自由意志
「心」が量子状態に影響を及ぼすという証拠はない。また、量子的な非決定性が自由意志の本質とも思えない。行為を決定している何らかの意味での現在の心の状態を、何らかの意味での「心」が変えることができるとき、はじめて真の自由意志と言える。 (ポール・デイヴィス(1946-))
「心が、逆に、量子的な頭脳に反作用を及ぼし、偶然の釣り合いを傾けることができるかどうかに関し (ESP実験を除いて)起こるという証拠は存在しません。 量子的なわずかな効果を増幅し て、頭脳が使うことのできるような水準の電気信号を作ることができることを示す必要があるのです。 たとえ、心が頭脳に働きかけることができたとしても、それがほんとうの自由意志になるのか、また 自由意志に意味があるのかさえ、明らかではありません。もし心自身が非量子的で決定論的なら、心 がある行為をするために頭脳を使おうと決めたとき、 なぜ心が一連の特定の行動に入ってくるのか、 その正当性を見いだす必要があります。行動を開始させる精神状態は過去の心の状態と頭脳が心に及 ぼす影響力によって完全に決まっているので、心は、自分のことは何も支配していない、 ニュートン のたんなる自動機械となります。その行動はまったく過去と現在の出来事の帰結なのです。 もし、逆 に、心が量子系のように非決定的なら、心はでたらめな揺らぎ (制御できない気紛れ)に従い、任意 性がその決定に忍び込んできます。 いずれにしても、伝統的な自由意志の概念に近いものだとは思え ません。もし心が過去の心の状態を変えることができ、 それによって未来のみならず、現在をも変え ることができたなら、はじめて真の自由意志となるでしょう。 そのとき、それ自身を含んで、自由意志が欲する、いかなる宇宙を構成することも自由であり、無限に、それを破壊し、構築することも 可能となります。もちろん、エヴェレットの多宇宙理論では、ある意味でこのようことが起こりま すが、意志の自由性はまったく幻想です。可能な世界はすべて現実に起こり、心り返し分裂して 莫大な数の世界に分布します。 心はそれぞれその運命を支配していると思っていが、運命はすべ て実際に平行して達成されているのです。」
(ポール・デイヴィス(1946-),『他の世界』(日本語書籍名『宇宙の量子論』),第10章 超時間,pp.294-295,地人書館,1985,木口勝義)