2026年8月14日金曜日

011必ずわかる難問題7

 


1. 記事のテーマ

「人はなぜ正気のまま恐ろしい不寛容や暴力を振るってしまうのか」

——アイザイア・バーリンが語る、普遍的価値・普遍性の原則と文化相対主義、そして熱狂を解きほぐす対話の力

2. 何が問題なのか(問いかけ)

世界には多様な文化や価値観があり、「絶対的な正しさなど存在しない(文化相対主義)」とされる一方で、人間には共通の道徳や人権という「普遍的な価値(普遍性の原則)」があるとも言われます。この2つは一見すると真っ向から矛盾しているように思えませんか?


さらに、歴史上で起きたナチスによるホロコーストのような残虐行為を、私たちは単に「実行者が異常だった」「狂人の狂気によるものだ」と片付けてしまってよいのでしょうか? もし彼らが「異常者」ではなく、「正気の人間」だったとしたら……?


3. 解答の概要

思想史家アイザイア・バーリンは、普遍性の原則と文化相対主義は「矛盾しない」と断言します。なぜなら、文化や時代による大きな違いが存在する一方で、人類には普遍的に共有されている価値(勇気や善悪の概念など)が経験的事実として存在するからです。


さらに驚くべきことに、バーリンはナチスなどの恐ろしい迫害行為について、「狂気や精神病理によるものではなく、正気の人間が『巨大な嘘(虚偽の信念)』を本気で信じ込んだ結果として起きた」と指摘します。


人は、狂っていなくても恐ろしい犯罪や残虐行為に手を染めることができます。感情的な憎悪だけでなく、「知的な誤り(偽りの理論)」が人間を動かすからです。だからこそ、相手を単に「異常者」として排斥するのではなく、その信念の心理的・知的なルーツを想像力によって理解し、論理的な対話と説得を試み続けることこそが、熱狂と暴力を防ぐ唯一の道であると語ります。


4. 用語集(ここで勉強できること)


記事に登場する重要な概念を、重要度の高い順にまとめています。


1. 普遍性の原則(普遍的価値)

   大多数の場所や時代において、人間がほとんど常に共有している価値観のこと(例:善悪・真偽の概念や、勇気への敬意)。バーリンはこれを理性で論証されるものではなく、人類の歴史における「経験的事実」であると説明します。


2. 文化相対主義

   異なる文化、社会、国家にはそれぞれの価値観や規範があり、ひとつの絶対的な基準で他方を優劣判定することはできないという考え方。


3. 「すべてを理解する」と「すべてを許す」(tout comprendre / tout pardonner)

   「tout comprendre, c'est tout pardonner(すべてを理解することは、すべてを許すことである)」というフランスの有名な諺に対する言及。相手の立場や背景を理解・想像すること(理解)と、相手の犯した罪や悪行を認めて容認すること(許し)は全く別物であるという重要な洞察です。


4. 事実による真実(vérités du fait) / 理性による真実(vérités de la raison)

   哲学者ライプニッツによる区別。前者は経験的・歴史的な観察によって得られる真実(人間には共通の価値がある等)、後者は純粋な論理や数学のように理性だけで導き出される真実を指します。


5. 想像力的理解(洞察)

   自分とは全く異なる環境や思想を持つ相手の立場に立ち、「自分がその状況にいたらどう世界を見るか」を想像する能力。不寛容や盲目的な熱狂を弱めるために不可欠な態度とされます。


6. 下級人間(Untermenschen)

   ナチス・ドイツが自らの人種差別的思想(ゲルマン/ノルディック至上主義)を正当化するために用いた言葉。特定のグループを「害虫」や「有毒な生物」に見立てる虚偽の理論であり、大破局の惨劇を引き起こす知的なルーツとなりました。

https://sententiarum2.blogspot.com/2019/11/1909-1997_14.html


010必ずわかる難問題6

  ★010必ずわかる難問題6




前回の復習の後


どうすれば金儲けできるかという話し。(4.2)を詳細に説明する。

さらに追加。現在の富裕層が、どのように儲かる仕組み作りをしているのかを理解します。




★(1)効率的な市場


 市場において個々人が自己利益を最大化させることで、全体の社会的利益を最大化させることができる。


★(2)市場の失敗


 市場は、独力で効率的な結果を生み出せない。すなわち、以下の諸原因により、個々人が社会にもたらす利益と個人的報酬が等しくなくなり、全体の社会的利益を最大化させることができなくなる。


★ 市場の失敗の原因


【(a)不完全な競争、(b)情報の不完全性、非対称性、(c)外部性の働き、(d)リスク市場の非存在によって、市場の失敗が発生する。高い効率性と繁栄のためには、政府による適切な矯正作業が必要である。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】




★(2.1)競争が不完全なとき。


 (2.2)情報の不完全性や情報の非対称性が存在するとき。


  市場取引に関する情報を、誰かが持っている一方で、他の誰かが持っていない状況。


★(2.3)外部性が働いているとき。


  ひとつの集団の行動によって、正もしくは負の影響が他に及ぶ可能性があるものの、集団が正の影響から利益を得ることも、負の影響の代償を支払うこともない状況。


★(2.4)リスク市場が存在しないとき


  たとえば、直面する重大なリスクの多くに対して、保険をかけることができない状況。


★(3)政府の役割


 (3.1)政府は、税金と規制にかんする制度設計を通じて、個人のインセンティブと、社会的利益を同調させる必要がある。


 (3.2)重大な市場の失敗に対して、納得できる矯正作業を政府が行なわないかぎり、経済の繁栄は望めないだろう。


★(4)2つの考え方


 (4.1)みんなの幸せを考える。全体の社会的利益を最大化させようとするには、政府の適切な矯正作業が必要である。


★(4.2)私だけ、儲かれば良い。社会に対する貢献以上の個人的報酬を獲得しようとするには、政府の規制は少ないほうが都合がいい。


【社会に対する貢献以上の報酬を得る方法:(a)参入障壁の構築と独占の維持、(b)競争障壁の構築、(c)市場の透明性を低下させること、(d)これら反競争的行為が規制されないための政治的対策。(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-))】


★「事業家たちが重視するのは、社会の繁栄とは何かを広く知らしめることでもなければ、市場の競争性を高めることでもない。彼らの目的は、“自分に都合よく”市場を機能させ、より大きな利潤を手にすることだけだ。しかし、これらの行為はたいていの場合、経済の効率性を低下させ、不平等を拡大させる結果に終わる。」(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.80-82,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))


★(4.2.1)儲けを大きくするために、市場の競争性を低下させ、独占力を確保すること。

(i)参入障壁や、競争の障壁を構築する。

(ii)反競争的行為が法律で禁止されないように対策する。

(iii)仮に法律が存在する場合は、実効的な取り締まりが行なわれないよう対策する。


★(4.2.2)市場の透明性を低下させる。

(i)例として、公開市場ではなく店頭市場を利用し、買い手には必要な情報を与えず、取引を有利に進める。

★「好んで使われるのは、市場の透明性を低下させる手法だ。透明性が高まれば高まるほど、市場における競争は激しくなりやすい。銀行家たちはこの事実を知っている。だからこそ銀行業界は、〈AIG〉の没落の中心的役割を果たした危険な金融商品、デリバティブの引き受け事業を展開するにあたって、不透明な“店頭市場”での取引を必死に守りつづけたのだ。店頭市場では、良い取引と悪い取引を消費者が見極めるのは難しい。透明性の高い現代の公開市場とは対照的に、店頭市場ではすべてが交渉で決まる。売り手が絶え間なく取引を行なう一方、買い手はたまにしか市場を訪れないため、売り手は買い手よりも多くの情報を持ち、その情報を使って取引を有利に進める。」(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.80-82,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))


★(4.2.3)儲けている人の考え方

★「近代資本主義は複雑なゲームと化しており、少し頭が切れるくらいでは勝者になれないが、多くの場合、勝者は感心できない特性を持ち合せている。法律をかいくぐる能力や、法律を都合よくねじ曲げる能力や、貧困者をふくむ他人の弱味につけ込む意志や、必要とあれば”アンフェア”なプレーをする意志だ。このゲームで成功している達人のひとりは、「勝負は問題ではない。重要なのはどうプレーするかだ」という昔の金言をたわごとと切り捨てる。重要なのは勝つか負けるかだけなのだ。市場は勝ち負けの基準をはっきりと示してくれる。持っている金の量だ。」(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.82-85,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))


★(4.2.4)レントシーキング

★(a)市場の競争性を低下させ、独占力を確保する。

(a.1)参入障壁や、競争の障壁を構築する。

★(b)市場の透明性を低下させ、情報の非対称性を利用する。

(b.1)公開市場ではなく店頭市場を利用し、買い手に必要な情報を与えず、取引を有利に進める。

(b.2)略奪的貸付や濫用的クレジットカード業務。

★「最も悪名高いレントシーキングの形態――近年になって最もみがきのかかった手法――は、金融界が略奪的貸付や濫用的クレジットカード業務を通じて、貧困者層と情報弱者層から大金を搾り取るというものだ。貧困者のひとりひとりはそれほど金を持っていなくても、大勢の貧困者から少しずつ巻き上げれば、莫大な儲けを手に入れることができる。」(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.82-85,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))


★(c)自分にとって都合のいい制度を利用して、過剰なリスクを取る。


★(4.2.5)レントシーキングに都合の悪い法律が作られないようにする。政府の規制は少ない方がいい。

(a)ロビー活動と選挙支援に巨額の資金を投資することで、政策決定に影響力を行使する。

(b)反競争的行為が法律で禁止されないようにする。

(c)仮に法律が存在する場合は、実効的な取り締まりが行なわれないようする。

★(4.2.6)税制を、自分に都合のよいものに変える。

(a)ロビー活動と選挙支援に巨額の資金を投資することで、税制の設計に影響力を行使する。

(b)実態が隠蔽できるような複雑さを持った“逆累進課税制度”を実現させる。

★「レントシーキングのゲームに勝利して、アメリカ最上層の多くの人々は財を築いてきた。しかし、富を獲得する方法はレントシーキングだけではない。あとでくわしく説明するが、税制も重要な役割を担っている。最上層の人々は、税制の設計に影響力を行使し、払うべき税金を払わずにすませてきた。彼らの所得に占める税金の割合は、貧困層の人々より低いのである。わたしたちはこのような税制を“逆累進課税制度”と呼ぶ。」(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.82-85,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))



★(4.2.7)労働法や会社法を、自分に都合のよいものに誘導する。

★(4.2.8)政府のマクロ経済政策を、自分に都合のよいものに誘導する。


★「中間層の空洞化と貧困層の増加――には、幅広い分野から強い影響力が加えられている。企業を律する法規は、企業内の規範と相互作用を起こし、経営者の行動を誘導するとともに、経営陣とほかの利害関係者(労働者と株主と社債保有者)の利益配分を決定する。また、政府のマクロ経済政策は、労働市場の需給――失業率の水準――を決定する。つまり、労働者の取り分を変化させる市場の仕組みに、政府の政策が影響を与えているわけだ。もしもインフレを恐れる金融当局の行動が、失業率の高止まりを招いた場合、労働者の賃金は抑制されるだろう。これまで、強い労働組合は不平等の縮小をうながしてきたが、組合が弱い企業のCEOは、やすやすと不平等を拡大してきた。CEOたちが市場の力の形成に手を貸し、その力を不平等の拡大に利用することもあった。ともあれ、組合の強弱にしても、企業統治の実効性にしても、金融政策の舵取りにしても、決定に中心的役割を果たすのは政治だ。」(ジョセフ・E・スティグリッツ(1943-),『不平等の代価』(日本語書籍名『世界の99%を貧困にする経済』),第2章 レントシーキング経済と不平等な社会のつくり方,pp.82-85,徳間書店(2012),楡井浩一,峯村利哉(訳))


https://sententiarum2.blogspot.com/2019/03/abcde1943_31.html

人気の記事(年間)

人気の記事(全期間)

ランキング

ランキング


哲学・思想ランキング



FC2