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2021年11月25日木曜日

「世界は起こるのではなく、ただ在る。」(ヘルマン・ワイル(1885-1955))

 世界は、ただ在る

「世界は起こるのではなく、ただ在る。」(ヘルマン・ワイル(1885-1955))







「最良の答えは、因果関係の否定である。原因と結果は、人間的状況の中での本質的に人間的な概念であるが、 せいぜいのところ、物理の世界の中で構造の崩壊に関連して時間指向的な相互作用を表現 する、それ自体(九四ページで注意したように)純粋に人間的な概念である。 宇宙は全体的現象として 眺めねばならない。 ドイツの数学者ワイル(1885-1955)が言ったように、「世界は起こるので はなく、ただ在る」のである。 ある未知の運命に向かって注意深く整えられたコースを走るべく、宇宙がスタートするいわれはない。むしろ世界は、複雑な存在のネットワークの中で過去から未来へ、 場所から場所へ、事象から事象へと拡がっている、時空と物質と相互作用そのものなのである。」


(ポール・デイヴィス(1946-),『宇宙における時間と空間』,第7章 宇宙の中の人間,pp.250-251,岩波現代選書,1980,戸田盛和,田中裕)

「心」が量子状態に影響を及ぼすという証拠はない。また、量子的な非決定性が自由意志の本質とも思えない。行為を決定している何らかの意味での現在の心の状態を、何らかの意味での「心」が変えることができるとき、はじめて真の自由意志と言える。 (ポール・デイヴィス(1946-))

 自由意志

「心」が量子状態に影響を及ぼすという証拠はない。また、量子的な非決定性が自由意志の本質とも思えない。行為を決定している何らかの意味での現在の心の状態を、何らかの意味での「心」が変えることができるとき、はじめて真の自由意志と言える。 (ポール・デイヴィス(1946-))


「心が、逆に、量子的な頭脳に反作用を及ぼし、偶然の釣り合いを傾けることができるかどうかに関し (ESP実験を除いて)起こるという証拠は存在しません。 量子的なわずかな効果を増幅し て、頭脳が使うことのできるような水準の電気信号を作ることができることを示す必要があるのです。 たとえ、心が頭脳に働きかけることができたとしても、それがほんとうの自由意志になるのか、また 自由意志に意味があるのかさえ、明らかではありません。もし心自身が非量子的で決定論的なら、心 がある行為をするために頭脳を使おうと決めたとき、 なぜ心が一連の特定の行動に入ってくるのか、 その正当性を見いだす必要があります。行動を開始させる精神状態は過去の心の状態と頭脳が心に及 ぼす影響力によって完全に決まっているので、心は、自分のことは何も支配していない、 ニュートン のたんなる自動機械となります。その行動はまったく過去と現在の出来事の帰結なのです。 もし、逆 に、心が量子系のように非決定的なら、心はでたらめな揺らぎ (制御できない気紛れ)に従い、任意 性がその決定に忍び込んできます。 いずれにしても、伝統的な自由意志の概念に近いものだとは思え ません。もし心が過去の心の状態を変えることができ、 それによって未来のみならず、現在をも変え ることができたなら、はじめて真の自由意志となるでしょう。 そのとき、それ自身を含んで、自由意志が欲する、いかなる宇宙を構成することも自由であり、無限に、それを破壊し、構築することも 可能となります。もちろん、エヴェレットの多宇宙理論では、ある意味でこのようことが起こりま すが、意志の自由性はまったく幻想です。可能な世界はすべて現実に起こり、心り返し分裂して 莫大な数の世界に分布します。 心はそれぞれその運命を支配していると思っていが、運命はすべ て実際に平行して達成されているのです。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『他の世界』(日本語書籍名『宇宙の量子論』),第10章 超時間,pp.294-295,地人書館,1985,木口勝義)


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過去・未来の非対称性は、実際には秩序が無秩序に崩壊する一方的な傾向に根ざしている。すなわち、観測者としての私たちの存在が、原子秩序に基づいて過去と未来の間の鋭い区別を与えるような適正な宇宙配置にあるという事実に、微妙に依存している。(ポール・デイヴィス(1946-))

人間の宇宙における配置

過去・未来の非対称性は、実際には秩序が無秩序に崩壊する一方的な傾向に根ざしている。すなわち、観測者としての私たちの存在が、原始秩序に基づいて過去と未来の間の鋭い区別を与えるような適正な宇宙配置にあるという事実に、微妙に依存している。(ポール・デイヴィス(1946-))

「過去・未来の非対称性は実際には秩序が無秩序に崩壊する一方的な傾向に根ざしています。しかし、 その非対称性は宇宙論的な起源をもっていると思われます。宇宙の秩序は究極的にどこから出てくる かを説明し、したがって過去と未来の差異を明らかにするためには、宇宙の創成 ビッグ・バン を考える必要があります。 原始の熱炉から出てきた宇宙構造は高度に秩序だったものでした。 そ の後の宇宙の働きはすべて、 この秩序を消費し、散逸することでした。 多くの秩序が残っています。 しかし、それらは永久に続きはしません。 太陽や恒星の働きを支配する秩序は宇宙の生命にとって非 常に重要なものです。その秩序は初期の宇宙が主として水素とヘリウムからできていることを保証し た原子核過程に由来します。宇宙初期の膨張速度が非常に速く、初期段階で宇宙物質を重元素まで調 理する暇がないため、このような特徴が生じます。これは宇宙物質がかなり均一で、ビッグバン直 後、ブラック・ホールがあまりできないことにも依存しています。したがって、ここでもまた、宇宙 の生命、そして観測者としての私たちの存在が適正な宇宙配置に、つまり原始秩序―─生物におい て複雑性の頂点に達する秩序──に基づいて過去と未来のあいだに鋭い差別を与えているものに、いかに微妙に依存しているかが発見されるのです。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『他の世界』(日本語書籍名『宇宙の量子論』),第10章 超時間,pp.302-303,地人書館,1985,木口勝義)

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決まっていないから未来であるという直感があるが、時間を逆転しても非決定である。準備し実験し解析するという、実験結果を釘どめする人間の知的な超構造が、過去と未来の非対称性をもたらす。そしてそれは、私たちの近傍で進む熱力学過程による世界の非対称性の作用である。(ポール・デイヴィス(1946-))

過去と未来の非対称性の由来

決まっていないから未来であるという直感があるが、時間を逆転しても非決定である。準備し実験し解析するという、実験結果を釘どめする人間の知的な超構造が、過去と未来の非対称性をもたらす。そしてそれは、私たちの近傍で進む熱力学過程による世界の非対称性の作用である。(ポール・デイヴィス(1946-))

(a)非決定性、未来、存在
 a→b、bがaにより決まらないということは、まさにそれだけの意味であり、決まらないから未来だとか、決まらないから存在しないとは言えない。

(b)時間を逆転しても非決定

 (i)通常の実験
  始めに量子状態を用意(確定した状態)して、結果(未確定状態)を測定する。
 (ii)逆転実験
  いくつかの結果(確定状態)を集め、その初期状態を推測する。時間的に枠組全体を反転し、さまざまな質問を行ない、いろいろな結果を解析すると、未来ではなく、過去が非決定的になる。
(c)過去・未 来の非対称性は実験結果を釘どめする知的な超構造である
 実験室実験には、実際の実験とならんで、準備段階と解析段階がある。この枠組がすでに結果の 解釈に過去未来の非対称性を課している。


「実際は、このような考え方は厳密な検討に耐えることができません。 未来が非決であるという事実は必ずしも未来が存在しないことを意味しているわけではありません。 それはたんに、未来は現 在に隷属して出てくるわけではない、ということにすぎません。 さらに、未来は非決定的だが、過去 は具体的であるとみなす事実は、実際に実験を行ない、結果をまとめる方法と密接に関連しています。 実験室実験には、実際の実験とならんで、準備段階と解析段階があります。 この枠組がすでに結果の 解釈に過去未来の非対称性を課しているのです。 実際、始めに量子状態を用意して結果を測定する かわりに、逆のことを行なう、つまり、おおまかに言えば、一組の逆転実験を行なうこともできます。 つまり、いくつかの結果を集め、その初期状態を推測するのです。時間的に枠組全体を反転し、さま ざまな質問を行ない、いろいろな結果を解析すると、未来ではなく、過去が非決定的になります(こ の体系では、エヴェレットの分枝は、未来ではなく、過去に向かって扇形に広がります。したがって、 世界は、分裂ではなく、融合していきます)。したがって、量子的な非決定性の過去と未来の立場の 相違は固有のものではなく、それに関与するものに対する私たちの態度の反映となります。 過去・未 来の非対称性は実験結果を釘どめする知的な超構造です。 それは、逆に、私たちのまわりで進む熱力 学過程による世界の非対称性の本来の作用です。 それゆえ、ここでもまた、未来が「現われてくる」 時という印象は世界が時間的に一方向きであることに基づく幻想であるように思われます。それは、時間の運動による本当の効果ではないのです。」

(ポール・デイヴィス(1946-),『他の世界』(日本語書籍名『宇宙の量子論』),第10章 超時間,pp.292-293,地人書館,1985,木口勝義)


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