぞって武器をとらせる。交渉は反乱をけしかける。憎悪をかき立たせる。また、嫉妬心を燃え上がらせる。交渉は、利害の相対立する君主や政府の間に同盟条約またはその他の種類の条約を結ばせる。交渉は、そうした条約を破壊し、最も緊密な結合をも解消させる。交渉技術の上手下手によって、政治全般のあり方も、無数の個々の問題の様子も、その善し悪しが左右されるといえる。また、交渉技術は、人間が考え出したすべての法律よりも、一層大きな影響力を人間の行動に及ぼすといえる。何故ならば、人間が現在以上に法律を守ることに細心であったとしても、法律は紛争やきまりのつかない権利主張を無数にもらたし、これは協定を結ぶことによってのみ解決しうるからである。そして、このような協定は、一般的な性質のものも、特殊的なものも、その締結にあたる交渉家の手腕のほどに応じて、各当事者にとって、有利なものとも、不利なものとも、なるのである。
 従って、次のような結論をたやすく引き出すことができる。ヨーロッパ諸国に配置されたえりぬきの少数の交渉家は、彼らを派遣する君主ないしは政府に対して大いに役立つことができる。彼らは、しばしば軍隊を維持するにも劣らぬ効果を、わずかな費用であげる。何故ならば、彼らは任国の軍隊を主君の利益になるように行動させるすべを心得ているからであって、近くや遠くの同盟国がちょうどうまい時機に牽制作戦をしてくれるほど有益なことはないのである。
 他の主権者たちの間に起こる紛争に対して、交渉家を使って調停を申し入れ、こちらの仲立ちによって平和を回復させることもまた、大国の君主にとって利益となる。けだし、これほどに、彼の勢力の評判を広め、彼の勢力をすべての国の国民に重んじさせるものはない。
 慎重で腕利きの交渉家をヨーロッパの諸国に常時駐在させ、諸国においてえりぬきの友人と情報源を大切にしている強大な君主は、彼自身の利益に従って、隣接諸国の運命を左右し、平和を維持し、あるいは戦争をつづけさせることが可能である。ところで、このような偉大な効果があるか否かは、とりわけ、かかる任務を与えられる交渉家の行状と資質の如何によって左右されるから、この種の仕事につかせるにあたっては、その人材に必要な資質を詳細に検討することが適当である。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第2章 交渉の効用について、pp.18-19、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))
(索引:交渉技術、交渉家、法律、安全保障)

外交談判法 (岩波文庫 白 19-1)




(出典:wikipedia
「こうしたいろいろな交渉の仕方のいずれの場合にも、彼は、とりわけ、公明正大で礼儀にかなったやり方で成功を収めるようにするべきである。もし、細かい駆け引きを用い、相手よりもすぐれているつもりのおのれの才智にたよって、成功しようなどと思うならば、それはまず思い違いというものである。みずからの本当の利益を知る能力をそなえた顧問会議をもたないような君主や国家はない。いちばん粗野なようにみえる国民こそが、実は、自分の利益を最もよく理解して、ひとよりも一層粘り強くこれを追求する国民であることがしばしばある。であるから、どんなに有能な交渉家でも、そうした国民を、この点で欺こうなどと思ってはいけない。むしろ、彼が役目柄提案している事柄の中には、彼らにとって本当に有利な点がいろいろあることを分かってもらえるように、おのが知識と知力の限りを尽くして努力すべきである。人と人の間の友情とは、各人が自分の利益を追求する取引にほかならない、と昔のある哲人が言ったが、主権者相互の間に結ばれる関係や条約については、なおさら同じことが言える。相互的な利益を基礎においていない関係や条約は、存在しない。各主権者が相互に利益を見出さない場合には、条約は効力をほとんど持ち続けないで、自壊する。従って、交渉のいちばんの秘訣はかかる共通の諸利益を共存させ、できれば変わらぬ足どりで、前進させるための方法を見つけることである。」
(フランソワ・ド・カリエール(1645-1717)『外交談判法』第8章 交渉家の職務について、pp.58-59、岩波文庫(1978)、坂野正高(訳))

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