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2019年4月9日火曜日

6.多数派による政治的権力の行使は、概して正しい。ただし、様々な少数派の意見を反映し得る制度が必要だ。思想の自由、個性的な性格、たとえ多数派に嫌悪を抱かせる道徳的・社会的要素も、保護されるべきである。(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873))

多数派による政治的権力と、少数派の存在

【多数派による政治的権力の行使は、概して正しい。ただし、様々な少数派の意見を反映し得る制度が必要だ。思想の自由、個性的な性格、たとえ多数派に嫌悪を抱かせる道徳的・社会的要素も、保護されるべきである。(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873))】

(1)多数派が、政治的権力の担い手であることは、概して正しい。
 (1.1)ただし、このこと自体が正しいわけではない。
 (1.2)少数派による支配や、他のどのような状態よりも、不正の程度が低い。
(2)多数派に、絶対的権力を与えることの弊害
 (2.1)どのような社会においても数の上での多数派は同じような社会的境遇のもとにあり、同じような偏見や情念や先入見を持っているだろう。
 (2.2)仮に、多数派に絶対的権力を与えるならば、多数派の偏見、情念、先入見の欠点を是正することができなくなる。その結果、人間の知的・道徳的性質をさらに改善することができなくなり、社会は不可避的に停滞、衰退、あるいは崩壊していくだろう。
(3)社会の中に、様々な少数派の人びとが存在することの必要性
 (3.1)少数派の存在が、多数派の偏見、情念、先入見を是正する契機にし得るような制度が必要である。
 (3.2)それは、思想の自由と個性的な性格の避難場所になり得ること。
 (3.3)仮に、支配的権力が嫌悪の目で見るような道徳的・社会的要素であったとしても、それが消滅させられないよう、守られる必要がある。
 (3.4)かつて存在していた偉大な人のほとんどすべては、このような少数派であった。

 「現代ヨーロッパにおける貴族制的な政府、すなわち(慎慮や時には人間らしい感情が妨げた場合を別にすれば)少数者の私的利益と安楽のために共同体全体を完全に犠牲にすることによって成り立っている政府に対する反動の時代にあっては、このような理論がもっとも高潔な精神の持ち主によって容認されるということは十分にありうることである。

ヨーロッパの改革論者は、数の上での多数派があらゆるところで不当に抑圧され、あらゆるところで蹂躙され、せいぜいよくても無視されているのをつねに見てきたし、あらゆるところで多数派がもっとも明白な不満の原因を是正させたり、精神的涵養のための措置を求めたりするために十分な力をもっておらず、支配階級の金銭的な利益のために公然と税負担を求められることを阻止するために十分な力さえもっていないことも見てきた。


これらのことに目を向け、(とりわけ)多数派により多くの政治的権力を与えることによってこれらに終止符を打とうとすることが急進主義の特質である。

現代においてきわめて多くの人がこのような願望を抱き、これを実現することは人々が自らの身をささげる価値のある目的であると考えられていたことが、ベンサム流の統治論が支持された理由である。

しかし、ある悪い形態の統治から別の悪い形態へと移行することは人類のありふれた運命であるとしても、哲学者は重要な真理の一部を別のもののために犠牲にすることによって、このような運命に加担してはならない。

 どのような社会においても数の上での多数派は同じような社会的境遇のもとにあり、主に同じ職業についている人々、すなわち未熟練単純労働者から成り立っているに違いない。

私たちは彼らをみくびってはいない。彼らに不利なことを述べているときにはそれが何であっても、商人や郷士の多数者についても当てはまることを述べているのである。

同じような境遇や職業にある場合には、同じような偏見や情念や先入見をもっているだろう。

いずれか一組の偏見や情念や先入見に対して、別の種類の偏見や情念や先入見によって均衡を図ることなしに絶対的権力を与えることは、その欠点を是正することを絶望的にし、狭隘で貧相な類いの人間本性を普遍的で永続的なものとし、人間の知的・道徳的性質をさらに改善するようなあらゆる勢力を粉砕してしまう。

私たちは社会には傑出した権力が存在していなければならないことは理解しているし、多数派がその権力であることは概して正しいことであるが、それはそのこと自体が正しいからではなく、この問題を扱うのに他のどのような状態よりも不正の程度が低いからである。

しかし、社会の制度は何らかの形で、不公平な見解を是正するものとしての、そして多数派の意志に対する永続的で常駐的な反対勢力である思想の自由と個性的な性格の避難場所としての備えを整えておくことが必要である。

長い間進歩的であり続けた、あるいは長い間偉大であったあらゆる国がそうあれたのは、支配的な力がどのような種類であったとしても、その力に対する組織的な反対勢力が存在していたからである。

すなわち、[古代ローマの]貴族階級に対する平民階級、国王に対する聖職者、聖職者に対する自由思想家、貴族に対する国王、国王と貴族に対する庶民のような反対勢力である。

かつて存在していた偉大な人のほとんどすべてはこのような反対勢力を形成していたのである。

そのような争いがおこなわれてこなかったようなところではどこでも、あるいはそのような争いが相争う原理のうちの一方による完全な勝利によって終結し、古い争いに代わる新しい争いが起きなかったところではどこでも、社会は中国的停滞にとどまるか、あるいは崩壊してきたのである。

多数派の意見が主権を掌握しているところにおいても、支配的権力が聖職階級だったり貴族階級であったりするところにおいても、支配的権力が嫌悪の目で見るようなあらゆる道徳的・社会的要素がその周りに集まっているような、そしてそのような権力によって捕らえられて消滅させられようとすることからその防壁に隠れて避けることができるような抵抗の中心が必要である。

そのような拠点が存在していないところでは、人類は不可避的に衰退していくだろう。」
(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873),『ベンサム』,集録本:『功利主義論集』,pp.147-149,京都大学学術出版会(2010),川名雄一郎(訳),山本圭一郎(訳))
(索引:多数派,少数派,思想の自由,個性的な性格,偏見,情念,先入見)

功利主義論集 (近代社会思想コレクション05)


(出典:wikipedia
ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「観照の対象となるような事物への知的関心を引き起こすのに十分なほどの精神的教養が文明国家に生まれてきたすべての人に先験的にそなわっていないと考える理由はまったくない。同じように、いかなる人間も自分自身の回りの些細な個人的なことにしかあらゆる感情や配慮を向けることのできない自分本位の利己主義者であるとする本質的な必然性もない。これよりもはるかに優れたものが今日でもごく一般的にみられ、人間という種がどのように作られているかということについて十分な兆候を示している。純粋な私的愛情と公共善に対する心からの関心は、程度の差はあるにしても、きちんと育てられてきた人なら誰でももつことができる。」(中略)「貧困はどのような意味においても苦痛を伴っているが、個人の良識や慎慮と結びついた社会の英知によって完全に絶つことができるだろう。人類の敵のなかでもっとも解決困難なものである病気でさえも優れた肉体的・道徳的教育をほどこし有害な影響を適切に管理することによってその規模をかぎりなく縮小することができるだろうし、科学の進歩は将来この忌まわしい敵をより直接的に克服する希望を与えている。」(中略)「運命が移り変わることやその他この世での境遇について失望することは、主として甚だしく慎慮が欠けていることか、欲がゆきすぎていることか、悪かったり不完全だったりする社会制度の結果である。すなわち、人間の苦悩の主要な源泉はすべて人間が注意を向け努力することによってかなりの程度克服できるし、それらのうち大部分はほとんど完全に克服できるものである。これらを取り除くことは悲しくなるほどに遅々としたものであるが――苦悩の克服が成し遂げられ、この世界が完全にそうなる前に、何世代もの人が姿を消すことになるだろうが――意思と知識さえ不足していなければ、それは容易になされるだろう。とはいえ、この苦痛との戦いに参画するのに十分なほどの知性と寛大さを持っている人ならば誰でも、その役割が小さくて目立たない役割であったとしても、この戦いそれ自体から気高い楽しみを得るだろうし、利己的に振る舞えるという見返りがあったとしても、この楽しみを放棄することに同意しないだろう。」
(ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873),『功利主義』,第2章 功利主義とは何か,集録本:『功利主義論集』,pp.275-277,京都大学学術出版会(2010),川名雄一郎(訳),山本圭一郎(訳))
(索引:)

ジョン・スチュアート・ミル(1806-1873)
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