2020年6月10日水曜日

問題解決の4大阻害要因は(a)問題はない(b)自分には関係ない(c)悪いのは彼らだ(d)どうせ駄目だと思うこと. 諸個人の幸福の公共善との不可分性を理解し,連帯への分断の罠に陥ることなく,可能性を信じて立ち向かうこと.(ロバート・ライシュ(1946-))

問題解決を困難にする4つの原因

【問題解決の4大阻害要因は(a)問題はない(b)自分には関係ない(c)悪いのは彼らだ(d)どうせ駄目だと思うこと. 諸個人の幸福の公共善との不可分性を理解し,連帯への分断の罠に陥ることなく,可能性を信じて立ち向かうこと.(ロバート・ライシュ(1946-))】

世間のほとんどの人たちの頭の中に巣食っている4つの「労働回避メカニズム」
(1)否認
 問題の存在を認めないこと。
(2)逃避願望
 (a)問題を認識しても、責任逃れをしようとする。
 (b)誰であれ、自分以外の多くの人がより貧しく、より経済的に不安定な状態にさらされているのに、自分や家族だけが満ち足りた裕福な人生を送ることなどできはしない。
(3)スケープゴート
 (a)問題を引き起こした人を「スケープゴート(身代り)」にする。
 (b)誰かを「スケープゴート」に仕立てあげても、人々が互いに分断されるだけで、逆進化の流れをひっくり返すことは益々困難になる。
(4)冷笑(シニシズム)
 (a)問題改善の可能性を信じようとしない。
 (b)私たちは以前にもそれをやり遂げたのだし、これからもできるはずだ。

 「リーダーは他の人々を積極的に動かして、なすべきことを完遂させなければならないが、そのためには、世間のほとんどの人たちの頭の中に巣食っている四つの「労働回避メカニズム」を克服できるよう、手を貸す必要がある。それは、問題の存在を認めない「否認」、問題を認識しても責任逃れをしようとする「エスケープ(逃避)」の願望、問題を引き起こした人を「スケープゴート(身代り)」にする傾向、そして、最悪なのが、問題改善の可能性を信じようとしない「シニシズム(冷笑)」である。たとえば、人々を動かして活気づけ、この国の逆進的な流れの方向を変えさせるための組織づくりを行って、経済と民主主義を私たちの手に取り戻すには、たとえ人々が現実を「否認」したとしても、リーダーは多くの人々を説得してこの国に金権国家化する危機が迫っているという事実を認めさせなければならない。この現実から「エスケープ」することはできないことを、人々に示さなければならないのだ。誰であれ、自分以外の多くの人がより貧しく、より経済的に不安定な状態にさらされているのに、自分や家族だけが満ち足りた裕福な人生を送ることなどできはしない。もし人々が移民や貧者や、政府職員や労働組合員、あるいは富裕層もそうだが、誰かを非難していたら、それをやめさせよう。なぜなら、誰かを「スケープゴート」に仕立てあげても、人々が互いに分断されるだけで、逆進化の流れをひっくり返すことは困難になるばかりだからだ。さらに、リーダーは「シニシズム」とも戦わなければならない。流れは変えられるということを、みんなに理解してもらおう。私たちは以前にもそれをやり遂げたのだし、これからもできるはずだ。」
(ロバート・ライシュ(1946-)『怒りを越えて』(日本語名:『格差と民主主義』)PART3 怒りを乗り越えて――私たちがしなければならないこと、行動を起こすには、pp.168-169、東洋経済新報社 (2014)、雨宮寛・今井章子(訳))
(索引:否認,逃避願望,スケープゴート,冷笑,シニシズム,課題解決)

ロバート・ライシュ 格差と民主主義

(出典:wikipedia
ロバート・ライシュ(1946)の命題集(Propositions of great philosophers) 「国家や政府は人間が作ったものであり、法律も企業もそして野球だって人間が作ったものだ。同じように市場も人間の産物である。他のシステムと同じく市場の構築の仕方にもさまざまな方法があるが、それがどう作られようと、人々のやる気や市場のルールによって生まれてくる。理想的には、ルールによって人々が働いたり協力しあう気になり、生産的で創造的でありたいと動機づけされるのが望ましい。つまり、ルールが人々が望む暮らしの実現を手助けするのである。ルールはまた、人々の倫理観や、何が良くて立派で、何が公平かについての判断基準をも映し出す。そしてルールは不変ではなく、時間の経過とともに変わっていく。願わくば、ルールにかかわる人のほとんどが、より良くより公平だと思う方向へ――。だが、常にそうなるとは限らない。ある特定の人々が自分たちを利するようにルールを変える力を得たことによっても、ルールは変わりうるからだ。これがこの数十年の間に、米国や他の多くの国々で起こったことである。
 私的所有独占への制限契約不履行に対処するための破産などの手段ルールの執行といった事柄は、いかなる市場にも必須の構成要素だ。資本主義と自由企業体制にはこれらが必要なのだ。だがこの要素の一つひとつを、多くの人ではなく、ひと握りの人々を利するように捻じ曲げることも可能である。」(中略)「経済的支配力が、政治的権力を増大させ、政治的権力がさらに経済的支配力を拡大させる。大企業と富裕層が市場を構築する政治の仕組みに影響を与え、彼らがその政治的決定によって最も恩恵を受けるという状況は加速するばかりだ。こうして彼らの富は増強され、その富によってますます、将来発生する決断事項への影響力を得ていくのである。」(中略)「拡大する不平等は「自由市場」の構成要素そのものにしっかりと焼き込まれている。グローバル化と技術革新がなくても減税や補助金がなくても、国民総所得のうち、企業と、企業収益に自分の所得が連動する重役たちや投資家に振り分けられる割合は、労働者層に向う割合よりも、相対的に増加している。こうして悪循環が勝手に成立していくのである。」
(ロバート・ライシュ(1946-)『資本主義を救う』(日本語名『最後の資本主義』)第1部 自由市場、第9章 まとめ――市場メカニズム全般、pp.108-111、東洋経済新報社 (2016)、雨宮寛・今井章子(訳))

ロバート・ライシュ(1946-)
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真っ赤な嘘も信念となる:(a)富裕層が経済の牽引力(b)低税率が投資を促進(c)小さい政府が良い(d)規制緩和は良い(e)財政赤字は悪い(f)社会保障費は抑制すべき(h)寛大な制度は活力を奪う(i)一律の税率が最も公平(ロバート・ライシュ(1946-))

経済をめぐる10の嘘

【真っ赤な嘘も信念となる:(a)富裕層が経済の牽引力(b)低税率が投資を促進(c)小さい政府が良い(d)規制緩和は良い(e)財政赤字は悪い(f)社会保障費は抑制すべき(h)寛大な制度は活力を奪う(i)一律の税率が最も公平(ロバート・ライシュ(1946-))】

反論されない嘘は信念となる
 真っ赤な嘘も、反論されない限り繰り返し語っていれば、次第に人々が受け入れるようになることは、扇動の歴史が物語っている。
 (1)嘘その1:富裕層が経済の牽引力
  (a)富裕層が経済の牽引力
   富裕層は「雇用の創造主」であるから、富裕層に対して減税すれば、みなによい効果を波及させる「トリクルダウン」が発生する。逆に、富裕層に増税すると景気に打撃を与え、雇用の伸びも鈍化してしまう。
  (b)圧倒的多数の国民の購買力が経済の牽引力
   富裕層が雇用を生み出すのではない。国民の購買力が企業の生産能力の拡大や雇用を創出する。だから、国民所得が不均衡に富裕層に流れると、中間層にはもはや雇用を創出するだけの購買力がなくなってしまうのである。
 (2)嘘その2:低税率が投資を促進する
  (a)低い税率が投資を促進する
   法人税を下げれば、企業は雇用を創出し景気も活性化する。
  (b)経済的に見合う購買力を見込んで投資する
   これらの企業が生産能力の拡大や雇用創出に投資しない理由は、税金とはまったく関係がない。本当の理由は、生産力を追加したとしても、そうやって新たに造り出されたモノを買うだけの十分なカネを持つ顧客が足りないことだ。企業は経済的に見合う分しか支出しない。
 (3)嘘その3:小さい政府が経済に良い
  (a)政府は小さい方が経済に良い
   政府の規模を小さくすれば、雇用が増大し景気も好転する。
  (b)公共投資は経済に重要
   政府の規模縮小は、州や自治体レベルでは教員や消防士、警察官、福祉職員などの公務員の減少を、連邦レベルでは安全検査官や軍人の減少をもたらす。その結果、公共事業の受託企業が減り、受託企業による民間部門の雇用も減ってしまう。
 (4)嘘その4:規制が少ないほど、経済は強くなる
  (a)規制緩和
   規制が少ないほど、経済は強くなる。
  (b)最小の負担で最大の公共利益をもたらす規制が必要
   (i)企業の存在理由
    企業の存在理由は一つしかない。すなわち、利益を上げ株価を上げることであって、市民を守ることではない。
   (ii)公共善
    だがそれでも、市民の健康と安全、個人投資家に対する公平性、持続可能な環境といったものはすべて「公共善」であり、これがなければ、人々はますます貧しくなってしまう。
   (iii)最小の負担で最大の公共利益
    公共に対する利益のほうが、その負担よりも大きい場合に、規制を行うことは理にかなっている。規制は、公共の利益を最大化し負担を最小化するように設計すべき、それだけのことだ。
 (5)嘘その5:財政赤字の削減は経済に良い
  (a)財政赤字削減
   財政赤字をただちに削減すれば、景気は回復する。
  (b)成長と雇用が経済規模に対する相対的債務を減少させる
   成長と雇用が鍵なのだ。より多くの人が働けば、より多くの企業が利益を上げ、景気が拡大して税収が増え、経済規模に対する債務は相対的に減っていく。だが、経済成長が緩やかだったり、低迷しているときには、まさに反対のことが起こる。景気低迷と低税収の悪循環に陥ってしまう。もしそこで政府支出を削減したら、悪循環どころか、それが死にいたる落とし穴になってしまうかもしれない。
 (6)嘘その6:公的医療保険制度は縮小すべき
  (a)公的医療保険制度は縮小すべき
   公的医療保険制度であるメディケア(高齢者対象)とメディケイド(低所得者対象)を縮小すべきだ。
  (b)全ての人に医療が提供できる公的な仕組みを工夫する
   基本的医療費が増え続ける一方で、より多くの高齢者が、支払能力がないために医療ケア市場から締め出されていく。医療費を抑制するずっとましな方法は、メディケアとメディケイドが公的医療保険制度としての交渉力を駆使して、製薬会社や病院の治療費を下げさせ、診療行為に対する課金から診療結果に対する課金システムへと移行させることだ。
 (7)嘘その7:セーフティネットが寛大すぎる
  (a)セーフティネットが寛大すぎるので働かない
   われわれのセーフティネットは、寛大にすぎる。彼らは、米国が抱える経済問題の原因は、政府「依存」の急増にあり、これらの給付を止めれば、人々は一生懸命に働くようになるというのである。
  (b)本当に必要なセーフティネットが整備されているか
   しかしここでも、逆進主義者たちは原因と結果をあべこべにしている。
   (i)失業保険の受給者が増えた原因は何か?
   (ii)必要としている人が、全て受給できているのか?
   (iii)受給資格要件は、ほんとうに妥当なのか?
 (8)嘘その8:社会保障制度は破綻する
  (a)社会保障制度は、ねずみ講だ。
  (b)保険料の所得上限を引き上げるべき
   社会保障制度をめぐる長期課題に対する合理的解決策は、給付額の削減や支給開始年齢の引き上げではなく、徴収対象となる所得上限を引き上げることなのである。
 (9)嘘その9:低所得者層の税負担が軽いのは不公平
  (a)低所得者層の税負担が軽いのは不公平
   低所得者層の連邦所得税の負担割合が小さく、人によってはまったく所得税を払っていないのは不公平だ。
  (b)累進課税制度が真の公平である
   これはまったく不公平でも何でもない。累進課税制度が真の公平である。しかし現実には、様々な所得に対する様々な税を総合的に考慮すると、単純に平等な税負担にさえなっていない。
 (10)嘘その10:一律の税率のほうが公平だ。

 「真っ赤な嘘も、反論されない限り繰り返し語っていれば、次第に人々が受け入れるようになることは、扇動の歴史が物語っている。ジョージ・オーウェルがかつて述べたように、「大衆はストレスを受けて混乱すると、反論されずに繰り返し語られる大嘘を、次第に真実として受け入れてしまう」のだ。だからまず事実を知って、それを広めていかなくてはならない。
 ではその嘘とは何か。
 嘘その1:富裕層は「雇用の創造主」であるから、富裕層に対して減税すれば、みなによい効果を波及させる「トリクルダウン」が発生する。逆に、富裕層に増税すると景気に打撃を与え、雇用の伸びも鈍化してしまう。」(中略)
 「富裕層が雇用を生み出すのではない。雇用は、大多数のアメリカ人がモノを買い、企業が生産能力を拡大して労働者を採用することで創出されるのだ。そして、そのためには大多数の国民がモノを買うだけのカネを持っていなければならない。先に述べたように、国民所得が不均衡に富裕層に流れると、中間層にはもはや雇用を創出するだけの購買力がなくなってしまうのである。」
 嘘その2:法人税を下げれば、企業は雇用を創出し景気も活性化する。
 「これらの企業が生産能力の拡大や雇用創出に投資しない理由は、税金とはまったく関係がない。本当の理由は、生産力を追加したとしても、そうやって新たに造り出されたモノを買うだけの十分なカネを持つ顧客が足りないことだ。企業は経済的に見合う分しか支出しない。」
 嘘その3:政府の規模を小さくすれば、雇用が増大し景気も好転する。
 「政府の規模縮小は、州や自治体レベルでは教員や消防士、警察官、福祉職員などの公務員の減少を、連邦レベルでは安全検査官や軍人の減少をもたらす。その結果、公共事業の受託企業が減り、受託企業による民間部門の雇用も減ってしまう。」
 嘘その4:規制が少ないほど、経済は強くなる。
 「企業の存在理由は一つしかない。すなわち、利益を上げ株価を上げることであって、市民を守ることではない。だがそれでも、市民の健康と安全、個人投資家に対する公平性、持続可能な環境といったものはすべて「公共善」であり、これがなければ、人々はますます貧しくなってしまう。公共に対する利益のほうが、その負担よりも大きい場合に、規制を行うことは理にかなっている。規制は、公共の利益を最大化し負担を最小化するように設計すべき、それだけのことだ。」
 嘘その5:財政赤字をただちに削減すれば、景気は回復する。
 「成長と雇用が鍵なのだ。より多くの人が働けば、より多くの企業が利益を上げ、景気が拡大して税収が増え、経済規模に対する債務は相対的に減っていく。だが、経済成長が緩やかだったり、低迷しているときには、まさに反対のことが起こる。景気低迷と低税収の悪循環に陥ってしまう。もしそこで政府支出を削減したら、悪循環どころか、それが死にいたる落とし穴になってしまうかもしれない。」
 嘘その6:公的医療保険制度であるメディケア(高齢者対象)とメディケイド(低所得者対象)を縮小すべきだ。
 「基本的医療費が増え続ける一方で、より多くの高齢者が、支払能力がないために医療ケア市場から締め出されていく。医療費を抑制するずっとましな方法は、メディケアとメディケイドが公的医療保険制度としての交渉力を駆使して、製薬会社や病院の治療費を下げさせ、診療行為に対する課金から診療結果に対する課金システムへと移行させることだ。」
 嘘その7:われわれのセーフティネットは、寛大にすぎる。
 「彼らは、米国が抱える経済問題の原因は、政府「依存」の急増にあり、これらの給付を止めれば、人々は一生懸命に働くようになるというのである。
 しかしここでも、逆進主義者たちは原因と結果をあべこべにしている。フードスタンプや失業保険などのセーフティネット・プログラムの給付額が増えたのは、2008年に人々が、世界大恐慌以来の経済危機に打ちのめされたからなのだ。彼らもその家族も、受けられる限りの支援を必要としていたのである。
 それどころか、アメリカのセーフティネットはあまりに小さく、穴だらけだ。貧困層の数を割合が2009年から12年にかけて劇的に増大したのはそのためなのだ。これこそ本物の不祥事ではないか。たとえば、不況の真っただ中で失業保険給付を受けることができた失業者は40%にすぎなかったが、それは彼らが失業する前に非正規従業員であったか、職に就いていても受給資格に必要な労働時間を満たしていなかったからなのだ。失業保険制度では、多くの労働者が非正規で複数の仕事を掛け持ちし、短期間で職を転々とするという実態を想定していないのである。」
 嘘その8:社会保障制度は、ねずみ講だ。
 「社会保障制度をめぐる長期課題に対する合理的解決策は、給付額の削減や支給開始年齢の引き上げではなく、徴収対象となる所得上限を引き上げることなのである。」
 嘘その9:低所得者層の連邦所得税の負担割合が小さく、人によってはまったく所得税を払っていないのは不公平だ。
 「これはまったく不公平でも何でもない。「公平」というのは、より多くのカネを稼ぐ人が、カネのない人よりも、その所得のうちより大きな割合を税金として支払うということを言うのだ。これは累進課税制度と言われ、米国の税法の基本原理である。富裕層上位1%の人たちに流れる所得が1970年代後半に比べて倍増したのだから、彼らの税分担も倍増し、中・低所得層の負担は軽減したと思いたいところだが、実際には上位1%の人たちの税負担は、増えていく総所得に対するシェアには追い付いていない。もし税制が完全に公平であるならば、総所得税収に対する彼らの負担割合が増え、それ以外の人たちの税負担が減るはずだ。
 しかも、所得税はアメリカ人が支払う税金のほんの一部にすぎない。中・低所得者層は所得のなかから、給与税として社会保障税とメディケア、州と地方の消費税、各種の受益者負担金、固定資産税なども支払うから、所得に対する負担割合は、富裕層よりもずっと高くなる。」
 嘘その10:一律の税率のほうが公平だ。

(ロバート・ライシュ(1946-)『怒りを越えて』(日本語名:『格差と民主主義』)PART2 逆進主義的右派の勃興、経済をめぐる10の嘘、pp.142-157、東洋経済新報社 (2014)、雨宮寛・今井章子(訳))
(索引:経済をめぐる10の嘘)

ロバート・ライシュ 格差と民主主義

(出典:wikipedia
ロバート・ライシュ(1946)の命題集(Propositions of great philosophers) 「国家や政府は人間が作ったものであり、法律も企業もそして野球だって人間が作ったものだ。同じように市場も人間の産物である。他のシステムと同じく市場の構築の仕方にもさまざまな方法があるが、それがどう作られようと、人々のやる気や市場のルールによって生まれてくる。理想的には、ルールによって人々が働いたり協力しあう気になり、生産的で創造的でありたいと動機づけされるのが望ましい。つまり、ルールが人々が望む暮らしの実現を手助けするのである。ルールはまた、人々の倫理観や、何が良くて立派で、何が公平かについての判断基準をも映し出す。そしてルールは不変ではなく、時間の経過とともに変わっていく。願わくば、ルールにかかわる人のほとんどが、より良くより公平だと思う方向へ――。だが、常にそうなるとは限らない。ある特定の人々が自分たちを利するようにルールを変える力を得たことによっても、ルールは変わりうるからだ。これがこの数十年の間に、米国や他の多くの国々で起こったことである。
 私的所有独占への制限契約不履行に対処するための破産などの手段ルールの執行といった事柄は、いかなる市場にも必須の構成要素だ。資本主義と自由企業体制にはこれらが必要なのだ。だがこの要素の一つひとつを、多くの人ではなく、ひと握りの人々を利するように捻じ曲げることも可能である。」(中略)「経済的支配力が、政治的権力を増大させ、政治的権力がさらに経済的支配力を拡大させる。大企業と富裕層が市場を構築する政治の仕組みに影響を与え、彼らがその政治的決定によって最も恩恵を受けるという状況は加速するばかりだ。こうして彼らの富は増強され、その富によってますます、将来発生する決断事項への影響力を得ていくのである。」(中略)「拡大する不平等は「自由市場」の構成要素そのものにしっかりと焼き込まれている。グローバル化と技術革新がなくても減税や補助金がなくても、国民総所得のうち、企業と、企業収益に自分の所得が連動する重役たちや投資家に振り分けられる割合は、労働者層に向う割合よりも、相対的に増加している。こうして悪循環が勝手に成立していくのである。」
(ロバート・ライシュ(1946-)『資本主義を救う』(日本語名『最後の資本主義』)第1部 自由市場、第9章 まとめ――市場メカニズム全般、pp.108-111、東洋経済新報社 (2016)、雨宮寛・今井章子(訳))

ロバート・ライシュ(1946-)
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法外な富の蓄積や低い実質税率という真実を隠蔽し実利を得る方法(a)ゼロサムゲームの幻想を広め,高齢者対若者,中間層対貧困層など国民を分断,対立させる(b)公務員を悪者にし,規制緩和と民営化を推進する(c)最高裁への影響力(ロバート・ライシュ(1946-))

分断制圧戦略

【法外な富の蓄積や低い実質税率という真実を隠蔽し実利を得る方法(a)ゼロサムゲームの幻想を広め,高齢者対若者,中間層対貧困層など国民を分断,対立させる(b)公務員を悪者にし,規制緩和と民営化を推進する(c)最高裁への影響力(ロバート・ライシュ(1946-))】

(1)富裕層の知られてはならない秘密
 (a)法外な所得や、富の蓄積。
 (b)実質的な税率が低いという事実。
 (c)相続税や、キャピタル・ゲイン課税をなるべく低くすること。
 (d)富裕層に対して、さらなる減税を進めようとしていること。
(2)逆進主義者たちの分断制圧戦略
 国民を互いに分断し、互いに争わせ、本当の事実を見えなくさせる方法である。
 (2.1)戦略1 「ゼロサムゲーム」という幻想
  財政赤字に対する警鐘を鳴らしつつ、誰かを救うためには誰かが犠牲にならなければならないという幻想を作り出し、中産階級に人気の政策を締め付ける。
  (a)社会保障の受給が間近に迫る高齢労働者と、自分たちの時代にはそれらは破綻していると思っている若年労働者を対立させること。
  (b)中間層と貧困層を対立させること。
  (c)組合員と非組合員とを対立させること。
  (d)自国民と移民とを対立させること。
  (e)宗教的保守と世俗主義者とを対立させること。
 (2.2)戦略2 公務員を悪者にする
  (a)公的部門と、民間の労働者とを対立させること。
  (b)規制緩和と民営化の推進に好都合な戦略である。
  (c)社会資本やインフラへの投資削減に好都合な戦略である。
 (2.3)戦略3 最高裁を制圧せよ

 「逆進主義者の狙いは、米国を分断し制圧することだ。前に述べたように、組合員と非組合員とを対立させ、公的部門とそうでない部門の労働者、米国生まれと移民とを対抗させたばかりか、メディケアや社会保障の受給が間近に迫る高齢労働者と自分たちの時代にはそれらは破綻していると思っている若年労働者、中間層と貧困層、宗教的保守と世俗主義者との間をも対立させている。
 これは、富裕層のトップが法外な所得や富や権力を得てそれをため込んでいることや、歴史的に富裕層には税率が低いという事実から、人々の関心をそらすやり方の一つなのだ。そして彼らは、自分たちが富裕層に対してさらなる減税を進めようとしていることに誰も気づくまいと考え、ブッシュ減税を恒久化して富裕層減税を進め、相続税を廃止したほか、自分の所得をより税率が低いキャピタル・ゲイン課税(15%)になるべく多く区分できるようにしたのである。
 逆進主義者たちの分断制圧戦略は、以下の三つの部分からなっている。
 戦略1 「ゼロサムゲーム」という幻想。
 一つ目は連邦政府の予算審議だ。財政赤字に対する警鐘を鳴らしつつ、中産階級に人気の政策を締め付けることで、逆進主義者たちは国民に、首都で巨大なゼロサムゲームが起こっていると思わせたいのだ。普通のアメリカ人が勝つためには、別の普通のアメリカ人が負けなくてはならないという風に考えてほしいのだ。」(後略)
 戦略2 公務員を悪者にする
 戦略3 最高裁を制圧せよ
(ロバート・ライシュ(1946-)『怒りを越えて』(日本語名:『格差と民主主義』)PART1 不公正なゲーム、何を間違えたのか、p.xx、東洋経済新報社 (2014)、雨宮寛・今井章子(訳))
(索引:分断制圧戦略)

ロバート・ライシュ 格差と民主主義

(出典:wikipedia
ロバート・ライシュ(1946)の命題集(Propositions of great philosophers) 「国家や政府は人間が作ったものであり、法律も企業もそして野球だって人間が作ったものだ。同じように市場も人間の産物である。他のシステムと同じく市場の構築の仕方にもさまざまな方法があるが、それがどう作られようと、人々のやる気や市場のルールによって生まれてくる。理想的には、ルールによって人々が働いたり協力しあう気になり、生産的で創造的でありたいと動機づけされるのが望ましい。つまり、ルールが人々が望む暮らしの実現を手助けするのである。ルールはまた、人々の倫理観や、何が良くて立派で、何が公平かについての判断基準をも映し出す。そしてルールは不変ではなく、時間の経過とともに変わっていく。願わくば、ルールにかかわる人のほとんどが、より良くより公平だと思う方向へ――。だが、常にそうなるとは限らない。ある特定の人々が自分たちを利するようにルールを変える力を得たことによっても、ルールは変わりうるからだ。これがこの数十年の間に、米国や他の多くの国々で起こったことである。
 私的所有独占への制限契約不履行に対処するための破産などの手段ルールの執行といった事柄は、いかなる市場にも必須の構成要素だ。資本主義と自由企業体制にはこれらが必要なのだ。だがこの要素の一つひとつを、多くの人ではなく、ひと握りの人々を利するように捻じ曲げることも可能である。」(中略)「経済的支配力が、政治的権力を増大させ、政治的権力がさらに経済的支配力を拡大させる。大企業と富裕層が市場を構築する政治の仕組みに影響を与え、彼らがその政治的決定によって最も恩恵を受けるという状況は加速するばかりだ。こうして彼らの富は増強され、その富によってますます、将来発生する決断事項への影響力を得ていくのである。」(中略)「拡大する不平等は「自由市場」の構成要素そのものにしっかりと焼き込まれている。グローバル化と技術革新がなくても減税や補助金がなくても、国民総所得のうち、企業と、企業収益に自分の所得が連動する重役たちや投資家に振り分けられる割合は、労働者層に向う割合よりも、相対的に増加している。こうして悪循環が勝手に成立していくのである。」
(ロバート・ライシュ(1946-)『資本主義を救う』(日本語名『最後の資本主義』)第1部 自由市場、第9章 まとめ――市場メカニズム全般、pp.108-111、東洋経済新報社 (2016)、雨宮寛・今井章子(訳))

ロバート・ライシュ(1946-)
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低い税率と低い賃金で資本を呼び込もうとする政策は、悪循環する。適切な公共投資によって、熟練した良質の労働者と整った社会資本を持つ国は、比較的良質の仕事を提供する資本を引き寄せる。(ロバート・ライシュ(1946-))

適切な公共投資の必要性

【低い税率と低い賃金で資本を呼び込もうとする政策は、悪循環する。適切な公共投資によって、熟練した良質の労働者と整った社会資本を持つ国は、比較的良質の仕事を提供する資本を引き寄せる。(ロバート・ライシュ(1946-))】

参考:資本の移動性が高まったことによって,ローカルな政府は,資本を呼び込むために規制緩和し,資本の選好,慣例,期待に応える。低い税金,柔軟な労働市場,そして組織的抵抗を行わない従順な国民。(ジグムント・バウマン(1925-2017))

 「《公共》部門が行う投資額およびその種類と、国が世界から資本を集められる能力との関連は強まっている。ここに、新たな経済ナショナリズムの論理が生まれる。すなわち労働者の技能と社会資本の質こそが、世界経済におけるその国独自の特質であり、他の国とは違った魅力を形成する。世界的な生産における、こうした比較的変動のない要素への投資が、国と国との主要な差なのである。それと対照的に、マネーは世界中を容易に移動する。
 知識を持ち、複雑な作業に熟練し、仕事の成果を容易に地球経済に移転できる労働力こそ、グローバル・マネーを自分のほうに引き寄せる力を持つ。この誘因はある一つの有益な関係に発展する可能性がある。熟練労働者と整った社会資本は、投資を行い、労働者に比較的良質の仕事を提供するグローバル・ウェブを持つ企業を惹きつける。こうした仕事は、当然、実地訓練や経験をさらに増やすことになり、他のグローバル企業にとっても強い魅力を生みだすことになる。技能が向上し、経験を積むにつれ、その国の市民は世界経済にますます大きな価値をもたらし、当然の権利としてかつてない高い報酬を獲得し、生活水準を向上させる。
 しかし適切な技能や社会資本の整備がなければ、この関係はまったく逆――すなわち、外国からの投資は国際比較でみて低い賃金と低い税率に引き寄せられる、という悪循環――になる可能性が高い。こういうもので投資を呼び寄せても、将来のための教育や社会資本への投資はもっと困難になる。結果として提供される仕事は、将来より複雑な作業につながるような実地訓練や経験をほとんど、あるいはまったくもたらさない。あとは推して知るべしだ。」
(ロバート・ライシュ(1946-)『ザ・ワーク・オブ・ネーションズ』第4部 国家の新しい意味、22 古臭い思想の効用、pp.363-364、ダイヤモンド社 (1991)、中谷巌(訳))
(索引:公共投資)

ザ・ワーク・オブ・ネーションズ?21世紀資本主義のイメージ

(出典:wikipedia
ロバート・ライシュ(1946)の命題集(Propositions of great philosophers) 「国家や政府は人間が作ったものであり、法律も企業もそして野球だって人間が作ったものだ。同じように市場も人間の産物である。他のシステムと同じく市場の構築の仕方にもさまざまな方法があるが、それがどう作られようと、人々のやる気や市場のルールによって生まれてくる。理想的には、ルールによって人々が働いたり協力しあう気になり、生産的で創造的でありたいと動機づけされるのが望ましい。つまり、ルールが人々が望む暮らしの実現を手助けするのである。ルールはまた、人々の倫理観や、何が良くて立派で、何が公平かについての判断基準をも映し出す。そしてルールは不変ではなく、時間の経過とともに変わっていく。願わくば、ルールにかかわる人のほとんどが、より良くより公平だと思う方向へ――。だが、常にそうなるとは限らない。ある特定の人々が自分たちを利するようにルールを変える力を得たことによっても、ルールは変わりうるからだ。これがこの数十年の間に、米国や他の多くの国々で起こったことである。
 私的所有独占への制限契約不履行に対処するための破産などの手段ルールの執行といった事柄は、いかなる市場にも必須の構成要素だ。資本主義と自由企業体制にはこれらが必要なのだ。だがこの要素の一つひとつを、多くの人ではなく、ひと握りの人々を利するように捻じ曲げることも可能である。」(中略)「経済的支配力が、政治的権力を増大させ、政治的権力がさらに経済的支配力を拡大させる。大企業と富裕層が市場を構築する政治の仕組みに影響を与え、彼らがその政治的決定によって最も恩恵を受けるという状況は加速するばかりだ。こうして彼らの富は増強され、その富によってますます、将来発生する決断事項への影響力を得ていくのである。」(中略)「拡大する不平等は「自由市場」の構成要素そのものにしっかりと焼き込まれている。グローバル化と技術革新がなくても減税や補助金がなくても、国民総所得のうち、企業と、企業収益に自分の所得が連動する重役たちや投資家に振り分けられる割合は、労働者層に向う割合よりも、相対的に増加している。こうして悪循環が勝手に成立していくのである。」
(ロバート・ライシュ(1946-)『資本主義を救う』(日本語名『最後の資本主義』)第1部 自由市場、第9章 まとめ――市場メカニズム全般、pp.108-111、東洋経済新報社 (2016)、雨宮寛・今井章子(訳))

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