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2020年6月28日日曜日

ミエリンは軸索の被覆部分を密封して漏電を防ぎ、神経インパルスは露出したランヴィエ絞輪から絞輪へ跳躍するように伝わっていく。有髄軸索のランヴィエ絞輪は、リピータの役割を担い、神経情報は最高で100倍も速く運ばれる。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))

ミエリンの役割

【ミエリンは軸索の被覆部分を密封して漏電を防ぎ、神経インパルスは露出したランヴィエ絞輪から絞輪へ跳躍するように伝わっていく。有髄軸索のランヴィエ絞輪は、リピータの役割を担い、神経情報は最高で100倍も速く運ばれる。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】

 「一発の神経インパルスは、ぴんと張った糸を伝わっていく小さな波のように、軸索を伝わっていく急速な電位変化だ。軸索膜に存在するタンパク質の「バルブ」を開閉して、荷電したイオンを通過させている分子レベルの現象が、注意深くタイミングを合わせて連続で生成することによって、神経インパルスは発生する。荷電したイオンが軸索を出入りするときに、電荷の流れを反映して、軸索のその箇所の電位が短時間変化する。正の電荷を持つナトリウムイオンは、軸索膜のナトリウムチャネルと呼ばれるたんぱく質を介して軸索内へ流入する。正の電荷が蓄積するにつれて、軸索膜の電位は正に傾く。するとその直後に、正の電荷を持つカリウムイオンがカリウムチャネルから排出され、過剰な正の電荷が減少して、軸索は元の状態に戻り、また発火できるようになる。膜を介したこの電位変化の波は、軸索の先端に向って移動していく。
 このサイクルは、軸索がインパルスを発火するたびに繰り返される。軸索の一カ所でナトリウムイオンとカリウムイオンが出入りして、神経インパルスを発生される一サイクルに要する時間は、わずか1ミリ秒ほどだ。しかし、その波は軸索を伝って移動しながら次々に発生するので、わずか1ミリ秒とはいえ、遅れは次第に積み重なっていく。これが、軸索を通した情報の伝達速度を制限している。
 ところが、ミエリンとランヴィエ絞輪は、軸索におけるインパルスの伝導方法を抜本的に転換する。ミエリンを持たない無脊椎動物の軸索のように、このサイクルを逐一繰り返しながら軸索の先端まで情報を運ぶのではなく、有髄軸索のランヴィエ絞輪は、リピータ〔訳注:電気通信の中継器〕の役割を担い、長距離にわたる信号の伝送速度を大きく向上させている。有髄軸索では、神経インパルスは露出したランヴィエ絞輪のみで発生し、ミエリンで被覆された部分(絞輪間部)では発生しない。ミエリンは軸索の被覆部分を密封して漏電を防ぎ、電気は絞輪から絞輪へ跳躍するように伝わっていく。それぞれの絞輪は電子機器の中継器のように、シグナルを受け渡す。絞輪による一連の通信中継器を介すると、こうしたリピータがない場合よりも、情報は最高で100倍も速く運ばれる。ミエリンはただの絶縁体ではなく、ランヴィエ絞輪は誤って作られたものではない。どちらも、情報伝達を加速するためのきわめて精巧な電子機器なのだ。踏み石の上を元気よく飛び跳ねて小川を渡るときと、丸太の上を慎重に進む時では速度が異なるように、電気的インパルスは、無髄軸索をのろのろと進んでいくよりもはるかに速く、有髄軸索を絞輪から絞輪へと跳躍していく。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第15章 シナプスを超えた思考,講談社(2018),pp.496-498,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:ミエリン,神経インパルス,ランヴィエ絞輪,有髄軸索)

もうひとつの脳 ニューロンを支配する陰の主役「グリア細胞」 (ブルーバックス)


(出典:R. Douglas Fields Home Page
R・ダグラス・フィールズ(19xx-)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「アストロサイトは、脳の広大な領域を受け持っている。一個のオリゴデンドロサイトは、多数の軸索を被覆している。ミクログリアは、脳内の広い範囲を自由に動き回る。アストロサイトは一個で、10万個ものシナプスを包み込むことができる。」(中略)「グリアが利用する細胞間コミュニケーションの化学的シグナルは、広く拡散し、配線で接続されたニューロン結合を超えて働いている。こうした特徴は、点と点をつなぐニューロンのシナプス結合とは根本的に異なる、もっと大きなスケールで脳内の情報処理を制御する能力を、グリアに授けている。このような高いレベルの監督能力はおそらく、情報処理や認知にとって大きな意義を持っているのだろう。」(中略)「アストロサイトは、ニューロンのすべての活動を傍受する能力を備えている。そこには、イオン流動から、ニューロンの使用するあらゆる神経伝達物質、さらには神経修飾物質(モジュレーター)、ペプチド、ホルモンまで、神経系の機能を調節するさまざまな物質が網羅されている。グリア間の交信には、神経伝達物質だけでなく、ギャップ結合やグリア伝達物質、そして特筆すべきATPなど、いくつもの通信回線が使われている。」(中略)「アストロサイトは神経活動を感知して、ほかのアストロサイトと交信する。その一方で、オリゴデンドロサイトやミクログリア、さらには血管細胞や免疫細胞とも交信している。グリアは包括的なコミュニケーション・ネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類(グリア、ホルモン、免疫、欠陥、そしてニューロン)の情報を、文字どおり連係させている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:)

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