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2021年12月13日月曜日

科学には、相互主観的テスト可能ではない言明は存在しない。真なる言明にまで遡ることで科学を基礎付けようとする方法には、無限後退の困難があるが、演繹結果によるテストにはこの困難はない。各言明は、つねに無限のテスト可能性に向けて開かれている。(カール・ポパー(1902-1994))

相互主観的テスト可能性

科学には、相互主観的テスト可能ではない言明は存在しない。真なる言明にまで遡ることで科学を基礎付けようとする方法には、無限後退の困難があるが、演繹結果によるテストにはこの困難はない。各言明は、つねに無限のテスト可能性に向けて開かれている。(カール・ポパー(1902-1994))



(a)相互主観的テスト可能性
 科学的言明が客観的でなければならぬ、という要求を固 持するとすれば、科学の経験的基礎に属する諸言明もまた客観的、つまり相互主観的にテスト 可能でなければならない。
(b)科学にはテスト不能な言明は存在しない
 なぜなら、そのその言明が理論において意味があるのなら、演繹の連鎖の中で、その言明が前提条件として登場するような、別の言明があることになるが、その言明がテスト可能なら元の言明もテスト可能だからである。
(c)演繹結果によるテストには、無限後退の困難は存在しない
 ある言明が真であるかどうかを、明らかに真である言明にまで遡らせようとする方法論には、無限後退の困難がある。しかし、テストの演繹的方 法は、テストしようとしている言明を確立または正当化しえないし、またそうするつもりもな い。従って、無限後退の困難はない。
(d)無限のテスト可能性について
 しかし、明らかにテストは事実上、無限に遂行することはできない。これは問題ないのか。問題ない。なぜなら、無限のテスト可能性の要求は、受容れられるに先立って実際にテストされてしまっていなければ ならぬという条件とは異なるからである。


「経験的基礎の問題にたいするわれわれの最終的な答えがどんなものであるにせよ、次の一 事は明らかなはずである。すなわち、科学的言明は客観的でなければならぬ、という要求を固 持するとすれば、科学の経験的基礎に属する諸言明もまた客観的、つまり相互主観的にテスト 可能でなければならないということ、これである。相互主観的なテスト可能性とは、テストさ れるべき言明から他のテスト可能な言明が導きだせることを意味する。したがって、もし基礎 言明が立替って相互主観的にテスト可能にならなければならぬとすれば、科学においては 究極的な言明はありえない。すなわち、科学にはテストすることのできぬいかなる言明も ありえない。それゆえ、それらの言明から導出されうる諸結論のあるものを反証することに よって、原理上、論破することのできぬ言明はひとつもないのである。  こうして、われわれは次のような見解に達する。諸理論の諸体系は、それから普遍性のレベ ルのより低い言明を演繹することによってテストされる。それらの言明は、相互主観的にテス ト可能であるはずのものだから、翻ってまたそれ自体が同様の仕方でテスト可能でなければな らない。――これが無限に続いていく。  この見解は無限後退に導くものであり、それゆえ支持しがたいものだと考えられるかもしれ ない。第1節で帰納を批判したさい、私は帰納が無限後退をもたらすものだという反論を提起 した。ところが、それとまったく同じ批判が私の提唱する演繹的テストの手続にたいしてもあ てはまる、と読者は思うかもしれない。しかし、そうはならないのである。テストの演繹的方 法は、テストしようとしている言明を確立または正当化しえないし、またそうするつもりもな いのだ。だから、そこには無限後退の危険はない。しかし私が注意を喚起した状況――無限 のテスト可能性、およびテストの必要のない究極的言明は存在しないということ――が、 ある問題を生みだすことは認めなければならない。なぜなら、明らかにテストは事実上、無限に遂行することはできないからである。遅かれ早かれ、われわれは中止せざるをえな い。ここではこの問題を詳しく論じないで、次のことを指摘するだけにとどめたい。すなわ ち、テストをいつまでも続けていけないという事実は、すべての言明がテスト可能でなければ ならないという私の要求と矛盾するものではない、ということである。なぜなら、すべての科 学的言明は、それが受容れられるに先立って実際にテストされてしまっていなければ ならぬ、と私は要求しているのではないからである。私はただ、すべての科学的言明はテスト されうるものでなければならない、と要求しているだけなのである。いいかえれば、 テストすることが論理的理由から可能とは思われぬというただそれだけのことで、あきらめ て、真として受容れなければならない言明が科学には存在するのだという見解を、私は拒否す るのである。」

(カール・ポパー(1902-1994),『科学的発見の論理』,第1部 科学の論理序説,第1章 若干の 基本的諸問題の検討,8 科学的客観性と主観的確信,pp.57-58,恒星社厚生閣(1972),大内義 一(訳),森博(訳))

科学的発見の論理(上) [ カール・ライムント・ポパー ]


カール・ポパー
(1902-1994)