注意
注目されなかった対象は、ささやかな刺激しかもたらさず、学習をほとんど、あるいはまったく 誘発しない。(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-))
「注意は必須だが、問題が生じることもある。 注意の方向が間違っていれば、学習は立ち往生すること になりうる。フリスビーに注目しなかったら、画像のこの部分は消去され、フリスビーなどなかったか のように処理は進む。それについての情報は早くに捨てられ、その情報は感覚野のごく初期段階にと どまる。注目されなかった物体はささやかな刺激しかもたらさず、学習をほとんど、あるいはまったく 誘発しない。対象に注意を向けて意識するようになるときは正反対で、必ず、脳に並外れた増幅が生じ る。意識的な注意によって、対象をコード化する感覚ニューロンや概念ニューロンの発火が大きく増幅 され、長引いて、そのメッセージが前頭前野に伝わり、そこでニューロン群全体が発火し、もともとの 画像の持続時間をゆうに超えるほど長く発火しつづける。シナプスがその強度を変えるためには、その ような強い神経発火の波が必要だ これを神経科学者は「長期増強」と呼ぶ。生徒が、たとえば教師 が紹介したばかりの外国語の単語に意識的注意を払うときは、その単語は自身の皮質回路奥深くまで進 み、はるばる前頭前野にまで伝播している。その結果、その単語は記憶される可能性がずっと高まる。 無意識のあるいは注意されない単語はほとんど脳の感覚回路にとどまり、さらに奥の、了解や意味の記憶を支える語彙表象や概念表象にまで達するチャンスが得られない。」
(スタニスラス・ドゥアンヌ(1965-),『脳はこうして学ぶ』,第3部 学習の四本柱,第7章 注意,pp.201-202,森北出版,2021,松浦利輔,中村仁洋)