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2020年3月24日火曜日

(a)状態には,確定した物理量の値があるとは限らない(不確定性)だけでなく,(b)そもそも値が実在せず(値の非実在性),(c)測定に依存する(文脈依存性)。(d)測定は対象を撹乱し,(e)測定の精度や,(f)期待値の推定にも原理的な限界がある。(谷村省吾(1967-))

多様化する不確定性関係

【(a)状態には,確定した物理量の値があるとは限らない(不確定性)だけでなく,(b)そもそも値が実在せず(値の非実在性),(c)測定に依存する(文脈依存性)。(d)測定は対象を撹乱し,(e)測定の精度や,(f)期待値の推定にも原理的な限界がある。(谷村省吾(1967-))】

様々な不確定性関係の表現
(a)値の不確定性
 一つの系の二つの非可換物理量の値が確定した状態は、一般には存在しない。
(b)値の非実在性
 物理量の値がたんに確定しないというだけでなく、そもそも測定していないときに物理量の値が実在すると思ってはいけない。
(c)文脈依存性
 何を測定するかという文脈ごとに、何の実在を認めるのか使い分けて考えなければならない。
(d)測定の誤差と擾乱の関係
 一つの系のある物理量を正確に測ることが、その系の他の物理量の値を制御不能なやり方で乱してしまう。
(e)測定の誤差同士の関係
 測定器を使って二つの非可換物理量を同時に正確に測ろうとするとき、精度には限界がある。
(f)量子系の物理量の期待値の推定
 測定データから求めた推定値には、真の期待値との間に不一致がある。

 「ケナード・ロバートソン流の不確定性関係は,一つの系の二つの非可換物理量の値が確定した状態は一般には存在しないことを意味する。エントロピー不確定性関係も,基本的には同じ内容である。もう少し正確に言うと,二つの非可換物理量 A, B について,一方で A = aであるような状態があり,他方,B = b であるような状態があったとしても,a; b の値しだいで「 A = aかつ B = b であるような同時確定状態」は存在しないことがある。また,同一の状態に関して A = aとなる確率を測定することができるし,それとは別に B = b となる確率も測定することができるが,「 A = aかつ B = b となる確率(数学では同時確率とか結合確率という)」を非負実数として定義できないことがある(ただし,このような場合,物理量 Aと B の値を一斉に測ることはできないようになっており,同時確率が存在しないからといって,矛盾をきたすことはない)。
 この路線をさらに突き詰めると,二つ以上の物理量の値が同時に実在すると思ってはいけない例を量子論の枠組み内で示すことができる。そのような極端な例が(本稿では紹介しなかったが),コッヘン・スペッカーの定理であり[33, 69],ベル不等式の破れである[29, 65, 97, 116]。これらは物理量の値がたんに確定しない(不確定性)というだけでなく,そもそも測定していないときに物理量の値が実在すると思ってはいけない(非実在性),とか,何を測定するかという文脈ごとに何の実在を認めるのか使い分けて考えなければならない(文脈依存性)といったことを含意しており,不確定性関係をさらに掘り下げた意味内容を持っている[98]。また,もともとハイゼンベルクが意図し,小澤が定式化した不確定性関係は,一つの系のある物理量を正確に測ることがその系の他の物理量の値を制御不能なやり方で乱してしまうことを意味する。
 アーサーズ・ケリー・グッドマン流の不確定性関係は,誤差と擾乱の関係ではなく,誤差同士の関係であるが,ミクロ系単独の性質ではなく,測定器を使って二つの非可換物理量を同時に正確に測ろうとするときの精度の限界を表している。
 渡辺らの不確定性関係は,小澤が扱った問題とは少し設定が違っている。渡辺らが扱っているのは,量子系の物理量の期待値(平均値)を推定しようという状況である。測定器を有限回使う限り,測定値には統計的ばらつきがあり,測定値の平均値を求めても,物理量の真の期待値とは一致しないことがある。測定データから求めた推定値と真の期待値との不一致の程度に関する関係式が,渡辺の不確定性不等式である。
 それぞれに性格の異なる不確定性関係ではあるが,いずれにしても古典力学の客観的・決定論的物理観を否定する内容を持っている。ニュートン力学に代表される古典物理学では,我々は外的観測者として,対象系の状態を乱すことなく,対象の物理量の値をいくらでも高い精度で観測できると想定されている。そのような物理観をここでは客観的と呼んでいる。さらに,古典力学は,ある時刻における対象系の状態を正確に知りさえすれば,系の未来は一意的に予測・決定できるような仕組みになっている。そのような物理観を決定論的と呼んでいる。
 ところが,量子力学の不確定性関係は,ミクロの系の状態に不測の変動を与えることなしにミクロ系の物理量の値を正確に知ることは不可能であり,結果的に未来の確実な予測も不可能だということを意味し,客観的・決定論的物理観を打ち砕く。これが不確定性関係の最も強力なインパクトであろう。
 ただし,量子論の確率解釈を認めるならば,量子力学は,未来に各事象が起こる確率は正確に予測できる仕組みになっている。100 パーセント確実に何が起こるという断言は,量子力学では,一般にはできない。」
「多様化する不確定性関係 」谷村省吾 名古屋大学
(索引:多様化する不確定性関係,不確定性関係)

(出典:名古屋大学
谷村省吾(1967-)の命題集(Propositions of great philosophers)  「最近(2020年)、時間の哲学と心の哲学の問題に関わることが多くなり、「意識とは何か、物理系に意識を実装できるか」という問題を本格的に考えたいと思うようになった。裏プロジェクトとして意識の科学化を考えている。
 「科学で扱えるものと扱えないとされるもののギャップ」は、心得ておくべきではあるが、ギャップにこそ重要な問題が隠されており、ギャップを埋める・ギャップを乗り越えることによって科学は進歩してきたとも言える。」(中略)
 「物理学におけるギャップの難問として次のようなものがある。マクロ系によるミクロ系の観測に伴う波束の収縮、量子系から古典系の創発、相対論的系から非相対論的系の出現、可逆力学系から不可逆系の出現、意識なきものから意識あるものの出現「いまある感」の起源、などがそのような例であるが、これらは地続きの問題であり、いずれも機が熟すれば科学的に究明されるべき課題だと私は考えている。」(後略)
(研究の裏で私が意識していること 谷村省吾 名古屋大学谷村省吾(1967-)

谷村省吾(1967-)
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