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2022年3月1日火曜日

アカデミアが、変わり者、図抜けた頭脳、浮世離れのための避難所であっ た時代が存在した。もはやそうではない。そこは今や、プロの自分売り込み人の領域である。研究よりも助成金の申請書、自分の関心や重要な科学的諸問題よりも無難なもの、独創的なアイデアよりも実利的なものが優先される。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))

科学的創造性の破壊

アカデミアが、変わり者、図抜けた頭脳、浮世離れのための避難所であっ た時代が存在した。もはやそうではない。そこは今や、プロの自分売り込み人の領域である。研究よりも助成金の申請書、自分の関心や重要な科学的諸問題よりも無難なもの、独創的なアイデアよりも実利的なものが優先される。(デヴィッド・グレーバー(1961-2020))



「アカデミアが、変わり者、図抜けた頭脳、浮世離れのための、社会のなかの避難所であっ た時代が存在した。もはやそうではない。そこはいまや、プロのじぶん売り込み人の領域であ る。変わり者、図抜けた頭脳、浮世離れにとって、いまや社会のなかには、いっさいの居場所 がない。  いまだたいてい最小の経費で個人によって研究のおこなわれる社会科学の領域においてすら そうなのだから、物理学者にとって状況がどのように劣悪なものであるか、想像するしかな い。実際、ある物理学者は、諸科学の分野に進路を考えている学生に次のような警告を発して いる。だれか別の人間の小間使いとしてたいてい10年ほど疲弊したあと、ようやく脱出したと おもったら、今度はじぶんの一番のアイデアにあらゆる方向からケチをつけられると覚悟した まえ、と。  『きみは、研究よりも[助成金の]申請書を書くことに、多くの時間を割くことになるだろ う。もっと悪いことに、その申請書を審査するのはきみの競争相手だから、きみはじぶんの関 心のまますすむことはできず、きみの努力と才能を、重要な科学的諸問題を解決するよりは、 批判を予測しかわすことについやさなければならない......オリジナルなアイデアのあるところ申 請書は却下される、これが鉄則なのだ。なんとなれば、そんなアイデアはまだうまく使えるか どうか判明していないから、だ。』  なぜいまだ転送装置とか反重力シューズとかが実現していないかという問いに、これがおお よそ答えてくれている。もし、あなたが科学的創造性を最大化させたいならば、図抜けた頭脳 を探し出し、その頭のなかにあるアイデアを追求するのに必要な資源を与え、それからしばら く放っておく、というのが常識の命ずるところだ。大方、たぶん、なにも成果があがらないだろう。だが、一つか二つ、なにかまったく予期されなかった発見があがるということもありう る。もし、あなたが予期せざるブレイクスルーの可能性をほとんど壊滅させたい[最小化させ たい]と望むなら、このおなじ人間たちに、次のようにいえばよい。たがいに競争しながら、 きみたちが達成するであろう発見が確実であることを、わたしに説得したまえ、そのための時 間はおしむな、さもなくば資金の獲得は望めまい、と。  およそ、これがいまのシステムである。」
 (デヴィッド・グレーバー(1961-2020),『官僚制のユートピア』,2 空飛ぶ自動車と利潤率 の傾向的低下,pp.193-194,以文社(2017),酒井隆史(訳),芳賀達彦(訳),森田和樹(訳))

官僚制のユートピア テクノロジー、構造的愚かさ、リベラリズムの鉄則 [ デヴィッド・グレーバー ]




デヴィッド・グレーバー
(1961-2020)






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