2018年7月29日日曜日

2.感覚皮質に、約0.1~0.5msのパルス電流を20~60p/sの周波数で与え、閾値レベルの微弱な意識感覚を生じさせるには、約0.5sの持続時間が必要である。高周波数では閾値の強度は低くなるが、約0.5sの持続時間は不変である。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))

意識経験を生じさせるのに必要な刺激時間

【感覚皮質に、約0.1~0.5msのパルス電流を20~60p/sの周波数で与え、閾値レベルの微弱な意識感覚を生じさせるには、約0.5sの持続時間が必要である。高周波数では閾値の強度は低くなるが、約0.5sの持続時間は不変である。(ベンジャミン・リベット(1916-2007))】
(1)実験方法
 (1.1)短いパルス電流(実験によってそれぞれ約0.1~0.5ミリ秒間持続する)による刺激を、1秒あたり20パルスから60パルスの範囲で反復する。
 (1.2)1秒あたりのパルス数を決めたら、電流の強さは、意識感覚を生じるような最低限のレベルまで下げる。
(2)実験結果
 (2.1)閾値レベルの微弱な感覚を引き出すには、反復的な刺激パルスを約0.5秒間継続しなければならない。
 (2.2)1秒間あたり30パルス(pps)から60パルスという、より周波数の高い刺激パルスにすると、閾値の強度が低くなる。すなわち、弱い電流でも意識経験が生じる。
 (2.3)しかし、60ppsで意識感覚を引き出すために必要な最小限の連発持続時間が0.5秒間で、変わらない。すなわち、与えられた周波数ごとに決まる閾値強度を用いている限りは、0.5秒間の連発時間という最小限の必要条件は、周波数または刺激パルスの回数には影響を受けず、不変である。

以下、補足説明。(ただし、図は概念的なものである。)
(a)被験者の報告する意識感覚の長さも変わる。
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│←─5~0.5秒───────────→│

(b)閾値レベルの微弱な感覚を引き出すには、反復的な刺激パルスを約0.5秒間継続しなければならない。
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│←─0.5秒 ──→│

(c)連発した閾値の刺激を0.5秒以下に短縮すると、感覚が消失する。
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│←0.5秒 より→│
   短時間

(d)パルスの強度(ピーク電流)が十分に上がっていればどうにか意識的感覚を引き出すことができる。しかし、強度をより強くしていくと、人間の通常の日常生活ではそう簡単には出会わないであろうレベルの末梢感覚インプットの範囲に達する。
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(e)ほんの数回、または単発のパルスでも反応が生じるほどの強度の刺激を体性感覚皮質に与えた場合には、手または腕の筋肉のわずかな痙攣が発生し、被験者の報告に影響を与える。すなわち、感覚皮質への刺激だけから、意識的感覚が生み出されたかどうかを判断することができなくなる。
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 「それでは、感覚皮質にあらゆる種類の多様な刺激を与えた結果、何が発見されたでしょうか(リベット他(1964年)、リベット(1973年)参照)。

短いパルス電流(実験によってそれぞれ約0.1~0.5ミリ秒間持続する)による刺激を、1秒あたり20パルスから60パルスの範囲で反復します。

その結果、時間的要因が、意識経験を引き出すための最も興味深い必要条件であることがわかりました。閾値レベルの微弱な感覚を引き出すには、反復的な刺激パルスを約0.5秒間継続しなければなりません。この必要条件は、神経機能としては驚くほど長い時間です。

 では、これをどのように計測したのでしょうか? 0.5秒間持続する《一連》のパルスで最も微弱な意識感覚を生み出すには、そのために必要な《最低限の》レベルまで強度(各パルスの電流の強さ)を上げなければなりません。

この閾値の強度で連発したパルスを5秒以下に短縮すると、被験者が報告する意識感覚の長さもまた短縮します。しかし、被験者が知覚している感覚の強さは変わりません。

さらに、連発した閾値の刺激を0.5秒以下に短縮すると、感覚が消失します。

一方、連発時間が短くても(0.5秒以下)、パルスの強度(ピーク電流)が十分に上がっていればどうにか意識的感覚を引き出すことができました。

しかし、強度をより強くしていくと、人間の通常の日常生活ではそう簡単には出会わないであろうレベルの末梢感覚インプットの範囲に達します。

 それでは、刺激強度を上がることによってどうして、0.5秒以下の連発したパルスでも効果が得られるようになるのでしょうか? より高い強度であれば、間違いなくより多くの神経線維を興奮させ、これらの神経線維からインプットを受ける数多くの神経細胞に影響を与えます。

あるいは、強度が上がると、(興奮する神経細胞の数は増えないにしても)より低い閾値の刺激強度に反応する共通のニューロン群の多くで、発火の頻度が増加します。

これと関連して、たとえば、1秒間あたり30パルス(pps)から60パルスというより周波数の高い《刺激》パルスにすると、閾値の強度が低くなります。

しかし、60ppsで意識感覚を引き出すために必要な《最小限の連発持続時間》が0.5秒間であることには《変わりありませんでした》。

つまり、与えられた周波数ごとに決まる閾値強度を用いている限りは、0.5秒間の連発時間という最小限の必要条件は、周波数または刺激パルスの回数には影響を受けず、不変であることが示されています。

 刺激の強度を上げていくと、(結果の解釈上)込み入った要因が関わってくることになります。すなわち、より直径の細い、さまざまな神経線維までもが発火し得るのです。

これがどのように、受容体ニューロン群の反応に影響を与えるかについてはまだ明らかになっておらず、(結果を予測する上で)取り扱いが難しいのです。

 ほんの数回、または単発のパルスでも反応が生じるほどの強度の刺激を体性感覚皮質に与えた場合には、さらに込み入った問題が生じます。

しかし、これらの反応は、手または腕の筋肉のわずかな痙攣も含みます。したがって、こうした高い強度においては観察可能な運動反応が見られるわけです。患者が報告した内容は、筋肉中または周辺にある受容体から実際の末梢感覚メッセージを生み出すこの筋肉の痙攣と明らかに関係があるのです。

(したがって、500ミリ秒以下で自覚報告が得られても、先の原則の反証にはならないのです)。

こうした運動反応があるせいで、(末梢からのいかなる感覚フィードバックもなしで)単発あるいはほんのわずかな回数の強いパルスが意識感覚を直接引き出せるかどうかを決定することはできないのです。」

(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第2章 意識を伴う感覚的なアウェアネスに生じる遅延,岩波書店(2005),pp.45-47,下條信輔(訳))
(索引:意識経験を生み出すのに必要な刺激時間)

マインド・タイム 脳と意識の時間


(出典:wikipedia
ベンジャミン・リベット(1916-2007)の命題集(Collection of propositions of great philosophers)  「こうした結果によって、行為へと至る自発的プロセスにおける、意識を伴った意志と自由意志の役割について、従来とは異なった考え方が導き出されます。私たちが得た結果を他の自発的な行為に適用してよいなら、意識を伴った自由意志は、私たちの自由で自発的な行為を起動してはいないということになります。その代わり、意識を伴う自由意志は行為の成果や行為の実際のパフォーマンスを制御することができます。この意志によって行為を進行させたり、行為が起こらないように拒否することもできます。意志プロセスから実際に運動行為が生じるように発展させることもまた、意識を伴った意志の活発な働きである可能性があります。意識を伴った意志は、自発的なプロセスの進行を活性化し、行為を促します。このような場合においては、意識を伴った意志は受動的な観察者にはとどまらないのです。
 私たちは自発的な行為を、無意識の活動が脳によって「かきたてられて」始まるものであるとみなすことができます。すると意識を伴った意志は、これらの先行活動されたもののうち、どれが行為へとつながるものなのか、または、どれが拒否や中止をして運動行動が現れなくするべきものなのかを選びます。」
(ベンジャミン・リベット(1916-2007),『マインド・タイム』,第4章 行為を促す意図,岩波書店(2005),pp.162-163,下條信輔(訳))
(索引:)

ベンジャミン・リベット(1916-2007)
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