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2022年4月3日日曜日

爽快感、不機嫌、落ち着いている、興味津々、活力がみなぎっ ている、退屈や倦怠など、恒常的な内受容感覚が気分である。気分は、快・不快の感情価と、覚醒度の属性を持つ。(リサ・フェルドマン・バレット(1963-))

気分

爽快感、不機嫌、落ち着いている、興味津々、活力がみなぎっ ている、退屈や倦怠など、恒常的な内受容感覚が気分である。気分は、快・不快の感情価と、覚醒度の属性を持つ。(リサ・フェルドマン・バレット(1963-))


(a)気分
 爽快感、不機嫌、落ち着いている、興味津々、活力がみなぎっ ている、退屈や倦怠など。
(b)気分の感情価
 それがど れくらい快、もしくは不快に感じられるかで、科学者はこの特徴を「感情価 (affective valence)」と呼ぶ。 たとえば肌にあたる日光の快さ、好物のおいしさ、胃痛やつねられたときの不快さはすべて感情価の 例である。
(c)気分の覚醒度
 どれくらい穏やかに、あるいは興奮して感じられるかで、科学者は「覚 醒 (arousal)」と呼んでいる。 よい知らせを期待しているときの活力あふれる感覚、コーヒーを飲みす ぎたあとの苛立ち、長距離を走ったあとの疲労、睡眠不足に起因する倦怠感などは、覚醒の度合 の高さ、あるいは低さを示す例だ。
(d)気分は恒常的な内受容感覚
 気分は内受容に依存する。つまり生涯を通じ、じっとしているときでも 眠っているときでも、恒常的な流れとして存在し続ける。 

「朝目覚めたとき、あなたは爽快感を覚えているだろうか、それとも不機嫌だろうか? あるいは、 たった今どう感じているだろうか? 落ち着いているのか? 何かに興味津々なのか? 活力がみなぎっ ているか? 退屈や倦怠を感じているのか? それらの感覚はすべて、本章の冒頭で論じた単純な感情 で、一般に気分と呼ばれているものである(「気分」の原文はaffect だが、これについては訳者あとがきを参照)。
 本書における「気分」は、人が日常生活で経験している一般的な感情のことを表わす。それは情 動とは異なり、次のような二つの特徴を持つごく単純な感情を意味する。一つ目の特徴は、それがど れくらい快、もしくは不快に感じられるかで、科学者はこの特徴を「感情価 (affective valence)」と呼ぶ。 たとえば肌にあたる日光の快さ、好物のおいしさ、胃痛やつねられたときの不快さはすべて感情価の 例である。二つ目の特徴は、どれくらい穏やかに、あるいは興奮して感じられるかで、科学者は「覚 醒 (arousal)」と呼んでいる。 よい知らせを期待しているときの活力あふれる感覚、コーヒーを飲みす ぎたあとの苛立ち、長距離を走ったあとの疲労、睡眠不足に起因する倦怠感などは、覚醒の度合 の高さ、あるいは低さを示す例だ。また、投資のリスクや好機に対する直感、他者が信用できるか否かに関する本能的な感覚なども、本書で言う気分の例と見なせる。さらに言えば、気分には完全に中立 的なものもある。
 洋の東西を問わず哲学者たちは、感情価や覚醒を人間の経験の基本的な特徴としてとらえてきた。 ほとんどの科学者は、新生児が完全な形態の情動をもって生まれてくるか否かをめぐっては見解が分 かれていても、人間には誕生時からすでに気分を感じる能力が備わっており、乳児が快や不快を感じ、 知覚できるという点については一致している。
 気分は内受容に依存することを覚えておいてほしい。つまり生涯を通じ、じっとしているときでも 眠っているときでも、恒常的な流れとして存在し続ける。 情動として経験されるできごとに反応して、オンになったりオフになったりするようなものではない。その意味において気分は、明るさや音の強 弱などと同様、意識の根本的な側面をなす。 脳が物体から反射された光の波長を処理することで明る さや暗さが、また空気の圧力の変化を処理することで音の強弱が経験される。それと同様、脳が内受 容刺激の変化を表象することで、快や不快、あるいは興奮や落ち着きが経験されるのである。このよ うにして、気分も、明るさも音の強弱も、生まれてから死ぬまで私たちにつきまとう。」

(リサ・フェルドマン・バレット(1963-),『情動はこうしてつくられる』,第4章 情動の指源泉,pp.126-127,紀伊國屋書店 ,2019,高橋洋(訳))

情動はこうしてつくられる──脳の隠れた働きと構成主義的情動理論 [ リサ・フェルドマン・バレット ]




リサ・フェルドマン・
バレット(1963-)




情動に関係のある脳領域は、様々な内臓器官、代謝、免疫系の機能を維持するために必要なエネルギーの需給を予測し管理する身体予算管理領域と、心臓、 肺、腎臓、皮膚、筋肉、血管などの器官や組織の変化を予測し内受容刺激と突き合わせ内受容感覚を生み出す一次内受容皮質とから構成される。(リサ・フェルドマン・バレット(1963-))

内受容ネットワーク

情動に関係のある脳領域は、様々な内臓器官、代謝、免疫系の機能を維持するために必要なエネルギーの需給を予測し管理する身体予算管理領域と、心臓、 肺、腎臓、皮膚、筋肉、血管などの器官や組織の変化を予測し内受容刺激と突き合わせ内受容感覚を生み出す一次内受容皮質とから構成される。(リサ・フェルドマン・バレット(1963-))


(a) 身体予算管理領域
 身体に予測を送る一連の脳領域である。我々はこれを「身体予算管理領域 (body-budgeting regions)」と呼ん でいる。
 (i)エネルギーは、様々な内臓器官、代謝、免疫系の機能を維持するために使われる。 
 (ii)すべての消費や補給を管理するために、脳はつねに、身体の予算を立てるかの ごとく、身体のエネルギー需要を予測しなければならない。
 (iii)身体予算管理領域が心拍数の高 まりなどの運動の変化を予測する。

(b)一次内受容皮質
 もう一方の部位は、体内の感覚刺激を表現する「一次内受容皮質」と呼ばれる領域から成る。
 (i)胸の高鳴りなど の感覚の変化を予測する。このような感覚予測は「内受容予測」と呼ばれる。
 (ii)心臓、 肺、腎臓、皮膚、筋肉、血管などの器官や組織から感覚入力を受け取る。 
 (iii)一次内受容皮質のニューロ ンは、シミュレーションの結果と感覚入力を比べ、予測エラーがあればそれを計算して予測ループを 完結させ、最終的に内受容刺激を生み出す。

「議論をすっきりさせるために、独自の役割を担う二つの一般的な部位から成るものとして、内受容ネットワークを考えよう。 一方の部位は、心拍を速める、呼吸のペースを落とす、多量のコルチゾー ルを分泌する、グルコースの代謝を高めるなどして、体内の環境をコントロールするために身体に予 測を送る一連の脳領域である。われわれはこれを「身体予算管理領域 (body-budgeting regions)」と呼ん でいる。もう一方の部位は、体内の感覚刺激を表現する「一次内受容皮質」と呼ばれる領域から成る。 内受容ネットワークの二つの部位は、予測ループに関与している。身体予算管理領域が心拍数の高 まりなどの運動の変化を予測するたびに、二つの部位は、それによってもたらされる胸の高鳴りなど の感覚の変化も予測する。このような感覚予測は「内受容予測」と呼ばれ、一次内受容皮質に入って そこで通常どおりシミュレートされる。 一次内受容皮質はまた、所定の処理を行なうあいだ、 心臓、 肺、腎臓、皮膚、筋肉、血管などの器官や組織から感覚入力を受け取る。 一次内受容皮質のニューロ ンは、シミュレーションの結果と感覚入力を比べ、予測エラーがあればそれを計算して予測ループを 完結させ、最終的に内受容刺激を生み出す。
 身体予算管理領域は、生存に重要な役割を果たす。 脳が、内部であろうが外部であろうが身体のい かなる部位を動かすときにも、ある程度のエネルギー資源が消費される。エネルギーは、さまざまな 内臓器官、代謝、免疫系の機能を維持するために使われる。 身体資源は、食べる、飲む、眠ることで 補給され、また身体のエネルギー消費量は、近しい人々とリラックスすることで (セックスすることで も) 低減する。これらすべての消費や補給を管理するために、脳はつねに、身体の予算を立てるかの ごとく、身体のエネルギー需要を予測しなければならない。そのために、企業が会社全体の予算運用 のバランスを保つべく、預金や引き出し、あるいは口座間での資金の移動を管理する経理課を設置しているように、脳は身体の予算管理の責任を負う神経回路を設置している。この神経回路は、内受容ネットワーク内に存在する。かくして身体予算管理領域は、過去の経験を指針として予測を行ない、 無事に生きていくのに必要な資源の量を見積もるのだ。
 なぜそれが情動と関係するのか? なぜなら、人間の情動の拠点とされている脳領域はすべて、 内 受容ネットワーク内の身体予算管理領域でもあるからだ。しかしこの領域は、情動の生成という形態 で反応するのではない。そもそも反応するのではなく、身体予算を調節するために予測する。 視覚、 聴覚、思考、記憶、想像、そしてもちろん情動に関する予測を行なうのだ。 情動を司る脳領域という 考えは、反応する脳という時代遅れの信念に基づく幻想と見なせる。 今日の神経科学者はその点をわ きまえているが、そのメッセージは、心理学者、精神科医、社会学者、経済学者、あるいはその他の 情動の研究者の多くには伝わっていない。」

(リサ・フェルドマン・バレット(1963-),『情動はこうしてつくられる』,第4章 情動の指源泉,pp.119-122,紀伊國屋書店 ,2019,高橋洋(訳))

情動はこうしてつくられる──脳の隠れた働きと構成主義的情動理論 [ リサ・フェルドマン・バレット ]




リサ・フェルドマン・
バレット(1963-)




知覚のみならず、言語、共感、 想起、想像、夢などの心理現象は、それぞれ異なる心的事象ではなく、外界に対する単なる反応では なく、シミュレーションという一つの普遍的な過程によって記述で きる。 (リサ・フェルドマン・バレット(1963-))

シミュレーションとしての心的現象

知覚のみならず、言語、共感、 想起、想像、夢などの心理現象は、それぞれ異なる心的事象ではなく、外界に対する単なる反応では なく、シミュレーションという一つの普遍的な過程によって記述で きる。 (リサ・フェルドマン・バレット(1963-))


「科学的証拠に基づいて、私たちが見る、聞く、触る、かぐものは、たいていは外界に対する反応では なく、それに関するシミュレーションであることが明らかにされたのだ。先見の明のある科学者は、 シミュレーションを知覚のみならず、言語、共感、 想起、想像、夢などの心理現象を理解するための 一般的なメカニズムと見なすようになった。(少なくとも欧米人の常識的な考えでは、思考と知覚と夢 はそれぞれ異なる心的事象だと思われる。だがそれらはすべて、一つの普遍的な過程によって記述で きる。 シミュレーションは、あらゆる心的活動の基本をなし、脳がどのように情動を生成するのかと いう謎を解くカギでもある。」

(リサ・フェルドマン・バレット(1963-),『情動はこうしてつくられる』,第2章 情動は構築される,p.58,紀伊國屋書店 ,2019,高橋洋(訳))

情動はこうしてつくられる──脳の隠れた働きと構成主義的情動理論 [ リサ・フェルドマン・バレット ]






リサ・フェルドマン・
バレット(1963-)



2020年7月23日木曜日

パーソナリティ特性の本質が、情動傾向であるという仮説は、情動の身体性を通じてパーソナリティの神経生理学的な基礎についての洞察を与え、また情動と認知構造、信念体系との関連から、社会心理学的な予見を導出することができる。

パーソナリティ特性の情動理論

【パーソナリティ特性の本質が、情動傾向であるという仮説は、情動の身体性を通じてパーソナリティの神経生理学的な基礎についての洞察を与え、また情動と認知構造、信念体系との関連から、社会心理学的な予見を導出することができる。】

《概要》
 パーソナリティ検査により測定される特性は、被験者の自己認知と性格の社会的認知という観点からは、相当程度に客観的に同定可能なものではあるが、その神経生理学的、心理学的な基盤については、必ずしも明確であるとは言えない。
 ここでは、パーソナリティ特性の本質が、情動傾向であるという仮説に基づいて、5因子性格検査(FFPQ)の諸特性を再定義することを試みる。情動は、その発動機制において身体・脳機能と関連し、パーソナリティ特性と神経生理学的との関連への示唆を与えてくれる。また同時に情動は、個人の認知構造、信念体系を通じて、集団の持つ文化特性とも相関するため、パーソナリティ特性とこれら心理的、社会的構造との関連への示唆も与えてくれる。ここでの再定義によって予見される神経生理学の関連命題、社会心理学の関連命題、発達心理学の関連命題、症候群への介入関連命題を、仮説として提示する。

《改訂履歴》
2020/7/23 初版

《目次》
(1)5因子性格検査(FFPQ)の超特性と特性
 (1.1)内向性/外向性
 (1.2)分離性/愛着性
 (1.3)自然性/統制性
 (1.4)非情動性/情動性
 (1.5)現実性/遊戯性
(2)パーソナリティ特性と情動、欲求との関連性
 (2.1)自己の身体が感知する快・不快(生理的欲求)
 (2.2)対象の新奇性(驚き、恐怖)と自己状態の快・不快(喜び、悲しみ)(安全と安定の欲求)
 (2.3)自己向け他者行為の快・不快(感謝、怒り)(愛と集団帰属の欲求)
 (2.4)自己行為の他者評価の快・不快(誇り、恥)(承認の欲求)
 (2.5)自己行為の自己評価の快・不快(内的自己満足、後悔)(自己尊重の欲求)
 (2.6)外的対象、他者状態、他者行為を含むすべての対象の快・不快(自己実現欲求)
(3)仮説:パーソナリティ特性の情動傾向による特徴づけ
 (3.1)内向性/外向性
 (3.2)分離性/愛着性
 (3.3)自然性/統制性
 (3.4)非情動性/情動性
 (3.5)現実性/遊戯性
(4)解明されたパーソナリティ特性が予言する諸命題
 (4.1)内向性/外向性
  (4.1.1)神経生理学の関連命題
  (4.1.2)社会心理学の関連命題
  (4.1.3)発達心理学の関連命題
  (4.1.4)症候群への介入関連命題
 (4.2)分離性/愛着性
  (4.2.1)神経生理学の関連命題
  (4.2.2)社会心理学の関連命題
  (4.2.3)発達心理学の関連命題
  (4.2.4)症候群への介入関連命題
 (4.3)自然性/統制性
  (4.3.1)神経生理学の関連命題
  (4.3.2)社会心理学の関連命題
  (4.3.3)発達心理学の関連命題
  (4.3.4)症候群への介入関連命題
 (4.4)非情動性/情動性
  (4.4.1)神経生理学の関連命題
  (4.4.2)社会心理学の関連命題
  (4.4.3)発達心理学の関連命題
  (4.4.4)症候群への介入関連命題
 (4.5)現実性/遊戯性
  (4.5.1)神経生理学の関連命題
  (4.5.2)社会心理学の関連命題
  (4.5.3)発達心理学の関連命題
  (4.5.4)症候群への介入関連命題

(1)5因子性格検査(FFPQ)の超特性と特性
※質問項目は、FFPQ-50
 (1.1)内向性/外向性
  本質:活動
  特徴と傾向:臆病・気おくれ⇔控え目⇔積極的⇔無謀
  (a.1)(内向性/外向性)非活動/活動
   もの静かである (Ex1)
   じっとしているのが嫌いである (Ex1)
  (a.2)(内向性/外向性)服従/支配
   人の上に立つことが多い (Ex2)
   人に指示を与えるような立場に立つことが多い (Ex2)
  (a.3)(内向性/外向性)独居/群居
   大勢でわいわい騒ぐのが好きである (Ex3)
   大勢の人の中にいるのが好きである (Ex3)
  (a.4)(内向性/外向性)興奮忌避/興奮追求
   にぎやかな所が好きである (Ex4)
   スポーツ観戦で我を忘れて応援することがある (Ex4)
  (a.5)(内向性/外向性)注意回避/注意獲得
   地味で目立つことはない (Ex5)
   人から注目されるとうれしい (Ex5)
 (1.2)分離性/愛着性
  本質:関係
  特徴と傾向:敵意・自閉⇔自主独立的⇔親和的⇔集団埋没
  (b.1)(分離性/愛着性)冷淡/温厚
   人には暖かく友好的に接している (A1)
   あまり親切な人間ではない (A1)
  (b.2)(分離性/愛着性)競争/協調
   人情深いほうだと思う (A2)
   気配りをするほうである (A2)
  (b.3)(分離性/愛着性)懐疑/信頼
   どうしても好きになれない人がたくさんいる (A3)
   出会った人はたいがい好きになる (A3)
  (b.4)(分離性/愛着性)非共感/共感
   人の気持ちを積極的に理解しようとは思わない (A4)
   人のよろこびを自分のことのように喜べる (A4)
  (b.5)(分離性/愛着性)自己尊重/他者尊重
   誰に対しても優しく親切にふるまうようにしている (A5)
   人を馬鹿にしているといわれることがある(A5)
 (1.3)自然性/統制性
  本質:意志
  特徴と傾向:無為怠惰⇔あるがまま⇔目的合理的⇔仕事中毒
  (c.1)(自然性/統制性)大まか/几帳面
   あまりきっちりした人間ではない (C1)
   几帳面である (C1)
  (c.2)(自然性/統制性)無執着/執着
   まじめな努力家である (C2)
   根気が続かないほうである (C2)
  (c.3)(自然性/統制性)無責任/責任
   仕事を投げやりにしてしまうことがある (C3)
   責任感が乏しいといわれることがある (C3)
  (c.4)(自然性/統制性)衝動/自己統制
   しんどいことはやりたくない (C4)
   欲望のままに行動してしまうようなことは,ほとんどない (C4)
  (c.5)(自然性/統制性)無計画/計画
   よく考えてから行動する (C5)
   仕事は計画的にするようにしている (C5)
 (1.4)非情動性/情動性
  本質:情動
  特徴と傾向:感情鈍麻⇔情緒安定⇔敏感な⇔神経症
  (d.1)(非情動性/情動性)のんき/心配性
   ものごとがうまく行かないのではないかと,よく心配する (Em1)
   小さなことにはくよくよしない (Em1)
  (d.2)(非情動性/情動性)弛緩/緊張
   よく緊張する(Em2)
   緊張してふるえるようなことはない (Em2)
  (d.3)(非情動性/情動性)非抑うつ/抑うつ
   憂鬱になりやすい (Em3)
   見捨てられた感じがする (Em3)
  (d.4)(非情動性/情動性)自己受容/自己批判
   自分がみじめな人間に思える (Em4)
   自分には全然価値がないように思えることがある (Em4)
  (d.5)(非情動性/情動性)気分安定/気分変動
   陽気になったり陰気になったり,気分が変りやすい (Em5)
   明るいときと暗いときの気分の差が大きい (Em5)
 (1.5)現実性/遊戯性
  本質:遊び
  特徴と傾向:権威主義⇔堅実な⇔遊び心がある⇔逸脱・空想
  (e.1)(現実性/遊戯性)保守/進取
   考えることは面白い (P1)
   好奇心が強い (P1)
  (e.2)(現実性/遊戯性)実際/空想
   イメージがあふれ出てくる (P2)
   空想の世界をさまようことはほとんどない (P2)
  (e.3)(現実性/遊戯性)芸術への無関心/関心
   芸術作品に接すると鳥肌がたち興奮をおぼえることがある (P3)
   美や芸術にはあまり関心がない (P3)
  (e.4)(現実性/遊戯性)内的経験への鈍感/敏感
   自分の感じたことを大切にする (P4)
   感情豊かな人間である (P4)
  (e.5)(現実性/遊戯性)堅実/奔放
   変わった人だとよくいわれる (P5)
   別世界に行ってみたい (P5)
(出典:パーソナリティの特性論と 5 因子モデル: 特性の概念, 構造, および測定(辻平治郎,藤島寛,辻斉,夏野良司,向山泰代,1997))
(出典:5 因子性格検査短縮版 (FFPQー50) の作成(藤島寛,山田尚子,辻平治郎,2005))

(2)パーソナリティ特性と情動、欲求との関連性
 整理のための次元は、情動と欲求の基礎概念に従う。心的現象の事実を総合的に考えると、パーソナリティの発動は、他の心的現象と同じく情動と欲求を介した思考、行動への影響と仮定することは、妥当性の高い仮説だからである。
 また、配列の順は、アブラハム・マズローの欲求階層の基礎的な段階から高次な段階への順とする。なぜなら、この順が、情動の進化的な発現順についての一つの仮説となり得るし、また個人の発達段階としての仮説ともなり得るからである。ただし、マズローの欲求階層理論は、情動と欲求の基礎概念による新解釈に従った。
 基礎的な欲求の対象(情動の対象)から順に列挙する。
 (a)自己の身体が感知する快・不快(生理的欲求)
 (b)対象の新奇性(驚き、恐怖)と自己状態の快・不快(喜び、悲しみ)(安全と安定の欲求)
 (c)自己向け他者行為の快・不快(感謝、怒り)(愛と集団帰属の欲求)
 (d)自己行為の他者評価の快・不快(誇り、恥)(承認の欲求)
 (e)自己行為の自己評価の快・不快(内的自己満足、後悔)(自己尊重の欲求)
 (f)外的対象、他者状態、他者行為を含むすべての対象の快・不快(自己実現欲求)
  参照:(a)成長欲求(a1)自己実現欲求(真,善,美,躍動,必然,秩序,個性,完成,単純,完全,正義,豊富,自己充実,無礙,楽しみ,意味)(b)基本的欲求(b1)自尊心,他者による尊厳の欲求(b2)愛と集団帰属の欲求(b3)安全と安定の欲求(b4)生理的欲求(アブラハム・マズロー(1908-1970))

※情動と欲望は、代表的なものの例示である。
※情動誘発刺激は、感覚、想起、想像対象だけでなく、認知対象、信念も含む。

(2.1)自己の身体が感知する快・不快(生理的欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 肢体状況    快
 内部感覚    嫌悪
 自然的     快   自然的欲求  (自然性/統制性)
                    衝動/自己統制
   欲求    嫌悪         しんどいことは
                    やりたくない
         飢え、渇き      欲望のままに行動して
                    しまうようなことは,
                    ほとんどない
                    (非情動性/情動性)
                    気分安定/気分変動
                    陽気になったり陰気に
                    なったり,気分が変り
                    やすい
                    明るいときと暗いとき
                    の気分の差が大きい

(2.2)対象の新奇性(驚き、恐怖)と自己状態の快・不快(喜び、悲しみ)(安全と安定の欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 全対象     驚き  好奇心    (現実性/遊戯性)
                     保守/進取
         恐怖         考えることは面白い
                    好奇心が強い
 自己状態
 (感覚)    快   安全・安心欲求(非情動性/情動性)
                     弛緩/緊張
         不快         よく緊張する
                    緊張してふるえるよう
                    なことはない
                    (現実性/遊戯性)
                    内的経験への鈍感/敏感
                    自分の感じたことを
                    大切にする
                    感情豊かな人間である
 (認知)    喜び         (非情動性/情動性)
                     非抑うつ/抑うつ
         悲しみ        憂鬱になりやすい
                    見捨てられた感じが
                    する
 (予測)    安心         (非情動性/情動性)
                     のんき/心配性
         希望         ものごとがうまく行か
                    ないのではないかと,
                    よく心配する
         不安         小さなことには
                    くよくよしない
         絶望


(2.3)自己向け他者行為の快・不快(感謝、怒り)(愛と集団帰属の欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 他者行為    好意  親和欲求   (分離性/愛着性)
                     冷淡/温厚

         憤慨         人には暖かく友好的に
                    接している
                    あまり親切な人間では
                    ない
                    (分離性/愛着性)
                     懐疑/信頼
                    どうしても好きになれ
                    ない人がたくさんいる
                    出会った人はたいがい
                    好きになる
                    (内向性/外向性)
                     独居/群居
                    大勢でわいわい騒ぐの
                    がが好きである
                    大勢の人の中にいるの
                    が好きである
 (自己向け)  感謝
         怒り


(2.4)自己行為の他者評価の快・不快(誇り、恥)(承認の欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 自己行為
 (他者評価)  誇り  承認欲求   (内向性/外向性)
                     服従/支配
         恥   服従欲求   人の上に立つことが多い
                    人に指示を与えるよう
                    な立場に立つことが多い
                    (内向性/外向性)
                    注意回避/注意獲得
                    地味で目立つことはない
                    人から注目されると
                    うれしい
                    (自然性/統制性)
                    無責任/責任
                    仕事を投げやりにして
                    しまうことがある
                    責任感が乏しいといわ
                    れることがある

(2.5)自己行為の自己評価の快・不快(内的自己満足、後悔)(自己尊重の欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 自己行為
 (自己評価)  自尊心 達成欲求   (非情動性/情動性)
                    自己受容/自己批判
         後悔         自分がみじめな人間に
                    思える
                    自分には全然価値が
                    ないように思えるこ
                    とがある

(2.6)外的対象、他者状態、他者行為を含むすべての対象の快・不快(自己実現欲求)
《情動誘発刺激》《情動》《欲求・欲望》《パーソナリティ特性次元》
 外的対象    快   感覚欲求   (内向性/外向性)
                    興奮忌避/興奮追求
         嫌悪         にぎやかな所が好きで
                    ある
                    スポーツ観戦で我を忘
                    れて応援することがある
                    (現実性/遊戯性)
                    芸術への無関心/関心
                    芸術作品に接すると
                    鳥肌がたち興奮を
                    おぼえることがある
                    美や芸術にはあまり
                    関心がない
 他者状態    喜び         (分離性/愛着性)
                    非共感/共感

         憐れみ        人の気持ちを積極的に
                    理解しようとは思わない
                    人のよろこびを自分の
                    ことのように喜べる
                    (分離性/愛着性)
                    競争/協調
                    人情深いほうだと思う
                    気配りをするほうである
                    (分離性/愛着性)
                    自己尊重/他者尊重
                    誰に対しても優しく
                    親切にふるまうように
                    している
                    人を馬鹿にしていると
                    いわれることがある
 想起対象    快
         嫌悪
 想像対象    快   想像遊び   (現実性/遊戯性)
                    実際/空想
         嫌悪         イメージがあふれ出て
                    くる
                    空想の世界をさまよう
                    ことはほとんどない
                    (現実性/遊戯性)
                    堅実/奔放
                    変わった人だとよく
                    いわれる
                    別世界に行ってみたい
 幻覚・     快
   夢想    嫌悪
 認知対象    快   有能性への
                欲望
             認知欲求
         嫌悪
 理解対象    快   知的遊び   (自然性/統制性)
                    大まか/几帳面
         嫌悪  有能性への  あまりきっちりした
                    人間ではない
                欲望  几帳面である
                    (自然性/統制性)
                    無執着/執着
                    まじめな努力家である
                    根気が続かないほう
                    である
                    (自然性/統制性)
                    無計画/計画
                    よく考えてから行動する
                    仕事は計画的にする
                    ようにしている
 運動・行動   快   活動欲求   (内向性/外向性)
                    非活動/活動
         嫌悪         もの静かである
                    じっとしているの
                    が嫌いである

(3)仮説:パーソナリティ特性の情動傾向による特徴づけ
 分析結果を、パーソナリティ特性の本質として再整理する。
(3.1)内向性/外向性
本質:活動
特徴と傾向:臆病・気おくれ⇔控え目⇔積極的⇔無謀
本質の再定義
(a)内向性
(a.1)服従、注意回避
 自己行為の他者評価に伴う恥の情動が優勢であり、服従欲求が強い。
(a.2)独居
 他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動が優勢である。
(a.3)非活動
 運動や行動に伴う嫌悪の情動が優勢である。
(a.4)興奮忌避
 外的対象の感覚に伴う嫌悪の情動が優勢である。
(b)外向性
(b.1)支配、注意獲得
 自己行為の他者評価に伴う誇りの情動が優勢であり、承認欲求が強い。
(b.2)群居
 他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動が優勢であり、親和欲求が強い。
(b.3)活動
 運動や行動に伴う快の情動が優勢であり、活動欲求が強い。
(b.4)興奮追求
 外的対象の感覚に伴う快の情動が優勢であり、感覚欲求が強い。

(3.2)分離性/愛着性
本質:関係
特徴と傾向:敵意・自閉⇔自主独立的⇔親和的⇔集団埋没
本質の再定義
(a)分離性
(a.1)冷淡、懐疑
 他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動が優勢である。
(a.2)競争、非共感、自己尊重
 他者状態の認知に伴う喜び、憐れみの情動が弱い。
(b)愛着性
(b.1)温厚、信頼
 他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動が優勢であり、親和欲求が強い。
(b.2)協調、共感、他者尊重
 他者状態の認知に伴う喜び、憐れみの情動が強い。

(3.3)自然性/統制性
本質:意志
特徴と傾向:無為怠惰⇔あるがまま⇔目的合理的⇔仕事中毒
本質の再定義
(a)自然性
(a.1)大まか、無執着、無計画
  認知や理解に伴う嫌悪の情動が優勢である。
(a.2)無責任
  自己行為の他者評価に伴う恥の情動が優勢であり、服従欲求が強い。
(a.3)衝動
  肢体状態、内部感覚、自然的欲求を強く感知しすぎ、意志で統制できない。
(b)統制性
(b.1)几帳面、執着、計画
 認知や理解に伴う快の情動が優勢であり、知的遊びへの欲求が強い。
(b.2)責任
 自己行為の他者評価に伴う誇りの情動が優勢であり、承認欲求が強い。
(b.3)自己統制
 肢体状態、内部感覚、自然的欲求が弱い。あるいは意志による統制が強い。

(3.4)非情動性/情動性
本質:情動
特徴と傾向:感情鈍麻⇔情緒安定⇔敏感な⇔神経症
本質の再定義
(a)非情動性
(a.1)気分安定
 肢体状態、内部感覚、自然的欲求が弱い。あるいは意志による統制が強い。
(a.2)弛緩
 自己状態に伴う快、不快を適切に感知し、楽しむことができる。
(a.3)非抑うつ
 自己状態の認知に伴う喜び、悲しみを適切に感知し、活用することができる。
(a.4)のんき
 自己状態の予測に伴う希望や不安を適切に感知し、活用することができる。
(a.5)自己受容
 自己行為の自己評価に伴う自尊心の情動が優勢であり、達成欲求が強い。
(b)情動性
(b.1)気分変動
 肢体状態、内部感覚、自然的欲求を強く感知しすぎ、意志で統制できない。
(b.2)緊張
 自己状態に伴う快、不快を過剰に感知してしまう。
(b.3)抑うつ
 自己状態の認知に伴う喜び、悲しみを過剰に感知してしまう。
(b.4)心配症
 自己状態の予測に伴う希望や不安を過剰に感知してしまう。
(b.5)自己批判
 自己行為の自己評価に伴う後悔の情動が優勢である。

(3.5)現実性/遊戯性
本質:遊び
特徴と傾向:権威主義⇔堅実な⇔遊び心がある⇔逸脱・空想
本質の再定義
(a)現実性
(a.1)保守
 驚きの情動、好奇心が弱い。
(a.2)内的経験への鈍感
 自己状態に伴う快、不快に対して鈍感である。
(a.3)芸術への無関心
 外的対象に伴う嫌悪の情動が優勢である。
(a.4)実際、堅実
 想像に伴う嫌悪の情動が優勢である。
(b)遊戯性
(b.1)進取
 驚きの情動が豊かで、好奇心が旺盛である。 (b.2)内的経験への敏感
 自己状態に伴う快、不快を適切に感知し、楽しむことができる。
(b.3)芸術への関心
 外的対象に伴う快の情動が優勢であり、感覚欲求が強い。
(b.4)空想、奔放
 想像に伴う快の情動が優勢であり、想像遊びの欲求が強い。

(4)解明されたパーソナリティ特性が予言する諸命題
パーソナリティ特性の正確な再定義から予言される諸命題は、以下の通りである。
 (4.1)内向性/外向性
  本質:活動
  特徴と傾向:臆病・気おくれ⇔控え目⇔積極的⇔無謀
  (4.1.1)神経生理学の関連命題
   (a)運動や行動に伴う嫌悪の情動が優勢となる神経生理学的基盤は、内向性を強める。
   (b)運動や行動に伴う快の情動が優勢となる神経生理学的基盤は、外向性を強める。
   (c)外的対象の感覚に伴う嫌悪の情動が優勢となる神経生理学的基盤は、内向性を強める。
   (d)外的対象の感覚に伴う快の情動が優勢となる神経生理学的基盤は、外向性を強める。
  (4.1.2)社会心理学の関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起しやすい文化を持つ社会の成員は、内向性が強い。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起しやすい文化を持つ社会の成員は、外向性が強い。
   (c)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい文化を持つ社会の成員は、内向性が強い。
   (d)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすい文化を持つ社会の成員は、外向性が強い。
  (4.1.3)発達心理学の関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起しやすい成育歴を持つ個人は、内向性が強い。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起しやすい成育歴を持つ個人は、外向性が強い。
   (c)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい成育歴を持つ個人は、内向性が強い。
   (d)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすい成育歴を持つ個人は、外向性が強い。
  (4.1.4)症候群への介入関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起しやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の内向性を緩和できる。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起しやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の外向性を緩和できる。
   (c)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の内向性を緩和できる。
   (d)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の外向性を緩和できる。

 (4.2)分離性/愛着性
  本質:関係
  特徴と傾向:敵意・自閉⇔自主独立的⇔親和的⇔集団埋没
  (4.2.1)神経生理学の関連命題
   (a)他者状態の認知に伴う喜び、憐れみの情動が弱い神経生理学的基盤は、分離性を強める。
   (b)他者状態の認知に伴う喜び、憐れみの情動が強い神経生理学的基盤は、愛着性を強める。
  (4.2.2)社会心理学の関連命題
   (a)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい文化を持つ社会の成員は、分離性が強い。
   (b)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすく親和欲求を強める文化を持つ社会の成員は、愛着性が強い。
  (4.2.3)発達心理学の関連命題
   (a)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい成育歴を持つ個人は、分離性が強い。
   (b)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすく親和欲求を強める成育歴を持つ個人は、愛着性が強い。
  (4.2.4)症候群への介入関連命題
   (a)他者行為の認知に伴う憤慨、怒りの情動を喚起しやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の分離性を緩和できる。
   (b)他者行為の認知に伴う好意、感謝の情動を喚起しやすく親和欲求を強める認知構造、信念体系を是正することで、過度の愛着性を是正できる。

 (4.3)自然性/統制性
  本質:意志
  特徴と傾向:無為怠惰⇔あるがまま⇔目的合理的⇔仕事中毒
  (4.3.1)神経生理学の関連命題
   (a)肢体状態、内部感覚、自然的欲求を強く感知しすぎる神経生理学的基盤は、自然性を強める。
   (b)肢体状態、内部感覚、自然的欲求の感知が弱い神経生理学的基盤は、統制性を強める。
   (c)認知や理解に伴う嫌悪の情動が優勢である神経生理学的基盤は、自然性を強める。
   (d)認知や理解に伴う快の情動が優勢であり、知的遊びへの欲求が強い神経生理学的基盤は、統制性を強める。
  (4.3.2)社会心理学の関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起し、服従欲求を強めやすい文化を持つ社会の成員は、自然性が強い。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起し、承認欲求を強めやすい文化を持つ社会の成員は、統制性が強い。
  (4.3.3)発達心理学の関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起し、服従欲求を強めやすい成育歴を持つ個人は、自然性が強い。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起し、承認欲求を強めやすい成育歴を持つ個人は、統制性が強い。
  (4.3.4)症候群への介入関連命題
   (a)自己行為の他者評価に伴う恥の情動を喚起し、服従欲求を強めやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の自然性を緩和できる。
   (b)自己行為の他者評価に伴う誇りの情動を喚起し、承認欲求を強めやすい認知構造、信念体系を是正することで、過度の統制性を緩和できる。

 (4.4)非情動性/情動性
  本質:情動
  特徴と傾向:感情鈍麻⇔情緒安定⇔敏感な⇔神経症
  (4.4.1)神経生理学の関連命題
   (b)肢体状態、内部感覚、自然的欲求の感知が弱い神経生理学的基盤は、非情動性を強める。
   (a)肢体状態、内部感覚、自然的欲求を強く感知しすぎる神経生理学的基盤は、情動性を強める。
   (c)自己状態に伴う快、不快を適切に感知できる神経生理学的基盤は、非情動性を強める。
   (d)自己状態に伴う快、不快を強く感知しすぎる神経生理学的基盤は、情動性を強める。
  (4.4.2)社会心理学の関連命題
   (a)自己状態の認知に伴う喜び、悲しみの情動を適切に喚起する文化を持つ社会の成員は、非情動性が強い。
   (b)自己状態の認知に伴う喜び、悲しみの情動を過剰に喚起する文化を持つ社会の成員は、情動性が強い。
   (c)自己状態の予測に伴う希望や不安を適切に喚起する文化を持つ社会の成員は、非情動性が強い。
   (d)自己状態の予測に伴う希望や不安を過剰に喚起する文化を持つ社会の成員は、情動性が強い。
   (e)自己行為の自己評価に伴う自尊心の情動の喚起が優勢な文化を持つ社会の成員は、非情動性が強い。
   (f)自己行為の自己評価に伴う後悔の情動の喚起が優勢な文化を持つ社会の成員は、情動性が強い。
  (4.4.3)発達心理学の関連命題
   (a)自己状態の認知に伴う喜び、悲しみの情動を適切に喚起する成育歴を持つ個人は、非情動性が強い。
   (b)自己状態の認知に伴う喜び、悲しみの情動を過剰に喚起する成育歴を持つ個人は、情動性が強い。
   (c)自己状態の予測に伴う希望や不安を適切に喚起する成育歴を持つ個人は、非情動性が強い。
   (d)自己状態の予測に伴う希望や不安を過剰に喚起する成育歴を持つ個人は、情動性が強い。
   (e)自己行為の自己評価に伴う自尊心の情動の喚起が優勢な成育歴を持つ個人は、非情動性が強い。
   (f)自己行為の自己評価に伴う後悔の情動の喚起が優勢な成育歴を持つ個人は、情動性が強い。
  (4.4.4)症候群への介入関連命題
   (a)自己状態の認知に伴う喜び、悲しみの情動を過剰に喚起する認知構造、信念体系を是正することで、過度の情動性を緩和できる。
   (b)自己状態の予測に伴う希望や不安を過剰に喚起する認知構造、信念体系を是正することで、過度の情動性を緩和できる。
   (c)自己行為の自己評価に伴う後悔の情動の喚起が優勢にする認知構造、信念体系を是正することで、、過度の情動性を緩和できる。

 (4.5)現実性/遊戯性
  本質:遊び
  特徴と傾向:権威主義⇔堅実な⇔遊び心がある⇔逸脱・空想
  (4.5.1)神経生理学の関連命題
   (a)驚きの情動、好奇心が弱い神経生理学的基盤は、現実性強める。
   (b)驚きの情動、好奇心が強い神経生理学的基盤は、遊戯性強める。
   (c)自己状態に伴う快、不快に対して鈍感である神経生理学的基盤は、現実性強める。
   (d)自己状態に伴う快、不快に対して敏感である神経生理学的基盤は、遊戯性強める。
   (e)外的対象に伴う嫌悪の情動が優勢である神経生理学的基盤は、現実性強める。
   (f)外的対象に伴う快の情動が優勢である神経生理学的基盤は、遊戯性強める。
   (g)想像に伴う嫌悪の情動が優勢である神経生理学的基盤は、現実性強める。
   (h)想像に伴う快の情動が優勢である神経生理学的基盤は、遊戯性強める。
  (4.5.2)社会心理学の関連命題
   なし。
  (4.5.3)発達心理学の関連命題
   なし。
  (4.5.4)症候群への介入関連命題
   なし。
(索引:パーソナリティ,5因子性格検査(FFPQ),情動)

2020年6月17日水曜日

必ずしも意識化されない情動誘発因が情動誘発部位を活性化し、身体と脳の多数の部位へ波及することで原自己が変化する。これら対象と原自己の変化が2次構造にマッピングされ、中核自己を構成する諸感情が発現する。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

情動と中核自己の発現

【必ずしも意識化されない情動誘発因が情動誘発部位を活性化し、身体と脳の多数の部位へ波及することで原自己が変化する。これら対象と原自己の変化が2次構造にマッピングされ、中核自己を構成する諸感情が発現する。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(3)中核自己の発現の要約的記述
 参照: 「中核自己」の発現(アントニオ・ダマシオ(1944-))

 (3.1)対象の感覚的処理(1次マップ)
  (a)生命体が、ある対象に遭遇する。
   (i)情動誘発因
    対象に対する意識も、対象の認知も、このサイクルの継続に必ずしも必要ではない。
  (b)ある対象が、感覚的に処理される。
   (i)情動誘発部位
    対象のイメージの処理に伴う信号が、その対象が属している特定の種類の誘発因に反応するようプリセットされている神経部位(情動誘発部位)を活性化する。
 (3.2)原自己の変化(1次マップ)
  (a)対象からの関与が、原自己を変化させる。
  (b)身体と脳の多数の部位の反応
   情動誘発部位は、身体と他の脳の部位に向けての多数の反応を始動させ、情動を構成する身体と脳の反応を全面的に解き放つ。
  (c)身体と脳の状態変化の表象
   皮質下ならびに皮質部における一次のニューラル・マップは、それが「身体ループ」によるものか、「あたかも身体ループ」によるものか、あるいは両者の組合せによるものかには無関係に、身体状態の変化を表象する。こうして感情が浮上する。
 (3.3)情動誘発部位と原自己の2次マッピング
  情動誘発部位における神経活動のパターンと原自己の変化が、二次の構造にマッピングされる。かくして、情動対象と原自己の関係性についての説明が二次の構造においてなされる。
  (a)原初的感情が変化し、「その対象を知っているという感情」が発生する。(2次マップ)
  (b)知っているという感情が、対象に対する「重要性」を生み出し、原自己を変化させた対象へ関心/注意を向けるため、処理リソースを注ぎ込むようになる。(1次マップへのフィードバック)
  (c)「ある対象が、ある特定の視点から見られ、触られ、聞かれた。それは、身体に変化を引き起こし、その対象の存在が感じられた。その対象が重要とされた。」こうしたことが、起こり続けるとき、対象によって変化させられたもの、視点を持っているもの、対象を知っているもの、対象を重要だとし関心と注意を向けているもの、これらを担い所有する主人公が浮かび上がってくる。これが「中核自己」である。

《説明図》

対象→原自己→変調された原初的感情
↑  の変化 変調されたマスター生命体
│       │    ↓
│       │  視点の獲得
│       ↓
│     知っているという感情
│       ↓     │
└─────対象の重要性  ↓
             所有の感覚
             発動力


「情動の反応には少しもあいまいなもの、表現しがたいもの、不明確なものはない。また情動の感情になりうる表象にも、あいまいなもの、表現しがたいもの、不明確なものはない。情動の感情に対する基盤は、特定の構造のマップの中の、きわめて具体的な一連のニューラル・パターンである。
 要約すると、情動、感情、そして感情の感情まで、事象の推移はつぎの五段階に分けることができよう。ちなみに、最初の三つについては、情動に関する章でその概略を述べている。
(1) 情動誘発因と関わる有機体。誘発因とは、たとえば視覚的に処理され、視覚的表象をもたらす特定の対象。その際、その対象が意識化されることもあるし、されないこともある。認知されることもあるし、されないこともある。対象に対する意識も、対象の認知も、このサイクルの継続に必要ではないからだ。
(2) 対象のイメージの処理に伴う信号が、その対象が属している特定の種類の誘発因に反応するようプリセットされている神経部位(情動誘発部位)を活性化する。
(3) 情動誘発部位は、身体と他の脳の部位に向けての多数の反応を始動させ、情動を構成する身体と脳の反応を全面的に解き放つ。
(4) 皮質下ならびに皮質部における一次のニューラル・マップは、それが「身体ループ」によるものか、「あたかも身体ループ」によるものか、あるいは両者の組合せによるものかには無関係に、身体状態の変化を表象する。こうして感情が浮上する。
(5) 情動誘発部位における神経活動のパターンが、二次の神経構造にマッピングされる。これらの事象のために原自己が変化する。そして原自己の変化もまた、二次の構造にマッピングされる。かくして、「情動対象」(情動誘発部位における活動)と原自己の関係性についての説明が二次の構造においてなされる。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『起こっていることの感覚』(日本語名『無意識の脳 自己意識の脳』)第4部 身体という劇場、第9章 情動と感情の基盤は何か、pp.338-339、講談社(2003)、田中三彦(訳))
(索引:情動誘発因,原自己,中核自己,情動,感情)

無意識の脳 自己意識の脳


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
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2020年5月14日木曜日

情動は,対象の感知による一時的変化が,体液性信号と神経信号を通じ全身に伝播し,内部環境,内臓,筋骨格の状態,身体風景の表象を変化させ,脳状態の変更を通じて,特定行動誘発,認知処理モードの変化等を引き起こす。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

情動が引き起こす身体変化と脳変化

【情動は,対象の感知による一時的変化が,体液性信号と神経信号を通じ全身に伝播し,内部環境,内臓,筋骨格の状態,身体風景の表象を変化させ,脳状態の変更を通じて,特定行動誘発,認知処理モードの変化等を引き起こす。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

  (2.3.5)「脳や身体の状態を一時的に変更する」情動の身体過程
   (a)情動対象を感知する。
    (a.1)感覚で与えられた対象や事象を感知し、評価する。
    (場所:感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
    (a.2)「あたかも身体ループ」:想起された対象や事象を感知し、評価する。
     この「あたかも」機構は、単に情動と感情にとって重要なだけでなく、「内的シミュレーション」とも言える一種の認知プロセスにとっても重要である。
   (b)有機体の状態が一時的に変化する。
    (b.1)身体状態と関係する変化:「身体ループ」または「あたかも身体ループ」
     (i)自動的に、神経的/化学的な反応の複雑な集まりが、引き起こされる。
     (場所:例えば「恐れ」であれば扁桃体が誘発し、前脳基底、視床下部、脳幹が実行する。)
     (ii)2種類の信号が変化を伝播する。
      (1)体液性信号:血流を介して運ばれる化学的メッセージ
      (2)神経信号:神経経路を介して運ばれる電気化学的メッセージ
     (iii)身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。
      情動的状態は、身体の化学特性の無数の変化、内臓の状態の変化、そして顔面、咽喉、胴、四肢のさまざまな横紋筋の収縮の程度を変化させる。
     (iv)身体風景の表象が変化する。
      二種類の信号の結果として身体風景が変化し、脳幹から上の中枢神経の体性感覚構造に表象される。
    (b.2)認知状態と関係する変化
     脳構造の状態も一時的に変化し、身体のマップ化や思考へも影響を与える。
     次項目「思考や行動に影響を与える」へ。
   (c)有機体の一次的変化の表象
    一次的に変化した有機体の状態は、イメージとして表象される。
   (d)対象の意識化と自己感の発生
    有機体の一時的変化の表象は、情動の対象を強調し意識的なものに変化させる。同時に、対象を認識している自己感が出現する。
  (2.3.6)「思考や行動に影響を与える」:認知状態と関係する変化
   (a)情動のプロセスによって前脳基底部、視床下部、脳幹の核にいくつかの化学物質が分泌される。
   (b)分泌された神経調節物質が、大脳皮質、視床、大脳基底核に送られる。
   (c)その結果、以下のような重要な変化が多数起こる。
    (i)特定の行動の誘発
     たとえば、絆と養育、遊びと探索。
    (ii)現在進行中の身体状態の処理の変化
     たとえば、身体信号がフィルターにかけられたり通過を許されたり、選択的に抑制されたり強化されたりして、快、不快の質が変化することがある。
    (iii)認知処理モードの変化
     たとえば、聴覚イメージや視覚イメージに関して、遅いイメージが速くなる、シャープなイメージがぼやける、といった変化。この変化は情動の重要な要素である。
    (iv)引き起こされた特有な身体的パターン、行動パターンの種類がいくつか存在する。

「ある感情の基盤を構成する一連のニューラル・パターンは、二種類の生物学的変化の中で生じる。身体状態と関係する変化と、認知状態と関係する変化である。身体状態と関係する変化は、二つの機構によって実現される。一つの機構は、私が「身体ループ」と呼ぶもの。それは体液性信号(血流を介して運ばれる化学的メッセージ)と神経信号(神経経路を介して運ばれる電気化学的メッセージ)の双方を使う。二種類の信号の結果として身体風景が変化し、それは脳幹から上の中枢神経の体性感覚構造に表象される。
 身体風景の表象の変化は、部分的に「あたかも身体ループ」という別の機構によってもなされる。この代替的な機構では、身体関係の変化の表象が、たとえば前頭前皮質などにある他の神経部位の制御のもとで、直接、感覚身体マップの中につくられる。「あたかも」本当に身体が変化したかのようだが、実際にはそうではない。この「あたかも身体ループ」の機構は、部分的ないし全面的に身体をバイパスするようになっている。私はこれまで、身体をバイパスすることは時間とエネルギーを節約し、状況によってそれはひじょうに有用なものだと言ってきた。この「あたかも」機構は、単に情動と感情にとって重要なだけでなく、「内的シミュレーション」とも言える一種の認知プロセスにとっても重要だ。
 一方、認知状態と関係する変化が生み出されるのは、情動のプロセスによって前脳基底部、視床下部、脳幹の核にいくつかの化学物質が分泌され、それらの物質が他のいくつかの脳部位に送られるときだ。これらの核が大脳皮質、視床、大脳基底核に神経調節物質を放つと、それにより脳の作用に重要な変化が多数起こる。私が考えているもっとも重要な変化には以下のものがある。
(1) 特定の行動(たとえば、絆と養育、遊びと探索)の誘発。
(2) 現在進行中の身体状態の処理の変化(たとえば、身体信号がフィルターにかけられたり通過を許されたり、選択的に抑制されたり強化されたりして、快、不快の質が変化することがある)。
(3) 認知処理モードの変化(たとえば、聴覚イメージや視覚イメージに関して、遅いイメージが速くなる、シャープなイメージがぼやける、といった変化。この変化は情動の重要な要素である)。」(中略)
「要するに、情動的状態は身体の化学特性の無数の変化、内臓の状態の変化、そして顔面、咽喉、胴、四肢のさまざまな横紋筋の収縮の程度の変化によってきまる。しかし情動的状態はまた、そうした変化を引き起こすとともに脳そのものの中のいくつかの神経回路の状態に、重要な変化をもたらしている一連の神経構造における変化によってもきまる。
 情動とは具体的に生じた有機体の状態の一時的変化、と単純に定義するなら、情動を感じるとは、つぎのように単純に定義できる。つまり、情動を感じるとは、有機体の状態のそうした一時的変化を、ニューラル・パターンとそれがもたらすイメージで表象することだ。そして、それらのイメージにただちに認識中の自己感が伴い、それらのイメージが強調されると、それらは意識的なものとなる。真の意味で、それらのイメージは「感情の感情」(feeling of feelings)である。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『起こっていることの感覚』(日本語名『無意識の脳 自己意識の脳』)第4部 身体という劇場、第9章 情動と感情の基盤は何か、pp.336-338、講談社(2003)、田中三彦(訳))
(索引:身体,情動,感情,体液性信号,神経信号,内部環境,身体風景)

無意識の脳 自己意識の脳


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

アントニオ・ダマシオ(1944-)
検索(アントニオ・ダマシオ)
検索(Antonio R. Damasio)
アントニオ・ダマシオの関連書籍(amazon)

2020年5月10日日曜日

"道徳言明に特有の意味は、情動を表出するために言明されるところから生じる"とする情動主義は、道徳言明の真偽を問うことはできず、道徳的議論は単に効果的に相手の情動を喚起する心理戦とみなしてしまう。(大庭健(1946-2018))

道徳の情動主義

【"道徳言明に特有の意味は、情動を表出するために言明されるところから生じる"とする情動主義は、道徳言明の真偽を問うことはできず、道徳的議論は単に効果的に相手の情動を喚起する心理戦とみなしてしまう。(大庭健(1946-2018))】
(出典:古書店三月兎之杜
大庭健(1946-2018)の命題集

「“道徳言明に特有の意味は、情動を表出するために言明されるところから生じる”とするスチーヴンソン(Stevenson,C.)の理論であった。この考えは、情動主義(emotivism)と呼ばれ、多くの理論家によって彫琢が加えられたが、やはり大きな欠陥をかかえていた。すなわち、言明の意味が「情動の表出」に尽きるのなら、言明の真偽を問うことはできず、したがって道徳言明を用いた議論は、より効果的に情動を表出して相手を動かそうとする「心理戦」にすぎなくなる、という危惧である。」
(大庭健(1946-)、以下の著作の解説:ジョン・マクダウェル(1942-)『徳と理性』、p.259、勁草書房(2016)、大庭健(監訳)・(訳))
(索引:道徳の情動主義,情動,道徳)

徳と理性: マクダウェル倫理学論文集 (双書現代倫理学)


2018年8月28日火曜日

文化的環境、社会的環境は、情動の誘発に大きな影響を与える。逆に情動が、文化的構築物や人間集団の命の状態を評価し、それらの新たな生成、発展、改善において重要な役割を担っている。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

文化的環境、社会的環境と情動

【文化的環境、社会的環境は、情動の誘発に大きな影響を与える。逆に情動が、文化的構築物や人間集団の命の状態を評価し、それらの新たな生成、発展、改善において重要な役割を担っている。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

《情動の定義》感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に影響を与える。
参照: 狭義の情動とは?(アントニオ・ダマシオ(1944-))

(補足説明)
 (a)「想起された対象や事象」:その対象と他の対象との関係や、その対象と過去との結びつきなど、意識的な思考が行う評価であることもある。むしろ、原因的対象と自動的な情動反応との間に、特定の文化の要求と調和するような意識的な評価段階をさしはさむことは、教育的な成長の重要な目標の一つである。
 (a.1)物理的環境
  もともと情動の基本的役割は、生来の生命監視機能と結びついている。情動の役割は、命の状態を心にとどめ、その命の状態を行動に組み入れることだった。
 (a.2)文化的環境
  文化的環境は、情動の誘発に大きな影響を与える。そして逆に情動が、文化的構築物の評価、発展において重要な役割を担っている。それが、有益な役割を担うためには、文化が科学的で正確な人間像に基づかなければならない。
 (a.3)社会的環境
  社会的環境も、情動の誘発に大きな影響を与える。それは、人間集団の命の状態の指標でもある。そして逆に情動が、社会的環境の評価、改善において重要な役割を担っている。情動と、社会的な現象との関係を知的に考察することは、社会の苦しみを軽減し幸福を強化するような物質的、文化的環境状況を生み出すために必要なことである。
 (b)「自動的に引き起こされる」:(a)にもかかわらず、そのような意識的な評価は、情動が生じるためには必要ではない。
 (c)「自動的に引き起こされる」:意識的な評価どころか、情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在に、われわれが気づいていようといなかろうと、情動は自動的に引き起こされる。
参照: 情動を誘発しうる刺激(ECS)の存在に、われわれが気づいていようといなかろうと、情動は自動的に引き起こされる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))
 (d)「対象や事象の評価を含む」:意識的な評価なしに自動的に引き起こされた情動にも、その対象や事象に対する評価結果が織り込まれている。ただし、それは意識的評価をはさんだ場合とは、異なるかもしれない。

 「特定の文化的環境に浸っている意識的、知的、想像的な生き物として、これまでわれわれ人間は倫理的規則をつくり、それを成文化して法律をつくり、その法律の適用を工夫してきた。われわれは今後もその営みに関わっていくだろう。相互に作用しあう有機体の集団は、そのような集団が生み出す社会的環境と文化の中に存在しており、たとえ文化そのものが進化と神経生物学的作用によりかなり条件付けされているとしても、集団の文化は前述のような現象を理解する上できわめて重要である。文化が有益な役割を担うかどうかは、その文化が、その将来の道筋を立てるために使う科学的な人間像の正確さに大きく依存しているからだ。そしてここにこそ、伝統的な社会科学と現代神経生物学を統合させる意味がある。
 おおよそ同じ理由で、倫理的行動の根底にある生物学的メカニズムを解明することは、それらのメカニズムやその機能障害を特定の行動の確たる原因とするものではない。それらは決定因かもしれないが、決定因である〈必然性〉はない。そのシステムはひじょうに複雑で多層的だから、なにがしかの自由度をもって作用する。
 もちろん、倫理的行動は特定の脳システムの機能に依存していると私は考えている。しかし、そのシステムは中枢ではない。「モラル中枢」のようなものは一つとして存在しない。前頭前・腹側内側皮質でさえ、それを中枢と考えるべきではない。さらに、倫理的行動を支えるシステムは、たぶんとくに倫理に向けられたものではない。それらは、生物学的調整、記憶、意志決定、創造性に向けられたものだ。倫理的行動は、そういった他の活動の驚くべき、そしてこの上なく有用な副次的作用である。しかし私が見るところ、脳の中にはモラル中枢もないし、これぞモラル・システムと言えるものさえない。
 こうした仮説では、感情の基本的役割は生来の生命監視機能と結びついている。感情というものが生まれて以来、感情の生来の役割は命の状態を心にとどめ、その命の状態を行動に組み入れることだったろう。そして感情はいまもそれをつづけているからこそ、ここで言及してきたような文化的構築物の評価、発展、適用において重要な役割を果たしていると私は考えている。
 もし感情が生ける有機体一つひとつの命の状態の指標であるとすれば、感情はまた、規模の大小にかかわらず人間集団の命の状態の指標でもあるだろう。だから、喜びと悲しみの感情の経験と社会的な現象との関係を知的に考察することは、正義のシステムや政治的体制を永遠に工夫していかねばならない人間にとって不可欠であるように見える。そしてたぶんもっとずっと重要なことだが、感情、それもとくに喜びと悲しみは、社会の苦しみを軽減し幸福を強化するような物質的、文化的環境状況を生み出すかもしれない。実際、そのような方向で、生物学の発展と医学技術の進歩は過去100年間、人間の状況を改善してきた。物質的環境を利用する科学と技術もそうだった。ある程度まで、人文科学もそうだった。また、ある程度まで、民主主義国家における富の成長もそうだった。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:文化的環境,社会的環境,情動)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年8月12日日曜日

他者の情動の表出を見るとき、その情動の基盤となっている内臓運動の表象が現れ、他者の情動が直ちに感知される。これは潜在的な場合もあれば実行されることもあり、複雑な対人関係の基盤の必要条件となっている。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))

共感

【他者の情動の表出を見るとき、その情動の基盤となっている内臓運動の表象が現れ、他者の情動が直ちに感知される。これは潜在的な場合もあれば実行されることもあり、複雑な対人関係の基盤の必要条件となっている。(ジャコモ・リゾラッティ(1938-))】

(1)他者の情動の表出を見るとき、その情動の基盤となっている内臓運動の表象が現れ、他者の情動が直ちに感知できる。
 (1.1)他者が、情動を感じている表情を見る。(視覚情報)
 (2.2)観察者の情動の基盤となっている内臓運動に関係する神経構造が、自動的に活性化される。
 (3.3)これにより、他者の情動が、直ちに了解される。ただし情動は、それが他者の表情や行為にどう表れているかに関係する、感覚的側面の内省的処理によって理解される場合もあるかもしれない。
(2)島の活性化によって引き起こされる内臓運動反応の周囲にある中枢は、潜在的な内臓運動活動を表象しており、それが実行されることもあれば、潜在的な状態にとどまることもある。
(3)このような情動の理解は、「同情」のための前提だ。しかし「同情」には他の要因も必要となる。例えば、相手が誰なのか、相手とどういう関係にあるのか、相手の立場になったところを想像できるか、相手の情動の状態や願望や期待といったものに対して責任を引き受ける気があるかなどだ。

 「よく知られているように、吐き気を催している人を目にすると、見ている側にも同じような反応が起きる。見ている人は、実際に吐かないまでも、必ずと言っていいほど、何か特別に不快な物を食べたり飲んだりしたかのように、吐き気や、ひどい腹痛などに見舞われる。島の活性化によって引き起こされる内臓運動反応が、周囲にある中枢に影響を及ぼすとはかぎらないとはいえ、そうした中枢が完全に無関係というわけではない。じつはその正反対で、周囲にある中枢は潜在的な内臓運動活動を表象しており、それが実行されることもあれば、潜在的な状態にとどまることもあるが、いずれにせよ、それは、主体である「私」が他者の情動を理解する上でぜったいに欠かせない。
 行為を理解するのに、その行為の模倣が必要ではないのと同じで、他者の情動の意味を理解するために相手の行動を細部まで余すところなく再現する必要はない。他者の運動行為や情動反応の知覚に、異なる皮質回路が関与しているとしても、そうした知覚は、ミラーメカニズムによって統合されているようだ。ミラーメカニズムのおかげで、私たちの脳は、自分が見たり感じたりしていること、あるいは他者が行っているのだろうと思っていることがただちに理解できる。それはこのメカニズムが、私たち自身の行為や情動の基盤となっているのと同じ(それぞれ運動と内臓運動にまつわる)神経構造を活性化するからだ。すでに述べたとおり、他者の行為や意図を理解するために私たちの脳に備わっている手段はミラーメカニズムだけではない。これは情動にも当てはまる。情動は、それが他者の表情や行為にどう表れているかに関係する、感覚的側面の内省的処理によって理解される場合もあるかもしれない。しかし、内省的処理だけで、内臓運動の「ミラーリング」の支援がなければ、ジェイムズの言う、純粋な「情動的温かみ」を欠く「色彩のない」知覚にとどまるだろうことは忘れてはならない。
 情動のミラーニューロン系は、他者の情動を一瞬で理解することを可能にする。この瞬間的な理解は、より複雑な対人関係の大半の基盤となる共感にとって、必要条件だ。とはいえ、他者の情動の状態を内臓運動レベルで共有することと、その人に共感することは、まったく違う次元の話だ。たとえば、誰かが苦しんでいるのを目にしたからといって、反射的にその人に同情するとはかぎらない。同情することはよくあるが、同情するには苦しんでいる人を見ることが前提となるものの、逆は必ずしも真実とは言えない点で、二つのプロセスはまったく異なる。さらに同情には、痛みを認識する以外にもさまざまな要因が必要となる。たとえば相手が誰なのか、相手とどういう関係にあるのか、相手の立場になったところを想像できるか、相手の情動の状態や願望や期待といったものに対して責任を引き受ける気があるかなど、そうした要因は枚挙に暇がない。」
(ジャコモ・リゾラッティ(1938-),コラド・シニガリア(1966-),『ミラーニューロン』,第7章 情動の共有,紀伊國屋書店(2009),pp.207-208,柴田裕之(訳),茂木健一郎(監修))
(索引:共感,情動)

ミラーニューロン


(出典:wikipedia
ジャコモ・リゾラッティ(1938-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「みなさんは、行為の理解はまさにその性質のゆえに、潜在的に共有される行為空間を生み出すことを覚えているだろう。それは、模倣や意図的なコミュニケーションといった、しだいに複雑化していく相互作用のかたちの基礎となり、その相互作用はますます統合が進んで複雑化するミラーニューロン系を拠り所としている。これと同様に、他者の表情や動作を知覚したものをそっくり真似て、ただちにそれを内臓運動の言語でコードする脳の力は、方法やレベルは異なっていても、私たちの行為や対人関係を具体化し方向づける、情動共有のための神経基盤を提供してくれる。ここでも、ミラーニューロン系が、関係する情動行動の複雑さと洗練の度合いに応じて、より複雑な構成と構造を獲得すると考えてよさそうだ。
 いずれにしても、こうしたメカニズムには、行為の理解に介在するものに似た、共通の機能的基盤がある。どの皮質野が関与するのであれ、運動中枢と内臓運動中枢のどちらがかかわるのであれ、どのようなタイプの「ミラーリング」が誘発されるのであれ、ミラーニューロンのメカニズムは神経レベルで理解の様相を具現化しており、概念と言語のどんなかたちによる介在にも先んじて、私たちの他者経験に実体を与えてくれる。」
(ジャコモ・リゾラッティ(1938-),コラド・シニガリア(1966-),『ミラーニューロン』,第8章 情動の共有,紀伊國屋書店(2009),pp.208-209,柴田裕之(訳),茂木健一郎(監修))
(索引:)

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2018年7月29日日曜日

21.情動の内観的特徴、物質的、身体的、生物学的特徴のまとめ(アントニオ・ダマシオ(1944-))

情動

【情動の内観的特徴、物質的、身体的、生物学的特徴のまとめ(アントニオ・ダマシオ(1944-))】
(1)情動の内観的特徴
 (1.1)意識的熟考なしに自動的に作動する。
 (1.2)情動は有機体の身体(内部環境、内臓システム、前庭システム、筋骨格システム)に起因する。
 (1.3)情動反応は、多数の脳回路の作動様式にも影響を与え、身体風景と脳の風景の双方に変化をもたらす。
 (1.4)これら一連の変化が、感情と思考の基層を構成することになる。
 (1.5)情動誘発因の形成においては、文化や学習の役割が大きく、これにより情動の表出が変わり、情動に新しい意味が付与される。
 (1.6)その結果、個的な差もかなりある。
(2)情動の物質的、身体的、生物学的特徴
 (2.1)情動は、一つのパターンを形成する一連の複雑な化学的、神経的反応である。
 (2.2)情動は生物学的に決定されるプロセスであり、生得的に設定された脳の諸装置に依存している。
 (2.3)情動を生み出すこれらの装置は、脳幹のレベルからはじまって上位の脳へと昇っていく、かなり範囲の限定されたさまざまな皮質下部位にある。これらの装置は、身体状態の調節と表象を担う一連の構造の一部でもある。
 (2.4)すべての情動はなにがしか果たすべき調節的役割を有し、有機体の命の維持を助けている。
 (2.5)長い進化によって定着したものであり、有機体に有利な状況をもたらしている。

「こういったすべての現象の根底には生物学的に共通する中核があり、それはおよそつぎのようなものである。

(1) 情動は、一つのパターンを形成する一連の複雑な化学的、神経的反応である。すべての情動はなにがしかはたすべき調節的役割を有し、なにがしかの形で、情動現象を示す有機体に有利な状況をもたらしている。情動は有機体の命――正確に言えばその身体――に「関する」ものであり、その役割は有機体の命の維持を手助けすることである。

(2) 学習や文化により情動の表出が変わり、その結果、情動に新しい意味が付与されるのは事実だが、情動は生物学的に決定されるプロセスであり、長い進化によって定着した、生得的にセットされた脳の諸装置に依存している。

(3) 情動を生み出すこれらの装置は、脳幹のレベルからはじまって上位の脳へと昇っていく、かなり範囲の限定されたさまざまな皮質下部位にある。これらの装置は、身体状態の調節と表象を担う一連の構造の一部でもある。これについては第5章で議論する。

(4) そのすべての装置が、意識的熟考なしに自動的に作動する。個的な差もかなりあるし、誘発因の形成において文化が一役はたすという事実もあるが、それによって情動の基本的な定型性、自動性、調節的目的が変わることはない。

(5) すべての情動は身体(内部環境、内臓システム、前庭システム、筋骨格システム)を劇場として使っているが、情動はまた多数の脳回路の作動様式にも影響を与える。すなわち、さまざまな情動反応が身体風景と脳の風景の双方に変化をもたらす。これら一連の変化が、最終的に感情になるニューラル・パターンの基層を構成している。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『起こっていることの感覚』(日本語名『無意識の脳 自己意識の脳』)第2部 すべては情動と感情から、第2章 外向きの情動と内向きの感情、pp.76-77、講談社(2003)、田中三彦(訳))
(索引:情動)

無意識の脳 自己意識の脳


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年7月26日木曜日

18.感情の特徴:(a)情動が、感情と思考を誘発する。(b)誘発される感情と思考は、学習される。(c)特定の脳部位への電気刺激も、情動、感情、思考を誘発する。(d)感情、思考は、新たな情動誘発刺激となる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

感情

【感情の特徴:(a)情動が、感情と思考を誘発する。(b)誘発される感情と思考は、学習される。(c)特定の脳部位への電気刺激も、情動、感情、思考を誘発する。(d)感情、思考は、新たな情動誘発刺激となる。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(a) 情動が、感情と思考を誘発する(感情の情動依存性)。
 感覚/想起された ⇒ 情動 ⇒ 感情 ⇒ 思考
 対象/事象
(情動を誘発する
 対象/事象)
(b)情動によって誘発される感情と思考は、学習されたものである。

(c) 特定の脳部位への電気刺激により誘発された情動でも、学習された感情と思考を誘発する(情動誘発の神経機構の相対的自律性)
 (特定の脳部位  ⇒ 情動 ⇒ 感情 ⇒ 思考
  への電気刺激)
 ※ 学習によって情動と結びつけられた思考が、呼び起こされる。

(d) 呼び起こされた思考が、さらに情動の誘発因となる
  呼び起こされた ⇒ 情動 ⇒ 感情 ⇒ 思考
  思考
 ※ 呼び起こされた思考は、現在進行中の感情状態を高めるか、静めるかする。思考の連鎖は、気が散るか、理性によって終止符が打たれるまで継続する。

 「この患者における事象の順序は、「まず悲しみの情動があった」ことを暴いている。そしてそのあとに、普通悲しみの情動を誘発するような種類の思考が、つまり、われわれが日常的に「悲しく感じる」と表現している心の状態に特徴的な思考が生じたのだ。

ひとたび電気刺激が止むと、こうした現象は徐々に弱まり、やがて消えた。情動は失せ、感情も消えた。また不安な思考も消えた。

 この神経学的にまれな出来事の重要性は明白だ。情動が生じたあと感情ならびにその感情と関係する思考が生じるのだが、普通は、その速さゆえ、現象に固有の順序を正しく分析することが難しくなっている。

まず、情動の原因となるような思考が心に生じると、それが情動を引き起こす。ついでその情動が感情を生み、今度はその感情が、主題的に関係しているその情動状態を増幅しそうな別の思考を呼び起こす。

呼び起こされた思考は、新しい付加的な情動に対する独立した誘発因として機能し、それにより現在進行中の感情状態を高めるかもしれない。かくして、さらなる情動がさらなる感情を生む。

気が散って、あるいは理性によってそれに終止符が打たれるまで、そのサイクルはつづく。

そして、こうした一連の現象が全面展開されるころには――情動を引き起こした思考、情動の諸行動、われわれが感情と呼ぶ心的現象、そしてその感情に起因する思考――いったい何が最初だったかを自己観察により判断するのは難しくなっている。

この女性の事例は、われわれがそのごたごたを見分ける一助になる。彼女は、悲しみと呼ばれる情動が生じる前、悲しみの原因となるような思考も、悲しみの感情も、もってはいなかった。

この事実は、情動誘発の神経機構の相対的自律性、そして感情の情動依存性、その双方に対する証拠である。

 ここで当然、こう問う人がいるだろう。その情動と感情が適切な刺激によって動機づけられていなかったことを考えると、なぜこの患者の脳は通常悲しみを引き起こすような思考を呼び起こしたのか、と。

 その答えは感情の情動依存性、ならびに、人の興味深い記憶方法と関係がある。悲しみの情動が展開されると、そのあとただちに悲しみの感情がつづく。そしてすぐに脳はまた、悲しみの情動〈と〉悲しみの感情を引き起こすような種類の思考を提示する。

なぜなら、連合学習が、濃密な二方向ネットワークの中で、情動と思考を結びつけているからだ。かくして、特定の思考は特定の情動を、逆に、特定の情動は特定の思考を呼び起こす。認知レベルのプロセスと情動レベルのプロセスは、このような形で連続的に結ばれている。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.102-104、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:感情,情動,思考,感情の情動依存性)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


(出典:wikipedia
アントニオ・ダマシオ(1944-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「もし社会的情動とその後の感情が存在しなかったら、たとえ他の知的能力は影響されないという非現実的な仮定を立てても、倫理的行動、宗教的信条、法、正義、政治組織といった文化的構築物は出現していなかったか、まったく別の種類の知的構築物になっていたかのいずれかだろう。が、少し付言しておきたい。私は情動と感情だけがそうした文化的構築物を出現させているなどと言おうとしているのではない。第一に、そうした文化的構築物の出現を可能にしていると思われる神経生物学的傾性には、情動と感情だけでなく、人間が複雑な自伝を構築するのを可能にしている大容量の個人的記憶、そして、感情と自己と外的事象の密接な相互関係を可能にしている延長意識のプロセスがある。第二に、倫理、宗教、法律、正義の誕生に対する単純な神経生物学的解釈にはほとんど望みがもてない。あえて言うなら、将来の解釈においては神経生物学が重要な役割を果たすだろう。しかし、こうした文化的現象を十分に理解するには、人間学、社会学、精神分析学、進化心理学などからの概念と、倫理、法律、宗教という分野における研究で得られた知見を考慮に入れる必要がある。実際、興味深い解釈を生み出す可能性がもっとも高いのは、これらすべての学問分野と神経生物学の〈双方〉から得られた統合的知識にもとづいて仮説を検証しようとする新しい種類の研究だ。」
(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第4章 感情の存在理由、pp.209-210、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))

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2018年7月4日水曜日

15.情動の根拠には(a)生得的なもの、(b)学習されたものがある。また、情動の誘発は、(a)無意識的なもの、(b)意識的評価を経由するものがあるが、いずれも反応は自動的なものであり、誘発対象の評価が織り込まれている。(アントニオ・ダマシオ(1944-))

狭義の情動

【情動の根拠には(a)生得的なもの、(b)学習されたものがある。また、情動の誘発は、(a)無意識的なもの、(b)意識的評価を経由するものがあるが、いずれも反応は自動的なものであり、誘発対象の評価が織り込まれている。(アントニオ・ダマシオ(1944-))】

(再掲)
狭義の情動
《定義》感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知したとき、自動的に引き起こされる身体的パターンであり、喜び、悲しみ、恐れ、怒りなどの語彙で表現される。それは、対象や事象の評価を含み、脳や身体の状態を一時的に変更することで、思考や行動に影響を与える。

(補足説明)
 (a)「想起された対象や事象」:その対象と他の対象との関係や、その対象と過去との結びつきなど、意識的な思考が行う評価であることもある。むしろ、原因的対象と自動的な情動反応との間に、特定の文化の要求と調和するような意識的な評価段階をさしはさむことは、教育的な成長の重要な目標の一つである。
 (b)「自動的に引き起こされる」:(a)にもかかわらず、そのような意識的な評価は、情動が生じるためには必要ではない。
 (c)「対象や事象の評価を含む」:意識的な評価なしに自動的に引き起こされた情動にも、その対象や事象に対する評価結果が織り込まれている。ただし、それは意識的評価をはさんだ場合とは、異なるかもしれない。

《誘発原因》
 狭義の情動が引き起こされるとき、その情動の原因となった対象や事象を、〈情動を誘発しうる刺激〉(ECS Emotionally Competent Stimulus)という。進化の過程で獲得したものも、個人の生活の中で学習したものも存在する。

(補足説明)
 ある情動の根拠は進化の過程で獲得され、他の情動の根拠は個人の生活の中で学習される。あるときは無意識的に情動が誘発され、またあるときは意識的な評価段階を経て情動が誘発される。このような情動が、人間の発達の歴史において重要な役割を演じている。

《身体過程》
 (a)感覚で与えられた対象や事象、あるいは想起された対象や事象を感知し、評価する。
  (場所:感覚連合皮質と高次の大脳皮質)
 (b)(a)によって、自動的に、神経的/化学的な反応の複雑な集まりが、引き起こされる。
  (場所:例えば、「恐れ」であれば、扁桃体が誘発し、前脳基底、視床下部、脳幹が実行する。)
 (c)(b)によって、身体の内部環境、内蔵、筋骨格システムの状態が一時的に変化する。
 (d)脳構造の状態も一時的に変化し、身体のマップ化や思考へも影響を与える。
 (e)特定の行動が引き起こされる。
 (f)引き起こされた(c)~(e)は、特有の身体的パターンであり、互いに区別できるこのような身体的パターンの種類がいくつか存在し、これが情動である。

 「情動は、脳と心が有機体の内部環境と周辺の環境を評価し、それにしたがい適応的に反応する手段を提供する。

事実、多くの場合、われわれは情動を引き起こす対象を、まさに「評価」という本来の言葉の意味で、意識的に評価している。

つまり、われわれはある対象の存在を処理するだけでなく、その対象と他の対象との関係や、その対象と過去との結びつきも処理しているのだ。

そういう場合には、情動の装置がありのままに評価する一方で、意識を有する心の装置が思考しながら同時に評価している。

 いや、われわれは情動反応を調節することもできる。基本的に、われわれの教育的な成長の重要な目標の一つは、原因的対象と情動反応の間に非自動的な評価段階をさしはさむことだ。われわれはそうすることで、われわれの自然な情動反応が特定の文化の要求と調和するようにしている。

 以上はまぎれもない真実だが、私がここで指摘したい点は、情動が生じるために原因的対象を、いわんやその対象があらわれる状況を意識的に評価する〈必要〉はないということ。

情動はさまざまな状況で起こりうるということである。

 たとえ情動反応が、情動を誘発しうる刺激の意識的認識なしに生じても、その情動には、そのときの状況に対する有機体の評価結果があらわれている。

その評価が自身に明確に認識されていないことはどうでもいい。

 人間の発達の歴史の重要な側面の一つは、われわれの脳を取り巻いているほとんどの対象が強い情動だったり弱い情動だったり、よい情動だったり悪い情動だったりと、何らかの種類の情動を誘発する力をもつようになり、意識的あるいは無意識的にそうした情動が誘発されうる、ということと関係している。

このような情動誘発の中には進化によってセットされているものもあるが、そうではなく個人的経験をとおして、われわれの脳により、情動を誘発しうる対象と結びつけられるようになっているものもある。」

(アントニオ・ダマシオ(1944-)『スピノザを探し求めて』(日本語名『感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ』)第2章 欲求と情動について、pp.84-85、ダイヤモンド社(2005)、田中三彦(訳))
(索引:狭義の情動)

感じる脳 情動と感情の脳科学 よみがえるスピノザ


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