ミエリン形成グリア
【ミエリン形成の大部分は、生後5年間のうちに起こるが、その後、成人期に達するまでの間に、大脳皮質の後方から前方に向って緩やかに進行し、最後に、判断や複雑な論理的思考に欠かせない大脳皮質領域に至る。(R・ダグラス・フィールズ(19xx-))】ミエリン形成グリア
(a)ミエリン形成の大部分は、生後5年間のうちに起こる。
(b)その後、成人期に達するまでの間に、大脳皮質の後方から前方に向って、緩やかな波を描くようにミエリン形成が進行する。
(c)青年期までは、前脳のミエリン形成はまだ完全ではない。ミエリン形成が最後に完了するこの脳部位は、判断や複雑な論理的思考に欠かせない大脳皮質領域である。
「ミエリン形成の大部分は、生後5年間のうちに起こるものの、その過程が成人早期まで続くことは、何十年も前から知られていた。これはなぜだろう? ミエリンがたんなる電気的絶縁体にすぎないのならば、なぜ出生前にその仕事が完了していたいのだろうか?
出生後のヒト脳におけるミエリン形成の進み方には、興味深いパターンがある。完全なミエリン形成が最後に完了する脳領域は、より高次の認知機能にかかわる部分なのである。ヒト脳では、成人期に達するまでの間に、大脳皮質の後方(シャツ襟の位置)から前方(額の位置)に向って、緩やかな波を描くようにミエリン形成が進行する。この波状に進むミエリン形成は、よく知られたティーンエイジャーに特有の衝動的行動の一因かもしれない。青年期までは、前脳のミエリン形成はまだ完全ではない。ミエリン形成が最後に完了するこの脳部位は、判断や複雑な論理的思考に欠かせない大脳皮質領域なのだ。またここは、前頭葉切截術(ロボトミー)で外科医によって断ち切られた部位でもある。ロボトミーを受けた患者は、複雑な決断、計画の立案、あるいは見通しを立てることなどができなくなる。この前脳領域へつながる伝達路の形成が完成していないとすれば、青年たちは、成人脳が複雑な状況下で理性的な意思決定を行うことを可能にしている完全な神経回路を持ち合せていないことになる。
興味深いことに、多くの社会で個人に完全な法的責任が認められる年齢は、思春期ではなくもう少しあとで、それは偶然にも、前脳のミエリンが完成する時期(20歳前後)とほぼ一致している。つまり、ミエリン形成グリアは、法的責任を認める年齢に生物学的根拠を提供していると言える。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第15章 シナプスを超えた思考,講談社(2018),pp.476-477,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:思考,記憶,グリア,シナプスを超えた思考,ミエリン形成グリア)
(出典:R. Douglas Fields Home Page)
「アストロサイトは、脳の広大な領域を受け持っている。一個のオリゴデンドロサイトは、多数の軸索を被覆している。ミクログリアは、脳内の広い範囲を自由に動き回る。アストロサイトは一個で、10万個ものシナプスを包み込むことができる。」(中略)「グリアが利用する細胞間コミュニケーションの化学的シグナルは、広く拡散し、配線で接続されたニューロン結合を超えて働いている。こうした特徴は、点と点をつなぐニューロンのシナプス結合とは根本的に異なる、もっと大きなスケールで脳内の情報処理を制御する能力を、グリアに授けている。このような高いレベルの監督能力はおそらく、情報処理や認知にとって大きな意義を持っているのだろう。」(中略)「アストロサイトは、ニューロンのすべての活動を傍受する能力を備えている。そこには、イオン流動から、ニューロンの使用するあらゆる神経伝達物質、さらには神経修飾物質(モジュレーター)、ペプチド、ホルモンまで、神経系の機能を調節するさまざまな物質が網羅されている。グリア間の交信には、神経伝達物質だけでなく、ギャップ結合やグリア伝達物質、そして特筆すべきATPなど、いくつもの通信回線が使われている。」(中略)「アストロサイトは神経活動を感知して、ほかのアストロサイトと交信する。その一方で、オリゴデンドロサイトやミクログリア、さらには血管細胞や免疫細胞とも交信している。グリアは包括的なコミュニケーション・ネットワークの役割を担っており、それによって脳内のあらゆる種類(グリア、ホルモン、免疫、欠陥、そしてニューロン)の情報を、文字どおり連係させている。」
(R・ダグラス・フィールズ(19xx-),『もうひとつの脳』,第3部 思考と記憶におけるグリア,第16章 未来へ向けて――新たな脳,講談社(2018),pp.519-520,小松佳代子(訳),小西史朗(監訳))
(索引:)
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