2019年4月10日水曜日

レントシーキングに都合の悪い規制の廃止、緩和方法:(a)規制の取り込み(規制対象セクターへの天下り)、(b)認知の取り込み(ロビー活動、規制当局の人事への影響力の行使)。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))

レントシーキングに都合の悪い規制の廃止、緩和方法

【レントシーキングに都合の悪い規制の廃止、緩和方法:(a)規制の取り込み(規制対象セクターへの天下り)、(b)認知の取り込み(ロビー活動、規制当局の人事への影響力の行使)。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】

(4.3)(a)追記

 (4.3)都合の悪い規制の廃止、緩和
  レントシーキングに都合の悪い法律が作られないようにする。政府の規制は少ない方がいい。
  (a)ロビー活動と選挙支援に巨額の資金を投資することで、政策決定に影響力を行使する。
   (a.1)規制の取り込み
    (i)政治的影響力を使って、自分の意見に近い人々を規制当局へ送り込む。
    (ii)規制当局者が退任した後、規制対象のセクターへ天下りさせ、太っ腹な報酬で迎える。
   (a.2)認知の取り込み
    (i)大量のロビイストを送り込む。
    (ii)何らかの方法で“取り込み済み”の人々が規制当局者に任命されるよう、政府に対して働きかける。
    (iii)逆に「市場には自らを規制する能力があり、銀行には自らのリスクを管理する能力がある」という業界の綱領を踏みはずす候補者が現れれば、途方もなく大きな抗議の声によって、人事案を葬り去る。
  (b)反競争的行為が法律で禁止されないようにする。
  (c)仮に法律が存在する場合は、実効的な取り締まりが行なわれないようする。
  (d)法律家たちのインセンティブ。
   法律は複雑な方が、都合がよい。顧客に法律の回避方法を指南し、また法律の抜け穴を利用した複雑な取引を組み立て、合法的に見える契約をお膳立てし、レントシーキングと独占力を維持することが可能となる。

 「認知の取り込み
 “公正な”ゲームに勝利する能力と、ゲームのルールを設定する能力は、まったく別のものだ。特定の人々の勝率が上がるようルールを設定する能力も別物であり、参加者が審判を選べれば、状況はもっと悪くなる。現在、多くのセクターで規制当局が監督の任(ルールと規制の設定および執行)に就いている。たとえば、電気通信セクターでは連邦通信委員会(FCC)、証券セクターでは証券取引委員会(SEC)、銀行セクターのさまざまな分野では連邦準備銀行。ここで問題となるのは、各セクターの有力者たちが政治的影響力を使って、自分の意見に近い人々を規制当局へ送り込んでしまうことだ。
 経済学者はこれを“規制の取り込み”と呼ぶ。規制当局者が取り込まれる背景には、金銭的インセンティブが存在する場合もある。なぜなら、彼らは規制対象のセクターから選ばれ、やがては規制対象のセクターへ戻っていくからだ。彼らのインセンティブは、残りの社会のインセンティブより、古巣のインセンティブのほうと一致している。規制当局者がセクターのために尽力すれば、退任後には太っ腹な報酬が待ち受けているのだ。
 しかし、取り込まれる動機が金だけとは限らない。規制当局者の思考様式が、規制対象者の思考様式に取り込まれてしまう場合もある。これは社会学的な現象で、“認知の取り込み”と呼ばれる。アラン・グリーンスパンもティム・ガイトナーも大銀行で働いた経験はないが、連銀に来て以降、銀行業界に対して自然な親近感を抱いていった。ひょっとすると、同じ考え方を共有していたかもしれない。銀行家たちはみずから大混乱を招いておきながら、政府救済のひきかえとして銀行にきびしい条件を課すべきでないと考えていた。
 規制に何らかの役割を果たしている人々全員に、銀行を規制するべきではないという主張を受け入れさせるため、これまで銀行業界は大量のロビイストを送り込んできた(推定では連邦議員1人あたり2.5人)。しかし、ターゲットが初めから業界寄りの意見を持っていれば、説得の作業はたやすくなる。だからこそ銀行業界とそのロビイストたちは、何らかの方法で“取り込み済み”の人々が規制当局者に任命されるよう、政府に対して猛烈な働きかけを行なっているのだ。逆に、考えのちがう人々が任命されそうになると、候補者が同じ業界の出身者であろうと、銀行家たちは拒否権を発動しようとする。FRBの人事案が漏れるたびに繰り返されるこの動きを、わたしが初めて目の当たりにしたのはクリントン政権時代だった。現在でも、市場にはみずからを規制する能力があり、銀行にはみずからのリスクを管理する能力がある、という業界の綱領を踏みはずす候補者が現れれば、途方もなく大きな抗議の声によって、人事案の提出は見送られるだろう。たとえ提出されても、議会の承認は決して得られないだろう。」
(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.96-98,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))
(索引:レントシーキング,規制の取り込み,認知の取り込み)

世界の99%を貧困にする経済


(出典:wikipedia
ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「改革のターゲットは経済ルール
 21世紀のアメリカ経済は、低い賃金と高いレントを特徴として発展してきた。しかし、現在の経済に組み込まれたルールと力学は、常にあきらかなわけではない。所得の伸び悩みと不平等の拡大を氷山と考えてみよう。
 ◎海面上に見える氷山の頂点は、人々が日々経験している不平等だ。少ない給料、不充分な利益、不安な未来。
 ◎海面のすぐ下にあるのは、こういう人々の経験をつくり出す原動力だ。目には見えにくいが、きわめて重要だ。経済を構築し、不平等をつくる法と政策。そこには、不充分な税収しか得られず、長期投資を妨げ、投機と短期的な利益に報いる税制や、企業に説明責任をもたせるための規制や規則施行の手ぬるさや、子どもと労働者を支える法や政策の崩壊などがふくまれる。
 ◎氷山の基部は、現代のあらゆる経済の根底にある世界規模の大きな力だ。たとえばナノテクノロジーやグローバル化、人口動態など。これらは侮れない力だが、たとえ最大級の世界的な動向で、あきらかに経済を形づくっているものであっても、よりよい結果へ向けてつくり替えることはできる。」(中略)「多くの場合、政策立案者や運動家や世論は、氷山の目に見える頂点に対する介入ばかりに注目する。アメリカの政治システムでは、最も脆弱な層に所得を再分配し、最も強大な層の影響力を抑えようという立派な提案は、勤労所得控除の制限や経営幹部の給与の透明化などの控えめな政策に縮小されてしまう。
 さらに政策立案者のなかには、氷山の基部にある力があまりにも圧倒的で制御できないため、あらゆる介入に価値はないと断言する者もいる。グローバル化と人種的偏見、気候変動とテクノロジーは、政策では対処できない外生的な力だというわけだ。」(中略)「こうした敗北主義的な考えが出した結論では、アメリカ経済の基部にある力と闘うことはできない。
 わたしたちの意見はちがう。もし法律やルールや世界的な力に正面から立ち向かわないのなら、できることはほとんどない。本書の前提は、氷山の中央――世界的な力がどのように現われるかを決める中間的な構造――をつくり直せるということだ。
 つまり、労働法コーポレートガバナンス金融規制貿易協定体系化された差別金融政策課税などの専門知識の王国と闘うことで、わたしたちは経済の安定性と機会を最大限に増すことができる。」

  氷山の頂点
  日常的な不平等の経験
  ┌─────────────┐
  │⇒生活していくだけの給料が│
  │ 得られない仕事     │
  │⇒生活費の増大      │
  │⇒深まる不安       │
  └─────────────┘
 経済を構築するルール
 ┌─────────────────┐
 │⇒金融規制とコーポレートガバナンス│
 │⇒税制              │
 │⇒国際貿易および金融協定     │
 │⇒マクロ経済政策         │
 │⇒労働法と労働市場へのアクセス  │
 │⇒体系的な差別          │
 └─────────────────┘
世界規模の大きな力
┌───────────────────┐
│⇒テクノロジー            │
│⇒グローバル化            │
└───────────────────┘

(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『アメリカ経済のルールを書き換える』(日本語書籍名『これから始まる「新しい世界経済」の教科書』),序章 不平等な経済システムをくつがえす,pp.46-49,徳間書店(2016),桐谷知未(訳))
(索引:)

ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-)
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46億年の地球の歴史を経て、過剰な有害放射能が消え去り生命が育まれた。これが、93番以降の超ウラン元素が天然に存在しない理由だ。核技術は、この46億年の歴史に取り返しのつかない影響を及ぼす可能性がある。(高木仁三郎(1938-2000))

核技術の特殊性

【46億年の地球の歴史を経て、過剰な有害放射能が消え去り生命が育まれた。これが、93番以降の超ウラン元素が天然に存在しない理由だ。核技術は、この46億年の歴史に取り返しのつかない影響を及ぼす可能性がある。(高木仁三郎(1938-2000))】

地球の歴史
生命の誕生
人類の進化
物理学の歴史
アインシュタイン
核分裂の発見

 「さて、原子番号の大きい「重い」元素は、みな不安定で、放射性である。原子番号八四番の ポロニウム とそれより重い元素は、天然に存在するものもすべて放射性である。そんななかで、九二番の ウラン までが天然に存在し、それより重い九三番以降のもの(「超ウラン元素」と呼ぶ)が天然に存在しないのは、どういうわけだろうか。実は、地球ができた頃、あるいはそれよりももっと昔には、もっともっと多くの元素があったと考えられる。しかし、地球が生まれてからでもすでに四六億年もの年月がたっているので、それから現在までの間に、寿命の短い不安定な元素はみな死に絶えてしまったのである。
 ウランが残ったのは、その寿命が充分に長かったからだ。ウランの仲間のなかで最も長生きなのは、半減期が四五億年のウラン-二三八である。これだけ寿命が長かったからこそ、今も生き残り、私たちはその存在を天然に見出すわけだが、超ウラン元素はすべてもっと不安定で、天然には存在せず、人工的に作りだすよりほかにそれを手にする手段はない。
 したがって、原初の地球は放射能で満ち満ちていたといっても過言ではない。ウラン-二三八も現在量のちょうと二倍あったはずである。私たちが今日あるのも、四六億年という地球の歴史の過程で、過剰な有害放射能が死に絶え、生命の条件が整ったということにも大いによっているという事実は、心に留めておくべきことである。」
(高木仁三郎(1938-2000)『高木仁三郎著作集 第四巻 プルートーンの火』プルトニウムの恐怖 第1章 パンドラの筐は開かれた、pp.127-128)
(索引:核技術の特殊性,地球の歴史,生命の誕生,人類の歴史)

プルートーンの火 (高木仁三郎著作集)

(出典:高木仁三郎の部屋
友へ―――高木仁三郎からの最後のメッセージ
 「「死が間近い」と覚悟したときに思ったことのひとつに、なるべく多くのメッセージを多様な形で多様な人々に残しておきたいということがありました。そんな一環として、私はこの間少なからぬ本を書き上げたり、また未完にして終わったりしました。
 未完にして終わってはならないもののひとつが、この今書いているメッセージ。仮に「偲ぶ会」を適当な時期にやってほしい、と遺言しました。そうである以上、それに向けた私からの最低限のメッセージも必要でしょう。
 まず皆さん、ほんとうに長いことありがとうございました。体制内のごく標準的な一科学者として一生を終わっても何の不思議もない人間を、多くの方たちが暖かい手を差しのべて鍛え直して呉れました。それによってとにかくも「反原発の市民科学者」としての一生を貫徹することができました。
 反原発に生きることは、苦しいこともありましたが、全国、全世界に真摯に生きる人々とともにあることと、歴史の大道に沿って歩んでいることの確信から来る喜びは、小さな困難などをはるかに超えるものとして、いつも私を前に向って進めてくれました。幸いにして私は、ライト・ライブリフッド賞を始め、いくつかの賞に恵まれることになりましたが、繰り返し言って来たように、多くの志を共にする人たちと分かち合うものとしての受賞でした。
 残念ながら、原子力最後の日は見ることができず、私の方が先に逝かねばならなくなりましたが、せめて「プルトニウム最後の日」くらいは、目にしたかったです。でもそれはもう時間の問題でしょう。すでにあらゆる事実が、私たちの主張が正しかったことを示しています。なお、楽観できないのは、この末期的症状の中で、巨大な事故や不正が原子力の世界を襲う危険でしょう。JCO事故からロシア原潜事故までのこの一年間を考えるとき、原子力時代の末期症状による大事故の危険と結局は放射性廃棄物が垂れ流しになっていくのではないかということに対する危惧の念は、今、先に逝ってしまう人間の心を最も悩ますものです。
 後に残る人々が、歴史を見通す透徹した知力と、大胆に現実に立ち向かう活発な行動力をもって、一刻も早く原子力の時代にピリオドをつけ、その賢明な終局に英知を結集されることを願ってやみません。私はどこかで、必ず、その皆さまの活動を見守っていることでしょう。
 私から一つだけ皆さんにお願いするとしたら、どうか今日を悲しい日にしないでください。
 泣き声や泣き顔は、私にはふさわしくありません。
 今日は、脱原発、反原発、そしてより平和で持続的な未来に向っての、心新たな誓いの日、スタートの楽しい日にして皆で楽しみましょう。高木仁三郎というバカな奴もいたなと、ちょっぴり思い出してくれながら、核のない社会に向けて、皆が楽しく夢を語る。そんな日にしましょう。
 いつまでも皆さんとともに
 高木 仁三郎
 世紀末にあたり、新しい世紀をのぞみつつ」
(高木仁三郎(1938-2000)『高木仁三郎著作集 第四巻 プルートーンの火』未公刊資料 友へ―――高木仁三郎からの最後のメッセージ、pp.672-674)

高木仁三郎(1938-2000、物理学、核化学)
原子力資料情報室(CNIC)
Citizens' Nuclear Information Center
認定NPO法人 高木仁三郎市民科学基金|THE TAKAGI FUND for CITIZEN SCIENCE
高木仁三郎の部屋
高木仁三郎の本(amazon)
検索(高木仁三郎)
ニュース(高木仁三郎)
高木仁三郎 略歴・業績Who's Whoarsvi.com立命館大学生存学研究センター
原子力市民委員会(2013-)
原子力市民委員会
Citizens' Commission on Nuclear Energy
原子力市民委員会 (@ccnejp) | Twitter
検索(原子力市民委員会)
ニュース(原子力市民委員会)

国会議員に当選するには、地盤(後援会)、看板(知名度)、鞄(資金)の「三バン」が必要とされている。政治を変えるには、情熱のある人が誰でも立候補でき、落選したら以前の生活に戻れるような制度が必要だ。(池上彰(1950-))

地盤(後援会)、看板(知名度)、鞄(資金)

【国会議員に当選するには、地盤(後援会)、看板(知名度)、鞄(資金)の「三バン」が必要とされている。政治を変えるには、情熱のある人が誰でも立候補でき、落選したら以前の生活に戻れるような制度が必要だ。(池上彰(1950-))】
 「一般の人が国会議員になるのは大変です。最近は候補者公募をしている政党もあるので、そこに応募するという手もあります。
 こうしたしくみを通じて、会社でバリバリ働いていたエリート社員や、国際組織で働いていた人、ボランティア活動に従事していた若者など、候補者の多様化が進みました。
 しかし、候補者になれても、当選までの道のりは遠くて険しい。当選するためには、「三バン」が必要とされています。「ジバン」「カンバン」「カバン」です。
 「ジバン」とは、地盤のこと。支持者も後援会もない地域で立候補しても、誰も応援してくれませんよね。しかし、地元にゆかりの人なら、小・中学校や高校時代の同級生たちが、「あいつのためなら一肌脱ぐか」と言って応援してくれることもあるでしょう。
 自分が立候補を宣言したとき、どれだけの人が応援してくれるのか。それによって、人徳レベルがわかってしまいます。
 「カンバン」とは、看板。つまり候補者の知名度です。その地域で名の知られた人が有利です。地元で市議会議員や県議会議員として活躍してきた実績があれば、地域内でよく知られていますから、有権者も投票用紙に名前を書きやすいですよね。その地域に古くから伝わる名家の出という人も、知名度の点では有利になったりします。
 投票用紙に自分の名前を書いてもらえるようにするためには、知名度が必要です。地元に縁が薄くても、テレビで名や顔を売った人は有利でしょう。
 そして「カバン」とは、鞄のこと。政界の隠語で、資金のことです。資金のたっぷり入ったカバンが必要だ、という意味です。
 政治にはお金がかかります。選挙運動にも資金が必要です。それがないと選挙に勝てない、という意味なのです。
 これら三つを合わせて「三バン」といいます。単なる語呂合わせのような表現ですが、この「三バン」を持っていないと選挙で当選できないというわけです。
 でもこれだけのものを持っている人は少ないですよね。一般庶民はとても立候補できなくなってしまいます。
 政治を変えるには、「世の中を変えたい」という情熱がある人は誰でも気軽に立候補できるしくみが必要です。「とても当選は無理」とみんながしり込みをしていては、いつまでも同じ政治家が当選し続けることになり、政治を変えることができないからです。
 「よし、では頑張って立候補しよう!」と決意しても、落選したときのことを考えると、決意も鈍ります。
 一般のサラリーマンが選挙に立候補しようとすると、会社を辞めなければならないのが普通です。選挙に落ちたときに「復職させてください」と言っても、「選挙に出た特別な人」という色眼鏡で見られてしまい、もとの職場に戻ることは難しくなります。
 誰でも気軽に立候補できて、落選したら、以前の生活にすぐ戻れる。政治を変えるためには、まずはこんな社会にすることも大切なのです。」
(池上彰(1950-),『イラスト図解 社会人として必要な経済と政治のことが5時間でざっと学べる』PART2 政治,第1章 「国会議員」はどんなことをしている?,06 国会議員になるには「三バン」が必要?,pp.202-205,KADOKAWA(2018))
(索引:地盤(後援会),看板(知名度),鞄(資金))

イラスト図解 社会人として必要な経済と政治のことが5時間でざっと学べる


(出典:wikipedia
池上彰(1950-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「あなたが同じ立場だったらどうするか?
 もし、あなた方があのときにそのチッソの水俣工場で働いている社員だったら、どうしますか、ということです。つまり熊本県でも有数の企業です。水俣にとってはいちばん大手の企業です。水俣で生まれ育って、学校を出て、チッソに就職するというのは地元の人にとってはいちばんのエリートコースですよね。それこそ、みなさんがもしチッソに就職が決まったと報告をすれば、家族はもちろん親戚もみんな、「いやあいいところに就職したね、よかったね」と祝福してくれるはずです。もちろん、プラスチックの可塑剤という、日本という国が豊かになるときに必要なものをつくっているわけですから、みんな誇りを持って働いていたはずです。ところがやがて、そこから出てくる廃水が原因で、地元の住民に健康被害が出る、という話が聞こえるようになってきた。さあ、みなさんは果たしてどんな行動をとりますか、ということです。当時のチッソの社員たち。たとえば病院の医師が、原因究明のために猫を使って実験をしていた。でも会社から、そんな実験はやめろ、と言われたからやめてしまった。あるいは多くの社員は気がついていたからこそ、排水口の場所を変えたわけです。それによってさらに被害を広めてしまった。労働組合が分裂をして、そこで初めて、企業の仕打ちに気がついた社員たちが声を上げるようになった。さあ、もしそういうことになったら、みなさんはどういう態度をとりますか。
 いまの日本は廃水の基準に厳しいですから、何かあればすぐわかるでしょう。でもいま、実は、まったく同じようなことが中国のあちこちで起きています。開発途上国で同じようなことが起きているのですね。みなさんが就職をしました。そこの会社が実は、東南アジアあるいはアフリカに、現地の工場を持っている。現地の工場に、要員として派遣されました。そこで働いていた。そうしたらその周辺で、健康被害が出ている住民たちがいることに気がついた。あなたはどういう態度をとるのか。まさにそれが問われている、ということなのですね。決して他人事ではないのだということがわかっていただけるのではないでしょうか。」
(池上彰(1950-),『「経済学」講義 歴史編』lecture5 高度経済成長の歪み,pp.228-229,KADOKAWA(2015))
(索引:)

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