2019年4月16日火曜日

イスラム教徒の8割を占めるスンニ派は、信者たちが後継者を選び、イスラムの慣習(スンナ)を守っていけばいいと考える。これに対してシーア派は、血筋によって後継者を選び、イラン以外では少数派として抑圧されている。(池上彰(1950-))

スンニ派とシーア派

【イスラム教徒の8割を占めるスンニ派は、信者たちが後継者を選び、イスラムの慣習(スンナ)を守っていけばいいと考える。これに対してシーア派は、血筋によって後継者を選び、イラン以外では少数派として抑圧されている。(池上彰(1950-))】

 「スンニ派とシーア派は、どう違うのでしょうか。
 イスラム教を広めたムハンマドが亡くなると、後継者をどう選ぶかをめぐって信者たちが分裂します。ムハンマドの血筋を引く、従弟のアリーこそが後継者にふさわしいと考える人たちは、「アリーの党派(シーア)」と呼ばれます。そのうちに、単に「シーア」と呼ばれるようになります。これが「シーア派」です。これでは「党派・派」になってしまいますが、こう呼ばれています。
 一方、血統に関係なく、信者たちによって選ばれた人がイスラムの慣習(スンナ)を守っていけばいいと考えた人たちは「スンニ派」と呼ばれるようになります。世界史の教科書では「スンナ派」と表記されますが、日本のメディアはスンニ派と表記します。
 スンニ派とシーア派は、教義において、それほど隔たっているわけではありません。ただ、スンニ派はイスラム教徒の8割を占める多数派なのに対して、シーア派は2割弱。少数派なのです。このためイラン以外では少数派としてスンニ派政権の下で政治的に抑圧され、経済的に困窮している人々が多いのです。スンニ派政権は、こうしたシーア派が「革命」を起こすのではないかと恐れているのです。
 また、サウジアラビアはアラブ人なのに対してイランはペルシャ人。伝統的な対抗意識が働きます。とりわけサウジアラビアは、このところの石油価格の低迷で、財政状態が急激に悪化。さらに隣国イエメンのスンニ派政権を支援するために軍隊を派遣したところ、戦費がうなぎ上りに増加。戦死する兵士も急増し、国内に不安が広がっています。」
(池上彰(1950-),『これが「世界を動かすパワー」だ!』POWER3 中東,「第五次中東戦争」は起きるのか,pp.138-140,文藝春秋(2016))
(索引:スンニ派,シーア派)

池上彰のこれが「世界を動かすパワー」だ! (文春e-book)


(出典:wikipedia
池上彰(1950-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「あなたが同じ立場だったらどうするか?
 もし、あなた方があのときにそのチッソの水俣工場で働いている社員だったら、どうしますか、ということです。つまり熊本県でも有数の企業です。水俣にとってはいちばん大手の企業です。水俣で生まれ育って、学校を出て、チッソに就職するというのは地元の人にとってはいちばんのエリートコースですよね。それこそ、みなさんがもしチッソに就職が決まったと報告をすれば、家族はもちろん親戚もみんな、「いやあいいところに就職したね、よかったね」と祝福してくれるはずです。もちろん、プラスチックの可塑剤という、日本という国が豊かになるときに必要なものをつくっているわけですから、みんな誇りを持って働いていたはずです。ところがやがて、そこから出てくる廃水が原因で、地元の住民に健康被害が出る、という話が聞こえるようになってきた。さあ、みなさんは果たしてどんな行動をとりますか、ということです。当時のチッソの社員たち。たとえば病院の医師が、原因究明のために猫を使って実験をしていた。でも会社から、そんな実験はやめろ、と言われたからやめてしまった。あるいは多くの社員は気がついていたからこそ、排水口の場所を変えたわけです。それによってさらに被害を広めてしまった。労働組合が分裂をして、そこで初めて、企業の仕打ちに気がついた社員たちが声を上げるようになった。さあ、もしそういうことになったら、みなさんはどういう態度をとりますか。
 いまの日本は廃水の基準に厳しいですから、何かあればすぐわかるでしょう。でもいま、実は、まったく同じようなことが中国のあちこちで起きています。開発途上国で同じようなことが起きているのですね。みなさんが就職をしました。そこの会社が実は、東南アジアあるいはアフリカに、現地の工場を持っている。現地の工場に、要員として派遣されました。そこで働いていた。そうしたらその周辺で、健康被害が出ている住民たちがいることに気がついた。あなたはどういう態度をとるのか。まさにそれが問われている、ということなのですね。決して他人事ではないのだということがわかっていただけるのではないでしょうか。」
(池上彰(1950-),『「経済学」講義 歴史編』lecture5 高度経済成長の歪み,pp.228-229,KADOKAWA(2015))
(索引:)

池上彰(1950-)
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市場の失敗の矯正には、秩序維持機能を超えた国家介入が必要である。しかし、様々な見解と利害関心を持つ個人と集団の存在と、意思決定権限を委譲された政治家に起因する国家の機能不全は、さらに深刻な問題を発生させる。(ジャコモ・コルネオ(1963-))

国家の機能不全

【市場の失敗の矯正には、秩序維持機能を超えた国家介入が必要である。しかし、様々な見解と利害関心を持つ個人と集団の存在と、意思決定権限を委譲された政治家に起因する国家の機能不全は、さらに深刻な問題を発生させる。(ジャコモ・コルネオ(1963-))】

(1)自由放任主義システム
 (1.1)国家による経済活動を、所有権の保護に限定する。
 (1.2)全ての経済主体が、所有権を自由に扱うことができる。
 (1.3)資源配分は、ほとんどいつも準最適である。(市場の失敗)

  国家
  所有権の保護

  経済主体  経済主体  経済主体
  所有権   所有権   所有権

(2)国家活動を、秩序維持機能を超えて拡張する。
 (2.1)原則的にはより、良い社会的な成果を生み出すことができる。
 (2.2)しかし、国家の機能不全は、社会にとって市場の失敗以上に深刻である。
 (2.3)国家の機能不全を引き起こす2つの原因
  (a)国家内部での利害闘争
   様々な見解と、大きく隔たった利害関心を持つ個人と集団が存在する。
   政治的諸決定は、有益な妥協へと至るために、利害の多様性を考慮しなければならない。
  (b)集団的な意思決定の権限移譲
   政治家が、国家全体の名において決定を行う。
 ┌───────┐
 │憲法     │
 │・個人の不可侵│
 │ の権利の宣言│
 │・合法的な国家│
 │ 介入の範囲 │
 │・統治者の権限│
 │ の制限   │
 └───┬───┘
 ┌───┴──────────┐
 │国家            │
 │秩序維持機能を       │
 │超えた国家活動       │
 │ ├─────┬────┐ │
 │政治家   統治者   司法│
 │意思決定  (行政)    │
 └───┬──────────┘
 ┌───┴─────────────┐
 │経済主体  経済主体  経済主体 │
 │利害・見解 利害・見解 利害・見解│
 └─────────────────┘

 「国家による経済活動を所有権の保護に限定し、全ての経済主体がこれを自由に扱うことができる場合、経済学者はそれを自由放任主義システムと呼ぶ。これは、現実には全く存在したことのない資本主義の一つの特殊な形態である。というのも統治者は、経済的な事柄に介入したがるからである。実際のところ経済理論は、そのような自由放任主義システムの資源配分はほとんどいつも準最適で、原則的には国家による追加的措置によって改善されることを示している。例えば、国家が賢く金融セクターを調整すればマクロ経済的危機を予防するのに役立つ。租税による所得の移転システムは、人々が貧困に陥るのを防ぐ助けになる。特定の財の調達や所得の分配に際して自由放任主義システムがうまくいかなければ、秩序維持機能を超えて国家活動を拡張することで、原則的にはより良い社会的な成果を生み出すことができる。しかしこの点で、現代の政治経済学は警告を発する。国家の機能不全は、社会にとって市場の失敗以上に深刻である。
 こうして、すでに強調した“微妙な接点”にたどり着く。というのも国家の機能不全は、経済と政治の間に存する難しい関係の表れだからである。根本において、これは二つの非常に一般的な国家の特性に還元されうる。
 第一に、国家はただ一つの意志を持った、同じように考える人間の集合体ではない。むしろそれは、様々な見解と、しばしば大きく隔たった利害関心を持つ個人と集団から成り立っている。個人と集団の大多数にかかわる政治的諸決定は、有益な妥協へと至るために利害の多様性を考慮しなければならない。
 第二に、国家の活動にとっても、生産過程の編成から理解される分業の技術的なメリットがある。相応の効率か利益が得られる見込みがあると、ある特定の集団が国家全体の名において決定を行い、この決定が実行される様子の監視を容認するきっかけとなる。この集団の構成員は、政治家と呼ばれる。
 これら二つの特性は、すなわち国家内部での利害闘争と集団的な意思決定の権限移譲は、多かれ少なかれ大部分の住民に多少とも大きな損害を与える危険を、国家権力がつねに自らのうちに秘めていることを暗示している。
 国家の機能不全から身を守るためには、例えばある法規を通じて個人のある権利は不可侵であることを明言することで、統治者の権限を制限する法規を共同体が取り決められる。そこで、独立した憲法裁判所を設置するなどして、実際に統治者が憲法に関する規範に従うように、予防措置がとられなければならない。
 合法的な国家介入の範囲がいったん憲法により定められると、どのように集団的な意思決定が可能になるかという問いが共同体のもとに立ち現れる。一般的に見て、政治的な諸制度は二つのことを成し遂げる必要がある。政治制度はまず、代表が社会の様々な利害を考慮するよう注意するべきであり、また統治者が、他の国民を搾取するために国家を利用しないよう防ぐべきである。問題は、どのような条件のもとであれば、資本主義的な関係のなかでこうした必要がうまく満たされるのかということである。」
(ジャコモ・コルネオ(1963-),『よりよき世界へ』,第1章 哲人の国家の機能不全,pp.14-15,岩波書店(2018),水野忠尚,隠岐-須賀麻衣,隠岐理貴,須賀晃一(訳))
(索引:国家の機能不全,市場の失敗,政治家,自由放任主義)

よりよき世界へ――資本主義に代わりうる経済システムをめぐる旅


(出典:University of Nottingham
ジャコモ・コルネオ(1963-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「私はここで福祉国家の後退について別の解釈を提言したい。その解釈は、資本主義(市場システムと生産手段の私有)は、福祉国家を異物のように破損する傾向があるという仮説に基づいている。福祉国家の発端は、産業労働者の蜂起のような一度限りの歴史的な出来事であった。」(中略)「この解釈は、共同体がこのメカニズムに何も対抗しないならば、福祉国家の摩耗が進行することを暗示している。資本主義は最終的には友好的な仮面を取り去り、本当の顔を表すだろう。資本主義は通常のモードに戻る。つまり、大抵の人間は運命の襲撃と市場の変転に無防備にさらされており、経済的にも社会的にも、不平等は限界知らずに拡大する、というシステムに戻るのである。
 この立場に立つと、福祉国家は、資本主義における安定した成果ではなく、むしろ政治的な協議の舞台で繰り返し勝ち取られなければならないような、構造的なメカニズムである点に注意を向けることができる。そのメカニズムを発見するためには、福祉国家が、政治的意思決定の結果であることを具体的に認識しなければならない。」
(ジャコモ・コルネオ(1963-),『よりよき世界へ』,第11章 福祉国家を備えた市場経済,pp.292-293,岩波書店(2018),水野忠尚,隠岐-須賀麻衣,隠岐理貴,須賀晃一(訳))

ジャコモ・コルネオ(1963-)
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ゲーム理論は、制度の諸特性を教える。例として、(a)何らかの規律の役割,(b)全体的視点の役割,(c)より良い均衡の認知,(d)信頼の役割,(e)非協力のリスクの許容度,(f)相対的優位性の観点,(g)結果の平等性。(フランチェスコ・グァラ(1970-))

ゲーム理論と制度

【ゲーム理論は、制度の諸特性を教える。例として、(a)何らかの規律の役割,(b)全体的視点の役割,(c)より良い均衡の認知,(d)信頼の役割,(e)非協力のリスクの許容度,(f)相対的優位性の観点,(g)結果の平等性。(フランチェスコ・グァラ(1970-))】

(a)走行ゲーム
 (a.1)プレーヤーは協力すれば利益を得て、協力しなければ何も得ない。
 (a.2)プレーヤーは解決方法への選好を持っていない。従って、利害の対立はない。
 (a.3)どの解決方法を選んでも利益は等しい。。

    プレーヤー2
プ   左へ  右へ
レ  ┌───┬───┐
|左へ│1、1│0,0│
ヤ  ├───┼───┤
|右へ│0,0│1、1│
1  └───┴───┘

(b)両性の闘い
 (b.1)プレーヤーは協力すれば利益を得て、協力しなければ何も得ない。
 (b.2)プレーヤーは解決方法への選好を持っている。従って、利害の対立がある。
 (b.3)解決方法によって、どちらのプレーヤーの利益が大きいかが異なる。しかし、両者の合計の利益は同じであり、この点が強調されれば協力が促されるかもしれない。
    プレーヤー2
プ   バスケ オペラ
レバス┌───┬───┐
| ケ│2、1│0,0│
ヤ  ├───┼───┤
|オペ│0,0│1、2│
1 ラ└───┴───┘

(c)ハイ&ロウ
 (c.1)プレーヤーは協力すれば利益を得て、協力しなければ何も得ない。
 (c.2)プレーヤーは解決方法への選好を持っている。
 (c.3)いずれの解決方法によっても、両プレーヤーの利益は等しい。従って、利害の対立はない。
 (c.4)しかし、劣位の安定状態に閉じ込められてしまう場合がある。
  優位の均衡に遷移する条件は、
  (i)両プレーヤーが、より良い均衡があることを知っていること。
  (ii)両プレーヤーがお互いに、相手も同じ行動を取るという信頼が存在すること。
    プレーヤー2
プ    H   L
レ  ┌───┬───┐
| H│2、2│0,0│
ヤ  ├───┼───┤
| L│0,0│1、1│
1  └───┴───┘

(d)鹿狩り
 (d.1)各プレーヤーは次の状況におかれ、それぞれ異なる選好を持つ。
  (i)協力と非協力とは、利益の期待値は同じである。(期待値)
  (ii)協力は、相手に依存するリスクを負う必要がありハイリスク・ハイリターンである。(リスク)
  (iii)利益の期待値は、協力では相手に劣位、非協力では優位である。(期待値の相対的優位性)
  (iv)協力と非協力の戦略が混在すると、不平等が生じる。(平等性)
 (d.2)優位の均衡に遷移する条件
  (i)両プレーヤーが、より良い均衡があることを知っていること。
  (ii)両プレーヤーがお互いに、相手も同じ行動を取るという信頼が存在すること。
  (iii)その信頼の程度は、相手の非協力のリスクを負える程度であること。
  (iv)その信頼の程度は、期待値において相対的に劣位であることを許容できる程度であること。
  (v)その信頼の程度は、戦略の混在による不平等を、一時的にせよ許容できる程度であること。
    プレーヤー2
プ    鹿   兎
レ  ┌───┬───┐
| 鹿│2、2│0,1│
ヤ  ├───┼───┤
| 兎│1,0│1、1│
1  └───┴───┘

 「走行ゲーム:二人のドライバーが二車線の道路で互いに接近している。彼らにできることは、左に寄るか右に寄るかである。二人ともが同じ側を選択すれば、彼らはともに利益を得る。そうでないと、彼らは停車して大事な時間を浪費しなければならなかったり、衝突してしまったりするだろう。この行列を使って記述できるのは以下のような状況である。問題解決のためにプレーヤーたちが力を合わせなければならないが、問題解決の仕方が多数ある。さらに、どのような問題解決の仕方についても、プレーヤーたちはどちらの方がいいという選好を持っていない状況である。とりわけ注意するべきは、ここには利害対立がないことである。というのは、どちらの均衡が選択されても、両プレーヤーは等しく便益を享受することになるからである。」
    プレーヤー1
プ   左へ  右へ
レ  ┌───┬───┐
|左へ│1、1│0,0│
ヤ  ├───┼───┤
|右へ│0,0│1、1│
2  └───┴───┘

 「両性の闘い:この物語の登場人物は二人の婚約者だ。彼らは一緒に夜を過ごすことを選好する。しかし、可能な選択肢に関しては、彼らは異なる選好を持っている。プレーヤー1はバスケットボールの試合観戦を選好しているのに対して、プレーヤー2はオペラに行くことを選好している。これは交渉ゲームである。というのは、コーディネーションの便益の配分の仕方には違いがあり、ある配分はプレーヤーたちの一方にとってより好ましいものになっているからだ。両性の闘いは、コーディネーションの利益だけでなく、利害対立も存在する状況を表現するのに役立つ。軍事作戦の文脈で解釈すれば、私がリードしてあなたが従う、あるいは、あなたがリードして私が従うのが望ましいが、私たちが両方ともリードするとか従うとかしたら、惨憺たる結末を迎えるという状況である。」(中略)「私たちは、均衡に収束することが望ましいということについては合意しているものの、どちらの均衡が実現してほしいかについては無関心ではいられない。」
    プレーヤー1
プ   バスケ オペラ
レバス┌───┬───┐
| ケ│2、1│0,0│
ヤ  ├───┼───┤
|オペ│0,0│1、2│
2 ラ└───┴───┘

 「ハイ&ロウ:二つの選択肢の一方がプレーヤー双方にとって明らかに良いことを除けば、戦略設定は同じである。ハイ&ロウは自明なゲームに見えるかもしれないが、実際には制度研究にとって極めて重要なものだ。制度は、コーディネーションが欠落した結果よりも良い結果へと収束することを促すものである。しかし、制度は時として、人々を劣位の安定的状態(LL)に閉じ込めてしまい、負の影響を持ちうる。読者は、(LL)が愚かな結果だということを、どうしてプレーヤーたちが理解できないのかを不思議に思われるかもしれない。ありうる回答の一つは単純なもので、彼らがより良い均衡があることを知っていないだけだというものである。他の場合では、プレーヤーたちは皆、より良い均衡の存在は知っているけれども、そこに収束していく際に、プレーヤーたちが他のプレーヤーたちがしかるべき自分の行為を選択しないだろうと信じないせいで、収束するのに失敗してしまう。こうしたことが起こるかもしれないのは、たとえば「鷹狩り」ゲーム(図2・2(d))のように、劣位の均衡戦略が安全で、かつ優位の戦略がリスクを伴うときである。」
    プレーヤー1
プ    H   L
レ  ┌───┬───┐
| H│2、2│0,0│
ヤ  ├───┼───┤
| L│0,0│1、1│
2  └───┴───┘

 「鹿狩り:『人間不平等起源論』(Rousseau 1755)でジャン=ジャック・ルソーは、森林でシカを待ち伏せする狩人の集団について語っている。狩りにはコーディネーション、規律、信頼が求められる。森のなかでは、プレーヤーたちはお互いの姿を確認できず、注意を逸らすものが沢山あるからだ。ルソーの見解は悲観的だ。「鹿を捕えようという場合、各人は確かにそのためには忠実にその持ち場を守らなければならないと感じた。しかし、もし一匹の兎が彼らのなかのだれかの手の届くところをたまたま通りすぎるようなことでもあれば、彼は必ずなんのためらいもなく、それを追いかけ、そしてその獲物を捕らえてしまうと、そのために自分の仲間が獲物を取り逃すことになろうとも、いささかも気にかけなかった」[邦訳89頁]。ウサギを追跡することは魅力的だ。他のプレーヤーが何をしようとも、そうすることが夕食を保証することになるからだ。もちろんシカを狩る方がより多くの食事にありつけるかもしれないが、それはより大きな危険を伴う。他の狩人がウサギを追いかけたら、シカを狙う狩人は飢えたままでいることになる。形式的には、鹿狩りゲームは、均衡外の利得がウサギを追跡する(H)プレーヤーにとってより大きいことを除けば、ハイ&ロウと同一である。他のプレーヤーが協働するときに限り、シカを追跡することが価値あるものとなる。
    プレーヤー1
プ    鹿   兎
レ  ┌───┬───┐
| 鹿│2、2│0,1│
ヤ  ├───┼───┤
| 兎│1,0│1、1│
2  └───┴───┘


(フランチェスコ・グァラ(1970-),『制度とは何か』,第1部 統一,第2章 ゲーム,pp.51-53,慶應義塾大学出版会(2018),瀧澤弘和,水野孝之(訳))
(索引:ゲーム理論,走行ゲーム,両性の闘い,ハイ&ロウ,鹿狩り)

制度とは何か──社会科学のための制度論


(出典:Google Scholar
フランチェスコ・グァラ(1970-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「第11章 依存性
 多くの哲学者たちは、社会的な種類は存在論的に私たちの表象に依存すると主張してきた。この存在論的依存性テーゼが真であるならば、このテーゼで社会科学と自然科学の区分が設けられるだろう。しかもそれは、社会的な種類についての反実在論と不可謬主義をも含意するだろう。つまり、社会的な種類は機能的推論を支えるものとはならず、この種類は、関連する共同体のメンバーたちによって、直接的かつ無謬的に知られることになるだろう。
 第12章 実在論
 しかし、存在論的依存性のテーゼは誤りである。どんな社会的な種類にしても、人々がその種類の正しい理論を持っていることと独立に存在するかもしれないのだ。」(中略)「制度の本性はその機能によって決まるのであって、人々が抱く考えによって決まるのではない。結果として、私たちは社会的な種類に関して実在論者であり可謬主義者であるはずだ。
 第13章 意味
 制度的用語の意味は、人々が従うルールによって決まる。しかし、そのルールが満足いくものでなかったらどうだろう。私たちは、制度の本性を変えずにルールを変えることができるだろうか。」(中略)「サリー・ハスランガーは、制度の同一化に関する規範的考察を導入することで、この立場に挑んでいる。
 第14章 改革
 残念ながら、ハスランガーのアプローチは実在論と不整合的である。私が主張するのは、タイプとトークンを区別することで、実在論と改革主義を救うことができるということだ。制度トークンはコーディネーション問題の特殊的な解である一方で、制度タイプは制度の機能によって、すなわちそれが解決する戦略的問題の種類によって同定される。」(後略)
(フランチェスコ・グァラ(1970-),『制度とは何か』,要旨付き目次,慶應義塾大学出版会(2018),瀧澤弘和,水野孝之(訳))

フランチェスコ・グァラ(1970-)
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